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2010年に観た映画の一覧です
今年の目標: ついになし。
- 星の見方(以前観たものには付いてません)
- ★★…生きててよかった。
- ★…なかなかやるじゃん。
- ○…観て損はないね。
- 無印…観なくてもよかったな。
- ▽…お金を返してください。
- 凡例
- #通し番号「邦題」監督/製作年/製作国/鑑賞日/会場[星]
- #68「帰郷」大庭秀雄/1950/松竹/Dec. 23/ラピュタ阿佐ヶ谷○
- 会員証が先月期限切れになっていて、ポイントが失効するギリギリで阿佐ヶ谷に出向いて更新。ついでにこれを観た。大佛次郎原作。スカパーで録画したのを観ているので新たな発見はない。木暮実千代がエロ年増、日守新一がエセ芸術家、三井弘次がヤナ憲兵、徳大寺伸がダメおやじ、そして佐分利信がニセ華僑。高橋貞二はちょい役で残念。とにかく佐分利信がクールで渋い。『お茶漬の味』コンビの愛憎入り交じる大人の恋のかけひきの描写もなかなかよいよ。冒頭のシンガポールのビーチ、ロケ地はどこかな? 大船から近いのは鎌倉だけど、そんな海岸線には見えなかったし、第一由比ヶ浜にあんな建物セットが建てられるはずもないか。鎌倉といえば、円覚寺が出てきたね。今年の映画館は、おそらくこれで打ち止め。
- #67「海炭市叙景」熊切和嘉/2010/『…』製作委員会/Dec. 18/ユーロスペース 2○
- 敢えて初日初回に行ったら、長い行列がすでにできていて10人くらい前で満席になってしまった。3回目に出直したら普通に観られた。舞台挨拶の効果、恐るべし。函館を舞台にした、市井の人々を静かに見つめるオムニバス形式作品。函館といえば、僕にとっては『ギターを持った渡り鳥』、そしていづみさまの『硝子のジョニー 野獣のように見えて』だが、どちらも季節は冬ではないため、まったく印象が異なる。寒い街では皆孤独だ。原作者がなぜ函館を“海炭”と言い換えたか知らないけども、北の果ての街の閉塞感みたいなものはよく表現できていると思う。小林政広が撮るともっと冷たい映画になると思うな、好みの問題は別として。一度は行ってみたいな、函館。はぁ〜るばる、来たぜ♪
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- #66「モンガに散る」鈕承澤/2010/台湾/Dec. 18/シネマート六本木 Screen 1○
- 台北・萬華の黒道(極道)の話。高中(高校)生5人組が義兄弟となりそのまま組を結成、萬華の二大一家の一方の傘下に入り、外省人やくざのちょっかいに対峙する。ドスを使うのは古風なよいやくざ、ハジキを使うのは悪い近代やくざ(お竜さんは例外)という構図は、そのまんま東映仁侠である。ただし、主人公のよいやくざが自分の判断で悪いやくざと組むのは、東映ではあり得ない。あくまで義理が優先されなくてはならない。監督は客の入りを意識したというが、ビジュアルイフェクトを多用したダイナミックな画面は若者には自然に受け入れられるだろう。僕ぁ、あんまり…。橋の下のシーンが頻繁に出てくる。橋桁が重ね鏡のように永遠に続くように見える構図、これだけは素晴らしかった。
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- #65「ノルウェイの森」トラン・アン・ユン/2010/アスミック・エース=フジテレビジョン/Dec. 11/109シネマズMM横浜 Theater 9○
- あえて原作を読んでいないと想像してみると、これはかなり難解な作品で、登場人物はみなぼそぼそ話すだけだし、一体どこがいいの?という声が聞こえそう(特定の俳優のファンを除く)。で、原作を知る者にとって、少なくとも僕は、おおいに不満を感じている。緑だ。あの圧倒的に魅力的な女の子が具現化されるとどうなるのか期待していたのだが…、うーん。ワタナベの部屋だってもっときれいなはずだし、アイロンもかけてほしかった。簡略化のためか、“フィッツジェラルド”等、村上春樹的記号も省略されていたのも残念。本人の感想はいかに? まあ、李屏賓の映像を堪能するしかない。草原の風はヘリコプターで起こしたという。ならば、いっそのことタルコフスキーの『鏡』のように、映像詩にしてしまえばよかったのだ。
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- #64「詩」イ・チャンドン/2010/韓国/Nov. 28/有楽町朝日ホール(FILMeX)○
- 田中裕子似ばあちゃんの悩ましくも明るい生活、と書くと軽く感じるが、実際にはきわめて重い作品。生活保護を受けヘルパーもやって孫を育てているばあちゃんは、最近記憶力が低下していて医者からは初期のアルツハイマーの告知。一杯いっぱいのはずなのに、常に派手な格好をし、孫の起こした事件の示談がなかなか進まないのに、のほほんとカルチャースクールで詩を習い続ける。なんとなく、いや実はとてもこのばあちゃんには共感する。いくらシリアスでも、やりたいことはあるし、時間が来れば教室に行くのだ。重さに押しつぶされちゃ、人生やってられないよ。ケ・セラ・セラ♪ でも、ばあちゃんは結局…。この映画の題名は『시』。ふふふ、これくらいなら読めるぜ。韓国語もちゃんとやってみたいなあ。
- #63「黒く濁る村」カン・ウソク/2010/韓国/Nov. 28/丸の内TOEI○
- ネット小説由来の映画。予告篇を見て面白そうだったので観に行った。カルトの話だと思っていたら、違っていた。犯罪者のユートピアで死んだ父の死因を調べていくと自分の命が狙われ始める男が主人公。どこかで見たことのあるような…、KANに似てるのかな? 最後に愛は勝つ〜♪って、まったく愛のかけらもない話だけど。他の出演者は皆個性的で、悪くない。ストーリーは噂に聞いていたほど破綻していないが、魅力はなく、最後の種明かしも意外性に欠けた。よほど、予告篇がよくできていたということか。目には目を、歯には歯を。死には死を? おー、いやだいやだ。最近のどこかの国のようだ。ところで、この映画館、スクリーンが2つあるのだけど、丸付き数字で表記するのはやめたらどうかな?
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- #62「愛が訪れる時」張作驥/2010/台湾/Nov. 26/有楽町朝日ホール(FILMeX)★★
- 今年のフィルメックス、期待値最大作。標準からすると、ちょっぴり変わった家族の、互いに対する愛情が綴られる、書いてみれば、いつもの張作驥。物語にきっちり起承転結があり、人生の輪廻が描かれる。この世に溢れる映画やドラマは嘘っぱちばかりだけど(それはそれでいいけど)、張作驥の作品には真実がある。そして、おお、金門島だあ。風獅爺がどーんと出てきたよ。まだ橋は架かっていないかな? Q&Aには主演の李亦捷や高盟傑らが登壇。そういや、高盟傑と范植偉の『美麗時光』再共演作だね、これは。iPhone 4のカメラを初めて使ってみた。ズームすると画質悪いなあ。ま、あるだけマシか。マシッソヨ。珍しく、家族での食事シーンは美味しくなさそうだったな。
- #61「トスカーナの贋作」アッバス・キアロスタミ/2010/仏=伊/Nov. 23/有楽町朝日ホール(FILMeX)★
- 他人同士がいつのまにか夫婦になったり、英語オンリーのはずが突然フランス語を喋り出したり。観る者を惑わす熟練した演出、これぞ映画。愉しい。『恋人までの距離』のように、時間の限られた男女が街を歩きながら喋り続ける話。というわけで、ジュリエット・ビノシュとジュリー・デルピーをどうしても比較してしまう。いまとなってはどちらもおばさんだが、俺ァ、やっぱりジュリー・デルピーの方が好きだね。しかしどちらも英語がペラペラで羨ましい。ジュリエット・ビノシュはイタリア語もスラスラ喋ってたぞ。2映画を比較するなら背景(街)にも言及しないといけないだろうが、後半の田舎町はよくありそうな街で、綺麗だがこれといって特徴はない。でも、出演しているカフェのおばちゃん(そこに住む素人)はよかったよ。
- #60「トーマス、マオ」朱文/2010/中国/Nov. 23/有楽町朝日ホール(FILMeX)
- 中国語が喋れないくせに中国内を一人旅する英国人と宿の主人(中国人)の交流が前半。噛みあわない会話があざとく、閉口する。意味不明の男女剣客の戦いやUFOまで出てきて、理解不能…、と思っていたら、後半に入って、舞台は工場跡みたいなところに作ったアトリエ。さきほどの英国人が中国語を流暢に喋り出したと思ったら、話し相手の中国人アーティストは件の宿の主人ではないか。あん? この変化は時間の経過によるものではなさそう。どうやら前半部分は、有名らしいこの二人を使った劇中劇のようだ。前半は英国人が画家、中国人がモデル、後半、それが逆転するのがミソらしい。知るか、そんなこと。奇抜なことやれば、映画になるってもんじゃないぞ。
- #59「アンチ・ガス・スキン」キム・ゴク,キム・ソン/2010/韓国/Nov. 22/有楽町朝日ホール(FILMeX)
- ガスマスクを付けた殺人鬼がソウルを恐怖に陥れるホラーだと思い込んでいたのだけど、観てみれば恐怖感ゼロの映画。顔に毛が生えた、祈祷師(?)を騙るオオカミ少女が観る者の神経を逆撫でするくらいだ。後は“嘲鮮日報”など、随所に皮肉満載の、ジャンルとしてはブラック・コメディとでも呼べるもの。特に政治家への攻撃はしつこい。『青い山脈』のガンちゃんのような発言を繰り返すソウル市長候補(『黒い土の少女』のお父さんだな)がおかしい。会議で出席者がノートPCを使うのだが、ブランドがまちまちなのが新鮮に写った。これもわざとだろう。青い服を着ていると殺人鬼に狙われるというが、青にはどんな意味があったのだろう? 鈍感ですみません。
- #58「溝」王兵/2010/仏/Nov. 22/有楽町朝日ホール(FILMeX)★
- 大躍進政策の結果の飢餓地獄。右派の思想改造と称し、多くの人が西方の砂漠へ遣られ死んでいった時代をリアル(?)に再現した力作。恐ろしや、毛沢東独裁。我餓得要命。とにかくひもじい。食べられそうなものは何でも食らう。謎の草の実、鼠、ゲロ、死人の肉…。砂漠の地下に掘った宿舎には、砂がひゅうひゅう舞い込み、食器の中も寝床の上も砂だらけ。毎朝、数名の死者が出る。砂でできた土饅頭も風が吹き飛ばす。うひー、ここまで描写できるのは立派。さぞかし撮影は難航したことだろう。キャメラだってしょっちゅうレンズを拭かないといけなかったはず。脱出を図った、主人公(?)の郷鍈治はどうなったろう? ★でも、もう一度観たいかと問われれば微妙な一品。
- #57「海上伝奇」賈樟柯/2010/中国=オランダ/Nov. 22/有楽町朝日ホール(FILMeX)○
- FILMeX常連の賈樟柯は特別招待。上海に関連した歴史上の人物本人あるいはその関連人物にインタビューしていくドキュメンタリーである。上海に少しでも接したことのある人には興味深いであろう。『小城之春』の韋偉とか、『欲望の翼』の潘迪華とかご本人が登場。杜月笙の娘なんてのも出てくる。また、街の様子も万博を前に大きく変貌しており、これは驚きの連続である。浦東のみならず林立する高層ビル群。外灘の近代建築が目立たないこと。パジャマ姿で散歩する人も見えなかった。また上海に行っても迷子になること請け合いだ。豫園だけは変わらないように見えた。驚きといえば、趙濤の役割がよくわからない。上海の街を歩いているだけ。なんでずぶ濡れになる必要があるの?
- #56「肖像」木下恵介/1948/松竹/Nov. 22/東劇(FILMeX)○
- 藤原釜足、小沢栄太郎、安部徹、菅井一郎。そして、井川邦子主演。なんというマイナーさ加減。今年のフィルメックスの個人的メインプログラムである。井川さんは3年後の『麦秋』と比較して、かなり太っているようだ。黒澤明の脚本は、田園調布に住むきわめて楽天的な貧乏画家家族(画家:菅井一郎,妻:東山千栄子の『麦秋』コンビ)の描写が『素晴らしき日曜日』を思い出させる臭いもの。絵描きという設定もクロサワ好みだし。そんな中、井川さんの役は小沢栄太郎の妾。菅井らの2階に住むことで自分の立場に耐えられなくなり、自立する。相当頑張っている。ほかにも主演作があるのだろうか? 時折フォーカスされる菅井一郎のスリッパがおしゃれだった。
- #55「密告者」林超賢/2010/香港/Nov. 21/有楽町朝日ホール(FILMeX)○
- 最近香港で人気らしいダンテ・ラム監督の警察もの。ダンテなら丹堤じゃないの、というくだらない疑問はさておき、なぜ香港映画って警察ものが多いのだろう。もちろん、香港市民が好きだからだろうけど、それだけ犯罪が身近なのかな? 警官(張家輝)とその情報提供者(謝霆鋒)の関係にフォーカスした、ある意味古典的なテーマの本作。圧倒的に優位に立つ警官側にも人情はある、という仁俠ものだ。犯罪集団のボスの女に桂綸鎂という意外なキャスティング。結構似合ってて、これまた意外。モノクロームを効果的に使う演出はなかなかいいけど、ストーリーの説得力は弱いな。ラスト近く、『欲望の翼』のあのトンネルが登場する。劉徳華はいなかった。
- #54「夏のない年」陳翠梅/2010/マレーシア/Nov. 21/有楽町朝日ホール(FILMeX)
- 今年のFILMeXの1本目。いい加減この会場はやめてもらいたい。前方だと、イロハニ席の観客がとても邪魔。もっと低い椅子にできないのかな。あるいは前方は身長(座高)制限を設けるべきだ。映画は、漁村に住む夫婦のところへ、旧友が訪ねてくる話。三人は船で夜釣りに出かけ、旧友は海に潜ったまま戻ってこない。静かな作品だ。ここはマレー半島の東岸だろうか西岸だろうかとか考えるのだが、青年ふたりの少年時代の記憶が挟み込まれる夢想的な展開が眠りを誘って…。会話に浦島太郎の話が出てくるのだが、妻が“ウラシマタロウ”と発音していたのに、そこだけパチリと目が覚めた。旧友が海から帰ってきたのは100年後だったのだろうか。悪くはないと思うけど、もう一度観ないと評価不能。
- #53「クリスマス・ストーリー」アルノー・デプレシャン/2008/仏/Nov. 21/恵比寿ガーデンシネマ★
- 大期待の(毎回書いてる?)デプレシャン新作。カトリーヌ・ドヌーヴという圧倒的な存在感の女優を中心に据え、彼女の大病が呼び寄せたバラバラ家族のクリスマスを描く群像劇。枠を簡単に破りながら、その外側に新たな枠を作っていくような感覚。この、アジア人には絶対無理な豊饒さが素晴らしい。同じく、家族以前に個人がぶつかり合う人間関係も興味深い。エマニュエル・ドゥヴォスはユダヤ教徒ということだけど、現代ヨーロッパの中でのユダヤ教徒の立場はどうなのかな? パンダ出演なし。でも、カトリーヌ・ドヌーヴの愛車はプントだった。劇中『パリの恋人』をビデオで観るシーンあり。S'wonderful♪ マチュー・アマルリックがピアノで弾くバッハは、『惑星ソラリス』のテーマだね。
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- #52「義兄弟」チャン・フン/2010/韓国/Nov. 14/シネマート新宿Screen 1○
- ソン・ガンホ、カン・ドンウォンが義兄弟の盃を交わす、わけではない。北の工作員と、南の情報局員。それぞれクビになったふたりが、お互いの出自を知りながら一緒に住み興信所をやり、情が移っていく。日本映画には絶対にあり得ない、韓国映画らしいストーリー。なのに、日本映画あるいはハリウッド映画のようなハッピーエンドは何だ? ソン・ガンホでは硬派で通せないということか。ソン・ガンホってさ、いじわるさの抜けた朝青龍みたいだよね。韓国とヴェトナムの関係は、ベトナム戦争の因果から発生しているのだろうか、興味あるところ。金大中と金正日が会うことで南北の緊張が緩めば、情報局のリストラが行われるのは当然。早すぎたかもしれないが。
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- #51「神の子どもたちはみな踊る」ロバート・ログバル/2007/米/Nov. 6/シネマート六本木Screen 2○
- 村上春樹原作。もうじき『ノルウェイの森』も出てくるし、今年は当たり年のようだ。ずぅぅぅぅっと前に、『100%の女の子』,『パン屋襲撃』,『風の歌を聴け』を観たきり。村上春樹は自作を映画に提供するのをやめていた。何がこのストイックな作家を変えたのか? 本作が面白いのは、主人公がLAのコリアンタウンに住むKengoという名の中国系青年であること。つけひげがヘンだ。新興宗教に没入する母親Evelynに陳冲。おいおい、何歳だよこの人。まあ、エッセンスを伝えているという意味において、映像化は全般に成功しているように思う。欠けた耳といえば、『タンタンの冒険』だな。『なぞのユニコーン号』、来年秋公開(日本は???)。スピルバーグで3Dというのが、なんとも引いてしまうが、観ないわけにはいかない。
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- #50「ソフィアの夜明け」カメン・カリフ/2009/ブルガリア/Nov. 6/シアター・イメージフォーラム★
- ブルガリアの首都ってソフィアだったっけ? 毎朝欠かさずブルガリア・ヨーグルトを食べているにも拘わらず、なぜか馴染みの薄い国だ。そんな国のレアな映画。しかも傑作である。(去年のTIFFグランプリなんだっけ。) 社会に閉塞感が溢れると必ず台頭する極右。奴らは他民族を蔑視し排斥する。いわれのない暴力。ひどいものだ。日本もこうならないようにしないといけない。狙われたのはトルコ人家族。襲われる直前の彼らの話題は中国のチベット問題。このあたり、多分に監督の思いが入っていそうである。撮影終了後、主役は死去したというが、とても残念なことだ。欧州映画ということでパンダを探したけど、ついに見つからず。ムルティプラ・タクシーは走ってたのに…。
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- #49「イップ・マン 序章」葉偉信/2008/香港/Oct. 23/シネマート六本木Screen 4 (TIFF)○
- 悲惨にも仕事の関係で都合が付かず、今年唯一の映画祭。気合いをいれて出向く。甄子丹が李小龍の師匠、詠春拳の達人・葉問を演じる。背景を知らないので色々疑問がある。彼は本当に皇軍の将校を殺したのか、奥さん(熊黛林飾)は本当にあんなにきれいだったのか、親友は本当に任達華だったのか。まあ、そんなこといいじゃないか。功夫ものは勧善懲悪の爽快感がなくちゃね。この時代だと“悪”は必ず皇軍で、無法・残虐ぶりが強調され我愛中国的空気に包まれるものなので、日本人が観ると一般には居心地の悪さもあったりするのであるが。任達華は禿げ具合が似合いすぎて、最初誰だか気がつかなかった。続篇は、公開時に観る予定。パンダゴロによればたいしたことないようだが、一応ね。
- #48「ブロンド少女は過激に美しく」マノエル・デ・オリヴェイラ/2009/ポルトガル=フランス=スペイン/Oct. 16/TOHOシネマズ・シャンテScreen 1
- 上映時間が78分と中途半端だからだろう、ジャン=ポール・ベルモンドがアパルトマンの一室でひたすら女の子に話しかける、本篇にはまったく関連のない愉しいゴダールの短篇『シャルロットとジュール』を併映。水玉のワンピースにボーダーの長袖Tシャツ。おフランスである。で、本篇。オリヴェイラ版『自由の幻想』。100歳のじーさんが撮る映画には誰も文句が付けられないので、妄想の限りを尽くすやりたい放題だ。オープニングはなかなか普通にいい感じなのだが、シーンが変わるとあとはアナザー・ワールドである。まあ、じーさんの妄想を観るのは嫌いじゃない。あれも撮りたい、これも入れたい。リスボンの街の昼と夜が一瞬にして切り替わるとこなんかは新鮮だし。キャッチーな邦題もいいじゃない。
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- #47「兄貴の恋人」森谷司郎/1968/東宝/Sep. 23/銀座シネパトス2○
- きょうは対抗が石原裕次郎だったので加山雄三もなかなか勝負になっていた。どちらも単細胞キャラだが、若大将の方が一枚上手。ブラザー・コンプレックスの内藤洋子の兄であるサラリーマン若大将が酒井和歌子をゲットする話で、いろんな女性が若大将に近づいてくる。なかなかさわやかでよかった。酒井和歌子は『あいつと私』からはかなり成長していて、しかも相当かわいい。びっくりした。いつからおばさんになるんだろうか。動く内藤洋子は見た記憶がないけど、んー、一般的にはかわいい部類だろう。岡田可愛と中山麻理の『サインはV』コンビも共演。いつ見ても岡田可愛は太ってる。会社を辞めた酒井和歌子は川崎に移るのだが、銀座に対比される川崎の扱いがかなり差別的。監督がラゾーナなど見たら驚くよ。
- #46「清水の暴れん坊」松尾昭典/1959/日活/Sep. 23/銀座シネパトス2○
- いづみさま#49。昔スカパーで観た。赤木圭一郎特集の一環だが、主演は石原裕次郎。女優も北原三枝と芦川いづみの2+2豪華仕様。静岡から上京したラジオプロデューサーの石原裕次郎がいきなり麻薬犯罪に巻き込まれる話で、説得力はゼロ。赤木圭一郎は子供の頃姉のいづみさまとともに裕次郎に命を助けられた過去があり、いまはその麻薬犯罪組織にいるという。説得力マイナス。裕次郎が現代版次郎長になる話でもなく、清水でも掛川でも構わん。松尾作品にしては、パワーもいまひとつの印象。いづみさまが自宅でミシンを踏む姿を足下からチルトするカットあり。そういうときストッキング穿くかなあ…。ビル屋上から見える東京タワーがとても高く見えた。しばらく続いたいづみさま特集(違うだろ)もこれでおしまい。
- #45「赤木圭一郎は生きている 激流に生きる男」吉田憲二/1967/日活/Sep. 18/銀座シネパトス2○
- いづみさま#104。事故死で未完成となった『激流に生きる男』のフィルムをメインに使ったトニー追悼作品である。相手役だったいづみさまが出演するのは当然なのだが、試写室かどこかで関係者が語るシーンがあって、せりふでない言葉をいづみさまが発声する点が貴重である。まあ、しゃべり方は映画中と同じなのだが。(今度出るDVD BOXに期待大)その試写室には葉山良二や白木マリもいたにも拘わらず、山本陽子なぞの発言を優先しているのがけしからん。赤木圭一郎へのインタビューを聞いていると、6人兄弟の4番目で、相当鬱屈した青春を送っていたような印象を受ける。それが陰を作って、ウケてたんだろう。しかし、なんでトニーって言ったのかね。ま、本名と何の関係もなさそうなのは梁朝偉も同じか。
- #44「AGAIN」矢作俊彦/1984/ニューセンチュリープロデューサーズ=キネマ旬報/Sep. 18/銀座シネパトス2○
- アゲインといえば『男たちの挽歌III』だが、本作は周潤發とは関係なく、往年の日活アクションへの挽歌である。リアルタイムの宍戸錠がナビゲートし、『狂った果実』から無国籍アクションを経てムードアクションへ至るなかでの、石原裕次郎、小林旭、赤木圭一郎らを追っていく。そんなわけで、文芸ものの入り込む余地はなく、女優陣はないがしろにされていて(ムードアクションの関係で浅丘ルリ子は例外)、その点はかなり不満。いづみさまはほとんど出てこない。ではあるが、全体としてよくできた総集編といえる。『嵐を呼ぶ男』は石原裕次郎版と渡哲也版がコラージュされて、二人が対決しているかのよう。それぞれの引用パートに題名がテロップで入れば親切だったね。
- #43「帰ってきた若大将」小谷承靖/1981/東宝映画=加山プロ/Sep. 18/銀座シネパトス2○
- おまけとして観に行ったのだが、これが面白かった。残念ながら褪色したプリントだったけど。10年ぶりの『若大将』。若大将も青大将ももう立派なおっさんだ。二人が競い合うマドンナ(?)は坂口良子。サブに懐かしのアグネス・ラム。若大将の着ているBoat HouseのTシャツも懐かしアイテム。『007』、『カサブランカ』、『ティファニーで朝食を』のパロディあり。舞台は太平洋の架空の島国、東京、ニューヨーク。本物のニューヨーク・シティ・マラソンでのロケもあって、シリーズ20周年記念作品は豪華だった。上映後、小谷監督を迎えてのトークショウ。東大仏文科で大江健三郎と同じクラスだったそうだ。インテリやね。最後に若大将の妹役・中真千子さんが登壇し、あいさつした。現役らしい。
- #42「悪人」李相日/2010/『…』製作委員会/Sep. 12/109シネマズMM横浜(Th7)○
- 深津絵里がモントリオールで主演女優賞をもらって(おめでとう)、急に注目された作品。本当に殺人は絶対悪なのか、真の悪人はどうして裁けないのか。誰もが内心思っているだろう主題に斬り込みながら、最近蔓延する復讐肯定論(いやだいやだ)には持っていかない点が好印象。妻夫木聡が最後に見せる、ふかっちゃんへの暴力は映画的には陳腐だが、その先の彼への社会的憎悪と判決を想像すると悲しい。樹木希林が健康食品詐欺に遭うサブストーリーも切実。社会のフリーライダーは消え去ることはないだろうが、無抵抗の弱者(彼女は結局立ち上がるけど)を狙うのはあまりにも卑怯・冷血だ。大瀬崎灯台は、絵に描いたような孤高の地に立ち、舞台として申し分ないね。ふかっちゃんのベッドシーン、ファンとしては複雑。
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- #41「泡立つ青春」マキノ正博/1934/大日本麦酒/Sep. 4/神保町シアター○
- マキノが依頼で撮った企業宣伝映画。依頼主の大日本麦酒はこの頃、ヱビスビール、サッポロビール、アサヒビール、ユニオンビール(三ツ矢サイダーも)を扱っていた大会社らしく僕はやや混乱する。大阪市対八幡市の都市対抗野球から始まり、銀座ビヤホール〜自宅でのビール飲み、当然、ビールの製造工程の解説付、そして神楽坂の芸者陣による“ビールよいもの”踊りで、オワリ。しょうもない作品だが、ところどころにマキノ節が窺える。プリントはサッポロホールディングスから借りたらしい。入場料500円でヱビスビール350ml缶とつまみ付のお得企画は当然満席。上映前の乾杯のあいさつで支配人がビールをサッポロがタダでくれなかったことを愚痴っていた。この劇場、各席にテーブルを装備していることを初めて知った。
- #40「ペルシャ猫を誰も知らない」バフマン・ゴバディ/2009/イラン/Sep. 4/ユーロスペース1○
- 出演者はほとんど素人。イスラム社会で、禁止された西洋音楽を好む若者たちの格闘を描いた本作は生粋のゲリラ映画だ。イランの音楽シーン紹介作品として興味深い。主人公のアシュカンとネガルは映画では死んでしまうが、実際には撮影終了直後にイランを脱出しロンドンに行ったとのこと。物語に反し、無事、パスポートとビザが入手できたということか。ネガルのようなおしゃれな人たちはイランでも増えているのだろうか。プジョーを操り、ケータイで話をする裕福そうな若者たち。少なくともTVニュースではよくわからない。二人の出国を手助けしようとするナデルの早口は見事だった。言っていることは不明だが、かんでいないことは伝わる。この人は、プロの俳優。こんな映画に出て大丈夫?(監督は逃げたよ。)
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- #39「ミックマック」ジャン=ピエール・ジュネ/2009/仏/Sep. 4/恵比寿ガーデンシネマ1
- 『デリカテッセン』、『ロスト・チルドレン』、『アメリ』とこの監督の映画を観てきている。『エイリアン4』を観ていないので断言はできないのだけど、語り口とブラックかつ偏執的なテーマ選びが一貫している。(観たことないけど)ピクサー・アニメと何が違うんじゃい、という気もするが、ま、いいじゃないか。今回は軍事産業の親玉をハングマンする。主人公バジルが働くレンタルビデオ屋で流れているのは『三つ数えろ』。ボギーになりきるバジル。そのままワーナー風のモノクロでタイトルバックに移行するところがかっこいい。話の中身は上記のとおりで、例によってフリークス集団が大活躍して悪玉を倒す。ピンチはほとんどない。ピンクは多少あったが。
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- #38「歌う若大将」長野卓/1966/東宝/Sep. 1/銀座シネパトス3
- あー、頭の中から若大将の歌声が抜けない〜。加山雄三芸能生活50年。赤木圭一郎没後50年。だからといって、このコラボはないだろう。二本立てなのでとりあえず観る。これ以外に観る理由があろうか。お腹も問題ないし。激しく褪色したフィルム。今はなき茅ヶ崎パシフィックホテルのプールでのオフの映像から始まる、日劇での“加山雄三ショー”のドキュメンタリー。何本かの『若大将』シリーズからの引用を入れながら、ひたすら若大将を写す。客席から“雄ちゃーん”なんて声がかかる。この時代なら普通“裕ちゃん”だろう。加山雄三が歌う姿を見ていると、キャンディーズが出ていたTV番組『みごろ!たべごろ!笑いごろ!』を思い出した。デンセンマンってのがいたなあ。
- #37「霧笛が俺を呼んでいる」山崎徳次郎/1960/日活/Sep. 1/銀座シネパトス3○
- 1960年、いづみさま25歳。美しさの絶頂にあったこの時期には『あした晴れるか』等の傑作もある。いづみさま#57。もちろんDVDは所有しているが、一度はスクリーンで観たいと思い、人間ドック後、バリウムを抜くための下剤を飲んだ状態で劇場へ。赤木圭一郎主演。彼女は赤木圭一郎の親友・葉山良二の恋人(奥さん?)で、悪役・二本柳寛のクラブで歌手をしている。もちろん唄は吹き替え。恋人(旦那?)が死んだというのに、妙に落ち着いている。『死への逃避行』のイザベル・アジャーニみたいに、服やヘアスタイルをどんどん変えていく。日活国際ホテルでのロケ。自社ビルとはお手軽だ。ペニンシュラではできないぞ。横浜に土地勘もないはずの赤木圭一郎の乗るオープンカーは、いつどこで調達したのだろう?
- #36「女神」呉永剛/1934/中国/Aug. 25/フィルムセンター○
- 原題は『神女』。辞書をひくと“1.女神 2.遊女,娼妓”とある。なるほどね。阮玲玉主演のサイレント作品。子持ちの街娼役で、子供のためなら何でもする。最後には、ヒモ(こいつ、東映任侠に出てくるチンピラにそっくり)を殺してしまい、懲役(禁固かも)12年を食らう悲惨な話なのだけど、終わり方に希望が見えていて印象は意外に爽やか。舞台は上海? にしては、知っているビルが見えなかった。阮玲玉といえば、しかめっ面。というのが僕の脳内にある阮玲玉モデル。本作でもそれが頻繁に見られる。しかめっ面をする女優というのはそんなにいない気がするなあ。今回の発見は、彼女の顔には結構アバター、もといアバタがあることだ。あの時代、アスタリフトもなく、お肌の手入れも大変だったということかな。
- #35「田舎町の春」費穆/1948/中国/Aug. 17/フィルムセンター○
- 超有名な『小城之春』、これまで観たことがなかった。なんとなく、能天気で長閑な内容をイメージしていたのだが、なかなかどうしてスリリングな展開。美人でもない太太がどんどん艶めかしく変身していくさまの描写がすばらしい。そして、病身の少爺・田中春男が健気である。(なぜ、関西弁を喋ったりコノワタを食べたりしないんだろう?と思うほど、似ていたよ。)難点を書かせてもらえば、妹妹役の女優の顔の大きさ、学芸会のような演技の大げささ、これは見ていられなかった。日中戦争終了後、解放までの短い期間に生まれた、資本主義の匂いが消える前の貴重な作品。邦題は、できれば原題のままにしていただきたかった。十分伝わると思うけど。→刈谷先生。
- #34「女王蜂の怒り」石井輝男/1958/新東宝/Aug. 16/シネマヴェーラ
- これは去年も観た(→一回目)。ディジタル素材だったので、うちで観ても同じなのだけど、せっかくの二本立てなので、ついでに。三原葉子の紅い簪と近衛敏明のベッドルームのピンク照明、この2色が印象深い。それ以外に見どころなし。木偶の坊の菅原文太はジョージという名前なんだな。付け鼻には見えなかったけど、舶来だから台詞が棒読みなのかな? 久保菜穂子の衣装がヘン。宇津井健の警官姿がヘン。ウルトラ警備隊のユニフォームを着ていない中山昭二がヘン(というのは失礼か)。最もかっこよかったのは、凶悪なやくざの親分・天知茂。まだ若いのにさすがだ。横浜みなと祭は今年で58回目らしいので、この映画中のは始まって間もない頃。まだ、仮装行列じゃないね。
- #33「神火101 殺しの用心棒」石井輝男/1966/松竹/Aug. 16/シネマヴェーラ○
- 劇場では観ていなかった、『東京ギャング対香港ギャング』と双璧をなす石井輝男の香港・澳門系作品の大関。紋切型中華メロディーをジャズにミックスしたBGMで始まる冒頭の迫力だけを見れば、横綱だな。“香港スター多数出演”らしいが、林翠以外の誰がスタアなのか、さっぱりわからなかった。島の北側から香港仔の水上家屋へ至る秘密のトンネルはどこにあるのだ? 浅水湾の一号ブイはなかなかフォトジェニック。記憶に反し、澳門ロケ部分はほんのちょっぴりだったなあ。大木実、怪しすぎる。いや、嵐寛寿郎の方がよほど怪しいか。ようく見ると、作品は竹脇無我と吉村実子のラブ・ストーリーで、神火・吉田輝雄はあまりお呼びではない。吉村実子、おまえは誰だ。美人ではないけど、なかなかキュートだったよ。
- #32「何も変えてはならない」ペドロ・コスタ/2009/ポルトガル=仏/Aug. 7/ユーロスペース○
- ジャンヌ・バリバールといえば、傑作『そして僕は恋をする』のヒロインのひとり。音楽もやってるんだ。それで、何を変えてはいけないのか確認に行った。話題作のはずだが、公開第二週ですでに場内はガラガラ。モノクロームの映像がきれいだなあ…、と思っているとウトウトが始まった。まずい、まずい。さいわい、彼女が声楽レッスンを受けるパートから覚醒できた。しつこい繰り返しが面白くなってきたのだ。ライブ映像もあったけど、そこだけ解像度が高くなくて残念だったな。日本の喫茶店で撮ったと思われる日本人おばさん二人の謎の映像は何だったんだろう? そうそう、変えてはいけないものは楽譜に書かれている楽曲だった。基本が大切だ。
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- #31「シルビアのいる街で」ホセ・ルイス・ゲリン/2007/スペイン=仏/Aug. 7/シアター・イメージフォーラム★
- 『エル・スール』ばりのオープニングに期待が一気に高まる。朝のホテル前のT字路は小津構図。右から左から、人々が画面を横切っていく。あとで気づくが、同じエキストラが何度も出てきて、さりげなく日常性を表現するところがいい。カフェでの延々と続く女性観察&スケッチ。愉しい。そしてシルビアらしき女性の尾行。ヨーロピアンなトラムがくねくね走り回る街中を彼女を追って歩き回る。いたるところに“Laure, Je t'aime”の落書きが。こういう細かいところが最高。公開初日の初回は、映画館が開く前の長い行列ができていて汗だくになったが、その甲斐があったというものだ。バーでは、懐かしいBlondieの『Heart of Glass』がかかるよ。主人公が持っていたのは最近ニュースになった第1世代iPod nanoだったな。
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- #30「明治・大正・昭和 猟奇女犯罪史」石井輝男/1969/東映京都/Aug. 6/シネマヴェーラ○
- 石井輝男度100%の怪作。入るとき気がつかなかったけど、これはR18のはず。明治〜昭和にかけての猟奇事件:東洋閣事件、阿部定事件、象徴事件、小平事件、高橋お伝のオムニバス(阿部定事件以外知らん)。監察医の吉田輝雄が語り手で、自殺した自分の妻を司法解剖するシーンから始まり、妻の自殺原因を推察するため過去の猟奇事件を調査する、というむちゃくちゃ無理な設定。くそまじめに演じる吉田輝雄、あんたは偉い。小平事件なんて小池朝雄が変態強姦魔で、女の事件じゃない。それを吉田輝雄は“女の魔性がそうさせるのか…”などと嘯き、誤魔化す。本作品の最重要セールスポイントは、なんと本物の阿部定(もう、ばあさん)が出てくること。浅草の橋の上で吉田輝雄のインタビューを受けるのだ。ふみゅう。
- #29「母情」清水宏/1950/新東宝/Aug. 2/神保町シアター○
- 戦後の清水作品の中では、本作、かなり上位にランクイン。母ものの系譜だが、主演は三益愛子ではなく、なんと清川虹子。いつ拳銃をぶっ放すかと思った。仕事の邪魔になる子供三人を伊豆あたりの親戚に預けに行くロード・ムービーの形式で、途中、鄙びた温泉に滞在したり、そこに団体さんが泊まったり、旅芸人一座も登場したりして、『有りがたうさん』+『簪』+『按摩と女』テイストも醸し出す。相変わらずの移動撮影。子供たち。特に寝小便する長男がいい。“女”として、山田五十鈴がゲスト出演。クレジットに伊達里子の名前を見つけて、どこに出てくるんだろうと画面を見つめていたけど、ついにわからずじまいだった。助監督・石井輝男。これで場内に笑いが起きる。平日夜の名画座。ディープな世界だ。
- #28「白線秘密地帯」石井輝男/1958/新東宝/Aug. 1/シネマヴェーラ○
- 栄えある“地帯(ライン)”シリーズ第1作。『日本ゼロ地帯…』同様(本当は逆だが)、売春禁止法を境に変化した性風俗業界を舞台に犯罪が起こる。上野のトルコ風呂で働く三原葉子だよ。すぐやめちゃうけど。月島(佃島だったかな?)のドライブクラブなんてのも出てくる。女性と車でデートする趣向。そんなのいまないよね。そういうところで裏流通する“SSS”カードが秘密クラブへのチケットなんである。何の略だろう→SSS? スーパージャイアンツ刑事・宇津井健が秘密クラブの幹部を追いかけるラストシーンは、東京電力のどこやらの発電所。石炭の山で真っ黒になりながら撃ち合う。暑そう。悪人のひとりに、まだ映画出演二作目の菅原文太。若い。そして、極悪な親玉は、近衛敏明、あんただ。
- #27「日本ゼロ地帯 夜を狙え」石井輝男/1966/松竹/Aug. 1/シネマヴェーラ○
- なんと、松竹の“地帯(ライン)”もの。こんな作品あったんだ。カラーだよ。戦中から売春禁止法施行後の世の中で、売春組織がどう変わったか、吉田輝雄がどう変わったか、アラカンがどう変わったかが描かれる。吉原の女郎屋は、秘密売春組織に。女郎の香山美子と逃げそびれた純情な吉田輝雄は学徒出陣し、戦後は売春組織のエージェントに。そして博徒だったアラカンは、戦後は…、やはりアラカン。わはは。三原葉子が出てくるのは戦後のみ。売春組織のメンバーなのだが、ここの女性に真理明美やら清水まゆみやら。真理明美って真理アンヌと関係ないの?なんか似てる気がするけど、姉妹だったりするのだろうか? 秘密売春組織の幹部に待田京介。そして、極悪な親玉は、山茶花究、あんただ。
- #26「私は泣かない」吉田憲二/1966/日活/Aug. 1/ラピュタ阿佐ヶ谷○
- いづみさま#100。髪を三つ編みにした養護施設のゆみえ先生だ。和泉雅子を説教する。僕も説教されたい…。さて、その和泉雅子は、太田雅子らとズベ公グループを構成し、新宿で暴れて女子少年院に入れられ、出てきてから、弁護士の保護司宅に預けられる。弁護士には小児麻痺の男の子がいて、この子とのふれあいを通じ、和泉雅子が更生していくという立派なお話だ。川崎の電機工場に勤めることになる彼女に幸あれ。人命は何者にも代え難い尊いものという現代平和社会のプリンシプルに照らすと、挿話の障碍者の子供を殺してしまった父親の裁判はずしんと重い。さて、いづみさまものを全作観るのは僕のライフワークのひとつだが、3/4くらいからほとんど進捗しなくなったよ。ネガは残ってるんだよね?
- #25「樺太1945年夏 氷雪の門」村山三男/1974/JMP/Jul. 30/シアターN渋谷
- セクシーアシスタント中澤有美子が紹介していたので知ったヘンな映画。樺太が舞台で出演陣もまあ豪華。美術は木村威夫だし観ても損はあるまいと思ったのだが、損しました。“ソ連の圧力によって封印された幻の”までは事実かも知れないが“名作”では断じてない、“迷作”。中立条約を破棄し侵攻した上8/15を過ぎてもそれをやめなかったソ連軍に対しなすすべなしの帝国軍と民衆。ソ連軍に対する憎悪よりも、逃げ、殺され、自決する人たちがかわいそうという視点で描かれている点は、その土地が日露戦争の戦利品であったことが影響しているのかもしれない。本土への疎開命令が出たとき、女性たちが“帰る”という言葉を使う。樺太で生まれ育ち北海道にも行ったことのない者が“帰る”などと言うはずがない。
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- #24「北京の自転車」王小帥/2000/中国=台湾/Jul. 23/新宿K's cinema○
- 10年も前の王小帥作品。ようやく観られるのは、上映禁止だったからか。もう北京じゃこんなに自転車走ってないよ。僕が最後に北京に行った頃の景色が見られる、そういう意味では楽しい一篇。自転車を盗まれた貧しい少年と盗品を親からくすねたお金で買った貧しい少年が、一台の自転車を巡り骨肉の争いを続ける。彼らの周囲はリッチな階級。自転車はその階級に接するためのツールなのだ。最初うんざりしたけど、だんだん面白くなってくる。ラストで、不良少年が件の自転車を徹底的に壊そうとするシーンなんて最高だ。古い街並みを疾走する自転車を捉えるキャメラがよかった。周迅が派手なメイクと服装で出ているのだけれど、一言も発声しない。家政婦らしいので、田舎出身で訛りが恥ずかしいという設定と推測。
- #23「シャングリラ」丁乃筝/2008/中国=台湾/Jul. 23/新宿K's cinema
- 監督は頼聲川の奥さんらしい。中国映画の全貌2010、最初の作品は、最愛の息子を亡くした母親が息子の隠したお宝を探しに台北から中国・雲南に飛ぶ、一種のロード・ムービー。設定からしてヘンテコだけど、中国パートでのファンタジックな話がどうにもご都合主義な展開で、いやになってくる。それに加え、『世界遺産』みたいな風景・風俗描写があざとい。(『世界遺産』でやるのなら、文句はありません。)ストーリーの根底にある重いテーマは、紋切り型で解決されてしまったよ。香格里拉という場所が本当にあるとは知らなかった。と思ったら、最近できたんだな。自分の生まれ育った場所が急にシャングリラと呼ばれるようになったら、どう思うかなあ。
- #22「ザ・コーヴ」ルイ・シホヨス/2009/米/Jul. 19/シアター・イメージフォーラム○
- 和歌山県太地町のイルカ漁を動物保護の視点から糾弾する話題作。新興宗教団体の秘密の儀式への潜入ルポのようなエンタテイメント性をもち、動物愛護やナショナリズムに関心がなくとも十分ひとを惹きつけると思う。対象がたまたま日本だから、日本では別の面から注目されているけど…。太地、というか日本が世界中の水族館へイルカを出荷しているとは知らなかった。売れなかったイルカは海に帰されず、殺され食肉として売られる。年間20,000頭も殺しているのに誰がそんなに食べているのか、と思ったら、スーパーで鯨肉として売られているという。本当? 鯨肉さえ最近は見ないよね。一体どうなっているのか謎だ。害獣駆除vs水銀汚染、どちらの主張も説得力に欠けるが、僕はイルカ漁の継続には必然性がないと思う。
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- #21「ミャオミャオ」程孝澤/2008/香港=台湾/Jul. 19/スパイラルホール○
- ♀(a)→♀(b)→♂(c)←♂(d)という関係の、誰の恋愛も成就しない青春もの。關錦鵬プロデュースです。渺渺という女子高生(b)は台湾生まれの日本育ちで、台湾に短期留学してきたという設定。おとなしいと思っていたら、意外に積極的で、CD屋の寡黙な店主・范植偉(c)に親友のシャオアイ(a)を巻き込んでジェットストリームアタックをかける。CDタイトルを利用したラブレターはなかなか洒落ているけど、こんなの高校生じゃむりだよ。全体としてはかなりさわやかな印象を残すものの、ストーリー展開とかキャメラワークとかは好みではない。そんな中、陳綺貞の『旅行的意義』がテーマ曲のひとつとして流れ、彼女たちもカラオケで熱唱する。いいよなあ、陳綺貞。新譜出ないかなあ。
- #20「アルゼンチンタンゴ 伝説のマエストロたち」ミゲル・コアン/2008/アルゼンチン/Jul. 3/ル・シネマ1★
- チラシにも書いてあるが、まさしくタンゴ版『ブエナビスタ・ソシアル・クラブ』。バンドネオンの過激な音色が情熱的なこの音楽、僕にとっては、『ブエノスアイレス』に出てきたBAR SURに行って、東洋人が珍しいのかフロアに呼ばれ踊らされた(踊れるわけない)にがい経験がある。別にそれでタンゴが嫌いになったわけではないけれど。往年のマエストロたちが次々とスタジオに現れリハーサルする前半はうっかりすると寝そうになったけれど、後半のブエノスアイレスご自慢のコロン劇場でのコンサートは圧巻。92分という上映時間では、途中をダイジェストとするよりほかないのが残念。コンサート・ライブ版を作ればいいのに。とか言いながら、CD買わなかった…。
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- #19「踊る大捜査線 THE MOVIE 3 奴らを解放せよ!」本広克行/2010/フジテレビジョン=アイ・エヌ・ピー/Jul. 3/渋東シネタワー2○
- このシリーズはいつまで続くのか。忘れた頃にパート3公開。はっきり言って、徐々にパワー落ちていると思う。所轄vs本庁の対決構図も、ギャグパターンもマンネリ化。第1作から続くテクノロジー嗜好もいささか過剰。ふかっちゃんさえ出なくなれば(水野美紀は引退したぞ)、こんな映画観なくても済むのだが。良質な作品に近年恵まれないね。それはそれとして、いつまでも美しく凛々しい。恩田すみれ万歳、万歳、万々歳。人の目がなければ★付けてもいい。ところで、Part 1ではPowerBook G3ユーザだったキョンキョン、今回なぜXperia使ってるの? ここは絶対iPhone 4でしょう。docomoは青島係長にまかせておけばよろしい。それにしても、TVドラマの頃が懐かしいなあ。
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- #18「あの夏の子供たち」ミア・ハンセン=ラブ/2009/仏/Jun. 13/恵比寿ガーデンシネマ1○
- チラシによると『倫敦から来た男』のプロデューサー、アンベール・バルザンが父親のモデルだという。しかも同作の製作途中で自殺したと。なるほど。映画人が映画人の映画を撮ることは少なくないが、これは追悼作品なのだ。映画人の映画への情熱を描きながら、同時に父親の家族への愛を描く。映画に見放されて父親が自殺。残される妻と三人の娘は悲しみながらも、父親を誇りに思い新たな生活を受け入れる。そういう話。この母親にして、この娘たちあり、である。こんな映画はフランスならではではないかな。長女が、新人映画監督の青年に惹かれていくのが泣かせるよ。さて、欧州映画恒例のパンダ探し。完敗でした。そんなこと、ケ・セラ・セラ♪さ。
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- #17「トロッコ」川口浩史/2009/トロッコLLP/Jun. 13/シネスイッチ銀座2
- 亡くなった父親の遺骨を祖父に届けに母親と台湾を訪れる、実と勇(ホントは敦と凱。もっと普通の名前にしなよ)、幼い兄弟の物語。トロッコで深い森に入っていくふたりは、まるで亡霊のような、日本人になれなかった台湾人のおじいさんに会う。なかなかのファンタジーだが、全体としてはどうにも感情移入できずに終わった。“日本人になれなかった台湾人”に対し、監督のポジションがどうも中途半端なのだな。台湾に来て外で遊んでいるのに子供たちが一向に日焼けしないのも気になった。最近の日本人俳優の北京語の堪能さには感心する。やはり、第二外国語として中国語が選択できるのが当たり前の時代だからか。うらやましい。萬芳が出てた。えらく若く見えた。梅芳が出てた。北林谷榮のように年が変わらないな、この人は。
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- #16「クロッシング」キム・テギュン/2008/韓国/Jun. 4/銀座シネパトス2
- 北朝鮮(“北鮮”と呼ぶひとがいるが、こわい)の民衆がどんな生活をしているのかというのは、コチラ側では時々ドキュメンタリーやニュースで伝えられている。この映画の中の描写はそれらと変わらない。これらが真実なのかどうかは実際に見ないことにはわからないのだけれど、もうそう刷り込まれちゃってるよね。そう、コチラ側でもマスコミによる洗脳が行われているのだ。気を付けましょう。さて、中身は病気の妻のために豆満江を渡って中国で薬を手に入れようとした男が、図らずも脱北者となって祖国に帰れず、家族と会えなくなる話。かなり悲惨だ。キリスト教に影響され死後天国での再会を信じる息子。向こうでも家族が同じなら、国も同じかもよ。瀋陽ロケあり。ロータリーの特大毛沢東像が懐かしい。
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- #15「春との旅」小林政広/2010/『…』フィルムパートナーズ/Jun. 4/丸の内東映2○
- 小林映画らしからぬ豪華出演陣で、すっかりメジャー系か。観てみて初めて知ったが、これは仲代達矢を主演に据えた小林版『東京物語』であった(もちろん、よく見りゃだいぶ違うよ)。仲代達矢という俳優はうますぎて、笠智衆役にはハマらない。原節子=紀子役は戸田菜穂。老いて足も悪い仲代は兄弟のところでたらい回しに遭うのだが、登場人物はみないい人ばかり。小林映画にはこれまでどこかしら毒があったものだが、本作にはそれがない。かといって、小津のようにユーモアもない。うーむ、『白夜』に次ぐハズレかな。でもね、淡島千景が旅館の女将さん役で出てて、田村を継いだって感じがとてもよかった。ここだけでも観る価値が、小津迷としてはあります。本当にあるんだな? あります。
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- #14「冷たい雨に撃て、約束の銃弾を」杜琪峰/2009/香港=仏/May 16/TOHOシネマズ川崎Screen 6○
- 呉宇森のいなくなった香港において、男の映画を撮る第一人者となった杜琪峰。呉宇森をとっくに超えているが、フィルム・ノワールの本家おフランスからも注目され、本合作となった。主演は、ジョニー・アリディ。うぉー、じいさんだよ。アイドルじゃないよ。彼に雇われ復讐を請け負うのは、いつもの黄秋生や林雪、林家棟。シゴトの前に、依頼人がそのシゴトに意義を感じなくなったら、シゴト人はどうすべきか。しかもそのシゴトはと〜っても危険なんである。もちろん、彼らのサインはGOだ。ハレンチ任達華なぞ殺ってしまえ。もう東映任侠そのものだ。降っても晴れても頭巾は悪魔の印というのがわかりやすい。ところで、“レ・フレール” ここで言うか、林雪? 何が何でも、それは臭いでしょう。
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- #13「旅芸人の記録」テオ・アンゲロプロス/1975/ギリシャ/Mar. 27/ユーロスペース2★
- 映画館で観るのはなんと25年ぶり(わぉ。⇒前回)。なにしろ、4時間近い超長尺のため、観るには勇気と体力が必要。ギリシャ神話がベースにあるそうで、それとギリシャの現代史がよくわかれば★★なんだろうな。1939年から1952年までのギリシャを、旅芸人一座を透かして描いている。1952年のある駅前で始まり、1939年の同じ駅前で終わる。といっても、『ペパーミント・キャンディー』のように時計を逆回しするのではなく、時間を自在に往来できるのがアンゲロプロスの凄腕。13年離れた両シーンで、一座が置かれる個人的状況も社会的状況もまったく同じ、というのは小津的。清水宏も顔負けの長廻し移動撮影。やはり『プラットホーム』との比較をすると面白そうだが、きっとすでに誰かが書いているだろな。
- #12「友だちの恋人」エリック・ロメール/1986/仏/Mar. 14/ユーロスペース2○
- こちらも“喜劇とことわざ”シリーズの一篇。パリ郊外の新興都市に暮らすOL(公務員?)のブランシュが恋人をゲットするお話。ブランシュ役のエマニュエル・ショーレはなかなか可愛い。と、予告篇を観るたび思ったことを記憶している。なのになぜ当時本篇を観なかったのかは謎。友だちの思っている人あるいは恋人に恋するときのうしろめたさという、青春ものでは紋切りの、たわいもないストーリー。会話を始めとする女の子描写に卓越したロメールだからこそ、鑑賞に堪えうる。ラスト・シーンで、入れ替わったカップルが互いに旧い相手と同色の服を着ているのは、かなりあざといけどね。会話にイブ・クラインが出てくるのに少々びっくり。関係ないけれど、旧パンダも出てきたよ。
- #11「緑の光線」エリック・ロメール/1986/仏/Mar. 14/ユーロスペース2○
- 永遠の女の子追っかけ映画作りじいさん、エリック・ロメール追悼特集に行って来た。懐かしいシネ・ヴィヴァン・六本木の匂いがする作品。すっかり観た気になっていたけど、記録を確認したら単に予告篇を何度も観ただけだった。ひとりではヴァカンスに行けない植物系の縁起担ぎ奥手女が、ついに積極的になり緑の光線を浴びてゴケミドロに、もとい幸せになるお話。周りが気を使って色々声をかけたりもてなしたりしてくれるのに、ことごとく遠慮なく断る。まったく困った女性である。気がつくと勝手に泣いてるし。こういう女の描写にロメールは拘る。絶品だ。女優(マリー・リビエール;常連)が別嬪ならなおよいのだが…。ビアリッツのビーチにはトップレスの女性がたくさんいたぞ。いまでもいるのかなぁ?
- #10「男の顔は履歴書」加藤泰/1966/松竹/Mar. 6/アテネ・フランセ文化センター★
- 観るのは三度目(⇒最初,⇒二度目)。15年以上ぶりか。頭の中のイメージは、退色したフィルム。安藤昇の棒読み。マーケット。今回は“世界の中の日本映画”特集ということで、きれいなプリントに英語字幕付の上映だ。改めて観ると、この映画はいい。三つの時代を行き来し、日本人、三国人(特に朝鮮人)、アメリカ人(占領軍)の間の因縁をむき出しにして観客に居心地の悪さを提供しながら、中谷一郎(AKA弥七)と中原早苗がこれを中和する脚本がニクイ。エンディングも秀逸。安藤昇が名優に見える。真理明美(って誰?)もいいし、菅原文太の暴れっぷりも、アラカンの老いぼれぶりも、いい味だしてます。ま、なんといっても内田良平のメイクにはぶっ飛ぶけどね。
- #9「日本暗殺秘録」中島貞夫/1969/東映京都/Feb. 11/フィルムセンター○
- これを観たのは…、9年も前か。そのときもフィルムセンターで、満席だったように思う。まあ、テレビでは絶対にやらないし、いまの日本ではとうに忘れられた“暗殺”の文字が踊るタイトルに誘引され、ごきぶりホイホイのように、怪しい映画好きが集まるのだろう。江戸末期〜昭和にかけて起こったいくつかの暗殺事件をオムニバス風に描きながら、血盟団事件(1932)と二二六事件(1936)をメインに据えている。特に血盟団事件の小沼正。チバちゃんが演じている。本作全体がオールスターキャストなのだが(この面子でこのテーマとは…)、このパートには井上日召役で千恵蔵とチバちゃんの再就職先のカステラ屋に小池朝雄が出ており、暑苦しい。他では観られない小池朝雄を見たい人は必見。(そんな人、いないか)
- #8「赤い天使」増村保造/1966/大映東京/Feb. 11/ラピュタ阿佐ヶ谷★
- “赤い”とはいかなる意味だろうか?少なくとも百恵ちゃんの『赤い』シリーズとは無関係のようだ。若尾ちゃんが従軍看護婦になって中国戦線にやってくる。“西(若尾ちゃんの役名)、入ります”なんて軍隊用語使ってるけど、色っぽい。それでいて、気高い。“天使”という表現がぴったりですね。相当の腕をもつ外科医のようだが、何もない医療環境で、負傷兵に対し見捨てるか、脚や腕を切断して生き延びさせるかを冷徹に判断する軍医の芦田伸介もかっこよかった。生々しい記録写真がオープニングで使われ、ロケもかなりリアル。ボロボロになっていく皇軍、何も知らされない銃後。増村の戦争に対するスタンスも強烈に感じることができる、隠れた傑作。
- #7「パパラッツィ」ジャック・ロジエ/1963/仏/Jan. 30/ユーロスペース○
- 『バルドー/ゴダール』とセットの、こちらは20分の短篇。マラパルテ邸に接近し、BBを激写しようとするパパラッチたちと、それを追い払おうとする撮影隊の戦い。崖っぷちに、スーツ、ネクタイ、革靴でやって来るパパラッチたちは、みんなお洒落だ。やっぱり、イタリア人は違うね。
- #6「バルドー/ゴダール」ジャック・ロジエ/1963/仏/Jan. 30/ユーロスペース○
- カプリ島で『軽蔑』を撮影するJ=L・ゴダールと主演のブリジット・バルドーを追った、たった10分のメイキング・フィルム。本篇と異なり、こちらはモノクロ。有名なマラパルテ邸での撮影風景には、当たり前だがゴダールが写っていて、ミシェル・ピコリより断然格好いいよ。ビキニの女の子?そりゃ、BBだ。
- #5「ブルー・ジーンズ」ジャック・ロジエ/1958/仏/Jan. 30/ユーロスペース○
- いきなりイタリアン・ポップをBGMにヴェスパ2台でつるむナンパ師のシーン。掴みは十分。22分の短篇に、『アデュー・フィリピーヌ』のエッセンスが詰まっている。もちろん、ビキニの女の子もたくさん登場。リゾート地カンヌ。海の感じが鎌倉によく似てるなあ。街もリゾート地だった頃の由比ヶ浜大通り(あの頃は銀座と言ったんだっけ?)って感じだ。
- #4「メーヌ・オセアン」ジャック・ロジエ/1985/仏/Jan. 30/ユーロスペース★
- タイトルの“メーヌ・オセアン”って何だと思っていたら、特急列車の名前だとあっさり判明する。黒人女性がこの特急列車に飛び乗るシーンから始まり、白人男性が船から降り車に乗って去っていくシーンで終わる、中心のない、どんどん流れていく不思議なストーリー。列車、検札、裁判、島でのプチ・ヴァカンス、船のヒッチハイク。なんなんだー?130分の長尺にもかかわらず、その時間を感じさせない心地よさ。例によって長廻し。移動撮影も効いている。あんたは清水宏か? 今回はビキニの女の子はなしか、と思ったら、ブラジル人だった黒人女性がカーニバルの格好で踊り出した。最新作が観たいものだ。
『オルエットの方へ』の可哀想な上司が出演。常連なのかな?
- #3「オルエットの方へ」ジャック・ロジエ/1970/仏/Jan. 23/ユーロスペース○
- ジャック・ロジエ特集の二本目はカラー。でも、ダラダラ。160分は長すぎだ。箸が転んでも可笑しい年頃の三人の女の子が少々遅めのヴァカンスを大西洋岸の別荘で過ごす。そこに一人の女の子の上司がやってきたり、ヨット乗りの男が絡んできたりする3週間ほどのお話。キャロリーヌが可愛かったよ。この監督、要は女の子が撮りたいんだな。そういう意味ではロメールじいさんの方に近い。キャメラに向かって俳優が話しかけるいかにもヌーヴェル・ヴァーグ的なショットはともかく、本作でも多用している移動撮影がいい。あと、ヨット・シーン。キャメラをディンギーに乗せ、本当に恐がる女の子を撮っているのだが、これが迫力満点。ヨットって楽しそうだ。しかし、ヴァカンスって地中海側だけじゃないんだな。
- #2「アデュー・フィリピーヌ」ジャック・ロジエ/1962/仏=伊/Jan. 23/ユーロスペース○
- なんともおフランスなチラシで期待大だった、ジャック・ロジエ特集。その一本目はモノクロ作品。青年が仕事をクビになって、兵役までのふた月をヴァカンスで過ごすのだけど、そこに以前ナンパした親友同士の女の子二人もやってきて恋の鞘当てというやつである。話としてはたわいもない。“待っていてくれた方と付き合う”などと、娘のお父さんが聞いたらピストルで撃ち殺しそうな文句を吐いて、青年は兵役に向かう。リリアーヌの方が可愛かったよ。ダラダラ感は、先日ついに亡くなったエリック・ロメールよりも、ホン・サンスに近いかな。移動撮影が楽しい。『地下鉄のザジ』でザジを狙う怪しい人物を演じていたヴィットリオ・カプリオーリが本作でも怪しい映画監督を演じていた。愛車はVELAM Isettaね。
- #1「こんにちは赤ちゃん」井田探/1964/日活/Jan. 9/ラピュタ阿佐ヶ谷○
- 新年一本目の映画は、いづみさま#84。レア物ゲット。山内賢+和泉雅子主演のコメディで、藤村有弘ら日活脇役陣が固めている。E.H.エリックが懐かしい。いづみさまは25歳の未亡人という少々サバを読んだ役柄の落ち着いた女性を演じ、本当に“特別出演”の吉永小百合より断然輝いている。(と思ったのは僕だけかもしれないが。) 全体としては船乗りが過ごす横浜上陸一夜の、通信士・桂小金治の子供が産まれる騒動を軸にしたドタバタ劇で、ふんだんに盛り込まれたギャグはかなり寒い。そんななか、スポンサー・森永のドライミルクが出てくるタイミングと撮り方は結構笑えた。ヒ素ミルク中毒事件で同社はバッシング下にあったと思われるが、当時のウケはどうだったのだろうか? 山猫軒でディナーして帰る。
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Last update: 12/23/2010
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