出来ごころで紳士録
パンパカパーン。第一位の栄誉は初代いさむちゃんへ。 主人公の家庭における実と勇の兄弟は、小津映画で繰り返される役どころである。 この兄弟が出てくるのは、『麦秋』,『東京物語』,『お早よう』の3作だ。演じたのは以下の子役たち。
ちなみに設楽と島津は、『秋日和』でそれぞれ中村伸郎の息子・和男、佐分利信の息子・忠雄として別れ別れになりながらも共演している。(設楽は『お茶漬の味』に、島津は『浮草』と『小早川家の秋』にも単独で出演) 小津映画における子供の兄弟は『生れてはみたけれど』以来、弟が兄のまねをするいかにも小津好みの相似形の動作を行う主体として一種のステレオタイプができあがっている。 それと同時にどちらかといえば腕白な設定の弟は、ノンちゃん不在の作品において男性側のコメディリリーフの役割を与えられる。(女性側は杉村春子や高橋とよ、浪花千栄子が担当する。) さて、3人いるいさむちゃんの中で『麦秋』版を選んだ理由は、このいさむちゃんが未来のノンちゃんだからだ。あんなに小さいときから動作がのんびりして反応が鈍いのは彼しかいない。 いさむちゃんはいつでも最高だが、中でも最高峰はこの場面だ。 康一(笠智衆)は、専務(佐野周二)の紹介した紀子(原節子)のお婿さん候補・真鍋が40歳であることを母(東山千栄子)と妻(三宅邦子)に話すとその年齢差を心配する反応を得て、不機嫌になる。そこへ、康一が買って帰ったふろしき包みをてっきりレールだと思い開けてみるとそれがパンだったことで落胆した実が、よせばいいのに抗議にやって来る。実はパンを畳に放り出し、これを怒った康一は実の腕を掴んで叱る。 さて、この間に我らがいさむちゃんは何をしたか。遠巻きに様子を窺っていた彼は、捕らえられた兄がわめき出すのを見て、父親の裏側に廻り、放り出されたパンをけっ飛ばすのだ。パンは見事に真っ二つになる。実で手いっぱいの康一はどうすることもできない。やることがずるっこいぞ、いさむちゃん。 他の場面でもいさむちゃんが出ていれば、その一挙手一投足を見ているだけで楽しい。この城沢勇夫という人、いまはもう60歳近くなっていると思われるが、『麦秋』に出たきりその後の消息がわからない。小津安二郎生誕100年で“あの人はいま”企画なぞやって探してくれないだろうか? ■一覧へ■ Copyright © 2002 Jinqi, All Rights Reserved. |