出来ごころで紳士録

第10位 三島 雅夫 みしま まさお

出演作 (製作年) 役名
晩春 (1949) 小野寺譲

三島雅夫は、さまざまな会社のいろいろな映画で雑多な役柄を演じている。どちらかというと悪役が多いと思われるが、なんだかぼんやりした空気をつねに発散している役者である。いまのところ、成瀬巳喜男の『銀座化粧』(助監督は石井輝男)で演じた藤村のおぢさんをもって彼のベストと、個人的には思っている。

どういう経緯なのか彼は、主人公である曾宮周吉(笠智衆)の京都に住む友人・小野寺として『晩春』で起用されている。 出番は多くないが、そのぼんやり空気を漂わせて笑わせてくれる。

上京し銀座を歩いていると曾宮の娘・紀子(原節子)に見つけられ、一緒に上野まで展覧会を見に行き、多喜川で食事をする。 公園で鳩を空気銃で撃っているやつを評して“あれじゃウイリアム・ハトだ”などと、おやじ丸出しのギャグをかます。 最近後妻(坪内美子)をもらったことを“きたならしい”と紀子から非難され、苦笑する。 その夜訪れた曾宮宅で、周吉と方角についてのやりとり。

小野寺 「ここ海近いのかい?」
周吉 「歩いて十四、五分かな?」
小野寺 「割に遠いんだねえ。こっちかい、海?」
周吉 「いやあ、こっちだ。」
小野寺 「ふうん。八幡様はこっちだね?」
周吉 「いやあ、こっちだ。」
小野寺 「東京はどっちだい?」
周吉 「東京は、こっちだよ。」
小野寺 「すると東はこっちだね?」
周吉 「いやあ、東はこっちだよ。」
小野寺 「ふううん。昔からかい?」
周吉 「ああ、そうだよ。」
小野寺 「ははははは。こりゃあ、頼朝公が幕府を開くわけですよ。要害堅固の地だよ。」(笑)

まったく、惚けたやつである。 ちなみにこの会話から曾宮家の位置を特定しようとする試みは徒労に終わるので、やってみない方がいい。(経験者は語る。)

小津映画のコメディリリーフといえば、杉村春子を筆頭としてそうそうたる顔ぶれが揃うが、天然ボケ・三島雅夫も末席に加えてやっていただきたい。

第9位へ■ ■一覧へ

Index
Last update: 2/5/2002

いさむちゃん1号 Copyright © 2002 Jinqi, All Rights Reserved.