[↓2004年][↑2006年]

2005年に観た映画の一覧です

今年の目標: 『有りがたうさん』をきわめる
総括: ばっちり。詳細は突貫熊猫档案を参照ください。ロケありきもどうぞ。

Best10です。(旧作は含んでいません。ただし日本初公開作は新作扱い)

  1. #7「永遠のハバナ」フェルナンド・ペレス/2003/キューバ=スペイン
  2. #82「結果」章明/2005/中国
  3. #42「四月の雪」ホ・ジノ/2005/韓国
  4. #12「サマリア」キム・ギドク/2004/韓国
  5. #53「無米楽」顔蘭権=荘益増/2004/台湾
  6. #61「私たち」馬儷文/2005/中国
  7. #74「女は男の未来だ」ホン・サンス/2004/韓国=仏
  8. #71「世界」賈樟柯/2004/日=仏=中
  9. #63「一緒にいて」邱金海/2005/シンガポール
  10. #81「無窮動」寧瀛/2005/中国

星の見方(以前観たものには付いてません)
★★…生きててよかった。
★…なかなかやるじゃん。
無印…ま、こんなもんでしょう。
▽…お金を返してください。
凡例
#通し番号「邦題」監督/製作年/製作国/鑑賞日/会場[星]

#95「5 five 〜小津安二郎に捧ぐ〜」アッバス・キアロスタミ/2003/イラン=日本/Dec. 21/NHKみんなの広場ふれあいホール
小津生誕100年でキアロスタミが作った小津オマージュ作品。これまで観たことがなかったが、ヘンな作品であることは噂で聞いていた。なるほど、小津へのオマージュだと言われれば、そうかもしれないと思う。波のよせる海岸は由比ヶ浜を想起させるし、キャメラを横切る人びとはオフィスの廊下や西銀差の横丁を歩くサラリーマンのようだ。犬が登場すれば、これはやはり『麦秋』なんでしょう。ビデオ作品ならではの長廻しは、小津映画の主題である“何も変わらない世界”を象徴しているとも言える。でも、何かひっかかる。空間がオープンすぎるからかもしれない。大勢の家鴨が出てきたときには苦笑してしまった。街灯の影を見ていると、海は北にあるようだったけど、どこの海なんだろう? まさか、カスピ海?
#94「金薬局の娘たち」兪賢穆(ユ・ヒョンモク)/1963/韓国/Dec. 17/フィルムセンター
アイゴォ。ヒ素を飲んで自殺した者が出るとその家が代々祟られる、という言い伝えがあるということ自体、ヒ素が普通に使われていたという証左。アイゴォ、おそろしい社会である。俳優の演技にはややぎこちないところがあるが、これがこの監督の最高傑作らしい。メインの時代設定は1930年代で、日本の占領下にある。アイゴォ。抗日運動をたたえるような部分がある一方、日本人はめったに出てこない。(出てくるときはもちろん悪者である。) ロート目薬の看板などが街角にあった。映画にはちょいちょい宗教的なエピソードが織り込まれているのだけども、僕は事情をよく知らないのでそこんとこがもやもやしてしまった。アイゴォ。きょうは阿佐ヶ谷→渋谷→京橋と大移動。夕飯は蓬莱屋。あー、ヱビスとひれかつがうまい。
#93「4:30(フォーサーティ)」ロイストン・タン/2005/シンガポール=日本/Dec. 17/NHKみんなの広場ふれあいホール
ふぉったってぃ。シンガポールでは“4:30”をこう発音せねばならない。1999年にシンガポールを訪れたとき、これを知った。パンダゴロがこのときの旅行記を全然書き進めないので、詳細が伝わらないのは残念である。さて、29歳という若い監督がNHKの資本を得て作った本作は、ひとつ屋根の下に住む孤独な華人少年と孤独な韓国人青年の触れ合いの物語。触れ合いといっても、ごくたまに点接触があるのみ。言葉も通じない。この二人がほとんど相似的に造形されていて、どこかの相似形が大好きな監督を想起させたりする。上映前にあいさつに立った監督が“スローペースな映画なので、寝ないように”なんて言っていたけれど、ほんとに眠くなってしまって困った。
#92「結婚相談」中平康/1965/日活/Dec. 17/ラピュタ阿佐ヶ谷
いづみさま#90作品。いづみさまは中平作品に9作もご出演。だいたいどれもひとくせあるキャラを演じさせられていて、ややかわいそうでもあり、それを本人も楽しんでいるようでもあり。本作はいづみさま三十路突入の年の作品で、作中でも同年齢。結婚を焦ったばかりに、沢村貞子の魔の手にかかり、高級売春婦にされたうえ、妙な屋敷に連れていかれるのだ。美顔器具(これの宣伝ソングが印象的)を使ういづみさまは一見おいたわしいが、よく見ればかなり情緒的である。母親が浦辺粂子。茶の間に家族で座っている様子は、成瀬映画のパロディのように見えてしまう。『美しい庵主さん』以来(?)の入浴シーンあり。(浦辺粂子ぢゃないよ。) 7年の差を較べてみようか。
#91「ブレイキング・ニュース」杜琪峰/2004/香港=中国/Dec. 10/シアターN渋谷2
引っ越したユーロスペースの跡地にできた劇場に行ってみる。おお、あの狭かったトイレが若干広くなっているぞ。スクリーンも椅子も変わらないけど。映画は、またまたハードな犯罪もの。『PTU』で事件の発端となった刑事役のおっさんが、今回は人質。警察内のセクショナリズムを再び強調するのかと思っていたら、そうでもなく、犯罪者(任賢齊)vs.警察(陳慧琳)が、大量の薬きょうと手りゅう弾と共にしっかり描かれていた。メインテーマである、両者の情報戦も皮肉たっぷり。これくらいでは香港警察は文句言わないんだな。また任達華が嬉しそうに特別出演だ。部下の陳慧琳に色気を出したりして困ったやつである。アパートの爆発CGが陳腐だった。そこは残念。
公式サイト
#90「ある子供」ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ/2005/ベルギー=仏/Dec. 10/恵比寿ガーデンシネマ1
息子のまなざし』のダルデンヌ兄弟の新作。カンヌでパルムドール受賞の期待作である。一見して堕落なんだか奔放なんだかよくわからない若いカップルに赤ん坊が生まれる。例によって女の子は母性にめざめるが、男の子は何も変わらず、つまりは子供のままである。そんな彼の嘘を嘘(ちょいと調べりゃすぐばれるレベル)で上書きするその場しのぎの生活は、ある事件をきっかけに終わりを告げる。ストーリーはどこにでもありそうな陳腐なものだが、演出がシャープで傑作に仕上がっている。僕が“ここで終わるよな”と思ったところでちゃんと終わった。そうそう、本作ではじめて、映画の中でNew Pandaを見た。たった一台だったけど。なるほど、ヨーロッパ映画にはこういう楽しみもあるな。
公式サイト
#89「喜劇 大風呂敷」中平康/1967/日活/Dec. 8/新文芸坐
8mmビデオに録りっ放しで観ないうちにテープが腐った、いづみさま#102作品。いづみさまは後期になるほど、つまりオトナになるほど魅力的。有給休暇の真の理由はこれだ。ただ、これがロクでもない映画で、いづみさまは三遊亭円楽の妻で、藤田まことの元許嫁という役柄。スコープ画面に展開する藤田まこととのツーショットなんて、“なんじゃこりゃーっ”と激怒りものである。藤田まことは、満州開拓団から馬賊になり何故かベトナム戦争まで終戦を知らないし、円楽師匠は四国独立を画策する怪しい組織を持っているし、その四国を藤田まことは“丸ごと買う”なんて言い出すし、四国の人が聞いたらどう思うんだろう? 確かに大風呂敷ではある。きょう観た2作は、桜鍋が出てきたり、ビルの窓清掃が出てきたりして、ずいぶん趣は異なる内容なのに共通点が結構あって、これが監督の嗜好というものか、と納得した。
#88「俺の背中に陽が当る」中平康/1963/日活/Dec. 8/新文芸坐
新文芸坐の高村倉太郎特集、きょうは中平康ということで有給休暇で出かけた。浜田光夫と吉永小百合コンビものの一本である。浜田光夫は、少し前なら小林旭が演じていたような役柄。山内明にはめられ殺人犯に偽装された上殺された実兄・内田良平の無実を証明するため、山内の組に入る。相変わらずのスピーディーな展開で魅せる。また、山内明が10数えるのに“ケープ・カナベラルでいくぜ”と言ったり、東京オリンピック前の開発ラッシュが背景として随所に見られたり、時代を感じる。ラストシーンは、現在建て直し中の日比谷パークビル。すぐそこで日比谷線の工事も行われていた。内田良平が(のちに浜田光夫も)出所する刑務所として、東京拘置所らしきところも登場。吉永小百合はあまり出てこず、サユリストはお気の毒。
#87「僕の恋、彼の秘密」陳映蓉/2004/台湾/Dec. 3/新宿武蔵野館2▽
ひさしぶりにくだらない映画を観た。パンダゴロが稟議を通さずに購入したチケットで行った。『夢遊ハワイ』の楊祐寧と『靴に恋する人魚』の周群達が共演。この辺りが人を、そしてパンダゴロを惹きつけた理由らしい。迷惑なことだ。昨年台湾では大ヒットしたとのこと。中身は、普通だったら『トニー・ヤンの…』と邦題の付きそうな、色恋の絡む若者向けアイドル映画を、男しかいないと仮定した世界で作ったものといえば間違いないと思う。邦題といえば、何が“彼の秘密”だったのかよくわからない。ギャグがまったくおもしろくないし、社会性も芸術性もゼロなので、ただ西門町や中華路が出てきたところで、これはあそこだなあ、なんて思うだけだった。ところで、前観たときも思ったけど、楊祐寧って長島一茂に似てない?
日本公式サイト
#86「死の十字路」井上梅次/1956/日活/Dec. 3/ラピュタ阿佐ヶ谷
ひさしぶりに芦川いづみさんの部屋を覗いたら、出演作が増えていてびっくりした。きりがないので僕はクレジットのないものを原則無視させてもらう。いづみさま#16。画家・大坂志郎の妹で三島耕の恋人でラジオ局の声優がいづみさまの役柄。お団子ヘアにベレー帽。単純に明るいお嬢さんだ。ま、まだたまちゃんの年だしね。映画は、三國連太郎の犯罪もので『飢餓海峡』ばりの逃亡(?)劇。ちゃんと観客をあざむく仕掛けもあって面白かった。探偵・大坂志郎(二役)のしつこさはバンジュンに負けてないよ。いづみさまも行くバーの壁に、モディリアニが描いたアラカンの絵がかけてある、と思ったのは僕だけだろうか? ダムに沈んだ村から白い犬を連れ上京した澤村国太郎は、浮浪者の格好してこけ猿の壷を探していたに違いない。
#85「フル・オア・エンプティ」アボルファズル・ジャリリ/2005/イラン/Nov. 27/有楽町朝日ホール(FILMeX)
上映前に表彰式。今年のフィルメックスのグランプリはなんと『バッシング』へ。小林監督は、スピーチを“自分はフランス人だ”とフランス語でやった。変なじいさんだ。100万円、何に使うのかな? 所得税かかるよな。いよいよ、審査委員長だったジャリリの新作の開映。ほほう、DVで撮られたコメディ。教師をめざし、恋人をめざし、日々奮闘する青年。この楽天的かつヴァイタリティの塊みたいな青年も最後には街を離れていく。イスラム社会で生きていくのはやはり楽じゃなさそうだ。Q&Aで、ジャリリ監督はよほど市山さんの行く末が気になるのか、さかんに市山さんの恋人になる人を募集していた。監督に息子がいるのはわかったけど、娘はいないの? だめだ、だめだ、お前たちにはぜったい頼まない。(監督の声)
#84「同じ月を見ている」深作健太/2005/『…』製作委員会/Nov. 27/丸の内TOEI (1)
思うこと、徒然。黒木メイサというのは、TIFFで散々見せられたDoCoMoのCFでエロティックな口元でバースデイケーキを待っていた女だな。どこがいいのだ? 陳冠希と西田健ってなんとなく似てるなあ。それで人選したんだろうか? 窪塚洋介はなぜパクられないのだ? 最後、反省したんじゃないのか? 深作健太は父親コンプレックスがあるのか、映画にはバイオレンスシーンがなきゃいけないらしい。しかも『仁義なき戦い』の呉みたいな路地が出てくるし。パシフィック・ホスピタルは『サヨナラCOLOR』にも出てきたね。映画ばかり出て、ちゃんと患者さん治療してますか? この劇場、なんで名前に丸付き数字使ってんのかな? マックユーザをなめてるな。((1)は、ほんとは丸付き数字の1です。)
公式サイト
#83「女吸血鬼」中川信夫/1959/新東宝/Nov. 26/フィルムセンター(FILMeX)
女吸血鬼とは誰のことか。実際、映画には血を吸う女は出てこず、吸血鬼は天知茂だけなのだ。でも、われらがセクシーアイドル三原葉子は20歳のまま20年も歳をとっていないらしいので、天知茂の言葉からすると彼女は吸血鬼のはずだ。突っ込みどころ満載なのだが、しょせんB級ホラー。無粋というものだ。ここはひとつ冷静に、天草四郎と吸血鬼をむりやり結びつけた脚本の奇抜さに拍手を送りたい。それにしても、休日でかつ三原葉子出演作なのに客席が半分埋まっていなかった。この特集、大失敗だ。もう監督特集はやめて、来年は芦川いづみ全作上映をやったらどうかな。なんてね。クレジットにある水原爆とはどんな俳優だ? よくもまあこんな悪趣味な芸名が付けられたものだ。
#82「結果」章明/2005/中国/Nov. 26/有楽町朝日ホール(FILMeX)★
長江沿いの巫山から大陸南端の広西省北海に舞台を移した、『沈む街』の章明の新作。宮本優香@JNNニュースバード似の女の子が自分を妊娠させた男を北海で探す話。小太りなところまで似ていたけど、そんなことはどうでもいい。この話が二度繰り返されるのだ。一度目は黄光亮と一緒に、二度目は吉田輝雄似の若い男と一緒に、李という男を探すうちに心を通わせる。前半と後半のディテールの微妙な差異が、語りに豊かさをもたらしていて秀逸。(按摩小姐の電話も二度なら完璧だったが。)暑いはずなのになぜか寒そうなイメージもいい。砂浜のシーンなんてとてもきれいだ。ゲストに監督のほか、脚本家の女性と、主演の宮本優香と吉田輝雄ともうひとり来た。この脚本家というのがなかなか魅力的(≠情緒的)だったよ。
#81「無窮動」寧瀛/2005/中国/Nov. 26/有楽町朝日ホール(FILMeX)
常に北京の今を見つめる映画作家・寧瀛の新作。伝統的な四合院に住む我謝京子も真っ青のおばさんが他のおばさん3人を呼んで年越しパーティーを開く。現代リッチの典型なのか、金銭欲は霧散し、食欲と性欲しか残っていない。これを過剰なまでの下品さで描写するキャメラは、それでいてしっかり一人ひとりの個性を捉える。なかなかの傑作ですよ、これは。おばさん達をふたたび見る気にならないところが問題だけれど。ところで、A14に座ってたおっさん。ケータイを鳴らしたばかりか、電話に出た。信じられない。三百人劇場なら血を見たところだ。おそらく廻りに座っている連中も半数以上がケータイの電源を切っていまい。いまこそ映画館において抜本的なケータイ対策を打とう。国民保護法はこんなときに使え。
#80「有りがたうさん」清水宏/1936/松竹大船/Nov. 22/シネスイッチ銀座
松竹110周年祭の一本。やっぱり大画面はいい。しかし…。ニュープリントだというので観にきたのに、やっぱりボロボロじゃないか。しかも、うちにあるVHSと比較してフレームがいくつか落ちているようだ。これがDVDになっても、嬉しいような、損したような…。前回、上原謙演じる有りがたうさんがいかに悪いやつかを書いたが、今回は本作のヒロイン、桑野通子さまについて記しておきたい。“黒襟の女”がいかなる職業を示しているのか僕は知らないが、おそらく酌婦の類だと想像する。みっちーはお嬢様役よりこのようないささか不良役の方が生き生きする。おヒゲさんをとっちめる痛快さ、有りがたうさんに言い寄る色っぽさ。築地まゆみなんかより、みっちーを連れ帰れ。わかったかい、有りがたうさん?
#79「マジシャンズ」ソン・イルゴン/2005/韓国/Nov. 20/有楽町朝日ホール(FILMeX)
DVで撮影したものを35mmへプリントしたもの。観る前は、これがたったのワンカットで構成されているとのことで、どんな感じなんだろうと期待していた。観てみれば、監督自身がばらしていたが、これはいわゆる演劇であることがわかった。舞台が暗転する替わりに、キャメラが移動するのだ。そう考えると、本作の見どころはなんだろう。汗かくキャメラマンの苦労を想像するのみか? ちょいと狙いすぎで、僕には辛い時間だったな。…スペースが余ったので、ここでフィルメックス事務局に是非とも言いたい。この会場は今年限りでやめてくれたまへ。お尻が痛くてかなわないし、前席のお客さんの頭が邪魔で画面がフルに見えません(前方席の場合)。思い切ってシネコン利用に踏み切ったTIFFを見習ってはいかが?
#78「バッシング」小林政広/2005/モンキータウンプロダクション/Nov. 20/有楽町朝日ホール(FILMeX)
イラク邦人人質事件被害者へのバッシングにインスパイアされたフィクション。とはいえ、明らかにモデルはTさんである。家族構成や、彼女の性格付けなどはまったく違うのではないかと推察するが、日本国民は全員主人公をTさんと重ねて観るだろう。国内公開が実現すると、Tさんを取り巻く環境にふたたび吹雪をもたらすに違いない。その意味で問題作である。あの事件に対する政治家の反応には驚いたが、火に油を注いだマスコミの責任は大きいと思う。もともと(自分を含め)民衆は単純なもの。ちょいと“お国(国益)のため”などと言われれば、他国に出かけて“英霊”化。近代国家システムのこんな横暴から民衆を守るため、マスコミは政府の宣伝機関になっては絶対にいかん。以上。(なんだか話が逸れたかな?)
#77「堂堂たる人生」牛原陽一/1961/日活/Nov. 20/ラピュタ阿佐ヶ谷
いづみさま#68。源氏鶏太原作ものに芦川いづみは4本出演。そのうち『喧嘩太郎』、『青年の椅子』そして本作が石原裕次郎とのコンビである。つまり、いづみさまは裕次郎を指導するお姉さま役。寿司屋の娘兼OL。岡田茉莉子みたいにスレてないぞ。映画自体はたいしたことないが、映画の値打ちは演出だけでは決まらぬものなり。合図(くいっ、くいっ)シーンを観るだけで満足。西独のおもちゃ王が泊まるのはホテル・ニュージャパン。オープンが1960年だから、できたてのホヤホヤだ。ところで、うちのいづみさまコレクションはかつて8mmビデオだった。Hi8デッキがお釈迦になってしまった現在、コレクションの半分はただのゴミになってしまい、本作もうちではもう観られない。再放送して。>チャンネルNECO
#76「スリー・タイムズ」侯孝賢/2005/台湾/Nov. 19/東京国際フォーラム・ホールC(FILMeX)
台湾一番の大物監督の新作はオムニバス形式。もともと3人で撮るはずだったものをひとりで撮ったらしい。おかげで侯孝賢の作風カタログみたいな仕上がり。3ストーリーとも舒淇と張震が主役で、その時代時代の恋愛模様が繊細に描かれる。全体として、かなり低予算で撮ったと思われる作りだが、これはこれでいいんではないかな。前作『珈琲時光』からの、気負いのない演出で観る方もリラックス。張震の頭からして、2005年、1911年、1966年の順に撮ったと思ったが、当たってた。ゲストで来ていた監督は、アニべーのTシャツを着て、すっかり日本慣れしたらしく、妙な日本語を連発。困ったものだ。観た翌日にはyesasia.comから中国版DVDのプロモーションメールが来た。はやっ。
#75「親切なクムジャさん」パク・チャヌク/2005/韓国/Nov. 19/シャンテ・シネ1
日本でもチャングムとしてすっかり有名になったイ・ヨンエ(“さま”を付けてもよい)が、パク・チャヌクの復讐三部作の最終作に主演。『復讐者に憐れみを』、『オールド・ボーイ』に倣い、仇同士の死のゲームを過激に描写した本作。彼女は、酸素どころか、毒素ふりまく、冷血、狡猾、執念深さの三拍子揃った復讐者なんである。美人ならそれも許されるのか。映画が始まると、彼女の“親切”が十三年間かけた復讐準備だったことがまず明らかにされる。この過程も面白いのだが、この作品の見どころは、仇のチェ・ミンシクが捕まってから。公正な罰がどうあるべきなのか、さあ、みんなも考えてみよう。ユ・ジテやソン・ガンホなどが、ちらっと豪華に出演。ラストでケーキに顔を突っ込むのはドリフへのオマージュである。(うそ)
公式サイト
#74「女は男の未来だ」ホン・サンス/2004/韓国=仏/Nov. 12/新宿武蔵野館3
気まぐれな唇』がなかなか気に入ったホン・サンスの新作。今度は女ひとりに男ふたり。はずした間合いと、突然変わるたわいもない話題。今回もエリック・ロメール作品に通じるフレーバーを強く感じた。映画は終始、男たちの愚かさをやさしく、しかし距離をおいて見つめる。ユ・ジテが年上のソン・ヒョナに“タメ口きいてもいいですか?”と尋ねるところがいい。盛り上がりがなく結末もない。観客はまばら。面白いのにね。食事シーンも多くて僕好みだ。韓国人はほんとに焼酎が好きなんだな。OBビールなんてスクリーンではほとんど見ない気がするぞ。そうそう、ラブホテルのシャワールームで、男だけがパンツを穿いているのはどう考えても不自然だ。巨大なぼかしやマスキングよりも不自然だ。
公式サイト
#73「パープル・バタフライ」婁燁/2003/香港/Nov. 12/新宿武蔵野館1
21世紀に撮られた抗日映画。監督は『ふたりの人魚』の婁燁。今度も上海が舞台だと思って観始めたら、字幕で“1928年 満州”と出てきて驚いた。時代考証のいい加減さは藤井省三先生のコラムにあるのでここでは割愛するが、この一点だけは指摘しておこう。1931年の上海で、邦人が“こちらになります”などと言うはずがない。話は、満州で恋人同士だった皇軍工作員・仲村トオルと抗日組織工作員・章子怡の上海での戦いを、人ちがいがもとで漢奸になる劉燁を絡ませながら綴る。時間を逆転させたり、死んだはずの李冰冰をたびたび出したりして、リアリティではなく誰かの記憶として、時代感がうまく出せていると感じた。また、人物のクローズアップを多用。章子怡も顔にホクロがたくさんあるんだ、と妙なことに感心した。
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#72「春の雪」行定勲/2005/『…』製作委員会/Nov. 6/日劇PLEX3
一面だけをみて人間のを評価するのはきわめて危険である。最近の好例は小泉純一郎。彼の改革推進に共感し投票すれば、一億総ネオコン化が付いてくる。三島文学もしかり。あの美文に惹かれ読みすぎると、そのうち国粋主義者になる…。それが恐い僕は『豊饒の海』を読んでいない。(実際には、単に長いからだが。)ので、原作と比較できないのはやや残念である。『セカチュー』で儲かったからなのか、撮影は豪勢にも李屏賓。彼のキャメラで、若尾ちゃんも岸田今日子も素敵なおばあちゃんに撮られている。この二人と、大楠道代、石橋蓮司以外の印象は、主役でさえきわめて薄いぞ。いろいろ面白そうなところでロケしているが、すぐにわかったのは表慶館くらいだった。(違ってたりして。)建築探偵への道は遠い。
公式サイト
#71「世界」賈樟柯/2004/日=仏=中/Nov. 6/銀座テアトルシネマ
關錦鵬より大胆に、『東京物語』のサウンドトラックをまんま投入。笠智衆と東山千栄子にしか見えない人影まで再現して、賈樟柯が伝えたいことは…? 太原や汾陽から脱出し北京にやってきても、人が閊えて出世できない。そんな若者たちの東京物語なのである。趙濤を見ていると、特に北京から抜け出したいと思っているわけでもなさそうだ。パスポートを取り上げられるようなロシア人たちを見れば、“わたしら、ええ方でさあ。”となるわけだ。舞台は北京にある世界ミニチュアテーマパーク“世界公園”。実際にはかなりのパートが深圳の“世界之窗”で撮られたらしい。残念ながら、僕はどちらも行ったことがない。ステージの非日常感と街の冷たさが余力為のキャメラで効果的に撮られていた。
公式サイト
#70「黄線地帯<イエローライン>」石井輝男/1960/新東宝/Nov. 3/新文芸坐
きょうの2作は実はスカパーで観賞済。ただ大画面で観たいだけである。黒線が赤線なきあとの裏売春のことだったのに対し、黄線は外国人向けの黄色人(日本人)売春のこと。カラーの本作には吉田輝雄が出演。三原葉子の恋人役で新聞記者なので活躍しそうなものだが、どうもパッとしない。対して、われらがセクシーアイドル・三原葉子(しつこい)のおしゃれぶりが光る。コメディエンヌぶりも冴えている。そのうえ、ダンスも見られるぞ。白木マリとガチンコ対決である。(どうもダンスでは負けているようだ。)東京駅や向かいの郵便局が画面に登場。神戸の飲み屋街セットが九份みたいでなかなかいい。『黒線地帯』と同様、エンディングは唐突にやって来る。余韻を楽しむ余裕もない。クールだ。
#69「黒線地帯」石井輝男/1960/新東宝/Nov. 3/新文芸坐
ひさしぶりに池袋にやって来た。文芸坐はすっかり昔の雰囲気に戻った。おっさんばかりだ。なくなったのはタバコの煙くらいか。トイレが混んで困る。石井輝男特集である。きょうは地帯<ライン>シリーズ2本立て。1本目はモノクロ。トップ屋の天知茂が麻薬売買と売春に絡む組織を追おうとしてワナにはめられ、無実の殺人罪を負いそうになるのを必死に解決しようとする話。スピーディーなカットはマキノか王家衛か。われらがセクシーアイドル・三原葉子は麻薬の運び屋。いかにも監督好みのマネキン倉庫で天知と出会う。天知が指で鼻をはじくのに対して、彼女は指をくわえたりトランプ占いのまねをしばしばやる。最後にこれを交換しお互いの好意を確認して、“あたしも網走ホテル行ってこようかな。” 名言である。
#68「靴に恋する人魚」李芸嬋/2005/台湾/Oct. 29/シアターコクーン(TIFF)
徐若瑄主演のファンタジー。全篇舞台装置も登場人物もおとぎ話風。脚が不自由だった主人公が手術で回復した途端イメルダ夫人となり、魔女・唐娜の店で靴を買いまくる。旦那の周群達(ダンカンだ)から諭され、靴を買うのを諦めるとマンホールに落っこちて脚をなくしてしまうのだけれど、ほんとのしあわせを手にするというお話。李康宜がちょい役で登場。作品として悪くはないが趣味じゃない。監督は“台湾映画は一般に暗いので…”なんて言ってたけど、そんなことないよ。『藍色夏恋』や、今回の『飛び魚を待ちながら』だってとても明るい。これで今年のTIFFも見納め。今回は観客のマナーの悪さが目に付いた。開映後、スクリーンの前を堂々と歩くのはやめて欲しい。ケータイ鳴らすなんてもってのほかだ。
#67「浮気雲」蔡明亮=李康生/2005/台湾/Oct. 29/オーチャードホール(TIFF)
期待していたはずの蔡明亮の新作は李康生との共同監督。『ふたつの時、ふたりの時間』の続篇という位置づけだが、中身は『Hole』のヴァリエーションといえるもの。台北車站前の歩道橋なき後の小康の暮らしと帰国した陳湘琪との再会が、なぜか水不足でスイカが異常人気の状況下で、口パクミュージカルを挿入しながら描かれる。小康の職業はAV男優。というわけで、日本からAV女優・夜桜すももを招聘しての半AV状態。こんな大音量で、大勢で、オーチャードホールという立派な施設でAV観るというのはきわめてシュールだ。ドアの外でお客様係をやっていた女性たちはどう思ったろう? 終映後、ダンカンを見かけた。パンダゴロにそういうと“周群達(ダンカン・チョウ)?”と目を輝かせていた。おめでたいやつ。
#66「恋人」王明台/2005/台湾/Oct. 28/VTC六本木ヒルズ Art Screen(TIFF)
藍正龍という主演俳優は『流星花園』に出ていたらしいのだけど、僕にはまったく記憶がない。ホテルの車番と違法賭博ボクシングのボクサーで暮らしている彼の、元カノに萬芳、現在のガールフレンドに李康宜。李康宜の『ダークネス&ライト』からオトナに成長した姿が見られる。映画人は夕張が大好きらしく、本篇でも萬芳がなぜか(説明はあるのだけれど、必然性がまったくない)夕張の神社にお参りに行く。世界的な観光地でも何でもなく、日本人にとっても一地方都市という位置づけに過ぎない夕張が、映画界という特殊な環境下で特別視されるのを観るのは、いささか居心地が悪い。最後、やくざのボスとして高捷が登場する。彼が出てくると、いつぶっ放すかと身構えてしまうのだが、果たして血の海を作って映画は終了。
#65「月光の下、我思う」林正盛/2004/台湾/Oct. 28/VTC六本木ヒルズ Screen2(TIFF)
事前知識なしで観たので、話の展開におおいに驚き、楊貴媚の大女優ぶりに舌を巻いた。(台湾では舌を巻かないのだが…。)舞台は台東の、市街地から離れた高台に建つ、母子の住む屋敷。目の前に太平洋が拡がる絶景のロケーションで、夫=父が政治犯として収容されている緑島が沖に見える。時代は1965〜70年くらいか。会話は、北京語、台湾語、日本語で交わされる。台湾ならではの光景である。母の楊貴媚が、ストイックな生活から一転して娘のボーイフレンドを誘惑する。娘のプライバシーを侵害し、ボーイフレンドからのラブレターを検閲する彼女の興奮が生々しい。月もまた妖しく昇るのである。間違いなく破滅が待っているであろう母子の後日譚でパート2が作れそう。
#64「深海」鄭文堂/2005/台湾/Oct. 28/VTC六本木ヒルズ Screen2(TIFF)
僕の観たかぎり、『宝島/トレジャーアイランド』、『藍月』に続く蘇慧倫出演作。(調べてみると『心戀』(尹祺/2004/台湾)という作品もあるらしい。) 夫殺し前科のある神経衰弱の女性を立派に演じている。ひさしぶりに見る彼女はまったく年をとっていないように見えた。心に暗い何かをもつ若い女性(蘇慧倫)と、彼女を支える刑務所で知りあった中年女性(陸弈靜)の人生。舞台は高雄。なぜ高雄なのか。おそらく港が欲しかったのだろう。それも開放感のあるところが。基隆では、最後に二人の女性が叫ぶシーンは撮れない。安姐役の陸弈靜はバーのマダムで、ロッテリーが趣味。僕もロト6を買い続けて相当たつけど、あれ、当たらないよなあ。蘇慧倫のホステス姿というのは、やはり違和感高し。
#63「一緒にいて」邱金海/2005/シンガポール/Oct. 27/VTC六本木ヒルズ Screen2(TIFF)
愛とコミュニケーションについての半ドキュメンタリー。文章でこの作品の印象を書き留めるのはむずかしいのだが…。4人の主人公がいる。3人はほとんど声を発せず、ただ相手を見つめ、手紙を書こうとし、ショートメールを送り、作った弁当を死者に食べさせようし、絶望する。4人目は、目が見えず耳も聞こえない障碍者だが英語を話し、触覚、嗅覚、味覚、震動など、残ったあらゆる手段で外界と交信し、人生に希望がある。手紙、電話、Eメールなどの人工コミュニケーションツールなんかよりも、ただ手を握るだけですべてが伝わる、人間はそんな生き物なのだ、ということに深く感動する。表情を過剰に捉えるクローズアップも心に残る。
#62「AV」彭浩翔/2005/香港/Oct. 27/VTC六本木ヒルズ Screen2(TIFF)
昨年の『ビヨンド・アワ・ケン』から俄然注目の彭浩翔の新作。学生が日本からAV女優を呼んでサービスしてもらおうという、ばかばかしくも爆笑の物語である。涙が出るほど笑ったのは、カフェで女の子の気を惹くためにコーヒー用の砂糖をコカインに見立てて吸引するシーン。オオバカである。そんなバカ映画でもシリアスなメッセージが込められている。ダチョウ倶楽部のリーダーに似ている主人公の学生が、AV女優・天宮まなみを呼ぶために撮影スタッフを募集する演説をやる。彼はロザ・パークを引用し、集まった学生たちに“夢は叶う”と訴えかける。彼女が最近亡くなったというニュースを聞いたばかりなので、はっとさせられた。尖閣諸島関連集会の話も、僕は初めて聞いた。彭浩翔、やはりタダモノではない。
#61「私たち」馬儷文/2005/中国/Oct. 27/VTC六本木ヒルズ Screen1(TIFF)★
今回唯一観賞するコンペ参加作品。すぐそこに、審査委員長の張藝謀がいて、その隣に桃井かおりがいる。寒いのか、桃井かおりは終盤でくしゃみを繰り返していた。さて、作品。登場人物は女子学生と大家のおばあさんのほぼ二人だけ、舞台は二人の住む四合院がほとんどという意欲的な構成。一人暮らしの淋しさからか性格がひね、最初は女の子にいじわるしていたおばあさんも、そのうち女の子と祖母・孫娘のような関係になっていく。予想された展開とはいえ、この過程がいい。素人らしく器量もいまひとつの女の子も、元美人らしい気品あるおばあさんも、スクリーンの中で輝く。監督の自叙的作品という。いま失われつつある胡同の冬が美しい。
#60「飛び魚を待ちながら」曾文珍/2005/台湾/Oct. 27/ル・シネマ1(TIFF)
釈由美子似の女の子が許冠傑似のタオ族青年と蘭嶼島で出会うお話。全体として現代のおとぎ話みたいな構成で、台湾本土と隔絶されたパラダイスとしての蘭嶼島がうまく表現できている。台北や基隆との対照的な描写はやりすぎとしても。島の人が本土に行くことを“台湾に行く”というのが印象的。ふだんは完全に本土とは独立した存在なのだろう。そんな島と本土の精神的距離を一気に縮めるのが携帯電話、…のはずなのだが、台北に帰った彼女に彼はどうしても電話できない。観ている者をうまくハラハラさせながら、彼女は結局ふたたび島を訪れる。獲物がいないのか、狩猟はせず、飛び魚の干物とタロ芋が主食のタオ族。島の生活に彼女が慣れるといいね。
#59「お國と五平」成瀬巳喜男/1952/東宝/Oct. 26/フィルムセンター
時代劇なのだけれど、テーマはやはり女のしあわせ。主役のお國に、わざわざ松竹から呼んだ木暮実千代を起用。武家に生まれたばかりに田崎潤と結婚させられ、夫が死んだら仇討ちの旅。そりゃ辛いよなあ。旅のお伴・五平に気が移るのもいたしかたなかろう。この過程で成瀬の視線演出が堪能できる。でも、そんなことよりも面白いのが元恋人で仇の山村聰。武家に生まれたばかりに嫌いな武芸をやらされ、恋人が結婚したらバカなことに相手を殺してしまう。逃げりゃいいものを、お國を追いかけていく。自分をつけていることがわかりながらも、その仇を探す旅を続けなくてはならない理不尽さ。観客には面白い。本懐を遂げても、二人を待つのは三好栄子とイバラの人生である。
#58「細い目」ヤスミン・アフマド/2004/マレイシア/Oct. 26/ル・シネマ2(TIFF)
なんだかんだいって予定調和に収まるところが気にくわない。異民族の恋が成就して誰が都合が悪いのだ? 金城武ファンのマレイ人女子学生と怪しいVCD売りの華人青年の恋。華人青年について、女の子の家のお手伝いさんは“美男”なんて言っていたけれど、ありゃどこから見ても髪をブロンドに染めただけの突貫小僧=青木富夫だ。しぇー。女の子のキャラクター設定がいい。中華文化フリークのマレイ人なんて素敵じゃないか。片言の広東語を喋り、“呉宇森なら『男たちの挽歌』よ”なんて言ったりするんだよ。舞台は、競馬場を探して彷徨った末に地元の人に車で連れてってもらった個人的な記憶が懐かしいイポー。BGMは許冠傑。これで結末さえよければなあ…。がっかり。
#57「Aサイド、Bサイド、シーサイド」陳榮照/2005/香港/Oct. 26/VTC六本木ヒルズ Screen2(TIFF)
長州島を舞台に、女子高生4人組の卒業旅行と、島出身でいまは香港に住む女と島に残った男2人の帰省時の交流、女子高生のうちの1人の淡い初恋とその後、の3つの物語を併置した作品。それぞれの物語に微妙な接点を持たせている点が『恋する惑星』を想起させる。Q&Aで監督自身の告白から推察できるように、このフィルムには監督のひとりよがりな点が強く感じられる。想像上(記憶上?)の登場人物、撮ってみたいシーン、テクニック、そんなものが不器用に並べられている、という印象だった。北野武の『あの夏、静かな海』も『冒険者たち』も、監督の好きな作品に違いない。長州島には行ったことがない。僕が行って楽しめるところでもないようだ。
#56「チョコレート・ラップ」李啓源/2005/台湾/Oct. 23/ル・シネマ1(TIFF)
チョコレートというのは主人公のあだ名で、周潤發演じるギャンブラーである。チョコレートの食べ過ぎで太ってしまった彼は、ブレイク・ダンスでダイエットを図る。とまあこんなあらすじなわけはない。僕はブレイク・ダンスに何の興味もなく、単に台湾映画だから観た。よく街の道端で踊っている若者を見かけるが、この映画に出てくる若者のように踊れるようになるには、並大抵の努力では無理だろう。遊びやカッコづけじゃないんである。ダンスのセンスに体力と筋力。どんな世界にも極めた姿というものがあるものだ。氷職人にも。監督はあのお父さんで笑いをとろうとしたようだが、少々やり過ぎだね。構成もわかりにくくて戸惑った。これがヒップ・ホップ映画というもの?
#55「台湾黒電影」侯季然/2005/台湾/Oct. 23/VTC六本木ヒルズ Screen6(TIFF)
台湾のエログロ映画をフォーカスしたドキュメンタリー…、これはフィルム。『女王蜂』だの『女刑務所』(うろ憶え)だの『上海殺人档案』(これもうろ憶え)だの、面白そうな、どこかで聞いたような映画のオンパレード。戒厳令解除頃、社会が激動する中でその解放感と不安感が生んだ台湾映画の異端児である。『海を見つめる日』なんかで有名な女優・陸小芬が、台湾の三原葉子だったとは…、意外である。残念ながらほとんどのフィルムが失われているらしく、まともに観ることはかなわないようだ。観たい。観たいことは観たいが、新東宝だって極めてない状況だし、まずは邦画から攻めるのが順当だろうな。Q&Aで登場した監督は、冴えない日本のサラリーマンにしか見えなかった。こんな場にビジネススーツにネクタイで来るかな?
#54「非婚という名の家」陳俊志/2005/台湾/Oct. 23/VTC六本木ヒルズ Screen6(TIFF)
台湾のゲイをフォーカスしたドキュメンタリービデオ。サウナで働くゲイ・グループを紹介する。台湾のサウナってことごとくゲイに関連しているんだろうか? それとも、ノーマル向けとゲイ向けに分かれていて、入口を見ればわかるんだろうか? テレビのシリーズものなのか、登場するゲイの人びとはリラックスした雰囲気。メインは元警察官で、数年前に恋人をエイズで亡くした。失意の彼を支える仲間と、何も知らない田舎の親戚と。どんな社会でもマイノリティは住みにくいものである。これでよいのか、一億総ネオコン化日本。…映画と関係ないか。北京語力が低いのでよくわからないのだけど、字幕が女言葉になっているのは、ほんとにそんな感じで喋ってるからなのかなあ。どうなの?
#53「無米楽」顔蘭権=荘益増/2004/台湾/Oct. 23/VTC六本木ヒルズ Screen6(TIFF)★
台湾の米農家をフォーカスしたドキュメンタリービデオ。タイトルは、米がなけりゃ心配もしなくていいのに、くらいの意味。台湾でも日本と同じく、農家は窮地に立たされているようだ。減反政策、WTO加盟による価格下落、ジャンボタニシ被害等々で、作っても作っても赤字。それでも稲作はやめられない。グローバリズムに侵された知識人なんかは、農家には辞めてもらって都会でサービス業についてもらうのがよかろう、食料は安く買える外国から調達すればよく、これで世界全体の効率化が図れるのだ、なんて軽くいうけど、効用最大化が人類のしあわせじゃないぞ。登場する老夫婦の姿を見ていると、ほんとにしあわせそうだけど、その陰には計り知れない諦念があるのだ。大ヒットにも納得の一本。
#52「モンゴリアン・ピンポン」寧浩/2005/中国/Oct. 22/VTC六本木ヒルズ Screen2(TIFF)
内蒙古に暮らす少年とその家族、友だちの素朴で純朴な暮らしをみて、ああいいなあ、と都会人が癒される映画。子供ものや動物ものに代表される、一定のウケが約束されたこのような企画には嫌悪感を覚える体質だ。(むかしはそうでもなかったと思う。だんだんよ。)だいたい現代において、ピンポン球を子供はともかく周りの誰も知らないなんてことがあるはずがない。そんな映画の見どころは、主人公のビリグのお父さん。夢想家で、大酒飲みで、瓶倒しゲームにひとり耽り、子供の独立にも理解がある。なかなかいい味出してます。草原に住むとこうなるのかな。ビリグは最後に町の小学校に入学するのだが、歓迎する上級生のスピーチが洒落ていた。“先生はチョークのようだ。” この発想は中国ならではか。
#51「長恨歌」關錦鵬/2005/香港=中国/Oct. 22/VTC六本木ヒルズ Screen2(TIFF)
世界には小津狂の映画監督がゴマンといるが、關錦鵬はその代表格のひとりである。この類の監督の特徴は、小津ネタを自作品に組み込んで楽しんでいるらしいこと。『ホールド・ユー・タイト』ではビール瓶付切り返しショットを再現してみせ笑わせてくれたが、本作はもっと大胆。斉藤高順と黛敏郎のスコア、具体的には『秋刀魚の味』のオープニング(だと思う)とポルカ、『小早川家の秋』の一部をそのままBGMに使用。知らない人は何も気にせず画面の鄭秀文の演技に没頭できたかもしれないけれど、僕なんかは音楽が気になってしかたがなかった。鄭秀文はペチャパイで有名だと思うが、映画中では結構胸があって“ちょっと待ったあ”って心で叫んだ。みんなも叫んだよね?
※DVDで確認したら『秋日和』でした。ちえ。(12/29/2005)
#50「四つの恋の物語」豊田四郎,成瀬巳喜男,山本嘉次郎,衣笠貞之助/1947/東宝/Oct. 2/フィルムセンター
残念ながらいづみさまご出演の同名作品ではない。第二話の『別れも愉し』というのが成瀬演出。サザエさんそっくりのヘアスタイルをした木暮実千代(ダンサーらしい)が、恋人の浮気を聞かされるも信じずにいたら、本人がやってきて別れ話。これが愉しいわけがないのだが、強がりから出た嘘とはいえ電話で誘われた菅井一郎は愉しいのかもしれない。とにかく、俺はあんまり面白くもなかったよ。他の三話で面白かったのは第一話の豊田四郎演出『初恋』。『青い山脈』時代の池部良は笑えるが、これがデビュウらしい久我美子の健康優良児ぶりは一見の価値がある。志村喬と杉村春子の夫婦というのも異色だ。脚本は黒澤明。この出会いが『酔いどれ天使』につながったのだろうな。
#49「セブンソード」徐克/2005/香港=中国/Oct. 2/丸の内TOEI2
『笑傲江湖』(英題:Swordsman)を『スウォーズマン』と邦題付けるのは担当者の学力を疑うが、『七剣』(英題:Seven Swords)を『セブンソード』と邦題付けるのも、実はあんまり変わらない気がする。なぜ英題を気にする? とにかく、本作は徐克版『七人の侍』といってよい。だが、人物描写が物足りないうえ、アクションシーンもCG依存で、誰が見ても黒澤に負けてるよ。お金かかってるだろうに。村人で生き残るのは子供とその先生ひとりだけ。そのくせ、“七人”は全員健在という結末も納得できない。敵のボスはスキンヘッドの松井秀喜(そっくりだ)。楊采妮をひさしぶりに観た(『バタフライ・ラヴァース』以来か?)。あんまし歳取ってませんね。
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#48「三十三間堂通し矢物語」成瀬巳喜男/1945/東宝/Sep. 23/フィルムセンター
ストーリーテリングに何のひねりもない直球映画。わかりやすさを狙ったのかと思うが、盛り上がりのないあっけない結末を思うと、単純に大衆向けに作ったとは言い切れない。東京が廃虚になって、いよいよ日本もおしまいかという時期に封切られており、長谷川一夫が説く精神論も、観る人にどれだけ響いたのか疑わしい。三十三間堂の端からもう一方の端にある的に8,000本も矢を当てるという通し矢。確かに相当精神力がないとだめだろうな。田中絹代の演技は、あいかわらず僕にはつらい。彼女の経営する宿屋は橋のたもとにあり、かつ、そこから三十三間堂で行われる通し矢の太鼓と鐘の音が聞こえることから、七条大橋の東詰めにあったものと思われる。田中春男が料理人の宿屋なんて、僕だったら不安で泊まれない。
#47「勝利の日まで 藝能戰線版第二輯」成瀬巳喜男/1945/東宝/Sep. 23/フィルムセンター
戦争も末期の、敗戦色が強くなりつつある時期に封切られた慰問映画。慰問映画というのは戦地で観るものか。内地では普通に上映されたのだろうか? 中身は、超豪華出演陣のミュージカル・コメディ。徳川夢声の研究所から、芸能人を詰めたミサイルを南方の戦線へ慰問に送ろうという、荒唐無稽な、甘粕正彦が聞くと青筋たてて怒りそうな企画である(慰問用ならいいかも)。研究所の助手に高峰秀子と古川緑波。ミサイルで送られる芸能人として原節子なども出ているらしいのだが、実際に見られたのは市丸の唄、山田五十鈴の舞、エンタツ・アチャコの漫才と、ギター漫談の人(名前忘れた)くらい。まことに残念なことにネガが一部しか残っていないようだ。プリントも玉砕か?
#46「雪崩」成瀬巳喜男/1937/P.C.L.映画製作所/Sep. 23/フィルムセンター
鎌倉映画。江戸川蘭子(なんてひどい芸名だろう)の別荘がどうやら由比ヶ浜あたりにあるらしい。“由比ヶ浜”,“海岸通”と書かれた標識のある交差点が出てきた。それ、どこだろう? 暇なときに探してみよう。“お前なんか死刑だ”と心の中で叫ばせてしまう佐伯秀男の身勝手さ(と思うのは年の証拠か?)の犠牲になるのは霧立のぼる(なんて恥ずかしい芸名だろう)。アップで見るとこの人、日本人ばなれした顔してますね。ちらしによると“人物のモノローグ場面で画面に紗をかけるという奇抜な技法が話題になった”らしい。実際にそのシーンを見ると、背筋が寒くなるほどの恥ずかしさである。ナルセっていろいろ実験をやっていて感心するけど、編集後に撮り直しなんて職業監督ではやはりできなかっただろうな。
#45「噂の娘」成瀬巳喜男/1935/P.C.L.映画製作所/Sep. 23/フィルムセンター
隠居という職業は、むかしから僕の憧れである。本作に出てくる汐見洋演じる酒屋のご隠居、これぞ理想のご隠居像。“最近酒が落ちているようだが…。” ただ遊んで飲んだくれているだけのじいさんじゃないぜ。映画自体は、異母姉妹二人に父親とその妾、そして先のご隠居が織りなす人間模様。妾と蔑んでいた女性が実は自分の生みの母親だった。これくらいわかりやすいとヒットしただろうな。そんな娘や酒屋の“噂”をするのは、お向かいで床屋を営む三島雅夫だ。“次何になるかな”なんて、酒屋が潰れた後のテナントを予想している。そんなのんきなこと言ってると、10分1,000円のカット屋ができて、あんたんとこも潰れるぞ。登場人物の誰もがハキハキしていて、ある意味気持ち悪い映画でもあった。
#44「アバウト・ラブ/関於愛」下山天,易智言,張一白/2004/日=中/Sep. 18/東京都写真美術館ホール
東京、台北、上海を舞台に、日本、台湾、中国の若手監督が、恋の始まりについて、コミュニケーションをキーに描くオムニバス。なぜこれが日中合作で、日台中合作にならないのか不思議だと、あえて書いておこう。なんといっても注目は傑作『藍色夏恋』の易智言。ヒロインは范曉萱。何やら知らんが夜中に本棚トントン作って、日本人の男を呼び出し手伝わせ、ついでに元カレのところへ伝言に行かせる。北京語がほとんどわからないのに台北に住みバイクの免許までもっているこの男との、会話になっていない会話の描写が自然で楽しかった。他の2作は、作品というより、出演者の魅力が大きかったね。上海篇のヒロイン李小璐はちょいと目周迅の注目株か。
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#43「頭文字〈イニシャル〉D THE MOVIE」劉偉強,麥兆輝/2005/香港/Sep. 18/銀座シネパトス1
有害映画。ドリフト族およびその予備軍の人は観ないでください。日本のコミックが原作のドラマや映画は昨今流行しているが、本作の面白いところは、舞台は日本のままでロケも日本でやるのに演員は香港人中心の広東語映画であるところだ。目つきがジョン・マルコヴィッチな高校生の主人公が“秋名峠”(榛名峠)をトレノで豆腐を積んで爆走し、GT-RやランエボやRX-7に勝っちゃう話。中心の若い俳優はよく知らないけど、阿Bとか黄秋生という渋い人たちが出演して全体のトーンを引き締めている。…かな? 『がんばっていきまっしょい』の鈴木杏が主人公のガールフレンドで援交女子高生。吹き替えが笑える。さて、うちのパンダで榛名峠を下るとどうなるか。コーナーごとにおじけづいてエンコしちゃいそう。
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#42「四月の雪」ホ・ジノ/2005/韓国/Sep. 18/日比谷スカラ座
ホ・ジノ待望の第三作。ペ・ヨンジュン主演ということで、おばさんの多い、これまでとは趣の違う上映である。舞台音響という職業といい、季節感へのこだわりといい、まぎれもないホ・ジノ映画。いつもの落ち着いた画面もいいけれど、ハンディで撮られた飲み屋のシーンが好きだ。一方で、移動撮影時の視点や、窓越しシーンの音声処理など、首をかしげたくなる個所もあった。不倫した者の片割れ同士がまた不倫するという、『花様年華』を誰でも連想するシチュエーションは、ひとりが死ぬことでバランスを崩し、この先の悲劇を予感させる、これまでの作品とは一味違うエンディングになっている。いいんじゃないですか、ヨン様。関係ないけど、前作のヒロイン・李英愛を“ヨン姫”と呼ぶのはやめてください。>韓流
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#41「サヨナラCOLOR」竹中直人/2004/近代映画協会=NIKKEN INC=衛星劇場/Sep. 4/ユーロスペース2
小津系監督のひとり、竹中直人。本作も明に暗に小津安二郎の影響が随所に見てとれる。竹中直人の部屋は『麦秋』で笠智衆が碁を打つ宮下精二の部屋を彷彿とさせ、もちろんそこは北鎌倉だ(本作は鎌倉映画)。病室の入口により四角に切り取られた廊下には、何人もの名もない俳優が不自然に通り過ぎていく。主役ふたりが侵される病気が癌であることも偶然ではないように思われてくる。クライマックスがなく、観客に淡々と観させるところもそうだ。まあ、小津だったら竹中直人の死んだ姿は撮らないだろうけれど。淡々といえば、竹中直人の部屋にタンタンのロケットが飾ってあった。あれ、昔から欲しいんだよ。欲しいぞ。ルノー4もいいけど、こっちはパンダがあるからいいや。
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#40「あの夏の日の浪声」陳秀玉/2002/台湾/Sep. 4/シネプレックス幕張(アジア海洋映画祭)
アジア海洋映画祭? 聞いたことないぞ。メイン会場の幕張メッセでは“クジラの竜田揚げ試食”なんてイベントをやっていたりして、なんだか臭い。農水省とかの息がかかってないか? さて、台湾からエントリーの本作は、田中真紀子演じる性同一性障害の女性が自殺かな、死んでしまう話。戒厳令解除前の、まだ重苦しい雰囲気の残る台湾がひとつの舞台である。もう一方の舞台である現代では、高校時代にふとしたきっかけで彼女と親しくしていた優等生の女性が、彼女の死のニュースをきっかけに仕事を辞め、想い出の海に向かう。“自分さがし”症候群は現在の台湾にも拡がっているらしい。自分さがしが悪いとはいわないけれど、若い人が働いて税金をちゃんと払ってくれないとみんなが困ります。あ、映画と関係ないね。
#39「母は死なず」成瀬巳喜男/1942/東宝映画/Aug. 27/フィルムセンター
成瀬版『父ありき』と呼ばれるらしい作品。松竹を離れて何年もたっているのに、小津と比べられて不本意であろう、成瀬さん。本作の興味深いところは、中途で女性(=母親)が死んでしまい、男性(=父親)と息子という、いつもの成瀬作品にない構図となること。題名が示すように、父親の前向き人生は亡き妻に導かれたということになっており、女性の影響が最後まで継続するという筋なのだけれど、いや、これはどう見てもやはりこの父親がすばらしい、父親の映画なのだ。たとえ、それが菅井一郎に演じられようとも。プリントはゴスフィルモフォンド版と呼ばれる初上映のもの。残念ながら不完全で結末が見られず。やはり、息子と轟夕起子が結婚する前に、どたばた暴れて死ぬのだろうか?(失礼、成瀬さん。)
#38「秀子の車掌さん」成瀬巳喜男/1941/南旺映画/Aug. 27/フィルムセンター
みなさまー、右に見えますのがー、FILMeXの市山さんでございまーす。左に見えますのがー、元ラピュタのオオシマさんでございまーす。オオシマさん、あいかわらず黒いでーす。(夏川大二郎の指示通り、ずっと一声で読むべし。)これを劇場で観るのは三度目(⇒一度目⇒二度目)。観るたびに、かき氷にラムネをかけて食べてみたいと思う。残念ながらいまだに実践できていない。そんなメニューのある甘味屋が近くにないだろうか。路線バスで観光案内をやるというのはなかなか奇抜なアイデアだと思うが、毎日聞かされたのではかなわない。たとえそれがデコちゃんでもだ。でも、『有りがたうさん』みたく沿線のゴシップを毎日報告するのなら面白いかもしれないな。多分に悪趣味だが。
#37「上海の月」成瀬巳喜男/1941/東宝東京=中華電影/Aug. 27/フィルムセンター
日中戦争中の上海を舞台にした、日本の文化工作組織と中国の間諜のたたかい。その間諜とは、山田五十鈴演じる姑娘。月亮のごとく怪しく輝くのである。中国語より日本語の方が流暢だなんて、怪しいことこの上なし。映画では冒頭から、租界を走る自動車が南京路〜外灘〜ガーデン・ブリッジ〜虹口を案内してくれて、なかなか楽しい。ただし、残念ながらプリントはオリジナルの半分以下の長さしかないそうで、状態の悪さ(と眠さ)も相まってストーリーの詳細がよくわからなかった。文化工作とは、中国人を懐柔するためのラジオ放送。“本当のことをわかってもらい、誤解を解く”だなんてしらじらしい限りだが、当時は真剣にそう思っていた人もいたかもしれないなあ。ちなみに、音楽は服部良一。
#36「限りなき舗道」成瀬巳喜男/1934/松竹蒲田/Aug. 21/フィルムセンター
成瀬の松竹最終作。つまりサイレント最終作でもある。忍節子主演。これがデビュウ作なんだね。この人、『有りがたうさん』で東京帰りの裕福な娘をあの白い顔で演じていたのが印象に残っている。“発声映画、トオキイも、はっきりもの言うわよ”と、他の登場人物同様きわめておっとりと喋っていた。デビュウしたての女優を主演にするとは、会社からの指示なんだろうか。でも、しっかり堂々、成瀬型の女性を演じていた。当時の銀座がたくさん出てくる。日活じゃないんだから、もちろんロケである。戦争前の東京がいかに賑わっていたかがよくわかるよ。笠智衆は“自由ヶ丘撮影所”のスカウト。どうやら笠智衆は成瀬作品に一作もクレジットされていないにもかかわらず、結構出ているようだ。大部屋はつらいよ。
#35「君と別れて」成瀬巳喜男/1933/松竹蒲田/Aug. 21/フィルムセンター
水久保澄子といえば、『非常線の女』である。あばずれの田中絹代との対照で、岡譲二の心を揺らがせるレコード店の売り子。ちょいとファニーフェイスだけど、清楚な雰囲気に人気があったに違いない。本作では芸者役。職業とキャラクターのギャップが、彼女の悲しい境遇を物語る。同じ置屋で同じアパートに住む年増芸者・吉川満子の息子を連れて向った、実家のあるひなびた町の海辺のシーンが輝くほどすばらしい。河村黎吉。飲んだくれの父親で、彼女を芸者にした張本人である。こういうやつはシベリアの強制キャンプでシベリア鉄道を作らせればよいのだ。って、もうできちゃってるけど。水久保澄子を働かせるより、突貫小僧を丁稚奉公に出すことを僕は提案しよう。えーと、笠智衆は不良学生を取り締まる刑事。
#34「生さぬ仲」成瀬巳喜男/1932/松竹蒲田/Aug. 21/フィルムセンター
旦那が破産したうえ刑務所に入ってしまい、子供と姑を残された妻の前に先妻が現れる。先妻(生みの親)vs後妻(育ての親)の、子供をめぐる死闘のメロドラマ。先妻の岡田嘉子よりも姑の葛城文子が困ったものである。破産したのに“貧乏はいやだ”と言われてもなあ。『戸田家の兄妹』などで培われた葛城文子のイメージはあっさり崩れた。恐慌時代、ム所にいる夫がありながらも三越という超一流百貨店に就職し売り子を務める元良家の子女。そんな超時空的なシチュエーションを軽く誂えてしまう成瀬。周星馳も真っ青である。岡田嘉子は子供に財産を譲った上に、実弟とその弟分(張國榮と張學友みたいな関係だ)を連れてアメリカに帰る。波乱万丈の人生間違いなし。笠智衆が冒頭のひったくりを追いかける通行人のひとりとして顔見せ。
#33「リンダリンダリンダ」山下敦弘/2005/『…』パートナーズ/Aug. 20/シネセゾン渋谷
“若者の気持ちをそのまま歌にしました”タイプが苦手な僕は、ブルーハーツというバンドを聴いていない。でも、『リンダリンダリンダ』はとてもヒットしたので憶えている。昨今の80年代ブームの一端とも思える本作は、主演のひとりにペ・ドゥナを起用したという点で異色。本番3日前に結成された4人組ガールズバンドが文化祭のステージに向け練習する。物語にはほとんど起伏がなく、しかし徐々に上っていき、ついにカタルシスを迎える、単純にさわやかな一篇。でもね、わざわざ韓国人ボーカルを採用したことからの面白さがいまひとつ感じられない。恵役の香椎由宇には“平成の原節子”の異名があるんだそうだ。ふーん。ところで、ケイオンのコンサートは私服出演OKじゃないのか、ふつう?
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#32「夜ごとの夢」成瀬巳喜男/1933/松竹蒲田/Aug. 20/フィルムセンター
本作は去年ラピュタで観たのだけど、2本立てなのでついでだ。冒頭で栗島すみ子がどこからかハマへ帰ってくる。不在期間が10日あまりだったことが日めくりでわかるしかけだが、それがいかなる理由によるものかは示されない。彼女が斉藤達雄に向って、前科者の息子にするな、というからには警察に行っていたわけではないらしい。謎である。成瀬の松竹作品、つまりサイレントなので、栗島すみ子の変な声を聞くことができないのは残念といえよう。アパートの壁にかけられた鏡の使い方がうまい。本作にも、交通事故ネタと靴底穴ネタあり。あ、靴下穴ネタもね。笠智衆を、斉藤達雄を追う警官のひとりとして確認。午後のシンポジウムには参加せず。
#31「腰辨頑張れ」成瀬巳喜男/1931/松竹蒲田/Aug. 20/フィルムセンター
生誕100年記念の成瀬巳喜男特集が始まった。先日の『萬世流芳』の悪夢時には及ばないものの、相当な観客が押し寄せ、ナルセがかなり盛り上がっていることが窺える。フィルムセンターも大ホール300名定員では間に合わなくなってきたぞ。上映トップの本作は、8本目の監督作で現存最古らしい。『東京の合唱』でエーパンとやり合う保険会社員を演じていた山口勇がここでも保険外交員で、主演の小市民コメディ。蒲田らしいギャグの連発で、サイレントであることを忘れる面白さ。主人公の心情を表現するための激しいモンタージュが、ナルセの若さを感じさせる。紋切り型である子供の交通事故や穴の開いた靴というネタは、この頃から使われていたんだな。
#30「陸軍大行進」清水宏,佐々木康,石川和雄,松井稔,井上金太郎,渡邊哲二/1932/松竹/Jul. 24/フィルムセンター
軍人は忠節をつくすを本分とすべぇし。軍人勅諭下賜五十周年記念映画。フィルムセンターで保管していたサイレント版とロシアで発見されたサウンド版を合成したものとかで、ときどき音楽が入る変則的な上映。松竹らしからぬ、へんてこなフィルムだった。石器時代から始まり、戦国時代、江戸時代、明治維新と時代はスキップし、しまいには中国で暴れる大日本帝国陸軍を延々映して終了。大監督が五人も揃って、やれやれ、何が言いたいのやら。解説によるとラストは欠落しているらしいので、そこに苦笑するようなメッセージがあったのだろう。河村黎吉が、対ソ連の工作をするために満洲に渡る。満洲人になったり蒙古人に化けたり、コスプレもなかなか楽しそうである。結局はばれて銃殺されちゃうけど。
#29「輝く愛」清水宏,西尾佳雄/1931/松竹文化映画部/Jul. 24/フィルムセンター
後半を清水が監督したらしい。『生れてはみたけれど…』の御用聞き・小藤田正一が、なんと主役。そんな映画もあるんだな。まじめな桶屋一家とだらしない実業家(?)一家を対照的に描写し、まじめに生きなさいよ、と短絡的なナレーションで諭す、満映風にいえば啓民映画。全体のトーンとして、国民を統制しようとする空気は感じられるものの、軍とか戦争の影は微塵もみえない。堕落の象徴として示される歓楽街(銀座?)の様子が興味深い。すでに派手なネオンサインがあったんだ。小藤田は小学生時代から自動車免許を取って円タクの運転手をやるまでを演じているのだが、これが何年間の話なのかよくわからない。というのも終始、子供にしか見えないからだ。子供が運転する円タクには乗りたくないぞ。
#28「銀河」清水宏/1931/松竹蒲田/Jul. 24/フィルムセンター
実にふた月近くも映画館に行っていなかった。われながら驚きである。本作はメロドラマ。新聞小説の映画化らしいが、プロレタリア運動を絡めているあたりが時代を反映している。上映時間180分。しかもサイレント。ほぼ満席の客はそれでもほとんど落伍者が出ず、たまに何か喰う者、ひいひい言うじいさんに対して怒る者がいながらも終映を無事迎えた。はっきり言って、これは清水の最高レベルからはほど遠い作品なのだが、それでも“清水宏”ブランドはここまで映画ファンに浸透しているのだ。“清水宏”でググったとき、トップが*この*清水宏になる日は近い? 主演の八雲恵美子は、ややふけた山田五十鈴といった印象。あの状況で高田稔が八雲恵美子を襲うのは無理があると思うな。
#27「オペレッタ狸御殿」鈴木清順/2005/『…』製作委員会/Jun. 4/丸の内ピカデリー2
終映後、客もまばらな館内のあちこちで、酷評や“わけわかんない”という声が聞こえた。このような、映画の夢が詰まった作品を楽しめない人はまったく可哀想である。82歳のカルト監督・鈴木清順に86歳の大美術監督・木村威夫が描き出す、これが映画だ、エンタメだ。石井輝男やフェリーニの世界にも通ずる過剰さと独特の色彩感覚を兼ね備える清順美学は、多少のボケを加えて(?)誰の干渉も許さない。ヒロインは章子怡。どういう経緯で、この異国のじいさんの作品に出ることを受けたのだろう。もしかして、ファン? 残念ながら『2046』での美しさには及ばなかったが、日本人(狸)集団の中にいて唯一喋る北京語の響きがとても素敵だった。齋藤孝氏に観ていただきたい。そうそう、音楽担当・白井良明というのが泣かせたね。
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#26「愛の神、エロス」王家衛,スティーヴン・ソダーバーグ,ミケランジェロ・アントニオーニ/2004/仏=伊=ルクセンブルグ=米=香港/May 14/シネスイッチ銀座2
王家衛の『The Hand』を観たくて行き、それはそれなりに楽しんだが、他の二人のは予想通り退屈した。『The Hand』は60年代香港の話。なのに、鞏俐も張震も田豐も北京語を喋っているのは、彼らの母語がそうだからというのが理由なのか、それともその方が時代をよく反映できるのか。フレーム内にまたフレームを作る鏡の使い方が抜群。珍しく鞏俐が素敵に見えた。カエターノ・ヴェローゾの、『ブエノスアイレス』とそっくりの曲が3監督の作品をつないでいるのだけど、なんか違和感があった。まあ、オムニバスなんて元来そんなもの。ソダーバーグのはコメディ仕立てだが、何が面白いのか理解不能だし。アントニオーニのは…、あんまり考えると頭痛がしそうなのでやめておこう。夕食は久しぶりに蓬莱屋のとんかつ。
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#25「美しい庵主さん」西河克己/1958/日活/May 14/ラピュタ阿佐ヶ谷
最近日本映画専門チャンネルで『若ノ花物語 土俵の鬼』(森永健次郎/1956/日活)が放映され、クレジットのないいづみさまと浅丘ルリ子が1カットだけ登場しているのを確認したため、いづみさまナンバーがずれることが判明したのだが、とりあえず、本作品はいづみさま#36。これまで何度かビデオで観ているので目新しい作品ではないが、いづみさまを大画面で拝見するのは至上の喜びである。小林旭を反射板として描かれる、東京と能登、ロックと盆踊り、ルリ子といづみさま、という風な徹底した対比構造を背景に、若くして仏門に入ったいづみさまの揺れる乙女ごころを綴る佳作。コメディとしても、東山千栄子と高橋とよのやり取りなど、存分に楽しめる。いづみさまの入浴シーンを想像するアキラの顔がいいよ。
#24「赤い波止場」舛田利雄/1958/日活/Apr. 23/シネマアートン下北沢
紅の流れ星』のオリジナル。考えてみればまだ観たことがなかったので、またシモキタにやってきた。閑散としていたこないだとは違い、観客におばさんの裕次郎ファン・グループがいて騒がしい。裕次郎本人に言わせれば“セックス・アピール”があるんだそうだ。本作の神戸はかなり暑そう。モノクロ画面が効いている。渡哲也版で松尾嘉代が演じていた愛人役はこちらではわれらが中原早苗。ダンサーである。なんと松尾嘉代と同じアパートに住んでいた。“山の手××××(アパート?)”という文字が見えたけれど、さすがに現存していないだろうな。撮影はクレーンを多用し、アングルがダイナミックに変わる。好みじゃない。ヒロインも浅丘ルリ子の方が北原三枝よりずっとセクシーだし、総合的にみてやはり『紅の流れ星』の方がいいね。
#23「PTU」杜琪峰/2003/香港/Apr. 23/ユーロスペース2
香港警察のPTU(Police Tactical Unit; 機動隊)、組織犯罪課、CID(Criminal Investigation Department; 特捜課)が絡み合う、尖沙咀での一晩のお話。不正行為を巡り、最初は正義にもとづく対立があった三者が、結局は“身内”に収れんしていく。これが香港の現実だとすれば、庶民にとってなんとも悲しくなる結末である。であるが、単なるエンタテイメントだと思えれば、なかなか面白い。冒頭の火鍋屋を除けば一貫してクールな、香港とは思えないような空間がある。一方で、バナナの皮に滑って転んで♪や携帯電話の取り間違いなど妙なギャグを展開するとか、裸にされ小さな檻に入れられた男たちを突然見せるとか、曲者の作品だ。任達華は久しぶりに観た。この人、歳取らないのか? そうそう。キスしなくてよい人工呼吸器に感心。
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#22「千羽鶴」吉村公三郎/1953/大映東京/Apr. 16/三百人劇場
『千羽鶴』は主人公の父親の二人の元愛人、お茶の師匠・栗本と太田未亡人という二大化物年増女の対決という構図を持っている。本作では、栗本=杉村春子、太田=木暮実千代。後発の増村版では、栗本=京マチ子、太田=若尾文子。大女優がそろい踏みでガップリ四つ。両作とも同じ新藤兼人の脚本だし、監督の力量勝負になるのが自然だ。しかし、軍配は若尾ちゃんの壮絶演技によって増村版へ下る。木暮実千代でさえも存在が消し飛んでしまう、あのメソメソ演技は最強なのだ。前回本作を観たのは、増村版を観る前で、それなりに満足していたのにね。本作では扇ヶ谷のトンネルが出てこないのも、愛着の湧かない理由になるみたい。太田の娘・乙羽信子の歯が汚いのも気になるし。
#21「喜劇 嫉妬」吉村公三郎/1949/松竹大船/Apr. 16/三百人劇場
日本一の渋顔男、佐分利信。このおじさんが高峰三枝子の奥さんをもっている。それだけで結構幸せなはずなのだが、なぜか自宅では渋顔を続け、奥さんはほとんどアマさん状態。一方、会社では愛想をふりまき、新橋に若いあばずれ女まで囲っている。あるとき奥さんに浮気疑惑が浮上し、佐分利は嫉妬心に燃え、私立探偵化。会社にはあばずれ女のヒモが乱入して喧嘩。むちゃくちゃだ。“喜劇”と銘打たなくとも、佐分利のコメディアンぶりが普段との落差から十二分に楽しめる隠れた名品である。新藤兼人にこんな脚本が書けるとは思わなかった。脇を固めるのも、河村黎吉、三井弘次とかなり豪華だよ。でも、これって女性映画? チラシには“解放感あふれる女性の自立もの”と書いてあるんだけど。
#20「誘惑」吉村公三郎/1948/松竹大船/Apr. 16/三百人劇場
吉村公三郎特集の三百人劇場を久しぶりに訪ねた。椅子が新しくなっていた。残念ながら、座り心地の悪さはたいして改善されていない。代議士の佐分利信が、恩師の娘・原節子を引き取るのだけれど、どうも最初から無意識の下心があった様子。佐分利には結核を患う妻・杉村春子がいて、鎌倉のサナトリウムで療養中。これが、いつもの彼女らしくもなくしおらしいので変だと思っていたら、ついに佐分利が原に迫った夜、突然ぬーっと帰宅して、本来の恐さを見せて一安心。杉村はその夜死んでしまい、佐分利は原をゲットしてハッピーエンド、という妙なお話であった。妙といえば、医大生の原節子がかぶる帽子も相当だったな。28歳で21歳の役を堂々とやる。これぞプロの女優である。
#19「宮本武蔵」稲垣浩/1954/東宝/Apr. 16/フィルムセンター
2001年に第二部第三部は観たのだけれど、第一部は観逃していた。スタンダードなんだ。野人・三船敏郎が演じる武蔵は、この第一部がお似合いだね。又八が三國連太郎というのは高級すぎないだろうか? 知性の点で逆転現象が起こっている。(世界のミフネをいつもこきおろしているが、ゆるしてたもれ。)岡田茉莉子(朱実)のヘアスタイルは、『スウォーズマン』の林青霞とも違う、前頭部に角を生やしたもの。階級、風俗的にどういう意味があるのか気になった。お甲は立派なおばさんになった水戸光子。悪女ぶりもばっちりだ。などなど、いろいろあるけれど、錦ちゃん版との違いで最も大きいもののひとつがお通さん像。八千草薫が演じるこちらの方が数段強い女性で、僕は彼女のファンではないけれど、なかなか好感がもてる。
#18「紅の流れ星」舛田利雄/1967/日活/Apr. 9/シネマアートン下北沢★
鈴木清順の一部作品を除けば、僕が最初に観た日活アクションは本作ではなかったかと思う。その後、渡辺武信氏の労作『日活アクションの華麗な世界』上・中・下巻を読みふけり、『渡り鳥』シリーズやらなんやらに通い始めたのだ。たくさんあった間違いは最近の再発で修正されているだろうか?(ビデオなどない時代に書かれたものなので、それを非難する気は毛頭ない。)さて、本作は『赤い波止場』の渡哲也版。渡辺氏には『勝手にしやがれ』の影響も指摘されている。神戸の街で浅丘ルリ子につきまとう姿をはじめ、確かにそれは認められる。シネスコの使い方がうまい。会議机を挟んで向かい合う浅丘ルリ子と渡哲也の構図なんてとてもクールだ。浅丘ルリ子のファッションにはちょいとひいてしまうが…。傑作である。
#17「嵐を呼ぶ男」舛田利雄/1966/日活/Apr. 9/シネマアートン下北沢
ジャズバンドの吹き替えに日野皓正がクレジットされていた。豪華な映画である。ご存知、石原裕次郎のヒット作『嵐を呼ぶ男』の渡哲也でのリメイク。重要なのは主演俳優ではなく、当然いづみさま(いづみさま#101)。両作に出演しているが、旧作ではアパート管理人の娘で裕次郎の弟・青山恭二の恋人、本作では旧作で北原三枝が演じていたバンドの敏腕マネージャーである。大きくなったなあ。僕はどちらかというと本作の方が好きだな。ドラム合戦中、痛めた手からスティックを落としたとき唐突に唄い出すのには、こちらでもかなり笑えるが、やくざ度は渡哲也が断然高いので“やくざなドラマー♪”という歌詞にはリアリティがある。由美かおる(佐野浅夫と親子)やら太田雅子(=梶芽衣子)やらも出てきてなかなか楽しい一篇だ。
#16「宮本武藏 一乘寺決鬪」稲垣浩/1942/日活京都/Apr. 8/フィルムセンター
周りの文人が武蔵よりある意味強く、武蔵の人間的弱さが露呈する一方で、武士同士では強すぎるという構造が物語を駆動する魅力的な題材。そんな宮本武蔵映画の私的決定版はやはり内田吐夢版である。武蔵の凄みや、共感を呼ぶ邪悪さは錦ちゃんでなくては。知恵蔵に狂気の表情で首を振らせるのは無理だ。多羅尾伴内をやっていなさい。本作は吐夢版でいえば『般若坂の決斗』〜『一乗寺の決斗』あたりをまとめたもの。比叡山の僧である志村喬に“この国の武士は子供を殺したりしない”(記憶不正確)などと言わせるところが戦中映画である。お笑いだ。吉野太夫を春坊が大まじめでやっているのもお笑いだ。麦焦がし食べてろ。他はほとんど知らない俳優ばかりだったが、上田吉二郎はなぜかわかったぞ。
#15「女の学校」佐伯幸三/1955/宝塚映画/Apr. 3/ラピュタ阿佐ヶ谷
まず会員証を更新する。それから山猫軒でお昼。しばらく来ないうちにランチが値上がりしていたうえ、なんだか量も減ったような気が…。ラピュタにもコスト削減の波か? 映画は、神戸にある女子高を舞台にした、教師と生徒の群像劇。中心的な教師に寿美花代。生徒に雪村いづみ、扇千景、環三千世など。要はタカラヅカである。男先生に鶴田浩二。扇千景は突然病死するし、環三千世は突然キャバレーで働くし、『青い山脈』もどきの中途半端なエピソードはまったく面白くない。女子高特有(?)のいじめ問題が発生するわけでもなければ、寿美と鶴田のロマンスがあるわけでもない。なんともヘンテコなできで、心の中で笑わせてもらった。扇千景、昔はあんなに可愛かったのね…。
#14「嵐の青春」譚家明/1982/香港/Apr. 3/テアトル新宿
香港ニューウェーヴの代表作のひとつ『烈火青春』、ついに日本公開。観客のほとんどが女性。主演のひとりがそうだということで、張國榮特集上映の一環である。もはや過去のスタアなのか、混んでいた、というほどでもない。舞台はバリバリの80年代。張國榮は妙な日本趣味のある青年で、哈日族の先駆だな。往年のセクシー女優・夏文汐を観たのはたぶん初めて。こんなに胸ない人だったの。腋毛、処理してよ。やっぱりセクシーで売るなら、三原葉子みたいじゃなきゃね。作品は確かにニューウェーヴであった。なんだ、この展開は、クライマックスは。『キル・ビル』もびっくりのはちゃめちゃさ。レスリー、あんたアラブ行ってどうする。
#13「恋の風景」黎妙雪/2004/香港=中=日=仏/Mar. 26/ユーロスペース2
先着2,000名様プレゼントで主演の林嘉欣がCFに出ているチューハイをくれた。うーむ、こんな重いものもらってもなあ。飲むわけにもいかないし。林嘉欣という女優を観るのは初めてかな。広東語と北京語を操る生意気なやつだ。青島が舞台。青島といえば『青島要塞爆撃命令』くらいしか映画は知らない(ただし未見)。予告篇でよさそうなところに見えたので観にきたわけだ。効果あるじゃないか、予告篇。話を本作に戻すと、これは男性の存在に依存して生きる3人の女性の物語である。劉燁は脇役、鄭伊健なんか誰が演じてもいい役なのである。青島は美しい坂道の街だった。石畳の坂道を颯爽と走る自転車。いいけど、僕だったら絶対電動アシストだな。
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#12「サマリア」キム・ギドク/2004/韓国/Mar. 26/恵比寿ガーデンシネマ1
先着100名様プレゼントで主演の少女2人のサイン入り生写真をくれた。うーむ、こんなのもらってもなあ。で、この映画、おそろしいです。2人の女子高生が売春するのですが、2人とも罪悪感が微塵もなく純粋で、相手に感謝さえするのです。ベッドに漂う優しい空気を吸って、ああそうなのか、売春も悪くないじゃん、と観客はなんとなく思わされてしまいます。んが、女子高生のお父さん(=刑事)はそんなこと許せません。ここで観客は一旦社会常識レベルに引き戻されます。ところが…、と話は進んでいき、少女は泥沼にはまり、『一人息子』のようなやるせなさの中で終映。映画は三部構成で、第三部のタイトルは“ソナタ”。お父さんの車は現代製だったけど、あれが今度日本でも発売されるソナタだろうか?
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#11「バンジージャンプする」キム・デスン/2001/韓国/Mar. 19/新宿武蔵野館1
僕は霊界とかリインカーネーションとかをまったく信じていない。例えば、リインカーネーションがいかにナンセンスかは、こういう映画を観ればわかる。ダライ・ラマさん、ごめんなさい。恋人の生まれ変わりが×××だったという設定は、しかし、なかなか奇抜だ。きわどい設定の反面、キム・ギドクならばんばん描写しそうなシーンはひとつもない、不思議な監督である。主演はイ・ビョンホンで、本日初日ということもあるのか、ものすごい人だった。3/4はお・ば・さ・ん。整理番号は守らないわ、上映中にぺちゃくちゃ喋るわ、勘弁してほしい。世の中、ロケ地訪問ブーム。彼女たちの何人かはやはり、ニュージーランドにバンジーしに行くんだろうか? でも、最後に二人がするのはバンジージャンプじゃないよね?
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#10「オオカミの誘惑」キム・テギュン/2004/韓国/Mar. 19/新宿K's cinema
花粉が殺人的に飛び交う中、出京する。目指すは新宿。新宿なら夢民にも行けるし、少しは気が休まる。この劇場はかつて新宿昭和館があったところにできた。窓から、向かいのビルで土曜の昼間から麻雀に興じるおじさん達が見える、やくざ映画もピンク映画もかかりそうにない、80席のこじんまりしたミニシアターである。アミューズ/シネカノン系かな、と一瞬思ったがどうやら違うようだ。映画の中身は、斉藤由貴はまっぴらです。と、ケラの声が聞こえてきそうなほど似ているヒロインと二人の人気高校生の一種の三角関係。難病ものでもあるといって差し支えあるまい。高校生のくせにDUCATIに乗ったり、OTSに乗ったりして裕福なことだ。喧嘩が飛び蹴り合戦ばかりだったのにびっくりしたけど、韓国人は空手で喧嘩するのかな?
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#9「ビューティフル・デイズ」ルディ・スジャルウォ/2002/インドネシア/Mar. 12/恵比寿ガーデンシネマ2
友人とボーイフレンドとの二者択一に悩む女の子を主人公とする、永遠の青春紋切り少女漫画ストーリー。自分が歳をとっていながら“進歩のない話”なんていうのが無粋なのはわかっている。永遠の紋切りというのは、いつの時代でも同じ世代にニーズがあるのであり、実は素晴らしいのだ。とはいいながらも、なぜ友情と恋愛が両立できないのか毎度理解に苦しむよなあ。インドネシアの高校生は車を自分で運転して通学するのか。リッチだね。スハルト時代に政府を批判して大学を追放されたという、ボーイフレンドの父親。そんな人物設定に、過去の暗さと現在の明るさが反映される。それでも、その父子はアメリカに去っていく。暗い時代の瑕は容易には癒えないらしい。
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#8「パッチギ!」井筒和幸/2004/『…』製作委員会/Mar. 12/アミューズCQN1
アミューズの、昨年新たにできたミニシアターに行ってきた。1960年代の京都を舞台に、日本人高校生♂と在日朝鮮人高校生♀の国際(?)恋愛がコメディタッチで描かれた作品。面白かった。在日ものは崔洋一、阪本順治を筆頭としてコンスタントに作られているが、本作の新しいところは日本人と朝鮮人があまりにすんなりと親密になること。最近の韓流がまちがいなく影響していると感じられる。フォーク・クルセダーズの『イムジン河』をフィーチャー。鴨川がイムジン河なんである。日本と朝鮮を隔てる38度線なんである。そんなもの、愛があれば簡単に渡れるんである。本当にそうあってほしい。『イムジン河』はいまだに放送禁止だと思うが、この映画、テレビでやるかどうか興味津々だ。
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#7「永遠のハバナ」フェルナンド・ペレス/2003/キューバ=スペイン/Mar. 12/ユーロスペース2★★
ハバナの市井に暮らす人びとを夜明けから一日、クローズアップと音にこだわった映像パッチワークで見せていく。実にさまざま音(なんと灯台の光にも音がある)が聞こえるのに、大変静かな作品。登場人物の中に、無表情で街頭に立つおばあさんがいた。このおばあさん、公園のジョン・レノン像を交替で見守っているようにみえる人たちと同じくらい、何をしているのか興味をそそった。煎りピーナッツを売っていたらしい。夜明けで始まった映像は淡々と流れ、誰もがしまいには眠りにつく。登場人物紹介が始まったところで映画の終わりを察知し、“ああ、ハバナっていいなあ、ほのぼの、いい映画だった”と誰もが思っただろうその瞬間、観客は奈落の底に突き落とされる。希望がなくなったとき、生きることは辛かろう。
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#6「ビフォア・サンセット」リチャード・リンクレーター/2004/米/Feb. 12/恵比寿ガーデンシネマ1
台本のワード数では(たぶん)世界一の監督の傑作『恋人までの距離<ディスタンス>』(原題:Before Sunrise)。その続編(Before Sunset)が製作されるなんて誰が予想しただろうか。二人が再会するいきさつは自然になるよう工夫されているが、それはそれで映画にはありそうな設定である。ウィーンの次はパリというのは安易。前作シーンのフラッシュバックも安易。それでも前作のファンには嬉しい一作には違いなく、僕も最後まで楽しませてもらった。歩きながらとぎれのない会話を続けるふたりをステディカムで延々追い続ける構成には、清水宏もたじたじであろう。ジュリー・デルピーも34歳(撮影時は32歳)。お肌はもちろん、女優としての曲がり角か、シンガーソングライターも始めた(?)ようである。CD出てんのかな?
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#5「風流深川唄」山村聰/1960/東映東京/Feb. 12/フィルムセンター
老舗割烹の娘・美空ひばりと板前・鶴田浩二の恋。割烹が借金でピンチとなり、二人の仲も引き裂かれて…。紋切りだ。鶴田浩二のメイクアップは紋切りとはいえないが、劇画調とでもいおうか、妙でんな。また、鶴田浩二の板前役は紋切りといえばそうだが、素性を隠した渡世人ではない。『卒業』みたいなクライマックスには笑っちゃいます。美空ひばり効果でしょうね、ほぼ満席。なぜ美空ひばりが人気あるのか、僕にはいまだに謎である。(田中絹代については、最近読んだ本で少しわかってきた気がする。) 脇で光っていたのがまたまた山田五十鈴。杉村春子もかすむ存在感で、きっぷのいい女性を演じている。ほんと、大女優。目立たなかったが、往年の大女優・吉川満子も出演。おやかましゅう。
#4「もず」澁谷實/1961/文芸プロにんじんくらぶ/Feb. 12/フィルムセンター
淡島千景・有馬稲子母子(一応注釈しておくと、有馬稲子が娘)の壮絶な人生バトル。勝ち気同士が一緒に住むというのはただでさえ大変なのに、観ていて疲れる渋谷演出で繰り広げられる。桜むつ子〜清川虹子〜高橋とよとつながる助演女優陣が存在感たっぷりの女性映画である。その他、そんなに目立ったわけではないが、出色だったのが山田五十鈴。『用心棒』の鬼婆がそのまま現代にやってきたような容貌で、ほんとに恐かった。淡島千景は最初倒れたとき男性ホルモン不足(骨粗しょう症か?)と自分で言っていたが、結核だったらしく、結核菌が脳に回って死んでしまう。船橋ヘルスセンターというのはららぽーとの前にあった超大型娯楽施設ですね。清川虹子と淡島千景の水着姿が観たい人、本作を処方します。(そんな人、いるかな?)
#3「日本侠客伝 浪花篇」マキノ雅弘/1965/東映京都/Feb. 11/フィルムセンター★
前回は無礼な感想を記している(しかも監督名を間違っている)ようだが、10年近くたって改めて観ると、これはまったく傑作である。高倉健+村田英雄+鶴田浩二の渋さに長門裕之+田中春男+大友柳太朗の軽さがぶつかって生み出されるダイナミズム。冴えわたるマキノ演出でしょぼい女優陣でも生み出されるメロドラマ。あの内田朝雄が善玉役という快挙。健さんが殴り込んでム所に入ったら和田島組はどうなるんだ?と心配していたら、悪人は皆殺し。敵がいなくなれば、老いぼれた内田朝雄と社会主義者・里見浩太朗でも安心。なるほどね。健さんは過去、長門裕之と同じく、渡世人だったのではないかと思われる。堅気が長ドス持ってたり、簡単に殴り込みして人を殺したりできる道理がない。
#2「カンフーハッスル」周星馳/2004/香港=米/Jan. 15/VTC六本木ヒルズ4
ぴあによると製作国が“中国”になっていたのだが、敢えて香港にしておく。『少林サッカー』の次は、サッカーなしのカンフー。趙薇や呉孟達はいなかったが、他の出演陣がかなりオーバーラップしていることもあり前作の影響が強く感じられると同時に、周星馳の役柄(もちろん主役)が『チャイニーズ・オデッセイ』の孫悟空を連想させる作品。ただし、サッカー選手権のような軸がないため、ストーリーは弱い。次から次へとより強い相手が出てきて、終わりのみえない戦いが続くのだ。となると、SFXを駆使した勝負の随所に折り込まれるギャグが身上というわけだが、それも本気で笑えたのは一ヶ所だけだった。(周りにつられて笑ってしまうシーンは何度かあった。)終わってみても前作のような爽快感がなく、残念でした。
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#1「シヴィリゼーション」トーマス・H・インス/1916/米/Jan. 15/フィルムセンター
小津安二郎が中学生時代に観て“ひとつ映画監督になってやろうと思った”という作品。そんなわけで“ひとつ観てやろう”と思い、冷たい雨の中、フィルムセンターまで出かけた。当然サイレントなのだが、フィリップ・カーリー氏のピアノ伴奏付で、お腹が鳴ろうがおならしようが(してないよ)だいじょうぶ。中身は反戦映画。第一次大戦でアメリカの参戦是非が問われていた時期で、大ヒットしたという。不戦を訴える民主党・ウィルソン大統領の再選に貢献したらしい。『華氏911』みたいなものかな? ケリーは負けたが。母親が“自分のもの”という息子を、“国のものだ”と言い放って徴兵する軍や、“国が滅びるのを防ぐ戦争は当然”と参戦を決議する国会。おそろしい。ちなみに小津が感心したのは、ちゃんと感情表現ができていることのようで、映画のメッセージ性ではないようだ。

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Last update: 1/3/2006

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