出来ごころで紳士録

第6位 原 節子 はら せつこ

出演作 (製作年) 役名
晩春 (1949) 曾宮紀子
麦秋 (1951) 間宮紀子
東京物語 (1953) 平山紀子
東京暮色 (1957) 沼田孝子
秋日和 (1960) 三輪秋子
小早川家の秋 (1961) 小早川秋子

原節子のイメージを決定づけているのは小津作品であると一般に信じられている。特にこれは『晩春』,『麦秋』,『東京物語』に至る紀子役によるものだろう。

他監督作品はさておき、僕も小津作品における原節子のファンの一人である。ナンバーワンは『東京物語』の未亡人。この原節子の美しさは驚愕ものだ。なんせ、香川京子がかすんでしまうほどなのだ。

戦争で夫を亡くし、同潤会アパートでひとり生活しているのだが、こんな人が放っておかれるわけがない。きっと会社の男たちも随分アタックしたに違いない。そして、『秋日和』で中村伸郎が遭ったように、さんざん亡夫の想い出話を聞かされ、すごすごと退散したのだ。社内での彼女の扱いがあまりにそっけないことが、そんなことを想像させる。

彼女の美しさが絶頂に達するのは、義母(東山千栄子)のお葬式の後しばらく尾道に滞在し、さあきょうは東京に帰ろうと義父・周吉(笠智衆)にあいさつする場面である。ここには『晩春』の笠智衆ほどではないが、珍しい長ぜりふがある。もう死んだ夫のことは忘れて新しい男を見つけて幸せになるよう、義父が諭している。

周吉 「ええんじゃよ。忘れてくれて。」
紀子 「でも、この頃思い出さない日さえあるんです。忘れてる日が多いんです。…あたくし、いつまでもこのままじゃいられないような気もするんです。このままこうしてひとりでいたら、一体どうなるんだろうなんて、夜中にふと考えたりすることがあるんです。一日一日が何事もなく過ぎていくのがとっても寂しいんです。どこか心の隅で、何かを待ってるんです。…ずるいんです。」
周吉 「いやあ、ずるうはない。」
紀子 「いいえ、ずるいんです。そういうこと、お母さまには申し上げられなかったんです。」
周吉 「ええんじゃよ、それで。やっぱりあんたはええひとじゃよ。正直で。」
紀子 「とんでもない。」

涙を溜め、顔をそらす紀子は、光り輝いている。

コップ酒をがぶがぶ呑もうが、のっしのっし歩こうが、一時ファシストだっただろうが、もうよぼよぼのおばあちゃんだろうが、スクリーンの原節子は永遠である。

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Last update: 2/4/2002

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