南京豆

南京豆=ピーナツといえば、コンちゃんである。コンちゃんとは、『彼岸花』の高橋貞二。高橋は、当時松竹の若手なんとかのひとりだったそうだが、どう見ても二枚目という風情ではなく、コメディアン。

同作で、コンちゃんは佐分利信と同じ会社で働いている。娘・有馬稲子と結婚させてくれ、と薮から棒に佐分利に挨拶した佐田啓二と大学が早稲田で一緒。 アルバイトも一緒にやったという。佐田の人となりを知りたい佐分利は、バー《ルナ》に笠智衆の家出娘・久我美子の様子を見に行くついでに、コンちゃんを誘う。緊張するコンちゃん。佐分利は常務、コンちゃんはバリバリのヒラ。 佐分利の頼んだ高いハイボールもろくに喉を通らない。

後日、ルナにひとりで出かけたコンちゃん。マダムの桜むつ子に先日の緊張ぶりを冷やかされる。バーテンにこないだのを呑むかと聞かれて、
「あんな高いの、呑めるかい」
「普通の、いつもの、国産の、安いの」
「うめえな、うめえ、うめえ」
「お、南京豆、来てねえぞ。南京豆、南京豆、ケチケチすんない」
桜が、コンちゃんが元気のいいのをまた冷やかして、いまに佐分利が来るぞ、と脅かす。
「こんな汚いとこ来るかい」
この直後、佐分利が本当にやって来る。あせるコンちゃん。

佐分利が帰った後も、緊張して立ちつくす。
「ああ、驚いた。つまんねえこといいあてやがって」
「見ろい、うまい酒、まずくなっちゃった」
コンちゃん、ヤケになってピーナツを、ひょいぱくひょいぱく。

ピーナツを口に投げ入れるときに、ひとつだけこぼしそうになるのを抑えるのが印象に残る。(演技じゃないと思う)

高橋は、『彼岸花』のほか、『早春』と『東京暮色』にノンちゃん役で出演。

◇◇◇

ノンちゃんが出たところで、もう一人のノンちゃん:『お茶漬の味』の鶴田浩二。佐分利信とバー・エコーで待ち合わせ。どうやらどこかの入社試験を受けた帰りらしい。佐分利がノンちゃんに試験の内容を聞く。しばらくして、佐分利が「南京虫って英語で何ていうか知ってるかい?」と尋ねると、「ええと…ピーナツ…」。「そりゃ、南京豆だ」と佐分利。

それだけです。鶴田が小津作品に出たのはこの1本だけ。

◇◇◇

『秋日和』では、司葉子と原節子母子の亡父(夫)の想い出話にバターピーナツが出てくる。3人で修善寺に家族旅行に行ったとき、子供だった司が旅館の池にバターピーナツを投げると、鯉がパクパク食べたのだが、明くる朝になるとお腹を上にして浮いていたというのだ。バターピーナツで鯉が死ぬかどうかは疑わしいが、食べ過ぎということはあり得るかもしれない。その鯉はコンちゃんみたいなやつだったに違いない。

また、佐分利信、中村伸郎、北竜二のトリオ・アミーゴスが集う西銀座のバー《ルナ》におけるお通しは、無論ピーナツである。中村が原節子に北との再婚の話を持っていくことになり、その報告を聞きに北がルナにやって来る。話は不首尾に終わったので、中村と佐分利は気まずい。北が到着しても黙っている二人。北は二人の話し始めるのを待ち受けながら中村のピーナツをつまむ。それを見た佐分利が、詫びの印か自分のも提供する。

◇◇◇

ピーナツネタの最後は『浮草』から。 中村鴈治郎率いる一座が宿に落ち着き骨を休めているところに、興行を打つ相生座の旦那・笠智衆が訪ねてくる。 笠が12年前の興行で気に入った役者はどうした?と尋ねると、「死にましてん」と鴈治郎。そしてその遺児・若尾文子を紹介する。
「あの頃は南京豆みたいな子じゃったが」
と笠。若尾は南京豆の意味がわからず、京マチ子に「南京豆て?」と尋ねる。

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Last update: 10/14/2002

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