[↓2006年][↑2008年]

2007年に観た映画の一覧です

今年の目標: 結局、ないよ。

星の見方(以前観たものには付いてません)
★★…生きててよかった。
★…なかなかやるじゃん。
無印…ま、こんなもんでしょう。
▽…お金を返してください。
凡例
#通し番号「邦題」監督/製作年/製作国/鑑賞日/会場[星]

#63「愛の予感」小林政広/2007/モンキータウンプロダクション/Dec. 9/ポレポレ東中野
ロカルノ映画祭で金豹賞。おめでとうございます。800万円余りもらったそうだ。それだけあれば、本作なら5本は作れそう。というのは言い過ぎかもしれないけれども、それだけシンプルでパワフルな作品。『バッシング』と同様、舞台はどんよりした空の下の北海道。主な登場人物はたったふたり。冒頭の(ここだけ東京かな?)2人のバストショットでの語りの後は、ほとんどセリフがない。同じシーンを繰り返し、その微妙なずれの発生を期待して、観る者をスクリーンに釘付けにする。(下宿の食堂シーンが最も印象的。)孤独な人間がふたりいれば、たとえ敵同士でも次第に心が通うようになるもの。そこに悲劇が生まれるわけだな。ところで、女がなぜ男をいきなりぶつのか、僕にはまったく理解できなかったよ。
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#62「徳川女刑罰史」石井輝男/1968/東映京都/Dec. 9/シネマヴェーラ
期待している人には悪いが、ほとんどエロくない。監督には悪いが、観客は少なかった。吉田輝雄ファンには悪いが、主演は渡辺文雄である。橘ますみには悪いが、助演は小池朝雄である。(ただし、冒頭の行水シーンの価値は認めてあげよう。)第一話と二話には悪いが、第三話があれば十分である。刑罰には悪いが、これは『拷問史』である。長崎には気の毒だが、舞台は必然的にナガサキである。白人女には悪いが、頭が高木ブーみたいである。沢たまきには悪いが、あれ?出てたのって感じである。(『プレイガール』やってなさい。)江戸時代には悪いが、吉田輝雄の左手首に腕時計の跡がくっきりである。再び、吉田輝雄には悪いが、カツラ、ほんとに似合わないね。現代劇に出ましょう。
#61「恋するふたり」金琛/2006/中国/Nov. 25/ムービル5
クレジットでは“導演:金琛”となっているが、Webで検索すると“陳苗”という名前が出てくる。どうなっているんだろう? 中国映画祭の一環で、李心潔主演の注目作。ということは、作品のデキの善し悪しを論評するなどグの骨頂。ひたすら李心潔を追っていればよいのである。上海雑技団の“空中宝貝”(Flying Baby)が役どころで、どこまでが吹き替えはわからないけど、体の柔軟さが確認できる。相変わらずスレンダーだなあ。本人が年をとってしまう前にナマ李心潔を拝みたいものだが、今回来日はなかったようで残念。ちなみに、相手役は劉燁。観客から判断するところ、どうやら劉燁ファンの方が数で上回っていたようである。ところで“白酒”といえば白酒だと思っていたが、最近では白ワインを指すのだろうか?
#60「アンジェラ・マオ 女活殺拳」黄楓/1972/香港/Nov. 24/有楽町朝日ホール(FILMeX)
上映前に茅瑛の舞台あいさつあり。まだ若いんだな。日本併合下の朝鮮で合気道(日本のそれではなくハプキドー)を習った茅瑛らが故郷の滄州に戻ると、その町にはちょび髭の日本人(若山富三郎似)が牛耳っている道場があって横暴を働いている。最初は我慢していた彼女たちも最後には堪忍袋の緒が切れて…、という『昭和残侠伝』的展開の作品。戦後30年近くたっての娯楽作に日本鬼が憎悪と嘲笑の対象として登場し、それを戦後60年余経った日本の映画祭で上映すると、場内は拍手喝采。なんとも皮肉な話である。この作品は李小龍の『精武門』と同様、ただ楽しめばよいというものではないぞ。12月には“アンジェラ・マオ復活祭”なるイベントが六本木であるらしい。うーん、気になるけど、行くのはむずかしいな。
#59「東(Dong)」賈樟柯/2006/中国/Nov. 24/有楽町朝日ホール(FILMeX)
本篇前に『私たちの十年』(賈樟柯/2007/中国)を上映。どこかの新聞の10周年を記念した作品らしいが田原と趙濤が共演するなかなか豪勢なもの。どこかの鉄道車内で10年の月日が10分で流れる。SARSか。懐かしいね。さて、本篇は『三峡好人』を撮るきっかけとなった、HDビデオによるドキュメンタリーということだが、実際には半ドキュメンタリーだな、これは。画家・劉小東が、前半は三峡ダムの建設地を、後半はタイを訪れ、それぞれの地で現地労働者をモデルに絵を描く。題名がこの画家の名前に由来しているとははじめて知ったが、僕にはこの画家が所ジョージに見えてしかたなかった。確か『三峡…』と同じカット(韓三明が歩く背後で建物の壁が倒れる)があったりしてびっくり。
#58「最後の木こりたち」于廣義/2007/中国/Nov. 24/有楽町朝日ホール(FILMeX)
黒竜江省のある村で、環境保護を理由に打ち切られる森林伐採の最後のシーズンを木こりたちと過ごした記録である。本来版画家という監督は、SONYのDVカムを北京の中関村で買ったという。そんなことはどうでもよいのだが、電気のない山中にこもって、電源はどうしたのか。寒冷地でもちゃんと動いたのか、そっちの方に興味がある。そういえばときどき音声が変だったけど、あれが気温の影響かもしれない。画面の木こりたちは意外にもたいそう楽しそう。その一方で、切り倒した木を運ばされる馬たちの辛そうなこと。奴隷のように使われて、過労死すると木こりたちに食われてしまうんである。馬には生まれたくないものだ。キャメラが注目する聾唖者の木こりの家の壁には李心潔のピンナップ。いい人に違いない。
#57「ヘルプ・ミー・エロス」李康生/2007/台湾/Nov. 23/有楽町朝日ホール(FILMeX)
檳榔小姐。李心潔もかつて演じた、日本にはない、というか世界のどこにも(たぶん)ない、台湾文化の花形である。舞台は高雄。台北の檳榔小姐よりも露出度が高い気がしたが、これはただの演出だろうか? 本作は李康生の長編第二作だが、すでに師匠・蔡明亮のテーマをひきずっている。すなわち、都会に住む、愛に飢える孤独な男女の生態描写。Q&Aで本人は台湾の抱える色々な問題を取り込んだようなことを発言していたけれど、本質はこれである。今後が心配。Q&Aでは、小康はネタを喋りすぎ。もっと観客を鍛えないといかん。命の電話のオペレーターとして『愛情來了』の女優が懐かしくも出演。相変わらずデ○なことに、妙に感心した。ダンシン・オール・ナイト♪
#56「アイ・イン・ザ・スカイ(原題)」游乃海/2007/香港/Nov. 23/有楽町朝日ホール(FILMeX)
容疑者を執拗に追い続ける香港警察監視課の物語。任務は尾行。つまりは移動し続ける映画であり、題名のとおり俯瞰ショットの多い映画である。この空からの視点には監視課〜任達華と容疑者〜梁家輝の二重の意味が与えられているのだが、トラムのオープニングからどちらが悪役なのか判明するまでに何分も観客を引っ張る脚本がうまい。任達華と梁家輝の対称軸である滝本沙奈似の若い婦警が物語の中心に一応いるが、恋愛のかけらもない。あるのは任達華との親子関係のみ。お色気といえるのは一仕事終えた後の強盗団のBBQシーンくらい。向かいのマンションの窓辺で着替える女性をみんなで見るのだが、女性が奥へ引っ込むとあっさりあきらめ。普通もう少しねばるでしょう。
#55「呉清源 極みの棋譜」田壮壮/2006/中国/Nov. 18/新宿武蔵野館1
田壮壮、大期待の新作。天才棋士・呉清源の大河ドラマである。碁を打たない僕は、対局シーンで延々と碁盤上の石の並びと対戦者の苦悩する姿を見せられたらどうしようと思っていたわけだが、そんな碁オタクのためのシーンはきわめて少なく、他のスペクタクルも展開されることもなく、きわめて静かで、ローポジ画面も落ち着いた作品だった。シネスコサイズなのだが、このアスペクトの使い方が実にうまかったな。呉清源がチェ・ジウの信者だったとは知らなかった。後半はその話がどーんと中央に座って、やや異様な印象もあったが、これが真実に近いのだろう。信仰に何を求めていたのか。張震、張艾嘉と、大陸外の協力者がたくさんいて、中国もオープンになったなあと改めて実感。次作も待ってますよ。
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#54「Exiled 放・逐(原題)」杜琪峰/2006/香港/Nov. 18/有楽町朝日ホール(FILMeX)
どんどんぱちぱち、どん、ぱちぱち。そして皆死んだ。細部にギャグを織り込みながら、全体としてハードボイルドな男たちの挽歌に仕上がっている。(呉宇森じゃないけどね。)黄秋生は撃たれても撃たれてもターミネーターのように起き上がってくる。防弾チョッキってどれくらい効果があるんだろうか。最後には死んじゃうんだから限界があるんだよな。あるいはたまたまチョッキのあたっていない急所を撃たれたとか。舞台はマカオ。ツアーでは絶対行かないけどちょいと有名な観光地・亞婆井から始まるこの作品はマカオ・ファンにも訴える。前出の黄秋生が人肉饅頭役者からすっかり渋い俳優になったのに対し、任達華のコメディアンぶりはなんなんだろう? 本人の趣味か?
#53「無用」賈樟柯/2007/中国/Nov. 17/東京国際フォーラム・ホールC(FILMeX)
賈樟柯期待の新作は、珠海からパリに至る前半はドキュメンタリー、おなじみの汾陽に移動してからはドラマという変則的作品。馬可という中国人デザイナーが大量生産型ブランド“例外”に始まり、手工業型ブランド“無用”を展開する。彼女の話ははっきり言ってどうでもよくて、冒頭の工業団地における労働の様子、労働者の様子を追ったキャメラが興味深かった。作品中、どこを余力為が撮ってどこを賈樟柯自身が撮ったのか、情けないことに僕には判別ができないけれど、この部分は賈樟柯ではないかと想像する。仕立屋つながりで展開する後半のドラマはドキュメンタリータッチを残しながらも、いつもの賈樟柯映画になっていた。Q&Aに監督とプロデューサーとしての趙濤が登壇。妙な質問者あり。
#52「それぞれのシネマ」テオ・アンゲロプロス他/2007/仏他/Nov. 17/東京国際フォーラム・ホールC(FILMeX)
フィルメックスのオープニング上映は、カンヌ映画祭60周年を記念して世界35名の監督の3分作品を集めたオムニバス。テーマは“映画館”である。東アジアからは、蔡明亮、侯孝賢、北野武、王家衛、張藝謀、陳凱歌が参加。(あれ?韓国人がいないね。) なじみのない監督が何人かいたものの、だいたい作風はわかるので、最初の一瞬〜1分程度でそれが誰の作品かを推定するのが楽しかった。内容については、恋人たちがフィーチャーされる作品が多くなるのはまあ必然として、子供や盲人を主人公にしたものが何件かずつ見受けられたのはややあざとい感じがした。いろいろ言及するとスペースがいくつあっても足りないので割愛するが、侯孝賢、ナンニ・モレッティ、ウォルター・サレスあたりがお気に入りだな。
#51「花蓮の夏」陳正道/2006/台湾/Nov. 10/ユーロスペース2
鏡の向こうの『藍色夏恋』。あっちは、女=女=男だったが、こちらは男=男=女で暑苦しい。ぼーっとしていて冒頭のシーンが示す状況がよくわからなかったよぉ。楊淇はいいね。島ひとみを若くしてちょい不良にしたような感じ。香港訛りの北京語だったかどうかよくわからないけど。クロースアップを多用したキャメラワークが新鮮。この監督の作品を観るのは初めて(※1)だけど、次も楽しみといえよう。懐かしい五月天の歌声が聴ける。CD、どこへやったんだっけ(※2)?『花蓮の夏』というからには花蓮が舞台なんだろうが、その必然性はどこにもないように思った。これまでに二度ちょこっと訪れた花蓮の印象はあまりいいものではない。次回はどうかな?
※1: パンダゴロによれば、二度目らしい。⇒これ
※2: パンダゴロによれば、そんなもの元々買ってないそうだ。おかしいなあ。

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#50「風を聴く〜台湾・九份物語〜」林雅行/2007/『…』製作委員会/Nov. 10/シネマベティ
悲情城市』で有名になり、廃金鉱の寂れた町から観光地として息を吹き返した九份を、金鉱の歴史をなぞりながらそこに生きてきた人びとの暮らしで紹介するドキュメンタリー。ビデオ作品である。日本人向けに作ったということで、登場人物にはできるだけ日本語を喋ってもらうようにしたとのこと。『無言の丘』に出てきたようなエピソードがたくさん聞ける。同作のシナリオにはこの人たちの記憶が反映されているのだろう。不満なのは戒厳令時代における町や人びとの様子がよくわからないことだ。本でよく読む、光復時に上陸してきた国民党軍に幻滅した話が語られるのが、訳もなく興ざめした。“支那”とか言ってるし。音楽が少々過剰。上映後に監督のあいさつがあった。
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#49「雨の味」徐詩韻/2006/シンガポール/Nov. 4/NHKみんなの広場ふれあいホール
NHKアジア・フィルム・フェスティバルの一篇。『雨の味』は原題。“優の良品”とか“原味の○○”とか、中華圏に行けばそんな看板をよく見かける。最近ではWeb上でもちらほら。UNICODEって素晴らしいよね。ドラえもんにいつも助けてもらっていた自閉症気味ののび太が、ある少女と出会って少し大人になり、ドラえもんが未来に帰っていく、そんなお話。ドラえもんは、本作では恐竜(コンロン)である。ワンカットワンカットが短い。キャメラは超ローポジで、おそらく加藤泰より低いおやびんの目線である。ほとんどが夜のシーンなのに自然光のみで撮っているのか、画面はかなり暗い。という感じで映画としてかなり特徴的な映像だった。ちゃんとフィルムで撮って欲しいなあ。で、“仕掛け”って?
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#48「砂利の道」ディーパク・クマーラン・メーナン/2005/マレーシア/Oct. 27/TOHOシネマズ六本木ヒルズScreen 2(TIFF)
映画祭最後の観賞はマレーシア映画、と思って見始めると…、ありゃ、登場人物がインド人だ。でも、ゴム園が出てきたり“キャメロン高原”とか言っているところをみるとやはりマレーシアのようだ。不安をかき消すように途中から華人も登場した。お話は、貧乏な子だくさんインド系家庭の四姉妹の次女を中心とした『若草物語』(というようなキャピキャピしたものではないのだが)。ビデオ作品で、ホワイトバランスがよくないなど、技術的には大いに問題があったけど、大学に進学したい次女の、廻りに理解されない苦しみなど、なかなかよく表現できていた。貧乏なのはお母さんが子供をたくさん生んだのが悪い、と非難するシーンの凄みは第一の見どころである。
#47「思い出の西幹道」李継賢/2007/中=日/Oct. 27/シアターコクーン(TIFF)
方頭(ゼッペキ?)と呼ばれる絵を描くことが(つまり空想が)好きな男の子が、北京からやって来た年上の女の子に憧れ、そして彼女が兄に振り向いたことに失望しながら成長していく。1978年、文革後の北の町を舞台にしたなかなかの力作。惜しむらくは、途中で二度も入る時間経過を示す説明字幕。ここはやはり映像で勝負して欲しかった。Q&Aでも質問で触れられていたが、とにかくロングショットが多い。それはいいのだけど、そのために女の子(沈佳妮)の顔が確認できず、遠目にはスタイルがよいことはわかったが可愛いのかどうなのかがなかなかわからなかった。(ゲストで来たので間近で確認できた。)若くして希望をなくしている不良の兄が、ナイフとフォークで饅頭や水餃を食べるのがおかしかったな。
#46「ハーフェズ ペルシャの詩」アボルファズル・ジャリリ/2007/イラン=日/Oct. 21/TOHOシネマズ六本木ヒルズScreen 6(TIFF)
ペルシャの詩人が主人公のこの映画、おとぎ話だ。かなり臭い。臭いが、結構引き込まれた。最近こんな作品を撮る監督がいなくなったなあ。やはりイランはジャリリだ。町から町へ砂漠を移動するバイクのシーンがいい。で、なぜ麻生久美子なの? そこが謎だ。イランという国は政教一致なのですべての行動がイスラム教の教義に照らし合わされて評価される(断言していいのか?)。映画ではリンチまで行われていたが、現実はどうなんだろう? ところで、詩人といえば、金子光晴もいいけど、渡邊十絲子さん。どこ行ったんやー、競艇場に行けば会えるかも、と思っていたら、本(≠詩集)出したんですね。さっそく、アマゾンで1クリックだ。
#45「婚礼の前に」ヌルベク・エゲン/2006/ロシア=キルギス=仏=独/Oct. 21/TOHOシネマズ六本木ヒルズScreen 2(TIFF)
パリジェンヌの恋人をもつパリ在住キルギス人が祖国に彼女を連れて帰り、カルチャーギャップなどから一騒動起こす話。よくあるよな、こういう設定。紋切りといってよかろう。主人公の男が首長の子孫というあたりが嘘くさい。主人公の女がかわいくない。んなわけで、あまりのめり込めないまま映画が終わってしまった。ただ、男の両親には親近感をなんとなく覚えた。邦題は×だ。原題もそうかどうかわからないけど英題は“Wedding chest”で、その方が内容をよく表していると思う。×といえば、Q&Aの後のカメラセッション。あんなことをやっては、せっかく残ってくれた観客がみんな帰ってしまい、ゲストに対して拍手するチャンスがない。失礼である。事務局には反省していただきたい。
#44「タイペイ・ストーリー」楊徳昌/1985/台湾/Oct. 21/TOHOシネマズ六本木ヒルズScreen 2(TIFF)
TIFFで組まれた楊徳昌の追悼特集。これに最高傑作『牯嶺街少年殺人事件』がラインアップされていないのはきわめて残念である。DVDも出せないようなので、プレーヤーが動くうちにレーザーディスクをDVD-Rに焼いておくかな。上映前に蓮實重彦氏のトーク。この先生、いまはなにやってるの? 相変わらず長い顔で蓮實節を唸っておられました。さて、本作は15年くらい前にレンタルしてビデオを観たことがある。ガランとした部屋に若造の侯孝賢と妙なメガネの蔡琴がいたシーンが印象に残っていた。改めて観たけど、いいね。あの部屋は『恐怖份子』のあの部屋や『獨立時代』のあの部屋につながっている。本作の邦題をなぜ『台北物語』にしなかったのか、当時の担当者に聞いてみたい。
#43「キム・ギヨンについて私が知っている二、三の事柄」金弘準/2006/韓国/Oct. 20/シアターコクーン(TIFF)
高麗葬』の併映。粋な題名である。金綺泳について、韓国の映画監督が当人や作品の印象を語る。端々に作品がきちんと引用されていたので、金綺泳の作品を観ていない者にもやさしい一篇。33作品中22本しか現存していないなんて、小津安二郎みたいだ。今回観た『高麗葬』だって2巻欠落していたし、不遇な監督といえよう。みんなの話を総合すると、映画には大変厳しく、かつ変人だったらしい。しかも、同じテーマで何度も撮り直す。やはり小津みたいだ。リメイクというのはネタ不足のハリウッドで大流行だが、そういうビジネス的な事情とは無縁の(金綺泳にとってそうだったかはよくわからないけど)アーティストとしてのきわめ道のひとつだと思う。『下女』シリーズとかまとめて観てみたいよね。
#42「高麗葬」金綺泳/1963/韓国/Oct. 20/シアターコクーン(TIFF)
韓国のカルト映画監督・金綺泳のレトロスペクティヴ。日本でいえば鈴木清順か石井輝男あたりをイメージすればよいかもしれないが、どうももっと社会派のようだ。韓国のいわゆる楢山慣習をモチーフに、巫堂と呼ばれる女の予言に頼る飢餓と人口問題を抱えた原始社会が科学的社会へ変貌する胎動を見せて映画は終わる。セテさまと呼び子供を生贄にするところの描写など、結構えぐい。とにかく人間のみにくい面をこれでもかと出してきて圧巻である。(そんなところは石井輝男的。)他の作品も観てみたい。老母が楢山に行くと待望の雨が降る。こないだの映画で韓国語で雨が“ぴ”であることを学んだばかりなので、みんなが“ぴだー”、“ぴだー”と叫んでいるのが聞き取れた。
#41「コール・フォー・ラブ」張建亞/2007/中国/Oct. 20/東京都写真美術館(TIFF)
第20回目となる東京国際映画祭。もうそんなになるのか。本作は厳密にいうとTIFFのメインプログラムではなく協賛企画の2007 東京・中国映画週間のひとつだが、とにかく映画祭シーズンの一本目である。金子信雄を思わせる男・徐朗がケータイでいい夢見ながら、最後には真の幸せに気付く。が、そのときには手遅れ。が、男はさっぱりと新しい人生に踏み出していく、という大人の寓話。おめでたい春節映画で、美人女優が10人も出てくるということだけが取り柄の映画だ。そのうちの一人、婦人警官を演じた范冰冰が来日して舞台あいさつ。婦人警官が恋人というのは、『喧嘩太郎』のいづみさまのように定番の設定でなかなかいいのだけども、どうも個性に欠ける印象。寧静はぶくぶくでふけてた。字幕に不備が多かったな。
#40「サイボーグでも大丈夫」パク・チャヌク/2006/韓国/Oct. 7/新宿武蔵野館2
全然大丈夫じゃないと思う。が、舞台が精神病院内に限られていて、大丈夫な世界が出てこないので、そういうものだと思ってくるところが怖い。自分をサイボーグだと思い込んだ女の子が絶食する。そもそもサイボーグって人間を機械化したものだから食べなきゃまずいはずで、そこんとこの認識が間違っているんじゃないのかな。かなり客が入っているようだが、何が観たくて来ているのかさっぱりわからない。ぴ? 僕みたいに、とりあえずパク・チャヌクだから面白いんじゃないかと漠然と期待してきて後悔した人は何人くらいかな? 監督は復讐が終わったんで気が抜けてるのかもしれない。次はしゃきっとしたやつをお願いしたい。上映前に田壮壮の新作『呉清源 極みの棋譜』の予告篇あり。期待、期待。
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#39「兄とその妹」松林宗恵/1956/東宝/Oct. 7/ラピュタ阿佐ヶ谷
非の打ち所のない夫婦と兄妹。こんな人間いるわけない、と思いながらも見ながら応援してしまうのは、キャストに親しみがあるのといわゆる羨望でしょうね。妹が司葉子で、妻が原節子。北竜二がなりそこねたような役を演じるのは池部良。仕事は完璧、碁をたしなみ、突出した正義感と肉親への思いやりが強い。そうなれば俗社会とのねじれが生じるのは必然で、そこにさざ波が立つ。三人のなかでは、特に司葉子がいい。あれくらい元気なら岡田茉莉子も脱帽である。本作はリメイク。オリジナルでは、桑野通子、三宅邦子、佐分利信がそれぞれ演じていて、キャストを見る限りそちらも面白そうだ。そうそう、リメイクには斎藤達雄が出ているんだよ。オリジナルでは菅井一郎だったようだけど、なんだか逆の印象。
#38「異常性愛記録 ハレンチ」石井輝男/1969/東映/Sep. 30/シネマヴェーラ渋谷
本日、ゲテモノ・デー。あまりにもくだらないので内容に踏み込む気はない。なんでこんな映画にハンサムタワーズ・吉田輝雄が出るのだ? 石井輝男に頼まれたらいやと言えない弱みでもあったのだろうか。とにかく吉田輝雄の必然性が全くない。夥しい数の映画にタンバの出る必然性がないのと同様に。ところで、あのぶっ飛んだ演技をした若杉某とは何者か? (ちょいとJMDBを引いてみる) …なるほど、新東宝で活躍していたらしいな。あ、『徳川いれずみ師・責め地獄』にも出ていたのか。橘ますみも小池朝雄も出てるじゃん。チーム・テルテルだな。橘ますみは、ファッションがよかったね。パンツはもう少し小さい方がいいと思うけど。
#37「宇宙からのメッセージ」深作欣二/1978/東映=東北新社=東映太秦映画村/Sep. 30/シネマヴェーラ渋谷
八犬伝をベースとした和製スターウォーズ。くだらん。(斎藤達雄の声で読んでください。) アンドロメダの何とかいう惑星が成田三樹夫に滅ぼされそうなので、リアベの実と呼ばれるどう見てもクルミの実を織本順吉が宇宙に向け投げると、それを受け取った真田広之らの地球人が選ばれた戦士として成田三樹夫と戦うものの、結局その惑星を爆破してしまい元も子もなくなるお話。超原爆ミサイルなる顰蹙な兵器が出てくる。なぜ成田三樹夫は時代劇のような喋り方をするのか不明。クレジットにはかなり大きく出ていた曽根晴美は成田三樹夫の子分で、ビック・モロー(若山弦蔵の吹き替えで声が渋すぎ)との決闘でズルして殺される卑怯者で可哀想。タンバはタンバ。千葉ちゃんは千葉ちゃん。乱文御免。
#36「夜の上海」張一白/2007/日=中/Sep. 22/Q-AXシネマ1
詰まらない。その場その場では笑いをとったりしんみりさせたりするが、全体としては何も残らない。それにもう少しましな題名は付けられないのか。中国語題名の『夜。上海』でいいじゃん。里弄に住む的士ドライバーのヒロインは趙薇。またまた、『緑茶』のように普段は不細工で、あるとき華麗に変身する役だ。もちろん本作品でも、*普段から*十分に可愛いく見える。(ただし、隣に周迅がいなければ、だけれども。) 趙薇といえば、いつかのバッシングが思い出されるけど、今回のような日中合作映画に出てももう何も言われないのかな? 最後にドレスアップしたときに羽織ったテーブルクロスが日の丸に一瞬見えたのは僕だけだろうか。ちなみに、初回の劇場はガラガラだった。
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#35「オフサイド・ガールズ」ジャファル・パナヒ/2006/イラン/Sep. 8/シャンテ・シネ3
企画で半分は勝負あったようなものだ。女性は競技場に入れないという厳しい法律をかいくぐり入場しようとする女の子達とそれを取り締まる兵士達のゲームを、リアルタイムで行われるイランvsバーレーン戦と並行して観戦させる作品。敵対味方の構図ではなく、彼らは仲間であり対するはイスラム社会の厳しい戒律である。本国では上映されたのだろうか? 肝腎のサッカーはほとんど見せない。全く見せないと、どこか別の日にのんびり撮ったのだろう、となってしまうからね。その匙加減が創出する緊張感が絶妙である。もちろん、ハッピーエンド。女性も男性と一緒になって応援できる日が来るのを誰もが願うだろう。この宗教を超えた世界共通言語・サッカーを平和に使えないものか。
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#34「長江哀歌」賈樟柯/2006/中国/Sep. 8/シャンテ・シネ1
昨年のFILMeXで『三峡好人』(原題;さんきょうはおれんと読む(嘘))として観た作品のロードショウ。ベネチアで金獅子賞だからか、リタイア後の旅行先として人気の長江だからか、客にじいさん、ばあさんが多い。賈樟柯の作風知ってるのかな? 変な期待していないだろうな、と上映前から心配である。始まってみると、プリントのせいか、前回の印象と異なる映画的な絵なのに僕が驚いた。奉節の辺りは暑そうだ。趙濤が持参の空きペットボトルに水を補給しては飲んでいる。エコだね。王宏偉の家で扇風機に当るのだが、スイッチを入れると、ファンは回らないにもかかわらず首振りを始めたのにはびっくりした。そんな機構だっけ? とにかく、本作も素晴らしい。勘違いじいさん、ばあさんにもどしどし来て欲しい。
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#33「ドッグ・バイト・ドッグ」鄭保瑞/2006/香港/Aug. 18/新宿武蔵野館3
とんきでは、いつものひれかつに串かつを1本追加した。それくらい観賞で体力を消耗したウルトラ・ヴァイオレンス映画。深作欣二も真っ青である。殺人マシーンが渡哲也やシュワルツェネッガーでなく陳冠希というのが現代風だ。とにかく冷血。主要登場人物が容赦なく殺されていく。対抗は李燦森。最初から妙な奴だったが、終盤に入ってサイボーグ化し、不死身の体で陳冠希に復讐する。その終盤の舞台はカンボジアということだが、撮影はタイで行われたようだ。クメール文字とタイ文字の区別がなかなかつかない僕にとっては違和感はなかった。威張れることじゃないけど。陳冠希の奥さんになるペイペイという新人女優は、横田めぐみさんの娘に似てました。いや、それにしても衝撃の映画だったな。
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#32「大坂城物語」稲垣浩/1961/東宝/Aug. 18/フィルムセンター
大坂冬の陣を背景とした、三船敏郎と香川京子の恋物語。と呼べるような代物には仕上がっていない。ミフネの相変わらずの大根演技、しょぼい特撮、活躍しないタンバ、なんだかよくわからない霧隠才蔵。とりわけ問題なのはキャメラワーク。フィルムセンターの解説には山田一夫の撮影技術が見どころのようなことが書いてあるが、この説には断然与しない。あざといアングル、不要な移動が、イナガキ演出の中途半端さを強調する。久我美子は結局どうなったのだ? あ、キャメラで唯一褒めるとすれば、馬荷車の疾走シーン。あれだけは『駅馬車』くらいの迫力があったよ。もうひとつ褒めるとすれば、香川京子の凛々しさ。キャメラには関係ないけどね。
#31「ムクシン」ヤスミン・アフマド/2006/マレイシア/Aug. 4/アテネ・フランセ文化センター
四部作の最後は、オーキッドが小学生に若返り、父親のルックスも普通になった“オーキッドの夏休み”。このオーキッドはこれまでのオーキッドの妹が演じているらしい。(ちなみに、これまでのオーキッドも特別出演。) イポーかどうかよくわからないが、オーキッドは中華系小学校に通っている。あれ?北京語だ。『細い目』では広東語だった気が…。第一作の『ラブン』を観ていないので全作なのか不明だが、オーキッドの“恋多き乙女”性には感心する。これはマレイ人全般に言えることなのか、それともイギリス生活がそのような性質を作ったのか。作品のデキは『グブラ』には及ばないが、若返ったオーキッドがなかなかようやりよる。またまたびっくりのエンディングに対する感想は控えることにしよう。唄は最高だったけどね。
#30「グブラ」ヤスミン・アフマド/2005/マレイシア/Aug. 4/アテネ・フランセ文化センター
オープニングのピーナツバター・サンドでいきなりマレイの香りを感じる。『細い目』の続篇で、“オーキッド四部作”なる連作のひとつ。きょうは全作が連続上映されるのだけど、後半の2本のみ観ることにした。マレイ人と結婚したオーキッドが、ジェイソンの兄と出会うのを軸にした、人生のパートナーについて考える映画。なんでもないショットの積み重ねによる進行や、結末を見せない各シーンの演出に好感。糖尿病で倒れた父親が突然“おしっこ”と起き上がるシーンは、明らかに小津の影響であろう。そのような喜劇的構成の中に、HIVとか多民族性についての話題がちりばめられている。なかなかの傑作ですよこれは。最後に『13日の金曜日』状態になったのにはびっくりしたけど。
#29「その後の蜂の巣の子供たち」清水宏/1951/蜂の巣=新東宝/Jul. 22/シネマヴェーラ渋谷
もちろん『蜂の巣の子供たち』の続篇。そのときのメモでは蜂の巣が関西にあると予想しているが、とんでもない。蜂の巣は伊豆高原にあった。蜂の巣での暮らしを描いた本作は、清水映画らしからぬ、留まる映画である。マスコミで報じられ、生半可な気持ちでボランティアにやってくる一般人に対する厳しい目。それが悪いとは言わないが、それならこの映画は何を伝えたいのかピンと来ない。(最初にやってきたひ弱そうな男は最後までいたようだが、役に立ったのだろうか。)監督が私財をなげうって戦災孤児を養護したというのは有名だ。それでは、その後のその後の蜂の巣の子供たちはどうなったのだろうか? 蜂の巣の遺跡はあるのだろうか? あるなら、ちょいと訪ねてみたいな。
#28「しろばんば」滝沢英輔/1962/日活/Jul. 22/ラピュタ阿佐ヶ谷
井上靖原作の同名小説の映画化。しろばんばというのは雪虫のことらしい。らしい、といっても雪虫がどんな虫か知らないのだけどね。いづみさま#77。原作を読んでいないので何ともいえないが、かなり忠実にプロットしていると想像する。複雑な大人の世界も子供の視点から見れば淡々と描ける。それが映画的にも成功していると思う。これが、いづみさま=旧家の娘視点に替えてごらんなさい。どろどろになるから。湯ヶ島の公共露天風呂に入浴あそばすいづみさまは、ノースリーブの影響か肩のところから腕にかけて日焼けしていらっしゃる。眩しいねえ。整理番号6番で、最前列の正面席をゲットした。座った途端に大きな音がして金具が落ちた。椅子が壊れとったんじゃ。(東山千栄子の声でお願いします。)
#27「日本女侠伝 真赤な度胸花」降旗康男/1970/東映京都/Jul. 22/ラピュタ阿佐ヶ谷
“風に聞いてみるわ。” 臭い。臭いぞ、演出が。せっかくの藤純子主演西部劇が台無しじゃないか。同じ臭いんなら『渡り鳥』みたいにやらなきゃね。それに撃ち合いがしょぼい。この年なら『ワイルドバンチ』が観られたはずだが、勉強してないね、この監督は。藤純子は九州出身だけど『日本女侠伝 侠客芸者』の彼女とは違う役かな? 同じだったら“わたくし”なんて言うわけないもんな。アイヌの描き方も中途半端。あれだったら出さなくてもいいじゃん。北海道ものには付き物だからしかたなく出したのか? バカにしてるよ。バカにしてるといえば、徳大寺伸が高倉健の親父役で出演しているのだが、ほんの少ししか出番がない。もっと活躍させろ。等々、悪口だらけのメモになったけど、天津敏だけは大活躍だったよ。
#26「街のあかり」アキ・カウリスマキ/2006/フィンランド/Jul. 15/ユーロスペース2
カウリスマキ生誕50周年記念作品。なんじゃそりゃ? 本人が決めたのか? しがない警備員の男が、強盗グループに目をつけられ、はめられて、強盗の片棒を担ぎ、騙した女を告発もせず、復讐も中途半端に終わる。このしょうもない男を暖かく見守るフランクフルト屋の女の存在が唯一の助けであるが、全体として救いのない物語。ユーロスペース25周年記念作品でもあるらしいが、もちっとハッピーなやつにできなかったのかね? ハッピーエンドといえば、そりゃそうなのだけど、そのまま将来もハッピーでいられるとはとても思えない、不安なエンディングである。フィンランドの刑務所では、赤と黒の縞の囚人服らしい。パジャマみたいでいいかも。
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#25「大学の若旦那」清水宏/1933/松竹キネマ/Jul. 15/シネマヴェーラ渋谷
1930年代に製作された『若旦那』シリーズ第一作。このシリーズはこれまで観たことがなかった。単に上映がなかったからだが、若旦那が藤井貢というのもそもそも魅力に乏しい。だけど、出演陣は豪華。特に藤井の妹役で水久保澄子が出ているのが儲けものである。また、逢初夢子もいつもの意地悪女(偏見)とは違って、なかなかよかったよ。ラグビー、芸者、レビュウ。昭和初期がいかに豊かだったかがわかる。この豊かさを維持・発展させるために、大陸への無謀な侵略に突き進んだのは周知の事実。本作の公開時にはすでに満州国ができていた。ほんの数年後には地獄のような生活が待っている。現在がそうでなければいいけれど…。清水オヤジにしてはいまひとつの作品。ラグビー部員に笠智衆がいるのを確認した。
#24「子供の四季」清水宏/1939/松竹大船/Jul. 15/シネマヴェーラ渋谷
今回の清水特集の目玉作品。台風だろうが地震だろうが、観に行かねばならん。最後が欠落しているにもかかわらず130分を超える長尺なのは、もともとは『春夏の巻』と『秋冬の巻』の2本として公開されたものだから。画面が暗いのが大変残念だが、清水ワールドが全面展開の満足作だった。舞台、キャスト、そしてストーリーも傑作『風の中の子供』に似ており、本作は同作の発展的リメイクではないかと思われる。善太と三平の兄弟は役名も配役(葉山正雄と爆弾小僧)も同一、両親も配役(河村黎吉と吉川満子)が同じ。面白いのは坂本武・岡村文子夫婦がおじ・おばから祖父母に老けていること。大人の世界のもめごとと無関係なようでいて微妙に揺れる子供たちの世界が活き活き描かれる。あー、最後まで観たい。
#23「波の塔」中村登/1960/松竹大船/Jul. 14/ラピュタ阿佐ヶ谷
急いで阿佐ヶ谷に移動し、パンダゴロと合流。二本柳寛を佐分利信に代えれば『彼岸花』みたいな面子になる本作を観る。中村登といえば僕にとっては『求人旅行』みたいなコメディだけど、これは松本清張原作の真面目な文学作品の映画化である。南原宏治も真面目にやっている。ラピュタの温泉特集の一作で、パンフにも“下部温泉”としっかり書いてあるにもかかわらず、こないだ行った同温泉が出てきて少々驚いた。台風4号接近中にタイミングを合わせるかのように映画中の下部温泉でも台風襲来。南原宏治の妻・有馬稲子と津川雅彦の不倫旅行は源泉館の冷泉を味わう間もなく終了したのだった。誰がどうみても有馬稲子がすべての元凶。猛省を促したい。
#22「信子」清水宏/1940/松竹大船/Jul. 14/シネマヴェーラ渋谷
あの高峰三枝子が田舎出の女学校新米教諭を演じる、女『坊っちゃん』みたいな爽快な作品。松竹の、大幹部以外の女優はすべて出ているような印象の女性映画で、男といえば女子寮に忍び込んでくる泥棒役の日守新一くらいである。高峰は体操教師として配属され、なぜか生徒と全く同じ格好、なぜかブラウスにスカート姿で、Billy's Boot Campの指導を行う。生徒の代表・三浦光子はどうでもいいとして、井川邦子が出ているのを発見。新人時代ですね。三浦光子のいたずらを受けた翌日、教員室で“ゆうべは腹が立って一睡もしませんでした。”とのたまう高峰三枝子が斎藤達雄に見えたのは僕だけではあるまい。ハイキングをエピソードにしっかり入れ、自然ロケがある。バスからの移動撮影。ああ、清水映画って本当にいいなあ。
#21「しいのみ学園」清水宏/1955/新東宝/Jul. 14/シネマヴェーラ渋谷
ぼ、く、ら、は、し、い、の、み♪ 清水は自然を撮る。清水にとって子供は自然の一部だ。後期になるほど、子供でも社会的弱者を選んで撮るようになるのだが、本作はその典型。しいのみ学園というのは小児マヒを患う子供たちのための学校。子供に対する清水の視線はいつもやさしい。しかしこのようなサンクチュアリでは社会で生きることがむずかしくなるのも事実。施設の創設者、宇野重吉と花井蘭子夫婦の2人の子供が神社の石段で歩く練習をする。石段に沿ってキャメラが移動し、付添の女医が応援し…。どこかで観たシーンである。納村君はいつか完治するかもしれないが、この子供たちが治る見込みは現代でもほとんどないのだ。本作の華はもちろん香川京子だが、花井蘭子もきりっと輝いていた。
#20「学生社長」川島雄三/1953/松竹大船/Jul. 8/フィルムセンター
本作を観るのは二度目だ。と言っても、一度目(2001年)はうちでスカパー。鶴田浩二が学生社長なのだけど、主役は彼ではなく、日守新一。しかも二役。実の娘が小林トシ子で、拾って育てた子が角梨枝子。(あ、またしょぼい女優陣だ。)『適齢三人娘』ではいやがっていたくせに、こちらでは小林トシ子を取るなんて、ノンちゃんも現金なもんよ。舞台は有楽町あたり。朝日新聞社のビルが威容を誇り、橋のたくさんかかる、いまはなき風景があちこちに見られる。えーと、話を日守新一に戻すと、要は歳をとっても福さんは福さんってことよ。それから、松竹時代末期の青木富夫の姿が見られるのは貴重かも。(確かこちらだと思う。もしかしたら『適齢三人娘』だったか? 最近さらに記憶力が…)
#19「適齢三人娘」川島雄三/1951/松竹大船/Jul. 8/フィルムセンター
三人娘とは誰か。津島恵子はまあいい(別にファンではない)として、幾野道子と小林トシ子ってのはどうかなあ…。ともかく、この3人が若原雅夫を争う、人違いギャグを使ったたわいもないコメディである。川島演出だからそれなりに面白いのだけれど、こういうのはやはりキャストがものを言うよ。戦後まもない東京市街が舞台だが、最後は唐突に鬼怒川温泉にロマンスカー(いまならスペーシアだが)で移動。あの頃は新婚旅行先として人気だったんだ。いまのグァムみたいなものだろう。川辺でいちゃつく新婚カップルの群を写真に収めようとする雑誌記者・若原雅夫。そんなもの掲載したら訴訟もんですぜ。少なくともモザイクかけようね。
#18「傷だらけの男たち」劉偉強/2006/香港/Jul. 8/みゆき座
梁朝偉、執念の復讐劇。恐いなあ。世の中、復讐ブームである。犯罪被害者家族は公然と復讐を叫び、市民はそれに無条件に同調する。朝10時から行列してまで観に来るじいさん、ばあさんも、復讐を応援したくて来てるのか? そういう主題はさておき、香港電影のいやな点がひとつ。セレブのうちのインテリアが徹底して成金趣味なこと。もしかしたら、本当にそうなのかもしれないけど。タイアップ映画で、車はトヨタ、PCはソニー、なーんてところもいやだ。(車はフィアット、PCはアップルなら喜ぶけど。) 梁朝偉も、ほうれい線の目立つおじさんになった。もうひとりの主役、金城武もなんとなく髪の毛が心配である。徐静蕾と舒淇の女優陣は若い。若いが地味だ。
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#17「コマンダンテ」オリバー・ストーン/2003/米=スペイン/Jul. 7/ユーロスペース1
オリバー・ストーンがキューバに赴き、フィデル・カストロに密着ロング・インタビューした模様をまとめたドキュメンタリー。冒頭30分は、山猫軒で呑んだワインが効いてウトウト。正気を取り戻してからはきちんと観ました。キューバ危機やチェ・ゲバラの出国など、歴史的事件当事者の肉声が聞ける。それにしてもこのじいさん、成功した革命家だけあって、じいさんになってもきわめてパワフルだ。バイアグラなんて要るわけない。キューバといえば革命10周年映画『キューバの恋人』が思い出される。そうか、もうじき革命40周年なんだ。相変わらず経済的には苦しそうだけれども、そこはラテンな国。指導者が指導者なら、国民も国民である。その陽気さでカリブ海を守るのだ。
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#16「侠骨一代」マキノ雅弘/1967/東映東京/Jul. 7/ラピュタ阿佐ヶ谷
藤純子特集の一本だが、主演は健さん。『日本侠客伝』みたいな、いつもの健さん。大木実の視線が怪しい、いつもとちょいと違うマキノ節。でも、藤純子のシナはいつものマキノ節。乞食集団の遠藤辰雄と山本麟一、やくざ組織の天津敏と名和宏と脇は豪華。一方、ぱっとしたのは藤純子だけで、あとは宮園〈おしん〉純子など、しょぼい女優陣だった。東映がだめなのはここだよな。ただの人足頭のくせに、最後には長刃もって、大勢のやくざと対決。いくら入隊経験があろうと、こんなやつはいないと思うぞ。終映後、上のフレンチ・山猫軒でお昼を食べたのだけど、ラピュタのモーニング・ショウは、この山猫軒の開店準備の音が響いて、観賞環境としては、わしゃ不満じゃ。
#15「雁の寺」川島雄三/1962/大映/Jun. 23/フィルムセンター
水上勉作品の映画化。襖絵師@中村鴈治郎に囲われ、禅寺のエロ坊主@三島雅夫に相続され、小僧@高見国一にちょっかいを出しながら、自分一人では生きていけない、『千羽鶴』の太田夫人のようなバカ女(と一言で片づけられないが)を若尾ちゃんが演じている。彼女はさておき、本作の見どころは山茶花究。三島と友だちの禅寺和尚で、カメラを趣味とするスノッブな役。標準語を喋るのだ。場内からは、出てくるだけでくすくすと、喋り出せばげらげらと笑い声がおこっていた。話の本筋が重いだけに、中和剤として大きく機能している。タイトルバックとエンディングのみカラー。このエンディングがシニカルな川島調で、その辺りの感覚が若い人に人気の秘密だろうか。
#14「リサイクル −死界−」彭氏兄弟/2006/香港/Jun. 23/シネマート六本木 スクリーン4
誰が呼んだかいまや“ホラークイーン”李心潔主演の、またまた彭氏兄弟導演作品。もう30歳だというのに、きれいですねー。今回は小説家、インテリやね。執筆の愛機は首振りiMac。うちのと同じじゃん。もう買い替えたいけど。エレベータを介して侵入した、人が捨て、忘れ去ったあらゆるものが集まる“あっち側”からの脱出を、かわいい女の子と目指すお話。これはサステナブル社会志向への啓蒙を狙った“不思議の国のアリス”か、と思っていたら、ビジュアル的にはほとんど『ハリポタ』とか『ロード・オブ・ザ・リング』の世界(観たことないけど)。こういう映画って肩がこるんだよ。夢落ち形式に目新しさはないが、その後どうなるかとても気になるエンディングだったな。李心潔、CD出さないかな?
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#13「パッチギ! LOVE&PEACE」井筒和幸/2007/『…』パートナーズ/Jun. 3/アミューズCQNシアター1
パッチギ!』続編。時は1975年、場所は東京、と舞台は変わったが、ヒロインは同一人物という設定らしい。らしいというのは、女優が沢尻エリカから中村ゆりに替わっていて、僕の頭では不連続と判断されたからだ。日本に限らずどこでも根強い差別。他者との違いを見つけ、アイデンティティを確認し、安心感を得るのは人間の習性と思うが、その犠牲側(これも再帰構造を持っていると思うけど)に立たされたものはたまったものではない。在日社会を中心に据えたこのシリーズ(?)は、相変わらずパワフルそのもので、差別など笑い飛ばし爽快である。キョンジャが飛び込む芸能界の様子は懐かしさいっぱいだったね。大磯ロングビーチでの芸能人水泳大会って、まだやってんのかな?
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#12「インビジブル・ウェーブ」ペンエーグ・ラッタナルアーン/2006/タイ=オランダ=香港=韓国/Jun. 3/シネマート新宿2
浅野忠信主演の無国籍アクション。宿敵は光石研。ファム・ファタルはカン・ヘジョン。撮影は杜可風。浅野忠信の持つ相変わらずのゆるい空気に対する、高周波的な光石研の言動の対照がいい。日本語、英語、広東語、タイ語が自由に交錯する、多国籍な出演陣のやり取りにアジア映画の豊かな新次元を実感できる。それでもまだハリウッド映画観ますか? リチャード・ギアの『ハチ公物語』観たいですか? 観たいひとは勝手に観てください。マカオ、香港、プーケットと替わる舞台。香港からプーケットに向う船の、まったく揺れないシーンは『惑星ソラリス』の宇宙ステーションを思わせて幻想的。アサノの船室での、シャワーを使ったドリフ的ギャグは幻滅的。
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#11「徳川セックス禁止令 色情大名」鈴木則文/1972/東映/Apr. 21/シネマヴェーラ渋谷
11時の初回にぎりぎり間に合った。面白そうだし、レアのようなので目をつけていた鈴木則文特集の目玉作品。徳川家斉がやたらと子供を産ませたことをネタにした下ネタ喜劇。タイトルは変で、別に徳川家が“禁止”したわけではない。名和宏が九州のエロ大名、渡辺文雄がエロ商人、山城新伍はエロ浪人で、われらがセクシーアイドル三原葉子は、名和宏に嫁いだ家斉の子・清姫のエロ付き人。どうやら主役はフランスのポルノ女優サンドラ・ジュリアンらしく、イメージ・ビデオのようなシーンもあり、話ははちゃめちゃだが、大いに笑えた。フランス語で彼女をののしる渡辺文雄がぶち切れている。入れ替えなしで『まむしの兄弟 恐喝三億円』が見られたのだが、お腹が空いて死にそうだったのでやめて、ひげちょうに向った。
#10「映画館の恋」ホン・サンス/2005/韓国/Mar. 31/シアター・イメージフォーラム
イメージフォーラム“韓国アートフィルム・ショーケース”の最終作で最大の期待作。映画中映画を使った、いかにも映研出身者が撮ったような中編。その映画中映画の挿入方法がなかなか新鮮だった。ズームインを多用するなど、映画と映画中映画の演出が割と似ている(ただし、映画中映画のみモノローグが入る)うえ、登場人物がロケ地巡りまでするものだから、二者が絶妙に絡み合った極上のパスタのよう。ホン・サンスといえばエッチ・シーン、もあるけど、それよりもやはり食事シーン。今回も居酒屋での対面シーンがあって、これがいつ見てもいい。いいといえば、主演の女優も、イ・ヨンエさまやや似でなかなかよかったし、映画中映画に出てくる看護師さんもふかっちゃんやや似でよかったよ。とりとめなくて、すみません。
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#9「絶対の愛」キム・ギドク/2006/韓国=日本/Mar. 21/ユーロスペース1
キム・ギドク初のタイムパラドックス付帯SF映画。自分への愛を試すため整形し姿を変えて恋人の前に再び現れる。自分に愛をささやく恋人が愛しているのは、果たして自分なのか、新しい女なのか…。面白すぎる。途中から立場が逆転する点も、半分喜劇のようだ。しかし、小説や漫画ならともかく、容姿を変えることで恋人に別人だと思わせることに成功するのは現実的には不可能ではないか。そういう意味でこれはSFだと考えるわけである。美容整形手術の様子をエグく見せ観客を刺激するのがギドク風。登場人物が喋るまくるところは非ギドク風。ちゃんと狙ってるんだろうな。そんなところが嫌いながらも、毎度観てしまう不思議な監督である。
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#8「赤い荒野」野口博志/1961/日活/Mar. 21/フィルムセンター
エースのジョー主演の西部(=島根県は三瓶山)劇。オープニングの馬チェイスが『七人の侍』に劣らない(言い過ぎ?)大迫力。ヒロインは笹森礼子と南田洋子で敵役は山本武というしょぼいキャストではあるが、全体に爽快な印象で、悪くない。ただ、緑色の草原にある牧場の権利をめぐる物語は、どこが赤い荒野なのかさっぱりわからなかったよ。残念なのは内田良平。妙にねちっこくて損な役。東野英治郎は相変わらずの頑固+豪快親父だった。さて、三瓶山というのは僕にとって結構懐かしい。子供の頃家族でキャンプに行ったりした記憶がある。道端で焼いているトウモロコシがおいしかったし、馬にも乗せてもらった気がする。いまでもレジャー地として健在なんだろうか?
#7「東京マダムと大阪夫人」川島雄三/1953/松竹/Mar. 4/ラピュタ阿佐ヶ谷
クレジットには“(SKD)”の文字が添えられる、記念すべき、いづみさま#1。うちでも観られるのだけど、月丘夢路スペシャルでかかるというので、わざわざ阿佐ヶ谷に繰り出した次第。セリフも演技もぎこちなくて、初々しい。月丘夢路(=東京マダム)対水原真知子(=大阪夫人)の本題に重ねられ展開する、“空の男”高橋貞二を北原三枝と争う構図は、いづみさまがコンちゃんを射止めるというめずらしくめでたい結果。コンちゃんの“独立国ですから”という言葉には、これまで気がつかなかった。なるほど、そのときには明確な占領状態は終わっていたかもしれない。けれども、日本(にほん、と読もう)はその時代からずっと某国の属国だよ。この後の上映はいづみさま#45『その壁を砕け』だったけど、山猫軒でワインを呑んで帰る。
#6「悪魔の手毬唄」渡辺邦男/1961/ニュー東映/Feb. 25/ラピュタ阿佐ヶ谷
おっと、ニュー東映だったのか。オープニングの火山がかっこいいよね。有名な横溝正史ものの本作では、金田一耕助がなんと高倉健。レアでしょう。しかも、どこから見てもギャング。OTSに乗ったりして、石坂浩二や古谷一行のあのみすぼらしい姿とは雲泥の差です。あくまでカラッとしてスピーディーな渡辺演出が気持ちいい。これが石井輝男だったらどうだろう、やはり腕が飛んだりするんだろか? 健さんの秘書を三原葉子にするのはどうかな? あまりにセクシーで、鬼首村の人たちもメロメロだぁ。それにしてもラピュタはひさしぶり。会員更新したときにもらった無料観賞券がまだ残っていた。もう少しでまた更新なんだけど…。まあ、これでも元は取っているからいいことにしましょう。
#5「不機嫌な男たち」ミン・ビョングク/2004/韓国/Feb. 25/シアター・イメージフォーラム
イメージフォーラムの“韓国アートフィルム・ショーケース”の二本目。二人の男を中心に、理性を超越した何かがドライブする悲しい人間関係を描く、パワーのある監督の撮ったにっかつロマンポルノみたいな作品。男はどちらもだらしないのだが、病気が原因で脚をひきずっているらしい方の男の性欲が異常。女であれば、いちいち舐めるように見る。痴漢、強姦魔と訴えられても何も反駁できないはずだ。三人の女性が自分をコントロールできない徹底的に弱い存在として描かれているのが気になる。それにしても、韓国には姦通罪があるだろう。最近は有名無実なのかな? 最初と最後のシーンだけ済州島。何故わかるのか自分でもわからないけど、とにかく済州島でしたよ。
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#4「孔雀−我が家の風景−」顧長衛/2005/中国/Feb. 18/渋谷Q-AXシネマ
文革が終わったときからのある家族の人間模様を描いているようなのだけど、全体的に意味不明の映画。白状すれば、題名にもなっている孔雀が何を意味しているのか、僕にはわからなかった。(やっと羽根を拡げたオスに対し、メスがまったく無関心だったのが印象的だったな。それじゃあ、何のためにやってるのかわからない。) 長女役の伊藤麻衣子だか田宮二郎だかに似た女優が魅力ないのが致命的。唯一心が踊ったのは、家族が見ているテレビから、どこかで聴いた音楽が流れてきたとき。あ、『君よ憤怒の河を渉れ』だ。なぁるほど。こんな感じで当時は人気があったのか。馬で疾走しながら健さんに向って“因為,我喜歓你”と叫ぶ中野良子。ぶゎはははっ。この映画の存在価値は本シーンのみにあり。
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#3「地平線」吉村操,白井戦太郎/1939/大都映画/Feb. 18/フィルムセンター
内蒙ロケ国策映画。それだけで貴重かつ面白そうであるが、白黒映画でもありぼんやりしていて地平線はよく見えなかったし、話もつまらなかった。でも、ノモンハン事件の直後に公開されているので、当時は結構ヒットしたんじゃないかな。けがをした水島道太郎を看病する蒙古娘を演じていた葵沙起子が気になったので調べてみると、1939年に大都映画で集中的に出演していた女優らしい。本作の前の出演作はやはり水島道太郎主演の『国策息子』。なんだこの何のひねりもない題名は? 激しく観たいぞ。大都映画の評価はその後にしよう。えーと、近衛十四郎が日本に媚びる蒙古の王子を演じているのだが、誰がどこから見ても松方弘樹。さすが父親だ。
#2「キムチを売る女」チャン・リュル/2005/韓=中/Feb. 11/シアター・イメージフォーラム
張曼玉か田中麗奈かという朝鮮族のちょいといい女が、流れてやってきた地方都市の駅に住み着いて、無免許でキムチを行商している。この女と息子の、民俗的誇りを保った慎ましい暮らしを、周囲の身勝手な男たちが台無しにしていく過程を、徹底したフィクス・カットの積み重ねで撮る、ホン・サンス的センスを感じる佳作。子供を撮るときはちゃんとロー・ポジなのに感心。街と商売に似合わない、さっぱりしたシャツ(アイロンがけ済)とパンツ姿が印象的。エンディングで、遂にキャメラが動き出す。スカートを初めて穿いた女は、明らかにモード・チェンジだ。この長廻しの先には何もない。女の朝鮮族としての、人間としての暮らしは青い凧=息子とともに消え去った。カ、ナ、ダ、ラ、カ、ナ、ダ、ラ。
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#1「不都合な真実」デイビス・グッゲンハイム/2006/米/Feb. 1/TOHOシネマズ川崎 Screen 4
米・民主党、元副大統領のアル・ゴアが、地球温暖化を説いて世界中を行脚するドキュメンタリー。少なからず政治的な内容なので、共和党系の人は最初から観ないだろう。もう少しニュートラルなら誰にでも勧められるのだが…。地球の温暖化はすでに誰もが実感しているだろうが、それが人間の生存環境の破滅に突き進んでいるという発想には遠い。これに気付かせるのが彼のねらいである。何もかもぶち壊した20世紀を終わり、もう経済成長だの国益だの言っている場合ではないのに、その権益で生きている上流社会の連中はそれを認めない。困ったものだが、人類だっていつかは滅亡しなくてはいけないし、それも地球の自律性かもね。もっと多くの劇場で上映していただきたい。中澤有美子もお勧めしてます。
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Climate Change

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Last update: 12/11/2007

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