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2015年に観た映画の一覧です

星の見方(以前観たものには付いてません)
★★…生きててよかった。
★…なかなかやるじゃん。
○…観て損はないね。
無印…観なくてもよかったな。
▽…お金を返してください。
凡例
#通し番号「邦題」監督/製作年/製作国/鑑賞日/会場[星]

#90「Thanga Magan」Velraj/2015/インド/Dec. 20/INOX Lido○
Dhanushのダブルヒロイン作品。Amy JacksonとSamanthaがそのふたり。Amy Jacksonが恋人で、お見合い結婚するのがSamantha。全体としては、父親の自殺に関連する事件をDhanushが曝いていく半社会派・半ファミリーもの。“どうだった”と尋ねられれば“まあ、よかった”と答えるが、これが僕の求めているタミル映画かと問われるとちょいと違う。Samanthaがこれまでのイメージとは違うDesiな女性役で、つねにサリーを着てるのにお腹を見せない。彼女も30近いので、業界で生き残るためにはそろそろイメージを改める必要があるのかもしれない。Dhanushのアクションは相変わらず李小龍風。アクションシーンは何度かあったが、ダンスが一度もなかった。Dhanushの欠かせない持ち味はダンスである。というわけで、映画としてはなかなか面白く、新たな体験という意味ではよかったのだが、モヤモヤしたものが残ったのであった。Amy Jackson、タミル語を流暢に喋る。このままボリウッドには背を向けていてほしい。(ま、無理だろな。)
#89「Bajirao Mastani」Sanjay Leela Bhansali/2015/インド/Dec. 19/INOX: Garuda Mall○
Ram-Leela』に続くRanveer Singh、Deepika Padukone共演作品。ふたりの役名を並べる題名からしてデジャヴである。Bajiraoは歴史上の人物で、その造形が真実に反しているとしてBJPが反発しているらしいが、バンガロールでは何の問題もなく上映され喜ばしい。Baji Raoは18世紀のマラーター王国勢力拡大、ムガール帝国衰退に貢献した宰相ということだがこのあたりは勉強しないとよくわからない。映画は政治的な面ではなく彼の恋愛、すなわち正妻Kashibai (Priyanka Chopra飾)がいる中でのMastani (Deepika Padukone飾)との出会いと結婚が焦点。BJPの逆鱗に触れたのはMastaniがムスリムだったことにも関係あるのだろう。ともあれ、戦国ものゆえのSFX多用もトーン控えめで、その分パレス内の煌びやかさが強調されダンスシーンもふんだんにある演出は悪くない。出色はふたりの女優が舞うPinga。このシーンが最も輝かしかった。張藝謀や呉宇森の中国歴史ものと比較するのも面白そうだな。で、Pinguはカハーン?
#88「Rathavara」Chandrashekar Bandiyappa/2015/インド/Dec. 12/PVR: Phoenix Market City○
『Ugramm』のSri Murali主演Sandalwood作品。うつむき加減の顔から相手を睨む眼が相変わらずかっこいい。が、踊ったり歌ったりしなくてもいいんじゃないかな。相手役Rachita RamとのItem Numberシーンの衣装はひどかった。Rachita Ram自身のキャラクター、演技も恐ろしいほどひどかった。Sadhu Kokilaが出てくるコメディシーンは目を背けたくなるほどひどかった。そんなわけで、映画自体、2時間余りの作品にもかかわらずとっても長く感じた。予習なし、字幕なしで臨んだので、ヒジュラが重要なポジションのストーリーなのはわかったが、なぜヒジュラなのかさっぱりわからず。おっさんが追いかけられてジョッキン(ひーっ)されるのもなぜかわからず。あー、困った。ひんぱんに挿入されるBangaloreの街や空の早送り映像も何かはき違えている感じ。残ったのはSri Muraliの(上記)表情とアクションだけだった。撃沈、ちーん。それにしても、ヒジュラって怖いよ。交差点で見かけるといつも“こっちに来ませんように”と祈ってしまう。
#87「Angry Indian Goddesses」Pan Nalin/2015/インド/Dec. 12/PVR: Phoenix Market City○
タイトルバックがいきなりぼかしだらけでびっくりする。本篇内でも"Angry Indian Goddess"=Kaliが描かれている絵はぼかし。いつもの4文字言葉はまあいいとして、Kaliのまねをして登場人物が舌を出すシーンもカット。いったい何が問題なんだろう? インドのCensor Boardの考えることはわからない。そんなわけでKaliの絵姿は映画では見られないが、その実在を観客は目撃する。ポスターにTannishtha Chatterjeeが出てたので観にきた。女性であるがゆえの社会的ストレスを感じている女性たちが、そのうちのひとりのGoaの家に招かれ、そこで起こる騒動を描く女性賛歌(前半)、かつ性差別への断固たる反対(後半)を訴える作品。メッセージには共感するし女優陣も悪くないのだけど、女性が7人も集まると賑やかの域を超えるので斎藤達雄並に閉口したし、終盤の海辺シーンをはじめとする演出術は趣味じゃない。特にラストの教会シーンがクサイのでどうしようと思ったが、なんとか踏みとどまった。
#86「Spectre」Sam Mendes/2015/英=米/Nov. 29/PVR Koramangala○
僕の頭にはいまだにSean Conneryの紳士ぶりがあるので、Daniel Craigのようなマッチョは007としてはちょいとイメージが違う。3DじゃないIMAX作品。たまにはこういう大予算映画を大画面で観るのもいい(450ルピーは高いが)。英語字幕が付いてて親切(ヒンディー語映画にも付けてくれ)。大予算の割には地味でボンドカー(もちろんAston Martin)の装備やQ(若返っててびっくり)の秘密兵器も凝ったものがなかったが、旧作へのリスペクトが随所に感じられて好印象。ただし、前作『Skyfall』を観ていればもっと楽しめそうだった。インド版で噂のキスシーンカットは、ボンドガールLéa Seydouxが“What do we do now?”と言ったところでぷちっと次の場面へ。品がないね。でもMonica Bellucci(こちらは史上最高齢のボンドガール)とのキスはカットしてなかったな。東京シーンがあるのだけど、屋内だけだったのでほんとに東京で撮ったのか疑わしい。ローマロケでは路上にチンクやパンダがいて楽しかった。でも007はやっぱり『007は二度死ぬ』が最高さ。
#85「Mukhtiar Chadha」Gifty/2015/インド/Nov. 28/INOX: Garuda Mall
英語字幕を期待して行ったら、パンジャビはほとんどヒンディーにしか聞こえないので字幕なしだった。コメディーで字幕なしは、いつもながら辛い。舞台がデリーだったのにもがっかり。Diljit Dosanjhという人気タレントの主演。もちろんターバンである。観客もターバン率高し。おっさんにしか見えないのに大学生の役で、赤いスクーターを乗り回す金の亡者で、ロマンスあり、やくざとの戦いあり、ファミリードラマありの盛りだくさん。しかし、基本Diljit Dosanjhの一人舞台で、彼のファンでもない限り、面白くない(と思う)。相手役のOshin Brarもいまみっつくらい(と思う)。どこかのグルドワーラーが出てきた。シーク教のお祈りって仏教みたいに手を合わせるのか。勉強になった。シーク教徒はバイクに乗るときにヘルメット着用を免除されているけど、ターバン型ヘルメットだってつくれそうだよね(そういう問題じゃない?)。やくざのおっちゃんがチャップリン柄のクルタを着たり、謎の日本語柄シャツを着たりして楽しかった。
#84「Tamasha」Imtiaz Ali/2015/インド/Nov. 28/INOX: Garuda Mall○
YJHD』のRanbir KapoorとDeepika Padukone再共演の恋愛もの。スタイル抜群のDeepika Padukoneはやはり洋服が似合うね。バドミントンで鍛えた脚のきれいなこと。地中海を背景にオープンカーに乗る彼女はブリジット・バルドーばり。Ranbir Kapoorの演技は相変わらず大げさに感じるが今回はキャラクター上の必然あり。得意のダンスは控えめ。コルシカ島での出会いに始まり、Deepikaちゃんの故郷コルカタ、デリーでの再会(@SOCIALというカフェ)、Ranbir Kapoorの故郷シムラ、Deepikaちゃんの赴任先・東京と舞台は移り、Ranbir Kapoorの自分探しは、半うつ状態を乗り越え、一度は幻滅させたDeepikaちゃんに至るのであった。東京シーンは短い。新宿のコクーンタワーと東京国際フォーラムが同じビルとして登場。これだけのためにロケに行ったのか。前半で出てきたデリーの日本料理屋(これは実在しないだろう)はひどかった。国辱もの(笑)である。観客は女の子が多くてうるさかった。
#83「Prem Ratan Dhan Payo」Sooraj Barjatya/2015/インド/Nov. 22/PVR Koramangala○
Salman KhanのDiwali映画。Sonam Kapoor共演。ヒンディー語だと字幕付きの可能性ゼロなんだよね。かくして撃沈。『暴れん坊将軍』などでおなじみのそっくりさん入れ替わりものであることは誰が観てもわかるし、偽者が本物プリンスのファミリーの絆を取り戻すストーリーであること、ホンモノのフィアンセだったプリンセスのハートを掴んだこともわかった。紋切りだからそれくらいは追える。映画全体はなんだかんだでSalman Khanの独壇場。まあ、ファンには堪らんDiwaliおめでた作品だと思うが、豪華なだけで映画としては凡作。しかし、会話がわからないのが悔しい。なまじっかヒンディー語の断片が拾えるようになっただけ欲求不満が助長される…。お目当ての、プリンセスSonam Kapoorはおとなしくて台詞も少なくパッとしなかった。相変わらず踊れないようだし。でも、相変わらず美しい。それだけで○付ける。『燃えよドラゴン』みたいな鏡の間対決あり。どうせならそこにふたりのSalman Khanを投入して欲しかった。
#82「Thoongaa Vanam」Rajesh M. Selva/2015/インド/Nov. 21/PVR Koramangala○
Shruti Haasanの親父作品初鑑賞。おもしろかった。舞台がほぼディスコ内限定で、コカイン取引に絡みPrakash Rajに息子を拉致されたKamal Haasanが彼を一夜で無事に奪い返す。最初はダーティーヒーローものかと思っていたけど、結局は覆面捜査官ものだった。なるほど、おフランスもののリメイクなのか。どこまでオリジナルに近いのかは知らないけど観客を退屈させない演出で、僕もスクリーンを食い入るように観ていたよ。Kamal Haasanは写真で見ているよりかっこよかったし、アクションもまだまだいけそう。娘も精進しないと。共演のPrakash RajやKishoreもよかった。相手役のひとりTrishaは南インドらしからぬスリムな女優で、洋装が似合ってた。しかもアクションもなかなか本格的だったし。緩いダンスのないタミル映画もいけるね。コカインを探すため女性トイレに入ろうとするKamal Haasannらを猛烈に非難する女性が“あるある”的。大阪のおばちゃんと対決させたい。
#81「X: Past Is Present」Abhinav Shiv Tiwari+Anu Menon+Nalan Kumarasamy+Hemant Gaba+Pratim D. Gupta+Q+Raja Sen+Rajshree Ojha+Sandeep Mohan+Sudhish Kamath+Suparn Verma/2015/インド/Nov. 21/PVR Koramangala○
11人の監督がそれぞれヒロインを据えてエピソードを撮り全体としてひとつのストーリーに仕上げるという実験的・野心的作品。主人公はさまざまな女性遍歴をもつ映画監督、ってホン・サンスか。いや、中味はまったく違う趣。ある映画祭に招かれた監督Kがパーティーで魅力的な女の子に会い、それをきっかけに過去を思い出していくという設定で(やはりホン・サンスっぽい…)、11のエピソードのなかで中年のKと青年のKが出てくる。Kが現実をつねに映画ネタにみなすところとか職業病の告白みたいなもんだ。こういう作品には英語字幕が必須。おかげでなかなか楽しめた。最後の最後のビリヤニの話は完全に浮いていた。狙ったものだろうけど、それが笑いに還元できていないのが残念。Kの元妻役でRadhika Apteが出演。ほかに知っている女優のひとり、Huma Qureshiが就職前の青年Kの年上の恋人で就職の模擬面接をやっていた。でも彼女を映画で観るのは初めて。いつもはオーデコロンのCFで見ているのであった。
#80「Vedalam」Siva/2015/インド/Nov. 15/INOX: Garuda Mall○
ゴマ塩頭のおっちゃんAjithの新作は巷で大好評。相手役(?)はShruti Haasan。お腹は見せなかったけどポリスコスチュームでばんばん踊ってた。確かに面白かった。でも、長すぎる。前半はコルカタが舞台で、妹を連れてやって来たいつもにこにこしているAjithが徐々に人身売買組織に近づき実像を顕わにしていくパート。後半は、Ajithの正体を知ったShrutiに理由を説明するチェンナイパート。極悪人だったAjithがいかにいつもにこにこのおっちゃんになったかが綴られる。久しぶりに記憶喪失ものを観た気がする。全体としてダンスシーンは大して長くなかったと思うので、ストーリー部分が長いのだ。序盤のコメディーパートは本当に長い。Shruti Haasanが弁護士だろうがなんだろうが、関係ないじゃないか。せっかくのコルカタも渋いところは出てこないしね。とはいえ、Ajithのアクションやダンスはあれだけ太っているのに軽快でなかなかいい。もちろんShruti Haasanのダンスはアッチャーである。英語字幕が普通になってきたのは喜ばしい。
#79「Main Aur Charles」Prawaal Raman/2015/インド/Nov. 10/PVR Koramangala○
Randeep Hoodaの、ガチャ目による視点のあいまいさからくる怪しさがうまく活かされた、カリスマ的犯罪者の物語。『わたしとチャールズ』という題名からわかるように、周囲の者たちと彼の関係を拾い集めている。フレンチ訛り(?)の英語を操る主人公に魅了され、いつのまにやら悪の片棒。明らかに悪なのに社会まで惑わされる。殺人、そして大胆な脱獄の繰り返し。スタイリッシュな映像、音楽と時間の操作で、ノリは大変よろしい。ただし、字幕なしでは詳細は追えず。時代考証はむちゃくちゃ。舞台は70年代、80年代なのだが、携帯電話が出てこないだけで、背景はほとんど現在と変わらない。まあファッションと車だけは気を使っていたようだ。Randeep Hoodaのティアドロップのサングラスやハンチングね。パンツはベルボトムじゃなかったな。かつらが変だった。犯罪のほかお色気もあるA Ratedのこんな映画にも、お子ちゃまやヨタヨタ歩くばあさんがやってくる。楽しんだだろうか? いささか心配だ。
#78「白い沈黙」アトム・エゴヤン/2014/カナダ/Nov. 3/TOHOシネマズシャンテ○
原題『The Captive』が示すとおり監禁が主題。幼児虐待嗜好組織(?)に誘拐、監禁された9歳の少女が、父親の前に8年ぶりに現れる。組織は母親の職場(ナイアガラの滝が眼前のホテル)に隠しカメラを設置し母親の様子を見られるようにするなど、大人になって興味の対象でなくなった娘を厚遇。新たなターゲットのリクルーターとして使われる彼女には逃げたいという希望もなさそうというシチュエーション。観客が犯人を知っていて警察や両親が組織に近づいていく様子を案じる展開はスリリングではない。そして、淡々とした結末。高揚感はいかほども得られず。ああ、エゴヤンだ。警察の捜査チームは、メンバーそれぞれ得意技をもっているのだが、それがストーリーに貢献することはない。新入りメンバーは少女の父親に辛くあたるのだが、理由があると匂わせながら最後まで明らかにならない。娘が父親に語る“trick or gimmick”の話、キーワードのようなのだけど、その意味も恥ずかしながらわからず。モヤモヤしたまま劇場を去ったのであった。
#77「岸辺の旅」黒沢清/2015/『…』製作委員会/Oct. 26/テアトル新宿○
ふかっちゃん映画。カンヌでも評価の高かった作品で大いに期待していた。もちろんふかっちゃんは今回も最高で堪能したのだけど、映画全体としては冷めた印象である。原因は監督、というか自分で、なぜか頭の中で是枝裕和を想定していたため、それとは異なる演出術が、僕の脳に違和感を覚えさせたのである。妙に盛り上げる音楽にも閉口した。パートナーの死とか、ピアノ教師とかの要素が重なる『百日草』の記憶がまだあるためどうしても比べてしまい、明らかに後者が自分の好みに近かったのも、印象を悪化させた一因であることは間違いない。死者が“見える”のは生きている者がそう思うからであって、本能として死にたくない人間の編み出した妄想に過ぎない、よね。この旅が夫を亡くした妻の(受動的にせよ)イマジネーションと暗示する展開が僕にはしっくりくるな。ふかっちゃんの死んだ夫・浅野忠信の浮気相手・蒼井優が、なかなか怖い、よい演技を見せていた。走るふかっちゃん、もんぺ姿のふかっちゃんが見られるよ。
#76「風の中の家族」王童/2015/台湾/Oct. 25/TOHOシネマズ 六本木ヒルズ(TIFF)○
ベテランの王童が手堅くまとめた、国共内戦の結果台湾に渡った元國民党軍兵士を追った大河ドラマ。1949年〜2010年の台北が主な舞台である。観ていると『童年往事』やら『悲情城市』やら『牯嶺街少年殺人事件』を思い出させる、関連した風物や事件が次々と眼前に展開される。個々のエピソードは薄まり、テレビドラマのような印象のまま終了。義理の息子が大陸に主人公の妻を訪ねるラストシーンにも感慨はなかった。登場人物がほとんど外省人で、生活環境を土足で踏み荒らされた本省人はまったく顧みられていないのも残念。主人公を慕って軍を脱走する部下2名のひとりが麺屋を開く。あのときなぜ牛肉を使っていることを隠すのかわからなかった。肉といえばやはり豚肉で牛肉は邪道ということだろうか。店番を頼まれた子供たちが薬草やら唐辛子やらどんどん鍋にぶち込み、それを知らずに食した客が“うまい”という件は、話としてはわかるが現実味はまったくない。そもそも食べられるものだけを鍋に投入するとは思えないもんな。
#75「百日草」林書宇/2015/台湾/Oct. 25/TOHOシネマズ 六本木ヒルズ(TIFF)○
交通事故でパートナーを亡くした男と女、それぞれの100日間を描く、静かで味わい深い作品。男が石頭で、女が林嘉欣。葬式に始まり、初七日、四十九日など、仏教式のイベントを節目としながら、それぞれが喪失感から徐々に立ち直り、改めて自分の人生を続行する。宗教が死んだ者ではなく生き残っている者のためにあることがよくわかる。キリスト教をやや茶化しているように見えたのは気のせいか。フィアンセを亡くした林嘉欣は、ハネムーンをひとりで決行する。沖縄はいささか近すぎる気がするが、そこで手製ノートを片手に食べ歩き。一方の石頭は、ピアノ教師だった妻が前払いで受け取っていた授業料を返しに一軒一軒家庭を訪問し、妻が残したものを確認していく。ふたりは法事で顔を合わせ少し言葉を交わす程度で、関係が深まらない点が気に入った。いや、もしかしたら将来深まるかもしれないが、それは観客に委ねられている。台湾の仏教儀式は正座する必要がないようだ。正座って、畳のある日本にのみ存在する座り方?
#74「今は正しくあの時は間違い」ホン・サンス/2015/韓国/Oct. 25/TOHOシネマズ 六本木ヒルズ(TIFF)○
大期待のホン・サンスの新作が観られたことはラッキー。例によって映画監督の主人公に、かわいい女の子である。二部構成で、前半は『あの時は正しく、今は間違い』、後半が『今は正しく、あの時は間違い』。同じシチュエーションで異なるストーリー展開を見せる。違いを味わう。互いに欠落している個所は観客が勝手に補完する。うん、おもしろい。こういう新しい趣向+いつも通りのストーリー。ホン・サンスが手探りで新しいことを模索しているのかはわからないが、着実に映画世界遺産を蓄積していることは疑いようがない。女の子がまたたばこを吸い、お酒を呑み、突然キレる。でも、本作では量はほどほどだったね。女優さん(本作はキム・ミニ)によるのかな。アートフィルムの監督らしい主人公(村上春樹の小説に出てくる“僕”と等価)が、舞台の街にやって来たのは公開インタビューを受けるためで、そのインタビュアーがユ・ジュンサン。登場するだけで笑ってしまうのだけど、今回は(も、か)まじめだった。
#73「レイジー・ヘイジー・クレイジー」陸以心/2015/香港/Oct. 24/TOHOシネマズ 六本木ヒルズ(TIFF)○
今年もTIFFに来られた。ひとつ目は彭浩翔プロデュースの、女子高生三人が主人公の青春もの。全員が援助交際に手を染めていて描写も結構過激だし、話もドロドロにもかかわらず、後味はさわやかだった。実話にもとづいているなんて冒頭に字幕説明があったが、香港(どこもそうなのかも)の新側面を見させてもらった。最もススんだ子は一人暮らしでアパートの家賃を払うために何でもやる。チャットアプリを使ってどんどん客をとっていく姿には妙に感心した。女の子の性格はもちろんそれぞれ違うのだけど、みんな孤独で、同じ男の子を想っているというのがミソ。見た目は派手でも本質は、よくある“大人への階段をひとつ上った”映画なのである。大牌檔の啤酒小姐役で蒼井そらがカメオ出演。ぱっと目、主人公3人とは格が違うって感じ。飼っていた犬が行方不明になって、犯人のじいさんが鍋の準備をしているシーンがある。3人は犬をうまく助け出すのだけど、普通、材料は先に捌いておくでしょう。
#72「The Martian」Ridley Scott/2015/米/Oct. 11/PVR Koramangala○
中文タイトル『火星任務』。なぜ原題通り『火星人』にしなかったのかな。火星人はMatt Damon。NASAから火星に派遣されたチームの一員で、チームが嵐に遭い火星を脱出する際、行方不明になり置いていかれる。Positive思考のMark(Matt Damon)は限られた食料でいかに生き延びるかを考え最後にはチームに助けられ地球に無事帰るというハリウッドらしいハッピーな作品。ひとりの人間を助けるのに莫大な費用をかけているが、それで技術が進歩するんだしみんなも喜んでいいじゃない、てことだね。あの懐かしいPathfinderをうまく活躍させているし、Gloria Gaynorの『I will survive』がテーマソングなのがまたおかしい。救出作戦を技術的に中国国家航天局が援助すること、それがロシアじゃないところやもはやアメリカだけではだめなところを認めているのが興味深い。航天局のお偉いさんを演じていたのは高雄。もう髪の毛真っ白。火星の一日の単位はsolというんだね。知ってたかもしれないけど。また憶えた。グラシャス。
#71「Talvar」Meghna Gulzar/2015/インド/Oct. 10/PVR Koramangala○
2008年に実際に起こった殺人事件をベースとした、犯人は誰だ。『羅生門』的ステレオタイプだな。主演はIrrfan Khan。CDI(CBIに相当)の捜査官で、この殺人事件の解決に挑む。なかなか重厚で、事実に忠実なため、娘の殺人に問われた両親は刑務所行き、Irrfan Khanは退職に追い込まれ、勝者のいない結末になっている。インド人だと当時のニュースなど思い出しながら観られるんだろうな。容疑者に真実を供述させるのはむずかしく、しばしば暴力が使われたりする(想像)。この事件ではNarco testという、自白剤を使った危ない事情聴取が行われる。どうやらCBIが本当にやっていたようだ。おおこわ。映画としては無罪となった助手の男(つまりIrrfan Khanの考える犯人)が怪しいようにみえるが、真実は藪の中ということか。Prakash Belawadiがまた出てた。Irrfan Khanの理解ある上司役。それからIrrfan Khanの奥さん役はTabu。Tabuみたいな奥さんがいるってどんな感じだろう。部屋中にオーラが漲ってきっと落ち着かないよね。
#70「刺客聶隱娘」侯孝賢/2015/台湾/Oct. 3/百老滙電影中心Cinematheque★
侯孝賢の新作を香港でようやく観る。中文+英文字幕。冷たくて美しい映像だった。殺し屋として育成された舒淇が殺し屋になりきれず普通の女の子に戻っていく物語。張震と妻夫木聡がその過程に強く影響する。舒淇、かっこよかったよ。モノクロームで始まりタイトルバックからカラー。基本スタンダードで、確か二度ほどヴィスタに変化する画面。ヴィスタに込められた意図は掴めず。主要なシーンが日本で撮影されているのは、大陸には撮影可能な場所がなかったから? SFXなし。ワイヤーアクションなし。オーバーアクションなし。古装アクションとは呼びがたい、胡金銓とは対極にある傑作。しかし、この終わり方ではインド人は納得しないぞ。インターミッションの後、趣向をがらっと変えてすぱっとケリをつけないとね。やはりインドには胡金銓だ。恐れていたとおり、劇場はとても寒かった。期待したとおり、手に汗握って興奮するような作品じゃなかったので、最後まで寒いままだった。
#69「Unakkenna Venum Sollu」Srinath Ramalingam/2015/シンガポール/Sep. 27/PVR Koramangala
タミル語作品なれどシンガポール映画。え、中文字幕も、マレー字幕も、英語字幕もないの? むむー。なぜか舞台はチェンナイ。インディアン・シンガポーリアンの心の故郷だろうか。しかし、ホラーは苦手なんだよね。特に年取ると心臓に悪い。どうやらかなりのローバジェットらしく、最近のホラーでは当たり前のSFXは一切なし。観客に対する古典的な脅かしが半分懐かしくもあり、それでもやはり心臓に悪くもあり。字幕がなかったので(しつこい)細かいところがわからないのだけど、幽霊もプージャの友人スウェッタを呪う道理はないと思うな。唯一、幽霊と戦う祈祷師のおっちゃんがおもろかった。意外に弱かったりしてね。緊迫のラストシーンでもせっかくの聖水を活かせずプールにドボン。ま、総合的にみればたとえ字幕があったとしても及第点はあげられないな。そういえば、わざわざチェンナイに来印中のドクターに診せに行く息子の病気って何だったんだろう? やはり字幕があったなら…。
#68「Katti Batti」Nikhil Advani/2015/インド/Sep. 24/PVR: Phoenix Market City○
絶好調Kangana Ranautの難病もの。相手はImran Khan。こいつの短気さに呆れ、別れてよかったんじゃない、と思っていると、終盤、映画は本題に入る。ありゃ、それまでインド映画らしからぬドライな展開の映画でなかなか新鮮、と思っていたのが突然のどんでん返しである。結局はお涙頂戴の紋切りに落ち込んでしまった。ま、そこに至るシナリオはなかなかといえよう。情報が少しずつ明らかになっていくところとかね。Payalの両親はすべてを知って協力していたのだろうか? そんな器用な人たちには見えなかったが。Kangana Ranautはだいたいいつも同じキャラ。ほかに同じような女優がいないからね。このような女性をスクリーンに求める一傾向がつづく限り安泰だろう。個人的には首のホクロと背中のタトゥーが気になってしかたがない。というか誰のタトゥーでも、ほんとにそれ必要なの、と思ってしまう。役が変わってもそこにあるし。英語字幕が付いていた。ついにヒンディー語映画にも。イージーな時代がやってきたものだ。
#67「Meeruthiya Gangsters」Zeishan Quadri/2015/インド/Sep. 19/PVR Koramangala
ヒンディー語クラスの後で挑んだが、撃沈、ちーん。現代を舞台とするヒンディー映画には登場人物がハイソなやつとそうでないやつがあって、ハイソな方はみんなが英語混じりのヒンディーを喋るので会話にもなんとなくついていける気(←これ重要)がするのだが、他方のは途方に暮れる。UP州のMeerutに住む6人の青年ギャング団の話は当然後者である。(それでも“Koi Baat Nahi”や“Sunie”くらは聴き取れた。) 冒頭がMeerut College Canteenでのギャング団の会話シーンで、テーブルについたメンバーをキャメラが後ろからぐるぐる回って撮影するのが、明らかにタランティーノ。以降もなかなかノリのよいシーンが続くのであるが、いかんせん何をやっているのかわからなくてはお話にならない。なぜ彼らを追う不良オフィサーはNoida Policeなのだ?、とかね。茶色い大瓶をグビグビ呑んでいるビール(ラベルにぼかしが入る)が何なのか気になって注意してたら、なんのことはないKingfisherでがっかり。
#66「Hero」Nikhil Advani/2015/インド/Sep. 13/INOX: Mantri Square
最近、観たい映画があまりない。ので、とりあえずのボリウッド新作チェック。やっぱりだめ。これなら『Welcome Back』の方がマシじゃないかな。(たぶん)政治家ファミリーの男と警察ファミリーの女が、ファミリーの敵対とは裏腹に愛し合い起こる悲劇という永遠の紋切りテーマ。シナリオに面白みがない。突然出てくる第三の男に悪を集約して2ファミリーには傷が付かないようにしてハッピーエンド、ってそりゃないだろう。誰も納得しないぞ。主演はSooraj PancholiとAthiya Shettyという若いの。Athiya ShettyってSonam Kapoorに似てると言われてるの? 似てないよ。顔、四角いし、魅力なし。舞台は定番のムンバイとどこか北の方。バレンタイン・デーで雪が降ってた。ちらっとパリも出てくるのだけど、Athiya Shetty本人が赴いたかどうかは疑わしい。Sooraj Pancholiのアジト、もといジムはどこかな? あれだけ気になった。橋が見えないからWorli Fort (or Bandra Fort)じゃないよね。Salman Khanが噛んでるのか。みんなSalman Khanに甘過ぎ。
#65「Kendasampige」Duniya Soori/2015/インド/Sep. 12/Gopalan Cinemas: Banerghatta Road○
荒削りながら魅力的な作品。バックにあるドラッグマフィア摘発事件のスレッドがいいし、身分違いの青年と恋した娘を心配した母が知り合いのコミッショナーに話したために警察に陥れられた青年の逃避行に娘が合流するロードムーヴィーのメインパートもいい。Karnataka州の観光案内とまではいかないが、いろいろな街が見られて楽しい。主人公の若いふたりは新人のようだけどよくやっている。時折BonnieになるManvitha Harishはバンガロールにたくさんいそうなタイプ。なかなか渋かった悪コミッショナー役のPrakash Belawadiはどこかで見た顔だと思ったら『Madras Cafe』に出ていた。正義のオフィサーRajesh Natarangaは地味だったが、ストーリーからしてあの程度で十分。娘が撃たれた青年のために着替えを買ってくるのだが、受け取った青年がブリーフを見て“ブリーフは穿かない”と言うのがおかしかった。そんな場合じゃないだろう。それともブリーフは高級品で貧乏だと穿けないのだろうか。
#64「Paayum Puli」Suseenthiran/2015/インド/Sep. 5/PVR Koramangala○
政治・警察・黒社会の癒着を正す若いコップとファミリーという南インド映画ではおなじみの構図の組み合わせ。Vishal(初見)主演、相手役は“ははん、わかったわよ”という顔が魅力的なKajal Aggarwal。舞台はChennaiではなくMadurai。行ったことあるけど、ミナクシ寺院しかわからない。寺院入口にサンダルを置くシーンには笑った。ほんと、自分の履き物が出たときにちゃんとあるかほんと不安。Bataのサンダルなどで行くべきではない。後半は兄(政治家)対弟(若いコップ)の戦いになるのだけど、ここが結局ハッピーエンドにならないところがテルグ映画とは違うところだ。違うといえば、Item Number。おなじみのタミルダンスは最高だ。大勢のおじさん、おばさんのゆるいダンス。ボリウッドダンスなんかよりタミルダンスをマスターすべきだよ。悪人は裁判なしで射殺してもいいのがタミル・ナドゥ州。あな恐ろしやJayaさんの州(実は違いますように)。
#63「Phantom」Kabir Khan/2015/インド/Aug. 30/PVR Koramangala
Saif Ali KhanとKatrina Kaifというスタアを主役に配置しながら、かなり硬派な工作員もの。なんと、Katrina Kaifが踊らない。硬派なのに納得感がないのは四大カーンに永遠になれないSaif Ali Khanだからではないかと思う。秘密工作員が国家のため、ロンドン、シカゴ、ベイルート、ラホールと移動し、次々とミッション(暗殺)をこなしていく。敵は常にムスリム・テロリストで、当然パキスタンでは上映禁止である。本作の面白いのは、そのドローバックというか、報復などによる損害を何度も描いている点で、リアリティが少し感じられる。Saif Ali Khanに指示する諜報機関は首相に嘘をついてまで作戦を実行する。それってむちゃ危険じゃん。これがリアルなら怖い。そういう描写もあってか、あまりJai Hindという雰囲気ではないのにはほっとした。でも映画としてはいまひとつ。そいや、インドではじめて観たのはSaif Ali Khanの『Race 2』だったな。あのときはプーチンみたいな俳優だと思ったけど、いまは半分コメディアンにしか見えない。
#62「Uppi 2」Upendra/2015/インド/Aug. 30/PVR Koramangala
2年ぶりに観たUpendra。『Topiwaala』の印象は悪いが、いまは彼がスタアだという認識がある。で、まったく予習なしで臨んだ新作は、英語字幕が付いていたにも拘わらず、やはりよくわからないのであった。NeenuになったりNaanuになったり。過去や未来については考えないのがベストだという浄土真宗みたいな教えには、説得力があるような、ないような。過去を振り返って反省し、未来を見通して財政基盤を立て直すことが必要だろう。本人さえしあわせならそれでいいのか? ということが逆説的に言いたいのかな? 残念ながら、わからない。こんな映画ばかり撮ってるんだろうか。前篇にあたる(?)『Upendra』(未見)は評価が高いようだ。それを観れば本作もよくわかるし、評価も変わるのかもしれない。相手役はKristina Akheevaというロシア人女優。あれ、カンナダ語喋ってたかな? 口パクの印象がない。ミニスカートを大胆に着こなす姿は明らかにインド人ではなかったな。
#61「Thani Oruvan」M. Raja/2015/インド/Aug. 29/INOX Lido○
メディカルマフィアの陰謀を曝く警官の話。導入シークェンスが主人公関連ではなく悪役関連なのが斬新なことをはじめとして、シナリオは面白かったし、色の使い方も興味深かった。前半はズームを多用しているのか、独特のざらつき感のある画面で懐かしい感じがした。主演はJayam Raviというタミルっぽい俳優。相手役は鼻の下にちっちゃなビンディー付けた美貌のNayantara。チームで悪に立ち向かうシーンは戦隊ものの風情。現代の話なのにJayam Raviの秘密の部屋だけ妙にハイテクなのがおかしい。悪役(メディカルマフィア)のArvind Swamy、巧いね。Nassarがまた出てた。唸ったのはコメディアンThambi Ramaiahの使い方。きちんとシナリオに溶け込んだコメディーシーンをインド映画で初めて見たよ。一方、一曲のみのアイテムナンバーでは、Jayam Raviが意味もなく海辺でシャツを脱いでランニング姿になるのが笑えた。英語会話のシーンをタミル語でダブするのはやめてもらいたい。字幕でいいじゃん。
#60「Brothers」Karan Malhotra/2015/インド/Aug. 23/INOX: Garuda Mall
Akshay Kumarの新作は格闘技もの。なぜインド映画ってコンペティションがこんなに好きなの? それもマスコミ総出で一イベントに大盛り上がり、国中が注目、ってあり得ないだろ。もうどれも同じだよ。元ストリートファイター、現物理教師のAkshay Kumarが難病に苦しむ娘の治療費を稼ぐため、妻Jacqueline Fernandezの反対を押し切って格闘技に戻っていく。実弟のSidharth MalhotraもR2Fなる格闘技世界選手権に出場。トレーナーは妻殺しで服役していたアル中の実父Jackie Shroff。誰もが予想できる筋書き通り兄弟が勝ち上がり、ファイナルで対戦する。Akshay Kumarは悪くなかったけど、シナリオがとにかく中途半端。Jacqueline Fernandez、結局会場に来ちゃったけど、ひとりなの? Akshay Kumarが優勝して、娘はどうなるのだ? 弟や父との関係は? すべて浅い。Kareena KapoorがItem Numberだけの特別出演。これも萎えた。子供時代のMonty(弟)を演じてたのは、『Bombay Talkies』のKatrina Kaif少年だったな。
#59「Manjhi - The Mountain Man」Ketan Mehta/2015/インド/Aug. 22/Cinepolis: Banerghatta Road○
インドでは有名らしい、石山をひとりで削り続け向こう側の町まで道を通すことに執念を燃やした“Mountain Man”の伝記(?)映画。Nawazuddin Siddiqui主演。石山から足を滑らせ亡くなった愛妻にRadhika Apte。全体として、映画というよりも演劇を観ているような感覚だった。ナワちゃん演じる山男の気迫は十分伝わってきたのだけど、細部の言葉がわからないのは致命的で、欲深そうな地主が何をやったのかもわからなかったし、Indira Gandhiになんと言ったのかもわからない。モヤモヤして不満である。字幕付き映画を最近何度か観てそれに慣れてしまったのが災いしているな。Radhika Apteが自宅にいるときのサリーは、単にサリーを巻き付けただけのようだった(1960年頃)。最近の女性はブラジャーと、レオタードをちょん切ったような下着(?)を着て、その上にサリーを巻いているよね。これはいつ頃から広まったんだろう。Radhika Apteならともかく、普通のおばさんが、サリー巻き付けただけなんて、ちょいと目をそらしたくなりそう。
#58「醉・生夢死」張作驥/2015/台湾/Aug. 13/光點華山電影院○
前作『暑假作業』から一転してダークな作品。本作完成後、導演は塀の中の人となった。作品のカラー変化はこの犯罪が少なからず影響しているだろう。内容はともかく、タッチは相変わらず力強く、導演の実力が遺憾なく示されている。アル中の母、ゲイの兄、ホストの兄貴分、売春婦のガールフレンドをもつチンピラが主人公。それぞれの登場人物と主人公のインタラクションの描写で話は進んでいく。と、そのうち兄と兄貴分の関係が怪しくなってきて本作が同志電影であることが明らかになる。意外だ。『ブエノスアイレス』以来の衝撃。このエピソードと、主人公と売春婦との純なふれあいの対比はすばらしかった。ちょいと『汚れた血』のドニ・ラヴァンとジュリエット・ビノシュの関係を連想させた。今後、導演に対する評価がどうなるのか気になるところだけど、三年後、出所した導演がどんな新作を撮るのか、いまから楽しみである。ちゃんと出資者がいますように。塀の中で知り合ったどこかの組長だったりしてね。
#57「Srimanthudu」Koratala Siva/2015/インド/Aug. 9/INOX: Garuda Mall○
絶壁のスーパースターMahesh Babuは登場後、前半ずっと微笑んでいた気がする。大金持ちの息子で、性格もよく、慈善事業に人助け。これで3時間引っ張れるのは、やはりスーパースターなんだろう。そのMaheshをメロメロにするのが爬虫類系美人Shruti Haasan。この人コミカルな演技もできるしダンスはバリバリだし、やはりいいね。スタイルももちろんいいのだが、(おそらくわざと)お腹を少し弛ましているのが南インド魂。テルグ映画なのでヒーロー+ファミリー+悪者という単純なストーリーなのだけど、いつもならごく添え物の女優の存在がなかなか大きかったし、いつもならどうでもいいところで挿入されるギャグがほとんどなかったのがマルである。Maheshの父親役のJagapati Babuが渋かった。しかし、素手で戦っているとはいえ骨をバンバン折って結構何人も殺していると思われるのに逮捕も懲役もないところに若干のリアリティーさえ感じてしまうのが、インド映画だなあ。
#56「Bangistan」Karan Anshuman/2015/インド/Aug. 8/PVR: Phoenix Market City○
Ek Villain』Riteish Deshmukhと『Dolly Ki Doli』Pulkit Samrat共演のテロリストコメディー。Jacqueline Fernandezが紅一点で出演。北バンギスタンと南バンギスタンという、誰がみてもそれぞれパキスタンとインドを想定したと思われる架空の国から、世界宗教会議で爆破事件を起こすべくテロリストが開催国のポーランドはKrakówに送られる。それが主演のふたり。イスラム教徒とヒンドゥー教徒の素性をそれぞれが偽装し、紋切りの話が展開する。それぞれを何でも緑色とオレンジ色でキメているのがいい。イスラム教徒だからといってすぐにテロリストと疑うのはやめて、というメッセージが一応あるが、それでもパキスタン人が笑える作品かと問われると疑わしい。ポーランドで爆弾を入手するためにふたりが接触するのはロシア人と中国人。この点もブラックだ。エンディングでロシア人が“Must be made in China”と嘲る。中国人が聞いたら怒るよ。まあ、ロシア人もか。Jacqueline Fernandezは相変わらず派手だが華はないなあ。
#55「Drishyam」Nishikant Kamat/2015/インド/Aug. 2/INOX: Garuda Mall○
東野圭吾の『容疑者Xの献身』を原作として大ヒットしたマラヤラム映画(なぜか未見)がオリジナルで、その後いくつかのローカル言語版がつくられた人気シナリオ、遂にボリウッド進出。主演は目がいつもとろんとしてるAjay Devgn。アクションなし。対抗は眼光鋭い『Haider』のTabu。警官の制服でダイナマイトボディーを披露。娘が犯した殺人事件を隠蔽するため家族ぐるみで警察を欺こうとするAjay Devgnと、息子を殺されたTabuの戦いは、ビデオオタクのAjay Devgnの勝利に終わるのだが、観客がそれに喜ぶのがなんだか腑に落ちない。殺人は殺人だろう。正当防衛が適用される気もするし、堂々と訴えればいいと思うのは、腐敗したインドの警察機構をよくわかっていないから言えるだけなのだろうか。Sunny Leoneの映画を観て興奮して帰宅して、ベッドルームに芳香剤か何かを噴霧するのがおかしかった。これは原作にはなかろうて。Ajay Devgnの次女はICICI生命のCFのスピーチコンテストの子ではないかな? 舞台はゴアだった。
#54「Baahubali - The Beginning」S. S. Rajamouli/2015/インド/Aug. 1/PVR Koramangala○
観る?観た?まだ観てないの?と周りが五月蝿かった話題作をようやく鑑賞。古代王国を舞台にした王位争い絡みの復讐劇、と書くと月並みなのだが、法螺話級にスケールがでかいのが爽快。ただ、前篇である本作の終わり方は後篇を観ないわけにはいけないような中途半端さ。作品評価はその後ということになろうか。主役のBaahubaliを演じるPrabhasは南ワイルドな感じで南インド人にはウケそう。相手役(?)のTamannaahは『Aagadu』で観たな。本作の方がいい感じ。Sathyarajが渋かった。大規模な都市や戦闘シーンなど満載で、当然SFXバリバリにならざるを得ない。そこにお金がかかっているのだろうか。動物保護団体対策で、動物を虐待するようなシーンでは左下に“CGI”とスーパーがいちいち出た。人間を虐待する場面にはそれはないのはどうなの、人権保護団体さん? 例によって前半は(タイミングのずれた)英語字幕があったのに、後半に入って間もなく、何事もなかったかのように消えてしまった。
#53「Sesh Anka」Tathagata Banerjee/2015/インド/Jul. 26/PVR: Phoenix Market City○
ベンガリ映画の重鎮Deepankar De主演の殺人事件謎解きもの。おっちゃんは腕利き弁護士。コルカタを舞台に麻薬中毒のコールガールが殺人罪に問われるのを弁護する。そうか、インドにもそういう世界があるのか。コールガール役のParno Mitraの麻薬中毒ぶりはリアルに見えてこわかった。インドの裁判所(何裁判所か不明)って小学校の教室みたいだったよ。ストーリーは古典的で、時計による時間トリックや利き腕への注目など、いまさらアガサ・クリスティーかって感じ。とはいえ僕の最初の勘は間違っていて、Deepankar Deに弁護を依頼するファニーフェイスのJune Maliaが犯人だと思っていたのだけど見事に外れた。人間関係が結構複雑なので、大衆ウケはしないんじゃないかな。推理物を字幕なしで観るのは絶望を呼ぶが、今回は英語字幕が付いていた。ただし、台詞と字幕に時間差があって頭の中で組み立てるのにエネルギーを使った。そんなわけで、楽しむというより疲れたな。そもそもこの日3本目だったし。
#52「Bajrangi Bhaijaan」Kabir Khan/2015/インド/Jul. 26/PVR: Phoenix Market City○
Harshaaliちゃんの“おうちへ帰ろう”ロリロリ大冒険、あるいはSalman KhanのBeing Humanヒューマニズム・ロードムーヴィー。パキスタンからインドにやってきてお母さんとはぐれてしまった、言葉が喋れないHarshaaliちゃんが、ハヌマーンを信仰するブラミンSalman Khanに連れられて国境を越え、お母さんのところへ帰る。インド(ヒンドゥー)vsパキスタン(ムスリム)、カシミールの大自然、一途な主人公。よくもまあ、こんなにウケ要素を揃えたものだ。この単純な盛りようが大ヒットの要因だろう。ラストシーンの臭いことといったら…。同じような傾向が続かなければいいけど。助演にKareena Kapoor、Nawazuddin Siddiqui。ナワちゃんはパキスタンのTVレポーターで、巧いんだけど、やはりこういう“いいひと”は似合わない。オールド・デリーがなかなか魅力的に撮られていたのはよかったな。インド対パキスタンのクリケットゲームを観ていて、Harshaaliちゃんだけがパキスタンを応援するのがおかしかった。僕も単純か。
#51「Maari」Balaji Mohan/2015/インド/Jul. 26/PVR: Phoenix Market City○
Dhanushの新作はKajal Aggarwalとの共演。やくざのDhanushが、やり手警官によって殺人罪で逮捕され縄張りを追われるが、悪徳と化した警官に出所後復讐する。派手なシャツを取っ替え引っ替えするどうみてもチンピラ風情なのだけど、オートを運転しても、幹部なのである。鳩を育てるのだ大好きという、伝統的な鳩レースを知らない者にはよくわからない世界。結構詳しく解説してくれて、なかなか興味深かった。いまでもやっているんだろうか。しかし、殺さなければ罪にはならないらしく、しかも有罪になっても7ヶ月で刑務所から出られるのは納得いかないぞ。恐るべしJayaさんの州。ほとんどがセット撮影のようだったけど、なかなか雰囲気のある街並みだった。ダンスはDhanushにしては控えめだったな。Kajal Aggarwalの活躍も控えめ。お腹はたぷたぷだけどね。ラッキーなことに映画字幕付。ただし、追うのが大変で画面全体をきちんと観られなかった。タミル語は情報量が多いのかな?
#50「Masaan」Neeraj Ghaywan/2015/インド/Jul. 25/PVR Koramangala○
VaranasiすなわちGangaが舞台の大人の映画。生徒との恋が相手の自殺で破局するパソコンインストラクタの女性(Richa Chadda)と、カースト違いの女性に恋してしまった土木工学専攻の男子大学生(Vicky Kaushal)のパラレルストーリー。恋愛とカースト制度というインド社会のデリケートな部分に正面から向き合う姿勢に目をみはる。特にGangaのほとりで火葬人を務める一家(つまりダリット)に育った男子大学生が直面する高位カーストとの壁は、厚い。ブラミンと思われる相手の女性の死によって、壁の厚さが一層増す。それぞれ相手を亡くした件のふたりは後半、見えない引力で徐々に互いに近づいていき、ついに言葉を交わす。静かな美しいラストシーンの先には『門』の夫婦のような将来が待ち構えているだろう。美人なRicha Chaddaの父親役にSanjay Mishra。この人アクがありすぎてやや苦手なのだけど、本作はよかったよ。Varanasiの街はあまりにGangaの存在が大きくてまだよくわからないな。
#49「I Love NY」Radhika Rao, Vinay Sapru/2013/インド/Jul. 11/PVR Koramangala
お蔵入りだったものが最近のKangana Ranaut人気で晴れて公開となった。んが、駄作だ。舞台はアメリカ。シカゴに住む男Sunny Deolとニューヨークに住む女Kangana Ranautが、その異なる市内で同名の通り、同じ番地、同じ部屋番号、しかも鍵がコンパチというあり得ない設定で知り合う話。大晦日に、それぞれのパートナーと会う約束をしていたのに、男の友達が男にしこたま呑ませ、泥酔した男がなぜかニューヨークに行って自分の部屋と思い込んで女の部屋で寝てしまう。で、それが女のパートナーに見つかって騒動が起きる。あり得ない。元々なぜニューヨークに行ってしまったのかよくわからない上に、男が乗っていた地下鉄にはタイ語が見えて、僕の頭の中は大混乱。そもそも舞台がアメリカである必然性がない。みんなヒンディー喋ってるし、デリーとムンバイでも何の問題もなかったはずだ。Item numberもいまひとつで、終始モヤモヤして観ていた。『Jal』のTannishtha Chatterjeeが出ていたのが唯一の収穫。
#48「海街diary」是枝裕和/2015/『…』製作委員会/Jul. 4/TOHOシネマズ日劇○
漫画が原作の、鎌倉に住む四姉妹の話。原作は知らないが、この監督で小津色が出ないわけがない。淡々とした語り口、ローポジのキャメラ、リリー・フランキーの笠智衆演技、長女・綾瀬はるかの白いブラウスとロングスカート。家は極楽寺だけど、御成通りの八百屋とか、稲村ヶ崎(背後にタベルナ・ロンディーノが)とか、実にさまざまなところでロケしたようだ。『乳母車』でいづみさまの家があった材木座の高台あたりからの鎌倉の街の俯瞰とかも。次女・長澤まさみが勤めていたのは三菱東京UFJ銀行鎌倉支店のように見えた。生活の場だけあって、観光地を見せないところがいい。既婚男性との長女の恋愛(結婚)問題がテーマのひとつ。次女の相手役を匂わせる加瀬亮の雰囲気がなかなかよかった。この四姉妹が住んでいるような木造二階建て古民家はいま鎌倉にどれくらい残っているのだろうか。ちょっと前まで材木座にも結構あったのにどんどんなくなってしまった。もったいないことだ。
#47「Labour of Love」Aditya Vikram Sengupta/2014/インド/Jun. 28/PVR Koramangala○
原題『Asha Jaoar Majhe』なるベンガル語作品なれど、台詞皆無のアート作品。登場人物は男性と女性で、男性はどうやら夜働いているらしく、女性はコルカタらしく革製品の工場で働いている。それぞれの一日の行動を交互にキャメラは追っていく。男性は給料が出たばかりらしい。そして半日が経過した頃にこのふたりが夫婦であることが示唆され、観客はそれまでの想像力パンパンから答合わせに向かって収束していき、最後にふたりが同じ部屋に集ったところで、映画のおわりが近いことを悟る。ところが舞台はむさ苦しい都会の部屋から突然早朝の森へ…。おお? アートである。ふたりが一緒になればどこであろうが空気の澄んだ大自然の中なのだ。いいね。ベンガル映画ってマラヤーラム映画よりアート傾向が強いようだ。さすがサタジット・レイを排出した土地柄だね。(単にそういう作品のみ観る機会があるだけかもしれないけども。) 84分しかないのにインターミッション入り。しかも後半は前半と1分ほどかぶらせてあった。
#46「Killa」Avinash Arun/2015/インド/Jun. 27/Q Cinemas: Whitefield○
ベルリンで賞を獲った、インド版『冬冬の夏休み』とでも呼べそうな佳作。母親のしごとの都合でPuneから転校してきた男の子が海辺の村で現地の子供たちと過ごすひと夏(常夏だけど)。夜の上映なのにお子ちゃまたくさん。タイトルの“किल्ला”が出てきて“キッラ、キッラ”と叫んでた。僕も心の底で“俺だってこれくらいは読めるぞ”と叫んだ。インド西海岸の村は苗栗のようにのどか。授業風景、自転車競争、水泳に廃墟探険。そしてアル中漁師の船での出漁。いわゆる“よい子”だった主人公が仲間に感化されるところやこっそりカンニングを手伝うところも含め子供たちが活き活きしていて、淡々とした語り口がその純度を高め、観ていて気持ちがよかった。母子家庭を支える母親の業務上のトラブルも静かに描写されており、とても新人監督とは思えない落ち着きよう。もともと撮影のひとらしい。道理で画面が美しいわけだ。こういう作品だと、意味のないダンスやコメディーが入る余地がないのでトータルの上映時間も107分。真好。
#45「Yagavarayinum Naa Kaakka」Sathya Prabhas Pinisetty/2015/インド/Jun. 27/Innovative Multiplex: Marathahalli○
てんこ盛りコリウッドでお腹いっぱい。タミル系ダンスだけは堪能した。Pune Warriorsのチアリーダーみたいな三人娘が意味もなくバックで踊る、全体の動きは緩い、まことにおめでたいダンス。これだけでいいや。ストーリーはホラーあり、アクションあり、友情物語あり、コメディーあり、ファミリードラマあり。“日月”という漢字の刺青が鍵を握る殺人事件(実話ベース)は軸のはずだけど、その比重の軽いことに呆れた。話の結論は友情万歳かな? お粗末。主役のAadhiという俳優を観るのははじめてかな。このひとも李小龍系だな。でもアクションがすべて特撮依存なのがいかん。相手役のNikki Galraniはタイプからは遠いが、その豪快さはなかなかよかった。他のインド映画の例に漏れず、後半姿を消したけど。コリウッドがいいのは、ダンスが楽しいのと、特定のコメディアンで作品を台無しにしないところだね。序盤の舞台にゴア登場。オールド・ゴアもきちんと出てきて、よかったよ。
#44「Vajrakaya」Harsha/2015/インド/Jun. 21/PVR Koramangala○
Dr. Rajkumarの長男Shiva Rajkumar主演の『瞼の母』あるいは『母を訪ねて三千里』。このひと、濃い。どれくらい濃いかというと、高捷より濃い。Puneethよりは父親似。1980年に赤ちゃんだったということは35歳くらいの設定か、無理あるな…。その1980年から時が止まったような、西部劇のような舞台。って、1980年でまだあんなだったのかな。実母役のJayasudha、1980年は修正バリバリで艶々の肌だったのになぜか3年後にはすでにシワシワだった。前日に観た『Ranna』にも出ていたコメディアンChikkannaとSadhu Kokilaが再び登場。なんだかテルグ語映画を観ているようだった(まあ実際、SandalwoodもHyderabadのスタジオを使っているしね)。2時間半のうち、コメディータイムとダンスタイムの比率は決まっているのかね。双方を抜いても(抜いた方が?)立派に作品として成立するよ。テンションの高さは変わらないだろうけどね。シネコンの客はやはり単館の客よりおとなしい。お子ちゃまは元気だったが。
#43「Ranna」Nanda Kishore/2015/インド/Jun. 20/Nartaki Theatre○
2年前に観たテルグ語映画『Attarintiki Daredi』のサンダルウッド・リメイク。SudeepがPawan Kalyanの役で、Rachita Ramという女優がSamanthaの役どころ。Prakash Rajが出演。記憶が正しければ、かなり忠実にオリジナルのシナリオを再現している。ただし、Sudeepの叔母(伯母?)役のMadhooが若すぎてしっくりこない。ドバイに住む金持ちの息子Sudeepが、祖父Prakash Rajに勘当されインドに行った叔母Madhooのところにドライバーとして入り、彼女を祖父のもとに返そうと画策する。途中からコメディー要素が強くなるのもオリジナルと同じ。ここまで長くする必要はまったく感じられない。ダンスも何度かあったけど、Sudeepはダンスはあまり得意ではないようだ。1曲目なんて、バックダンサーの前でポーズとってるだけだった。Prakash RajとSudeepの“渋い声”合戦は聴き応えあり。初めて入ったNartaki Theatreは渋谷パンテオンって感じの古きよき時代の大型劇場だった。Sudeep登場時の騒ぎっぷりとか期待通り。閉館は惜しい。
#42「Kerintha」Sai Kiran Adivi/2015/インド/Jun. 14/Cinepolis: ETA Mall○
ハイデラバッドのカレッジが舞台の男女六人常夏物語。あまり期待はしていなかったし、感想もそれなり。三組がみんなまとまってハッピーエンドは安易だ。みんなLove Marriageかよ。ありえん。現在から2年前に遡った話のはずだけど、画面にはAPだけでなくTSナンバーのバイクが見えたり、詰めも甘く、エピソードがいちいち浅い。知っている俳優も皆無で、あまり映画に没入できなかった。退屈というほどではなかったし、雨のシーンとかよかったけどね。いつものコメディアンが出てこないのもよかった。ミニスカートの中を覗こうとしたり、女子寮に入って女子学生のバスタオル姿を見せたりするのは、これまで観てきたインド映画にはなかったパターン。バスタオルの女子学生の脛が毛深いのは、ま、インドだからしかたがないか。YAMAHAのフォークギターが出てきた。ロゴがそれっぽくなかったんだけど、インドモデルかな? “おい”ってやはり“おい”って意味かな? テルグ映画は謎だらけ。
#41「Kaaka Muttai」M. Manikandan/2015/インド/Jun. 7/PVR Koramangala★
Dhanushプロデュースの子供映画。チェンナイのスラムに住む幼い兄弟のピッツァ食べたい大作戦物語である。空き地の木にある鳥の巣から卵をとって啜ったり、テレビを欲しがったり、なぜ自分たちが他所の子と違うのかわからない、まさに小津映画の子供兄弟インド版。当然勇ちゃんは実ちゃんに絶対服従である。テレビは二台手に入るのだけど、なぜか二台とも狭いうちで使用。一台売ればいいのに。肝腎のピッツァは、オトナの事情により最後に思いがけなく食べられる。その味は…。ま、おばあちゃんのつくった見かけそっくりピッツァよりはおいしかったんじゃないかな。主役のふたり(なぜか茶髪)は子供俳優みたいだけど、他のスラムの子供たちも俳優かな?それとも本物? お祭りやお葬式でダンスする彼らは生き生きとしていた。加藤泰なみの線路のローポジ撮影あり。お母さん役のIyshwarya Rajeshがきれいだった。National Film Awardを獲得したのも納得の一本。
#40「Premam」Alphonse Putharen/2015/インド/Jun. 7/PVR: Phoenix Market City○
Nivin Paulyが16歳、21歳、30歳を演じる、3人の女性との恋物語。16歳はちょいと無理あるよね。それともインド人だと、高校生でもうあんなに胸毛が生えているんだろうか。その際の相手、Anupama Parameshwaranの髪の毛わさわさぶりにも驚愕した。大学生のときの相手、システムアーキテクチャの講師Sai Pallaviが自然でよかった。普段の落ち着いた感じと一転してダンスバリバリになる対比もいい。彼女は事故で記憶喪失になってしまい、結局、3人目のMadonna Sebastianとゴールイン。披露宴にSai Pallaviが来たときには観る方も震えたね。で、花嫁の姉であるAnupama Parameshwaranはなぜ現れなかったのかは謎。大学を卒業し営むカフェの名はAgape。ひたすら愛を求めるGeorge(Nivin Pauly)なのだった。しかし、なぜ工学を学んでパティシエになれる? 店もきれいでそんなセンスがあるようには見えなかったが…。キャメラの使い方が現代的。超ローポジも見せる。女性だけでなく、食べ物も接写しじっくり見せてくれるところもよかったな。
#39「Dil Dhadakne Do」Zoya Akhtar/2015/インド/Jun. 6/INOX: Jayanagar○
デリーの富豪家族をメインとした群像劇。結婚30年記念の父母が友人をトルコ豪華船クルーズに招待したという設定で、舞台を船上とトルコの街に限定している。家族は父Anil Kapoor、母Shefali Shah、姉Priyanka Chopra、弟Ranveer Singh。夫婦仲はぎくしゃくし、姉も離婚寸前、弟は父の会社で働くものの冴えない(どう見ても冴えなくない。美人女優が“ブス”を演じるのと同じだ)というありがちなシチュエーションで、いろいろな登場人物が入り乱れて家族関係が激動(弟とダンサーAnushka Sharma、姉と従兄弟Farhan Akhtarの関係など)、最後にひとつになってハッピーエンド。気持ちよく観られる快作だった。語り部に犬(声はAamir Khan)をもってきているのも悪くない。ときどき入るItem Numberもとてもよかった。ただ、いつものコメントだが、やはり台詞がわからないのはコメディーでは致命的。精進すればいつか周りと一緒に笑える日が来るだろうか。せっかくトルコに来たんだから、もう少し料理を見せてもらいたかったな。
#38「Tanu Weds Manu Returns」Anand L. Rai/2015/インド/May 30/PVR: Phoenix Market City○
男性より女性に人気のありそうなKangana Ranaut主演。最近のインド映画に頻発の二役もので、TOIで4.5点の高評価作品。2011年の前作はもちろん未見だが、TanuとManuの復縁話ではなく、Kusumの失恋物語として観るのが正解だろう。女子大生のKusumがかわいいのは見りゃわかる。他人のそら似の二役というのはなかなかむずかしいと思うが、外見だけでなく言葉(声も)の使い分けも巧妙で感心した。唯一、首のホクロはどうしようもないところか。あ、カツラの不自然さもね。Kusum (Kangana Ranaut)が“I'm an old school girl...”と歌うのがよかった。一方のTanuにはまったく感情移入できず。会話が理解できると少しは同情できるのだろうか。そもそもManu (R. Madhavan; おっさんだ)がなんで精神病院に入れられるのかわからなかったのだ。前作のキャストが結構揃っているみたいだったので、それがわかるともっと面白いのだろうな。オトナの映画である。北インドの結婚式はにぎやかだなあ。一度は行ってみたい。
#37「Lailaa O Lailaa」Joshiy/2015/インド/May 17/INOX Lido○
結婚休暇中のNazriyaちゃんのポジションを担える女優はNitya MenenかAmala Paulで、僕としてはAmala Paul推し。彼女がMohanlalの相手役を演じるアクションコメディー。巷の評判が笑っちゃうほど悪いので、どんなにひどいのか興味津々だったけど、結構いけた。舞台がバンガロールなのも飽きなかった一因。ケララ人、ほんとにバンガロールが好きみたいだ。結婚した主人公ふたりが住むのはOrion Mall隣接のBrigade Gateway。ダンナの役職からしてもっといいところに住めそうなものだし、実家より狭いのに、嬉々として住むAmala Paul演じる新妻が微笑ましい。輸出企業を隠れ蓑にした諜報機関NIDに勤務するMohanlalは何歳の役か知らないが、あの体で諜報員はないだろう。レトロな爆弾ネタや、ベタなパスワードが笑わせた。アクションがそれなりに決まっていたのが不思議。空港はいまのBLRではなく旧空港のHALだったのだけど、ほんとのHALではなかった。どこだろう?
#36「Bombay Velvet」Anurag Kashyap/2015/インド/May 16/INOX: Magrath Road○
独立〜1980年あたりまでのボンベイを舞台にした、歌手と拳闘家(やくざ)の物語。主演はRanbir KapoorとAnushka Sharma。Karan Joharが経営するキャバレー《Bombay Velvet》でふたりは働く。原作あり。ラストクレジットで《歌手》はまだ故郷のゴアで歌っているとあったが、実話ベースなのだろうか。1930年代の上海のような退廃的ムードを期待していたのだが、演出の問題なのか、事実そうでなかったのか、その辺りはあまり伝わってこず。Anushka Sharmaの歌姫は一見ゴージャスだけど、所詮口パクなわけだし、演技面では冴えない。Ranbir Kapoorの生きざまもいまひとつで、もっと松方弘樹のようなハングリーさが欲しかった。もっとも、貿易センタービル計画を巡る汚職エピソードについていけなかった自分も悪い。Siddhartha Basuとか太った警官役のおっちゃん(名前知らん)が出てくると腐敗した政治の臭いがしてくるね。Kay Kay Menonが刑事役で出演。相変わらず渋い。ファッションはヘンだった。
#35「O Kadhal Kanmani」Mani Ratnam/2015/インド/May 10/INOX: Malleshwaram○
100 Days Of Love』のDulquer SalmaanとNithya Menen再共演。ムンバイが舞台のタミル語作品という変わり種。それぞれ夢をもつゲームクリエイターとアーキテクトの有期限だったはずの恋が、アルツハイマーが進行する愛妻Leela SamsonへのPrakash Rajの献身によって永遠に変わる。なかなかダイナミックで泣かせる(のが必ずしもいいとはいえないものの)シナリオで見応えがあった。Prakash Raj、すっかりいいおじさんである。ムンバイの街がいろいろ出てくるけど、あまり魅力的に見えないのは『Piku』でコルカタを見たあとだからか。建築家がアーメダバードに行くならコルビュジエ建築を拝まなくてはならないと思うが、Nithya Menenは素通りか。失礼ながら、ちっちゃくて小太りの彼女は、やはりムンバイには不似合いに感じる。同じバンガロール出身のDeepika Padukoneとはだいぶ違うね。別に貶してるんではなく。英語字幕があった。どうやら英語字幕を付ける(可能性のある)シネコンと付けないシネコンがあるようだ。
#34「Gabbar is Back」Krish/2015/インド/May 10/INOX: Malleshwaram○
Akshay Kumar主演のアクション。世の中の不正を曝き私刑を与えながら個人的な復讐を遂げる、Gabbarと呼ばれるカリスマティックなハングマンの話。相手役にShruti Haasan。久しぶりに映画で見た。ポスターなどでは歌舞伎の獅子みたいなヘアスタイルが気になったが、実際に観るとそれは一部であとは普通だった。従来イメージより太ってたように思う。Item Numberで踊っていたが、その歌も唄っているのかなあ、と思ったら違っていた。唄えばいいのにね。Akshay Kumarのアクションは相変わらずキレがいい。亡くした妻役でKareena Kapoorが出てきたのにはのけぞった。アップにしないでほしい。大衆に支持されながら悪を裁くとはいえ法には反しているので、最後はGabbarの絞首刑で話をまとめている。この辺りがボリウッド・メジャーの限界だね。敵役のSumanという俳優は、Akshay Kumarとよく一緒にしごとしているAnupam Kherに似ている。一見しただけでは間違えてしまう、というのは僕だけか。
#33「Piku」Shoojit Sircar/2015/インド/May 9/INOX: Forum Value Mall○
Deepika PadukoneとAmitabh Bachchan主演のロードムーヴィー。New Delhiに住むこの父娘が故郷のKolkataにタクシーで帰る。妻を早く亡くした父と、母の代わりに父の面倒をみて婚期を逃しかけている娘という小津映画のようなセッティングにも拘わらず、物語はダイナミックに騒々しく進行する。長生きしたくて健康に異常に気を使う父のわがままを、なんだかんだ言いながら受け入れている娘。父が酒飲んで倒れて昏睡し親戚が集まっていると目が覚めるエピソード。故郷のKolkataでこの父は中村雁治郎のように結局あっけなく、本人はしあわせに死んでしまう。うんこネタも笑わせる。この監督、小津好きに違いないよ。料理をいちいちアップで見せたのはちょいと違う趣味だね。Deepika Padukoneは原節子というよりデコちゃんだったけど、よかった。Kolkataの街も魅力的に撮られていた。本作の陰の主役はタクシーのTOYOTA INNOVA。Varanasiを経由する千キロ超のドライブ。新興国にはなくてはならないタフな車だ。
#32「赤道」陸劍青,梁樂民/2015/香港/May 4/永樂大戯院○
旅行中の澳門、渋い単館で観た。豪華出演陣による、広東語、韓国語、普通話、英語、そして若干の日本語が入り交じる東アジア映画。主演は張學友といっていいだろう。『いますぐ抱きしめたい』(1988)あたりからは考えられない渋い俳優になった。出演陣が豪華なぶん話もでかくて、韓国が開発したモバイル核兵器DC8が《赤道》と呼ばれる武器商人に盗まれ、その取引が香港・澳門で行われる。アクションが韓国映画的に派手。赤道の手下として動くのが張震と文詠珊。張震のヘアスタイルは相変わらずあやしいが、文詠珊は韓国風メイクのせいかとてもきれいだった。しかもむちゃ強い。中共政府からクレームが入りそうなストーリーだけど、実際はどうだったんだろう。赤道の取引相手がシーク教徒にみえたり、韓国大統領が女性で明らかに現職を意識していたのも気になった。明らかに続篇があるようなので、是非観たい。システムのインタフェースは未来的(?)なのに、コマンドプロンプトで“C:\> ”なんて見せるのがレトロ。
#31「自由が丘で」ホン・サンス/2014/韓国/Apr. 24/下高井戸シネマ○
サンス、サンス、ホン・サーンス♪ 一時帰国の隙間でようやく観た、加瀬亮主演、ムン・ソリほか常連共演の、変わらぬホン・サンス・マンボ。ズームイン、ズームアウト、単純なカット。タバコ、酒、酔っ払いの会話、突然キレる女。今回は時間の弄りがシンプルなアイデアでなされている。手紙の1枚が抜けているのが味噌だね。観客の想像力を目一杯引き出せる。反則すれすれだけど、夢の使い方も悪くない。新大久保で起きていることには縁のない、こんな気負いのない付き合いをお隣とはしたいものだ。加瀬亮、以前観たのは超暴力的だったキアロスタミの『ライク・サムワン・イン・ラブ』で怖かったのだが、本作の彼はホン・サンス・ワールドの住民に成りきっていた。英語もうまい。ムン・ソリはそんな美人じゃないけれど、そうだからか、その辺にいそうな普通の女性を本当に器用に演じている。観逃したままの『ソニはご機嫌ななめ』と『ヘウォンの恋愛日記』も映画館で味わいたいなあ。
#30「S/O Satyamurthy」Trivikram Srinivas/2015/インド/Apr. 11/INOX: Magrath Road○
Tollywoodは最近敬遠しているのだけど、ホームのAllu Arjunはともかく、SandalwoodのUpendra、MolloywoodのNithya Menenの名があってどういうことなのか興味が湧いて観に行った。ふたを開けてみれば、前半はいつもの、ファミリー色の濃いテルグ映画。ヒロインはSamantha。驚いたことに本作ではお腹を見せない。冒頭で死んでしまうSatyamurthyはPrakash Rajで、あとはいつものコメディアン群。でも、Brahmanandamは出てこない。で、後半に舞台はTamil Nadu州へ移動。ここで訪問するのがUpendraの家で、その娘がNithya Menenなのだった。『100 Days Of Love』と違いdesiな格好で、ポチャポチャしたボディーを惜しげもなく見せていた。そこでUpendraを助けたAllu ArjunがNithya Menenと結婚させられそうになり、すでにGFになっていたSamanthaがヤキモキする。で、誰も呼んでいないのにBrahmanandamが登場し、またテルグ色に戻ったのであった。オチは、“そうきたか”とは思ったけど、説得力は弱かった。
#29「Detective Byomkesh Bakshy!」Dibakar Banerjee/2015/インド/Apr. 5/INOX: Magrath Road○
1942年のカルカッタが舞台というだけで観に行くしかない。Sushant Singh Rajputが私立探偵Byomkesh Bakshiを演じるミステリー。戦中の混沌としたカルカッタの街がセット+特撮で再現されている。チャイナタウンみたいなところがある。いまもあるのかな? 時代を考えると看板が簡体字なのに違和感を禁じ得ないが、トラムもちゃんと走っていてなかなかよかった。物語全体は、行方不明になった男の捜索からはじまり、上海のGreen Gang(青幣のことだろう)による阿片密売、日本軍の上陸計画などが絡みどんどん複雑になっていって、ヒンディー語に弱いとちんぷんかんぷん。あとでSpoiler解説を読んで話を理解した次第。全体の雰囲気はなんとなく『タンタンの冒険』の『青い蓮』を連想するひとは多いだろう。Dr. Watanabeはミツヒラトかもしれない。Sushant Singh Rajputはその時代のファッション、ヘアスタイル、つながり眉毛で、主人公になりきっていた。終わり方からして続篇がありそう。それまでにヒンディー語をなんとかしたい。
#28「Komban」M. Muthaiah/2015/インド/Apr. 4/PVR Koramangala
久々に撃沈。『Madras』のKarthi主演。結婚相手のLakshmi Menonの父親Rajkiranをなぜか嫌いらしいのだが、その理由がてんでわからず。対立しているやくざとなぜ対立しているのか、わからず(裁判やってたから土地かなんかの問題?)。なぜ刑務所に自由に立ち入れるのか、わからず。Karthiは二度も腹をナイフで刺されるのに死なない理由が、わからず。途中でDr. Rajkumar(題名不明)やRajinikanth(『Baashha』)、Vijay (『Jilla』)が出てくる理由がわからず。Karthiの得意技が平手打ちということだけはわかった。ま、話はふたりも仲よくなってハッピーエンド。ということでよかった、としよう。すべてはタミル語がわかるようになれば解決するはずだが、そんな可能性はゼロなので道は相当険しい。見てるとみんな舌を見せながら喋ってるね。Lakshmi Menonは結婚してからビンディーのとこに刺青を彫っていた。あれ、ビンディーが要らなくなるということ? 離婚したら困るじゃん。
#27「Kingsman: The Secret Service」Matthew Vaughn/2014/英=米/Apr. 3/PVR: Phoenix Market City○
Colin Firth好きのパンダゴロに付き合って観に行った。MI6のハードなスパイアクションかと思っていたら、別組織のコメディーだった。『007』のパロディーもある。教官Merlin役のMark Strongが杉浦直樹にしか見えず困ったり、なかなか楽しめたのだけど、根幹となるストーリーは僕が普段から考えていることに大いに関連があったことも興味深い。つまり、地球の人口はすでに地球の許容量を超えているということについてだ。この問題を解決しようとするおせっかいな大金持ちがSamuel L. Jackson。戦争や疫病による自然減では追いつかなくなった人口調整をケータイSIMカードを利用して人為的にやるというアイデアが斬新で、妙に感心した。ところで、Samuel L. Jacksonの片腕で両足義足のGazelleを演じていたSofia Boutellaがよかったなあ。本業はダンサーなのか。もう少し調査してみよう。今回の上映には英語字幕が付いていた。英語作品に英語字幕が付くってのもなかなか便利だ。
#26「100 Days Of Love」Jenuse Mohamed/2015/インド/Mar. 28/PVR: Phoenix Market City○
Bangalore Days』につづくバンガロール・ラブ映画。多髪Dulquer Salmaan主演、相手役は『Bangalore…』にも出ていたNithya Menen。Nazriyaちゃんが現役なら絶対この役だが、Nithya Menenの方が美人かも。でも小太りだ。ロケ多用映画ながら限られた登場人物で、ストーリーは面白かったし気持ちもよかった。そもそも冒頭からDulquer Salmaanがヌテラを食べているのが高得点。写真を手がかりに場所を特定する作業も楽しい。相変わらず(といっていいのか)、バンガロールの街が魅力的に撮られている。Majesticの映画館(カンナダ語が読めないので特定できず)、Christ Univ.、St. John's Med. College、Sakra Hospitalやらが出てきたよ。シネフィル監督らしく映画ネタもいくつか。しかし突然のDulquer Salmaan二役はどうかと思うな。あのシーンはなくてもよかったのでは? せっかく英語字幕に喜んでいたのに、またインターミッション後に消えた。映写技師(ディジタルでもそう呼ぶかどうか知らん)の怠慢だな。
#25「Om」Upendra/1995/インド/Mar. 22/PVR Koramangala○
人気があるらしく何度もリバイバルしている作品。ひと言でいえば、濃い。ブラミンの青年Satyaがある女性Madhuにそそのかされ極道になるのだがそれには裏があって…、という話を、取材したジャーナリストの書いた小説を通して語る。男女とも暴力的なのになぜか『愛と誠』を連想させた。濃密なドラマの合間に、いまでも見かけるコメディアンの時間とアイテムナンバーが少なくとも3曲。血だな。20年前のバンガロールというのは興味深い舞台。実際、どこかの田舎町の風情。ロケが多く、しかもカーチェイスあり。車を燃やしたり木に衝突させたり、CGなしでかなりの迫力だった。今回ディジタル化したらしいが、褪色もちゃんと修正してもらいたかった。あるシーンでMadhuがジャケットのボタンをかけ違えているのを見つけた。ああいうのは撮り直さないのかね。Om(Aum)とかSatya(Satyam)とか、折しも日本人には特別な印象を与える言葉が並んだな。ॐという字はデーヴァナガリらしいけど特殊だよね。
#24「Hunterrr」Harshavardhan Kulkarni/2015/インド/Mar. 21/PVR Koramangala○
予告篇にホン・サンスを感じたので期待していたのだけど、ちゃんとオチのある話だった。青年Mandarの女性遍歴を不思議な時系列で並べていき、最後はTruptiという女性(『Badlapur』にも出ていたRadhika Apteが演じている)に落ち着く。舞台はムンバイ、プネ。少年時代から女の子にアタックしたり、成人映画を観に行って警官に見つかって坊主頭にされたり、未亡人相手や不倫までエスカレートしても、全然性格は変わらないのだが、兵士になった親友をカシミールで亡くしたり、Truptiの過去に触れて人間として落ち着いていく。まとめ方は悪くないけど、もっと違う脚本が書けた気がするんだよな。親友の部屋に映写機やフィルムやヒッチコックのポスターなんぞあって、お、やはりホン・サンス意識か、と思ったのだけど。ズームアップも呑んだくれシーンももちろんなし。今回のRadhika ApteはDeepika Padukoneに似てた。彼女以外の彼女たちはどれもいまひとつの風貌で、なんでそれなの?と毎回思ってしまった。
#23「NH10」Navdeep Singh/2015/インド/Mar. 15/PVR Elements Mall○
アヒル唇Anushka Sharma製作・主演の殺人・復讐もの。このひとアイドルじゃないんだね。デリーの街を車で流すタイトルバック映像が70年代アメリカ映画の感で心地よく、タイトルからも途中までは気持ちよいロードムーヴィーなんだろうと予想してたら、お気楽シーンは瞬く間に終わり、地獄が始まる。休暇を取って夫婦でドライブ旅行に出かけたAnushka Sharmaが、ハリラヤ州でカースト跨がり恋愛による家族リンチ殺人に巻き込まれ(というか夫が激昂して飛び込んだ)、追われる身となる。当然警察もグルで、どうしようもなくなるが、夫が殺されると、復讐のため冷酷な殺人鬼に変身するという内容。刺激的ながら良質のエンターテイメントに仕上がっている裏には、いまだに女性の地位が低く田舎では所有物扱いされるのに異議を唱える強いメッセージがあるようだ。復讐時の彼女は怖かったぞ。Virat KohliはAnushka Sharmaに勝てるのか? 身長は175cmで同じのようだが。
#22「痞子英雄二部曲:黎明再起」蔡岳勳/2014/台湾=中国/Mar. 14/Innovative Multiplex
北京語に浸かりたくて出向いたのに英語吹き替えでがっかりした。3D版。メガネに10ルピー取られた。前作から2年の続篇。『痞子英雄』は『踊る大捜査線』みたいなものだろうから、TVシリーズを見ていれば楽しめるのかも。趙又廷がもちろん主演だが、知らないちゃらい大陸俳優(林更新; 金像奨俳優なのか)がパートナー。ゲストがいない女優陣も冴えず(前作には楊穎がいたのに)。舞台の海港城=高雄は変わらず。この都市を生物化学兵器で牛耳ろうという企みに対してまたも大げさな戦いが繰り広げられる。それっぽい悪の親玉は監督自身が演じていたよ。生物化学兵器というイメージからか画面全体が暗くつくってあり、3D効果でさらに暗く感じた。アクションはまあまあかな。冒頭、カルトな人たちが自爆テロを繰り返すシーンは、まさに現実であり、そういう意味で驚かなくなっている自分に驚いた。他に観客がいないというので劇場窓口での発券をギリギリまでしてくれず、タイトルクレジットを見逃した。が、上映されてよかったとしよう。
#21「Enakkul Oruvan」Prasad Ramar/2015/インド/Mar. 8/PVR: Phoenix Market City○
カンナダ映画の佳作『Lucia』のタミル語版リメイク。主演はSiddharth。シナリオはオリジナルとほぼ同じだった。なのでタミル語、字幕なしでもKoi Baat Nahi。モノクロームとカラーを必然で使い分けるシナリオには改めて感心した。“現実”パートでのSiddharth演じるタミル青年Vickyの姿が、肌色といいヘアスタイルといい物腰といい素朴で好印象。歯を常に見せていたのは入れ歯かな? 一方、相手役のDeepa Sannidhiも悪くなかったけど、『Lucia』のShruthi Hariharanの方がいいかな。そのDeepa Sannidhi演じるDivyaが働く店もオリジナルと同じピザ屋PAPA JOHN'S。そういえばまだ入ったことがないな、おいしいとは思えないが。それにしてもここまで同じシナリオでオリジナルに劣らないクォリティーを確保しているのは、デビュー作の監督にしては出色だな。オリジナルの方がサイケ感が強い。コリウッドのゆるいダンスあり。女優の方のDivyaの部屋に村上春樹の本があったよ。残念ながら題名までは判別できず。
#20「Mythri」Giriraj/2015/インド/Feb. 22/PVR Koramangala
Puneeth、Mohanlal、Atul Kulkarniのパネルが以前からPVRに置いてあって気になっていたSandalwood作品。うーん、期待しすぎた。少年院にいる少年がテレビのクイズ番組に出場し1千万ルピーの賞金を手にする、『スラムドッグ$ミリオネア』(未見)を誰もが連想するお話。クイズ番組パートはちゃちいし、他のエピソードとのつながりも中途半端。で、これハッピーエンドなの? 引き取られた少年は、賞金を奪われて虐待されるのではないかと心配だ。Puneethは本人役で出演し、クイズ番組の司会もやる(クイズ以外の時間長すぎ)。何度見てもこの人演技下手。それでもPower Starとしてそこそこの人気。二世俳優は得だね。Mohanlalはなかなか出てこなくてどうなっているんだと思っていたら意外な役柄で登場。途中で『MSG』(未見)かと思うような変装もしたりして、ご本人納得なんだろうか。結局、犯罪者だし。いろいろSandalwoodの限界を感じさせる作品であった。でも、子供たちのダンスは楽しかったな。
#19「Ebar Shabor」Arindam Sil/2015/インド/Feb. 21/INOX: Magrath Road○
ベンガル語作品。謎の殺人事件を刑事が紐解いていく定番もの。定番だけに観客を楽しませるのはむずかしい。本作はかなりよかった。原作がおもしろいのだろうとは想像するが、演出もなかなか。主役の刑事はおっちゃん。Saswata Chatterjeeというベンガル俳優だが、当地では人気があるのだろうか。登場人物が多いのは推理ものにはありがちなシチュエーションで、付いていくのが大変(後ろの席でにいちゃんが新しい名前が出ると“誰だよ、それ”(想像)とわめいてた)だけど、英語字幕にずいぶん助けられた。舞台はもちろんKolkata。一部、Pondicherry。Kolkataなのに例の鉄橋は出てこず。街は魅力的に撮られていた。Pondicherryの方は一部記憶にある場所も出てきて楽しかった。なぜか途中でKLナンバーのオートに乗るシーンがあったけど。殺された女性の従妹を演じていたPayel Sarkarという女優がイレーネ・ジャコブに似た美人だったよ。お父さん役のDipankar Deは『Youngistaan』にも出てたな。ベンガル俳優だったのか。
#18「Badlapur」Sriram Raghavan/2015/インド/Feb. 21/INOX: Magrath Road○
オトナ映画。“Don't miss the beginning”のキャッチ通り、冒頭シーンがすばらしい。インド映画には珍しい、固定されたキャメラによるロングカットなのだが、不気味に見える正面の乗用車に注目していると意外なところで本筋のストーリーが静かに始まる。銀行強盗の逃走に巻き込まれた妻子を殺されたVarun Dhawanの復讐劇。悪にどんどん変貌していくVarun Dhawanが、敵である銀行強盗のNawazuddin Siddiquiと20年近くにわたるヘビーな対決を続けて見応え十分。舞台のPuneやBadlapurにときどき降る雨がどうしようもない感を高める。こういうダークな部分は、タイトルクレジットにDon Siegelの名があったのと大いに関係あるだろう。Nawaちゃんはほんとにうまい。現在のインド映画界では演技力でIrrfan Khanと双璧ではなかろうか。そういう意味で『The Lunchbox』はモニュメンタルな作品だったな。女優陣も脇役ながらそれぞれ存在感があった。Divya Duttaが出てたけど、太ってた。
#17「Temper」Puri Jagannadh/2015/インド/Feb. 17/INOX: Magrath Road
“Young Tiger” NTR Jr.主演のポリスアクション。NTR Jr.は悪童上がりの極悪インスペクターで、のちに改心し、友人だったはずの極道Prakash Raj (久しぶり)を裏切る。巷の評判は割にいいらしいけど、女性に対する暴力という社会問題を取り上げているふりをしただけの駄作だと僕は思う。裁判シーンや絞首刑場シーンの酷さは目を背けたくなるほどだったし、わめき続けるNTR Jr.にもうんざり。テルグ映画の女優は冷遇されるのが常で、本作も同様にKajal Aggarwalをむだ遣いしている。脇役陣はいつもの面子。犬顔のPosani Krishna Muraliが大役だった。最初にNTR Jr.が登場した際には確かにTelangana Policeだったと思うのに、その後はずっとAP Policeだった。何か言葉で説明があったのだろうか。警察署の建物の中に木が生えていたのがリアル。本作の唯一よかった点は、Brahmanandamが出演していなかったこと。それでも、これでまた一歩テルグ映画から足が遠のいたかもしれない。
#16「Anegan」K. V. Anand/2015/インド/Feb. 15/INOX: Magrath Road○
Dhanush、今年早くも二本目。1962年から1987年、それから現在とふたつの輪廻をめぐるサスペンス。というので、Dhanushは三役、相手役のAmyra Dasturも三役である。三役ともヘアスタイルが違うのだけど、Dhanushのが笑えた。1962年の舞台はビルマ(撮影はベトナムとからしい)。当時はインド人も相当数暮らしており、軍事クーデターによって国外退去処分となるなど、歴史の勉強が可能。1987年の舞台はタミルナドゥ州のどこかで殺人事件。で現在は、ゲームメーカーを舞台に、従業員へのドラッグを使ったアイデア発掘という異常な事件が進行する。ドラッグによる幻覚は前世を蘇らせるもので…。英語字幕付きで始まったので喜んでいたら、インターミッション後に字幕が消えてしまい、細かいところがわからなくなってしまった。Dhanush、System Administratorなのに強すぎ。ダンスにも相変わらずキレがある。Amyra Dasturはイマイチと思ったら、最初はAlia Bhattの予定だったらしい。Aishwarya Devanという女優がなかなかいいね。
#15「Mili」Rajesh Pillai/2015/インド/Feb. 14/PVR: Phoenix Market City○
タミル映画『Velaiyilla Pattathari』でDhanushの相手役だったAmala Paul主演の、“女の子自分発見”物語。相変わらずDeepikaちゃんちょい似の顔。劣等感バリバリで周囲にいじわるするメガネっ子の前半がよかった。自転車蹴って倒したりね。コンタクトレンズに換え美人になって託児所設立に猛進する後半は、まあよくあるタイプの流れで、子供を巻き込んでの学芸会、最後に彼女の長いスピーチ、それを涙しながら聴く父親、と陳腐になってしまったのが残念。彼女のラッキーチャームとなる首振り熊の置物が不気味だった。インド人みたいに首をふにふに振るところはかわいいんだけど、撮り方がね。あ、相手役とはいえないけど、Nivin Paulyがサポートで、安定した演技を見せていた。最近よく見るけれど、Facebookが当たり前のようにストーリーの一部として出てくる。これは携帯電話が映画中でも当たり前になったのと同じような流れなのだと思うが、そういう対象がソフトウェアになっているところはなかなか興味深いところ。
#14「Eradu Kanasu」Dorai Bhagwan/1974/インド/Feb. 8/Gopalan Grand Mall: Old Madras Road○
Dr. RajkumarとKalpanaの、夫婦に心が通うまでを描いたドラマ。画質・音質とも悪いビデオ上映。しかも画面上部は切れていた。お昼のビールが効いていたのか序盤は退屈で眠かったのだけど、Dr. Rajが結婚してから徐々に面白くなっていった。恋人と結婚できず(ここの経緯は不明)、何をしても恋人との日々が思い出され、お見合いで一緒になったGowri(Kalpana)に冷たくしてしまうRamu(Dr. Raj)。懸命に心を自分に向けさせようとするGowriの苦悩。ところが元恋人が友人の妻としてしあわせそうに暮らしていることがわかった途端、RamuはGowriに戻ってくる。この現金さには呆れるのだが、良心的に解釈すれば、元恋人がまだ自分のことを思っているのではないかという罪悪感から解放されたのかもしれない。ともかく、二人の心が通おうとした矢先のGowriの交通事故。メロドラマである。で、気に入ったのは、Ramuが元恋人の結婚を知ったとき。火山が噴火したり、津波が来たり、衝撃の表現方法がベタベタでぶっ飛んだ。わはは。
#13「Yennai Arindhaal」Gautham Menon/2015/インド/Feb. 8/PVR: Phoenix Market City○
ごま塩頭になんとなく親近感のAjith主演作品。定番のスーパーコップものなれど、舞台女優との恋やその娘への愛情が中心となっていて、それに潜入捜査で裏切った男(Arun Vijay)との因縁の対決が絡む、なかなか見応えのある内容に仕上がっている。派手なアクションがあるわけではないが、やたらと拳銃を撃つし悪人をばっさばっさと殺すしで、その点は映画ならではの超法規的存在。結婚式前日に花嫁(Trisha)をArun Vijayに殺され警官を辞めたあと、Ajithは残された娘とインド国内放浪の旅に出る。JaipurとかChandhgarhとか旅情を誘った。で、チェンナイに戻っての最終対決。普段は隙のない両者だが、弱点はお互いに女性。ここがボリウッドにはあまりない湿っぽい点。チェンナイ市街をゲリラ撮影したとかで、臨場感があった。タミル映画には珍しい英語字幕付き上映は得した気分。“AJITH KUMAR”とクレジットが出るだけで観客席がどよめき、初めて姿を現すとまたどよめいていた。インドだ。
#12「Baji」Nikhil Mahajan/2015/インド/Feb. 7/Q Cinemas: Whitefield○
月光仮面みたいなヒーローが悪を倒しまくる活劇だと思って観に行ったら予想外のシナリオだったマラーティー映画。他の客も予想外だったのか、始終後方の客席が騒がしかった。義侠Bajiは伝説の人物で、舞台は20世紀。Bajiの息子らしい軟弱男Chiduが、自宅にあった秘密の地下室にBajiのコスチュームを見つけ、自分も跡を継いでバリバリ活躍…、というわけにはいかず、割にあっけなく殺されてしまう。敵は近藤宏、みたいな男。前半はただのひねたおっさんだったが、頭を丸めてた後半は残虐なボスに変身。で、後半。なぜか蘇り強くなったChiduがBajiとして近藤宏を最後に退治する。で、Chiduだと思われた男は実は…。マラーティー、お前もか、と言わせる二役。インド人、好きだねー。Chiduの相手役がいかにもローカルっぽい女優だった。マラーティー映画ってボリウッドとは違うスタジオでつくってるんだろうか? さてこの劇場、最近よく来るが、遠いし、汚いのでできれば避けたい。
#11「Shamitabh」R. Balki/2015/インド/Feb. 7/PVR: Phoenix Market City○
Sha-sha-sha, Mi-mi-mi♪ ラジニの娘婿Dhanushとボリウッドの重鎮Amitabh Bachchanというビッグな組み合わせの作品。ヘンな題名だし主題歌もキャッチーなのでどんな中身なのか期待して観に行った。なるほど、Dhanushがヒンディーをあまり喋れないハンディーを克服したシナリオがここにあった。Big Bの渋すぎる声はDhanushの雰囲気には全然合わないのだけど、劇中でもそのミスマッチで人気爆発だったわけだ。Dhanushが声を手に入れるメカニズムや途中のギャグセンスにはついていけない。でも、全体としてはまずまず。で、Shruti Haasanの妹、Akshara Haasanに注目。ちょいと顔の輪郭がふっくらしてて、お姉さんにはとうてい敵わない。演技もまだまだ。お姉さんは歌で出演(?)してた。映画賞、新人に最優秀男優賞をあげるんなら、最優秀新人賞も併せてダブル受賞とすべきではと軽いツッコミを入れておこう。Big B、おしりを洗うホースをマイクにみたてて唄うのはやめた方がいいと思うよ。
#10「Rahasya」Manish Gupta/2015/インド/Feb. 1/Cinepolis: Banerghatta Road○
先日のFilmfare Awardsで最優秀助演男優賞をとったインドの近藤正臣、Kay Kay Menon主演の推理もの。Kay Kay MenonはCBIの捜査官で、娘殺しの真犯人を曝く。このひと最近よく見るね。観客には真犯人がわからないようになっている正統派だが、この手の話にはパターンがあるので、最初から真犯人は推定できた。面白かったのはその周囲の登場人物のバックグラウンドで、それらが明らかになっていく過程が楽しい。舞台は安直にムンバイ。高級マンションにスラム、湾にかかる長い橋(Bandra Worli Sea Link)。観光地じゃない普通のムンバイだ。殺された娘のボーイフレンドがムスリムなのも普通なんだろうな。お祈りが終わるまで襲うのを控えるのがマナー。『Youngistaan』で首相の秘書だったMita Vashishtが色っぽい(という設定の)おばさんを演じていてこわかった。スーパーヒーローの超人的アクションやアイテムナンバーのない地味なフィルムだけど、観客は結構入ってた。映画の谷間だから?
#9「Khamoshiyan」Karan Darra/2015/インド/Jan. 31/PVR Koramangala
今週末は映画の谷間。他に観るものがないのでしかたなくこれを選んだら、苦手なオカルトもの。オカルトは夏やれよ。それとも夏だと暑すぎるのか? ちょっぴり(インド的には)エロいのでA Ratedなのだが、そんなことはどうでもいいので早く終わってほしかった。細部はよくわからないが、脚本にも首をかしげる。Ali Fazalのリベンジ・ポルノ、Sapna Pabbiのひき逃げは結局どうなったのだ? 蝶や狼がしょぼいCGでつくられていて、もう少しなんとかならないものかと思う。きれいに見えた舞台のカシミールもCGで脚色してあったのかもしれない。カシミールの車がJKナンバーなのを知る。そういえばひき逃げするSapna Pabbiの車はフィアットだった。Sapna Pabbiはイギリス人か。やはりボリウッド女優だとこういう作品には出にくいんだろうな。お腹は出して踊るくせにね。三人目の主役Gurmeet Choudharyは黒魔術師かな? 死体になったりして気の毒な役柄だった。とにかく、観るのに体力を使うだけで損した作品。
#8「Baby」Neeraj Pandey/2015/インド/Jan. 26/PVR Koramangala○
Akshay Kumar主演の秘密工作員映画。『Special 26』以来の爽快さのある快作、と思ったら同じ監督か。テロリストというとムスリムの一派なのが普通になっている恐ろしい世の中だが、本作の敵は、本拠地はカシミールとはいえさすがにパキスタンとは無関係の国内ムスリム組織ということになっていた。導入部はイスタンブール、中盤はネパール、クライマックスはサウジアラビアと舞台は飛び、脱走したテロリストの暗殺と親玉のインド移送のミッションがハードに遂行される。Item Numberなぞ入る隙はない。ま、女優陣はしょぼかったけどね。サウジアラビアを脱出する際のスリルは『忠臣蔵』の世界。観客の半分はどうなるかわかっていたと思うけど、そこで“No problem”とつぶやく観客がいて、おいおいって感じだった。最後に工作員チームのセルフィーで終わるのが今風。Akshay Kumarのアクションはほんと、いいね。前歯が異様に揃っているのが前から気になっていたが、下の歯はガタガタなのが見えたので、入れ歯なんだろう。
#7「Mariyam Mukku」James Albert/2015/インド/Jan. 25/PVR Phoenix Market City○
連日のマラヤラム語作品鑑賞。こっちはおとぎ話。とある鄙びた漁村に奇跡が起き、それを起こしたマリア像を拝みに大勢の観光客が訪れるようになり、村人の生活が一変する。主演はNazriyaちゃんの夫、Fahadh Faasil。漁師兼やくざ(?)というワイルドな役はめずらしい。髪の毛もいつもより多く見えた。恋人役のSana Altafは『Vikramadithyan』でDulquer Salmaanの妹を演じていた新進女優。あのときは目立たなかったけど、これは発見だ。目の下にアイライン引かなきゃいいのになあ。エピソードが散漫な印象を受けたのは新人監督だからなのかもしれないし、ランチに呑んだワインのせいかもしれない。効果音も過剰に感じた。画のトーンは暗く、やたらと雨のシーンが多かった。ケララ州とはそんな、陽というより陰なところなのかもしれない。街角にあったゲバラの肖像も、現実のケララ州を反映しているのだろう。クリスマスパレードで、先頭のひとが自撮り棒でパレードを撮影していた。なるほどねえ。
#6「Dolly Ki Doli」Abhishek Dogra/2015/インド/Jan. 25/PVR Phoenix Market City○
“ボリウッドの原節子”Sonam Kapoorが結婚詐欺師を演じるコメディー。邦題は『ドリーの道理』(嘘)。相変わらず、とてもきれい。でも作品としては前作『Khoobsurat』の方がよかったな。あちらの方がはじけてた。本作はシナリオがやや貧弱。いくら人口12億の国だからといって、あんなにきれいで変装もしない詐欺師が目立たないわけがない。結末も見え見え。まあ、Sonam Kapoorの美しさを堪能するのが正しい鑑賞方法だからして、そういったことに文句をつけないのが作法。結婚詐欺師なので、とっかえひっかえDesiな花嫁衣装姿が見られる。足の裏も見られるけど、異様に細長かった。そして、酔っ払ったSonam Kapoorがお腹出してItem Numberまで披露。なんだ、そこそこ踊れるじゃん。『Raanjhanaa』以前の作品は知らないけど、どんどん演技の幅を広げているようだ。次はアクションものとかどうかな。Saif Ali Khanが突然出てきてびっくりした。Salman Khanも写真で出演。ボリウッド作品で100分というのは異例。
#5「Picket 43」Major Ravi/2015/インド/Jan. 24/Q Cinemas: Whitefield○
紛争地域カシミールで国境を守るインド兵士のパキスタン兵士とのふれあいを描いたマラヤラム語作品。英語字幕つき。インド兵士Hariは『Sapthamashree Thaskaraha』のPrithviraj、パキスタン兵士Mushraffは『Bang Bang』のJaved Jaffrey。Hariはケララ出身でマラヤラム語を喋るのだが、2人の会話はヒンディー語で行われる。HariはBaccardiという名の水嫌いの軍用犬をパートナーとしてあてがわれて印パ国境のピケに派遣されていて、国境を挟んだパキスタン側のピケに派遣されてくるのがMushraff。前任者と違い最初から無防備なMushraffとHariは少しずつ言葉を交わすようになる。そして突然のパキスタン側からのゲリラ襲来。表現がミニマルでよくまとまっている。軍が全面協力していることもあり、エンディングといい、メッセージは愛国的。Republic Dayを前にして、これはまあ目を瞑るしかない。本作のJaved Jaffreyはかっこよかった。冒頭の、国境での両国兵士による観光客向け(?)パフォーマンスが異様、と言ったら怒られる?
#4「American Sniper」Clint Eastwood/2014/米/Jan. 17/PVR Koramangala○
ハリウッド作品の公開がアメリカと同日というのは英語社会の特権だな。おかげでボリウッド同様字幕なし。アカデミー賞候補にまた挙がっているイーストウッド監督作品。IMAXで鑑賞。IMAXはスクリーンがでっかくていいよ、高いけど。"The Legend"と称されたChris KyleというNAVY SEAL所属の狙撃手の自伝。9.11後のイラク戦争に4度派遣され、255人殺したという強者である。子供を殺すときのためらいとか、帰国時のPTSDとか、個人的な苦悩が若干示されてはいるが、全体としてはアルカイダ側の狙撃手との対決を軸に、一愛国者が自分たちの平和を脅かす(と思った)者に対して容赦しない姿勢が貫かれる、アメリカ人うけする内容。欧日でつくれば、“あゝ罪のないひとを殺してしまった”と一生苦悩する主人公がいるだろう。イーストウッドのハードな演出には好感が持てるんだけどね。彼がアメリカ人に殺されたというのは示唆的である。久しぶりにメリケン語を聞いた。観客のインド人、これ全部聴き取れるんだろうな。流石だ。
#3「I」Shankar/2015/インド/Jan. 15/PVR Koramangala○
今年のポンガル映画は、あまりコリウッドっぽくないタミル語作品。でもしっかりSanthanamが出てくるし、妙なコントシーンもある。予告篇でVikramが乗っているバイクが女性に変身したりするので、何か妙なSFものかと思っていたら、だいぶ違っていた。マッチョでMr. Tamil NaduのVikramが遺伝子を壊すi virusなるウィルスを注射され恐怖奇形人間になり、仕組んだ者たちにその復讐をする。役との年齢ギャップはラジニより痛々しい。恋人役に『Yevadu』に出てたAmy Jackson。彼女はいいね。インド人じゃないけど。CGを使いまくっていたけど、彼女の胸は本物のようだ。中国ロケあり。いきなり日本語が聞こえてきて、なんだと思ったらそれはテレビ。場所は湖南省とか桂林らしい。当然カンフーシーンもあって、なかなか本格的で感心した。俯瞰シーンでクレーンの影が見えるのはご愛嬌。CGで消せばいいのにね。というわけで結構楽しめた。ライバルのJohnはなぜアンクルには嫉妬しないのかとか、ツッコミどころも満載。
#2「Tevar」Amit Sharma/2015/インド/Jan. 11/PVR Koramangala○
テルグ語作品『Okkadu』の、タミル語、カンナダ語、ベンガル語につづくヒンディー語(ボリウッド)リメイク。主演はカバディ選手のArjun KapoorとSonakshi Sinha。久しぶりにSonakshi Sinhaの本領発揮。何度も顔のクローズアップがあったけど、きれいだ。太り気味なのも本作では気にならす。敵役にManoj Bajpayee。このひとどう見てもカツラだよね。なんだかよくわからない異常さで執拗にSonakshi Sinhaを追いかける。それからSonakshi Sinhaを守るのがArjun Kapoorの役柄。Shruti Haassanがカメオ出演で、Item Numberに登場。ちゃんと腰がくびれていてすばらしい。舞台はAgra。しょっちゅうタージマハルが見える。Agraであることに必然性はないようだったので、何か誘致活動でも行われたのかもしれないな。クライマックスシーンでは例によってホーリー。ホーリーシーンがあれば派手になる。ストーリーラインの弱い、どうってことない作品だけど、オリジナルをはじめとする他作品も観てみたいものだ。
#1「Perariyathavar」Dr. Biju/2014/インド/Jan. 10/PVR Phoenix Market City○
英題『Names Unknown』のマラヤラム語作品で、良質な映画を上映するPVR Director's Rareシリーズの一本。国際映画祭に出品済みのため、英語字幕付。ケララ州の(というかインド、さらには世界に一般化も可)の抱える社会問題(都市開発とゴミ、環境、格差社会、移民労働者、女性差別)を詰め込んだシリアスな内容で、映像がきれいだった。こんなに美しい村を環境破壊するなというメッセージがあるので、きれいに撮らなくてはならないのは必然ではあるが。そして、主役の契約清掃員を演じるSuraj Venjaramooduがすばらしい。社会の底辺にあっての諦念と優しさを無口に演じきっている。その友人役のIndransもいい味出していた。やや残念なのは、ストーリーテリングを子供にやらせていて、観客の同情を誘おうとする意図が見えるところ。エンディングにも首をかしげてしまう。そもそもこの子供、もの分かりがよすぎて現実味がない。ケララに共産主義者が多いというのには現実味があった。

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Last update: 12/21/2015

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