[↓2010年][↑2012年]

2011年に観た映画の一覧です

今年の目標: まだないよ。

星の見方(以前観たものには付いてません)
★★…生きててよかった。
★…なかなかやるじゃん。
○…観て損はないね。
無印…観なくてもよかったな。
▽…お金を返してください。
凡例
#通し番号「邦題」監督/製作年/製作国/鑑賞日/会場[星]

#90「東京のヒロイン」島耕二/1950/新東宝/Dec. 18/フィルムセンター○
ひさしぶりにフィルムセンターに見参。香川京子さん特集だ。主演は森雅之と轟夕起子。完全なコメディで、森雅之のコメディアンぶりには多少戸惑いながらも、徐々に巨漢へ脱皮しかかっている轟夕起子とのかけ合いを楽しんだ。多少『素晴らしき日曜日』を連想させる演出の臭さが漂ってはいたが、戦後間もない時期でまだ珍しいのだろう、街に流れる音楽に極度に反応する二人が微笑ましい。香川京子さんは轟夕起子の妹で学生でバレエ団にも入っているという設定。セーラー服を着たり白鳥になったりしてサービス満点であった。本作は脇役が正真正銘豪華。入江たか子、河津清三郎、斎藤達雄、菅井一郎、潮万太郎…、あれ?そうでもないかな?
#89「霧と影」石井輝男/1961/ニュー東映/Dec. 18/ラピュタ阿佐ヶ谷○
態度が怪しいので織本順吉がてっきり犯人のわかりやすい話かと思ったら、実はとっても複雑だった。丹波哲郎と梅宮辰夫のブンヤコンビが能登半島で起きた不審事件の謎解きをする。霧も影も関係ない。石井輝男らしい、細かいことには拘らないスピーディーな展開が魅力。例えば冒頭、汽車が海岸沿いを疾走するシーンを複数カットで見せるのだが、進行方向左手に海があると思ったら、次の瞬間には右に海があったりする。女優陣はまったくわからないけど、男優はなかなか豪華な布陣だったな。上記3名のほか、柳永二郎とか、安井昌二とか、八名信夫とか…、地味か。話がどんどん膨らんで、結局、殺しの方法は最後までわからず仕舞いだったよ。
#88「恋曲」張賛波/2010/中国/Dec. 10/ポレポレ東中野(CIFFT)
この日、三本目のドキュメンタリー作品。延々と喋り続ける惠子(フエズ、日本人じゃないよ)。えー、これが2時間続いたらどうしようという不安なオープニング。この不安は割と当たっていて、自分を騙していた男について悪口を言ったりのろけたりで、うんざり感は『緑の光線』級。割と可愛いのがかろうじての救いだ。彼女がKTV(カラオケボックス)で働いているというのが伏線になっていて、カラオケでラブソングを唄う二人がモノクロ映像でときどき挿入される。しかも、全体がカラオケの画面みたいになって、歌詞がスーパーインポーズされるのだ。このパートによりかなり劇映画っぽい印象に変わるのが興味深い。そんなアイデアは悪くないんだけど、残念ながら惹かれなかった。
#87「占い師」徐童/2009/中国/Dec. 10/ポレポレ東中野(CIFFT)○
身体障碍者の占い師を追ったドキュメンタリー。占いは中国では違法なんだそうだ。行動、思想のみならず、運も、コントロールするのは共産党だけ、というわけだね。眼光鋭いこのよく当たる占い師のおじさんには心身に障碍をもつ奥さんがいる。近所をうろついて、捨ててある衣服を拾ってくる奥さん。そして、風俗按摩屋を経営する女性とか、おじさんが占う客。幸福そうな人はひとりも出てこない。おじさんは行動派。以前住んでいた街や奥さんの実家に行ったり、仏教のお寺の縁日で商売したり。縁日では、珍しい占いの横で、奥さんに赤い服を着せて座らせ“生き仏”として賽銭を取っていた。生活は苦しいが、絶望しているわけではなく、たくましく生きているさまがかっこよく見えた。
#86「書記」周浩/2009/中国/Dec. 10/ポレポレ東中野(CIFFT)○
中華人民共和国を独裁支配する中国共産党。全国の自治体には共産党書記が散らばり、各政府機関を操っている。そんな共産党書記のひとりを追ったドキュメンタリー。配下の県で起こるさまざま課題を次々に処理し、投資案件の優遇で県に潤いをもたらし、連夜の宴会を精力的にこなす。まあ、文字にしてしまえば会社の社長も同じようなものだと思うけど、例えば宴会での傍若無人ぶりは尋常ではない。県内に工場を建てた企業のアメリカ人社長の誕生パーティーで、ドリフよろしく社長の顔にケーキのクリームを塗りたくるとか。個人が腐っているのか、組織がそうなのか。任期を終えた書記が県を去っていきビデオは終わるが、テロップで後に収賄で逮捕され服役したことが伝えられる。上層への賄賂が足りなかったのかな?
#85「タンタンの冒険 ★ユニコーン号の秘密★〈3D字幕版〉」スティーヴン・スピルバーグ/2011/米/Dec. 7/TOHOシネマズ日比谷スカラ座○
たぶん三本目のタンタン映画。(前の二本は『タンタンと水色のオレンジ』と『タンタンとトワゾンドール号の神秘』) ガラガラだったBUNKAMURAのタンタン展から約10年でこんなにビッグになりました。世界のスピルバーグだからね、タンタン知らない人でも観に行くわな。“ティンティン”に違和感あるので吹き替え版がいいかなと思ったのだけど、タンタンを読んだのは英語版が最初なので、それも面白いかと字幕版を選択。“ナントナントの難破船”などとは違う、英語での決まり文句が聞けて楽しかった。タンタンがエルジェに似顔絵を描いてもらうオープニングもいい。最大の問題は、原作と比較してミルゥ(スノーウィ)が全くかわいくないことだ。ネットでは多くの人が“スノーウィかわいい”なんて書いてるけど、本気かな?
公式サイト
#84「歓楽のポエム」趙大勇/2010/中国/Dec. 3/ポレポレ東中野(CIFFT)
妙な詩を朗読する女性の前で集団作業が行われているファーストシーンから一転、無関係そうな仕事斡旋業の男の物語が始まる。どうやらインチキらしく、預かった履歴書から剥がした証明写真を自宅の壁に貼ってコレクションしている変なやつ。うーん、最初のシーンは何だったんだー、と思っていると、その男がネズミ講で逮捕されて初犯なのに刑務所へ。するとなぎら健壱扮する看守が出てきて自作の妙な詩集を男に読ませようとする。ああ、やっとつながった。脚本が少し奇抜すぎないかと思ったけど、へんな男ふたりのオムニバスだと思えばいいのか。後を引く作品。珍しく、女性の集団入浴シーンあり。中国にもこういうの専門の女優がいるのかな?
#83「冬に生まれて」楊瑾/2008/中国/Dec. 3/ポレポレ東中野(CIFFT)
暴れん坊の二冬が、母の信仰するキリスト教系寄宿学校に入れられ、些細なことで退学し、ガールフレンドと駆け落ちし、できちゃった婚で父親になって、手厚く育ててくれた母が実母ではないという自分の出生の秘密をようやく知り、自分が捨てられていたという岩をダイナマイト150屯で爆破する。二冬の夢だか心象だか、幻想的な処理を施したシーンが何度か出てくるのが陳腐で興ざめする。冬に生まれたから“二冬”というが、長男なのになぜ“一冬”ではないのかな、というのは日本人の発想か。また炭鉱が出てきた。肉体労働現場として炭鉱はかなりメジャーなんだろうな。雨の中の結婚式の行列、偶然はちあった金持ちのそれとの対比が悲しかった。
#82「花嫁」章明/2009/中国/Dec. 3/ポレポレ東中野(CIFFT)○
沈んだはずの街、巫山。あの鄙びた風情から、すっかりニュータウンになっていた。その新生巫山に暮らす、お金に困っている中年男性4人組が保険金殺人を共謀し、遠視の代表者に偽装結婚をさせるが、代表者は相手に情が移ってしまう、という、ありそうななさそうな話。俳優はすべて素人というが、4人ともとっても怪しい。特に喫茶店(?)を経営する遠視のおっさん。店員として雇った住み込みの女性と同じ部屋に住もうという発想が、たとえ密かに結婚を狙っているとしても、おかしい。うまいこと結婚したその女性を殺すのに二度ほど失敗するところはギャグ仕立てなのだが、残念ながら笑えず。清水とか小津とか勉強していただきたいな。それにしてもこの監督、双子の兄弟かと思うほど北野武に似ているよね。
#81「奪命金」杜琪峰/2011/香港=中国/Nov. 27/有楽町朝日ホール(FILMeX)○
フィルメックスのクロージングは杜琪峰の新作。杜琪峰は以前のイメージから脱却しようとしているのか、本作もドンパチ、男の絆というものからは無縁である。常にお金の近くにいながら個人的にはお金に縁のなかった少し頭の足りない劉青雲と成績の上がらない金融商品セールスレディーの何韻詩がリーマン・ショックをトリガーに偶然の積み重ねであぶく銭を手にし、刑事の仕事に打ち込んでいた任賢齊がある事件のおかげで彼女を顧みる。決してハッピーエンドではないが、祭の後の静寂にほっとする、っていう後味かな。劉青雲のアホ演技にはまったく笑えない一方、胸を刺されている状態で必死でクルマを運転する、金で命を奪われる男の姿は滑稽だった。組織の本部前に駐まるムルシエラゴ。香港の街に似合わないなー。
#80「孔子の教え」胡玫/2009/中国/Nov. 27/シネスイッチ銀座
ついさっき『人山人海』でブラックユーモア主人公を演じていた陳建斌が、本作では佐分利信のような重厚な演技を、孔子の宿敵(?)、季孫斯役で見せる。話は没落貴族出の孔子が魯で重用され行政改革を進めるも、それを煙たがる季孫斯ら既得権者に追い出され、弟子とともに流浪の旅に出て苦労するというもの。全体が老いた孔子の回想として設定されているのがクサい。孔子演ずるは周潤發。えー、孔子ってじいさんになっても太ってたの? 哲人にまったく見えない。衛の后・南子は周迅。実際、孔子の生涯なんぞどうでもよくて、これ観に来たんだ。あまり出番なかったけど。B.C.500年頃、日本はまだ縄文時代。文明の差には唖然とするな。違いの原因は何だろう、文字の発明?
公式サイト
#79「人山人海」蔡尚君/2011/中国=香港/Nov. 27/有楽町朝日ホール(FILMeX)○
できごとの背景を後から説明する脚本がいい。客を装った強盗にあって殺されたバイクタクシー運転手の弟の仇討ちのため、逃亡した犯人を捜す粗暴な兄のさすらい。川辺の街に出て、あやしいヤクの密売人や元妻のところに居候。ふてぶてしい息子がいいね。兄はヤクに手を出し、密売人の手口で罪逃れにカミソリを飲み込もうとして失敗、お縄。笑いがブラックだ。一旦田舎の自宅に戻ってからの後半は、警官からの情報に基づいて潜入する違法炭鉱での日々。奴隷のように働かされ、犯人捜しはどうした?と思っていると、大爆発で映画は終了。『キッスで殺せ』か? いや、なんとなく経緯はわかるのだが、腑に落ちない作品。それでも、全体のトーンは好きだ。
#78「アンダー・コントロール」フォルカー・ザッテル/2011/独/Nov. 26/シアター・イメージフォーラム○
発電所の構内、制御室内、そして原子炉内のクールな映像。軽やかなBGMを流せば、ジャック・タチの映画かと見まごうような。映像がクールなら語り口もクール。いかに原子力が期待された素晴らしい技術で、反対運動は根強く、何か起これば一大事で、廃止が決まれば膨大な廃炉コストと職を失う人びとと富を失う地域が生まれることが淡々と示されていく。そして『100,000年後の安全』でも出てきた放射性廃棄物の地下保管所。寒い。終映後、開沼博氏のトークショウ。福島(原発)の問題と沖縄(基地)の問題は同じ、(誰もが納得する)解決策が見つからなくても、忘れないことが大切だという。それは結局現状肯定では? 翻訳者さん、“シュミレーション”はやめて。
公式サイト
#77「我が道を語る」賈樟柯,陳翠梅,陳濤,陳摯恒,宋方,王子昭,衛鐵/2011/中国/Nov. 26/有楽町朝日ホール(FILMeX)
終映時、会場から拍手がなかった。Jonnie Walkerをスポンサーとして賈樟柯がプロデュースした、7人の監督によるオムニバス作品。蘭州など中国西部を中心に活動する各界の人に自分の歩んできた道を語らせる。Keep walkingである。悪くはないけど、信念を貫けだの、続けていればあるとき悟りが得られるだの、結果としての成功列伝にすぎないと思う。田舎ゆえに昔は苦労したと一律に語るのもくさい。唯一モノクロで処理されたジャーナリストのパートがよかったな。レンズによると思われるモアレみたいなのが気になったけど。Q&Aではそれも気になってか、大久保賢一氏が賈樟柯にカメラはどうかと尋ねていた。賈樟柯導演は少々やつれたように見えた。単に歳とっただけかな?
#76「いちご白書」スチュアート・ハグマン/1970/米/Nov. 23/新宿武蔵野館
主題歌“The Circle Game”はアグネス・チャンが唄っていたな。サンフランシスコにある大学の学生運動に加わったボート部青年の話。原作はコロンビア大学のようだけど、さすがに協力が得られなかったのだろう。Deanの部屋を占拠し、人種差別反対と公園解放を訴え、壁にはゲバラの写真を貼り、革命を夢見てストライキする学生たち。漲るエネルギーを権力に向けるなんて、羨望である。もちろん、残念ながらもちろん、その行動は巨大な権力の前にはほとんど無力なんだけども…。SimonとLindaが登っているのはキャンバス内にある塔じゃなくてCoit Towerじゃないかな? なつかし。ところで本作を観たのは、もちろんバンバンの影響だ。おそらく周りのみんなもね。
公式サイト
#75「ミスター・ツリー」韓傑/2011/中国/Nov. 23/有楽町朝日ホール(FILMeX)○
近寄るのを遠慮したい風貌と行動の人、樹さんの世界。中国人には“樹”を含む名前の人は少ないと思う中で、魯迅という超有名人の本名はそれだ。Q&Aで本作と『狂人日記』の関係を監督に尋ねた人がいたので思い出した。なるほど、監督も『阿Q正伝』に言及していたように、本作、かなり魯迅を意識しているようにみえる。これは寓話なのか。父と兄の死をトラウマとし、結婚の前日、ついに発狂してしまう樹さん。父親の死をもたらしたのは彼なのだろうか。吉台県にあるくすんだ炭鉱の町の現実と彼の夢・幻覚を行き交う映像が悲しい。職を失った樹さんが友人を訪ねていくのは新京、ではなく長春。懐かしいね。でも、あそこのヤマトホテルにはもう泊まりたくないな。
#74「1911」張黎/2011/中国=香港/Nov. 11/横浜ブルク13 Theater 11
TIFFの特別オープニング作品で、成龍の100本目で、またまた辛亥革命100周年紀念電影。『レッドクリフ』でもあった東映製作の前説がうざったい。まあ、辛亥革命といえば孫文くらいしか知らない日本人には親切かも。孫文は孫文役者の趙文瑄。皇太后もはまり役の陳冲。あと女優では李冰冰、寧靜といったところ。僕の見たところ、主役は孫文でも成龍演じる黄興でもなく、袁世凱(演じているのは孫淳という人)。徹底して狡猾な謀略家として描かれており、革命が同盟会と朝廷との単純な対決構図ではないことがよくわかる。そういう意味では面白かった。もちろん、本作も中国政府の息がかかっているので、この革命が1949年へつながったことを伝えるのは忘れていなかった。
公式サイト
#73「明りを灯す人」アクタン・アリム・クバト/2010/キルギス=仏=独=伊=蘭/Nov. 5/シアター・イメージフォーラム○
フクイチの事故以降での公開にあたり、エコ、自然エネルギー・ハラショーの観点から宣伝されてきた本作だが、観てみればそういう主旨の映画ではないことがわかる。主人公の自宅に設置した風車はそれが村で唯一のもので、どうやら実験品らしく、傍らの電球を灯すに過ぎない。進む過疎、進出してくるよそ者に中国資本、失われる昔ながらの暮らし。世界各地で起こっているできごとがここでも見られ、そんなことになっている故郷に対する愛おしさが、なんともキュートな風貌の監督自身が演じる主人公“明り屋さん”の暮らしにより表現されている。息子がいないことに悩む明り屋さんだけど、美人の奥さんと4人の娘。幸せじゃないか。
公式サイト
#72「ゴモラ」マッテオ・ガッローネ/2008/伊/Nov. 3/シアター・イメージフォーラム○
小城故事真不錯♪とはいかない、こわ〜いナポリのお話。ナポリと言えばマフィアであり、それはカモッラという組織らしい。このカモッラが絡む何人かの人びとの故事を並行して描いたもの。少年が普通に組織に入っていく。職のない青年もいつのまにか悪質産廃処理業者。裏切りには絶対の血の復讐。市井の末端まで組織の手が及んでいる実態からどうやって脱却できるのか、1,000兆円の借金を返済するのと同じくらい不可能に思える。この絶望感が秀逸な作品。1930年代の上海とか、戦後の大阪とかこんな感じだったのかなぁ。こんな街でも、ピッツァはおいしいようだし、一度は行きたいね。一度はおいでよ(地獄の)三丁目♪だ。“ナポリを見て死ね”とはよくいったものだ。
公式サイト
#71「ウォーリアー&ウルフ」田壮壮/2009/中国=香港=シンガポール=日本/Oct. 29/シネマライズ
井上靖の『狼災記』を“大導演”田壮壮が映画化。誰がみてもビッグイベントなのに、完成から2年もたって単館で短期間の限定上映のみというのはどういうわけだろう? というわけで、小林政広監督のQ&Aセッションをきっぱり諦め、駆けつけた。結論からいえば興行側の判断は正しいと思う。画面は暗く、時間経過もやや複雑、しかも兵士と謎の少数民族の女の唐突な性交渉がメインで、その後二人が狼になってしまうという展開では、多くの田壮壮ファンを呼び込むのはむずかしいように思う。実際、劇場はガラガラ。ちなみに、兵士は小田切譲(オダギリジョー)、女はマギーQ(Qって何だ?)。兵士のいでたちや戦場の悲惨さにはリアリティ(見たことないけど)が感じられたが、寒い画面ゆえか、臭いまでは届いてこなかった。
公式サイト
#70「ギリギリの女たち」小林政広/2011/モンキータウンプロダクション/Oct. 29/TOHOシネマズ六本木 Screen 5(TIFF)○
小林監督の居所である唐桑町で撮影された、過去を引きずりながら震災後に実家に帰ってきた三姉妹のいまとこれから。ケ・セラ・セラ。大容量HDDに録れるようになった時代の超長回しは、監督がミゾケンだと地獄だけど、 @masahirokoba 監督なら俳優も少し気楽にやれそう。監督の歌(本作でも最後にかかる)のように、どこか“ゆるい”ところがいいのだ。登場人物は三姉妹のみ、舞台は三姉妹の実家の中と庭がほとんどで、あと被災地が少々。回想シーンもSFXも、BGMも、(おそらく予算も)ない。ミニマリズムである。震災をストレートに扱っているわけでもなく万人受けする作品ではないことは確かだけど、震災に対しまだみんなの記憶が大きいうちに一般公開してもらいたいものだ。
#69「夢遊 スリープウォーカー」彭順/2011/香港=中国/Oct. 28/TOHOシネマズ六本木 Screen 2(TIFF)○
僕にとって中華系のトップアイドルである李心潔(もう35歳だよ)主演作。『the EYE』と同じ彭順作品だが、今回はホラーではない。いまや、彭順がダンナなんだよなあ。自分が夢遊病であることに気づいた李心潔が、寝ている間の自分の行動を調べるうちに、過去が明らかになっていく。二件の誘拐・殺人事件がつながる。アイデアは面白いけど、映像化は難しいね、こういうのは。そこで3Dに逃げたのか? 3Dが効果を上げていたパートはひとつもないよ。観客に向かってモノを飛ばすような陳腐な演出はやめてもらいたい。それでも、李心潔なので許す。舞台あいさつあるいはQ&Aセッションが、この回にも欲しかった。客を待つという理由で上映開始が遅れた。彼らは関係者だと思われたけど、彼女はいなかったのかな?
#68「僕は11歳」王小帥/2011/中国=仏/Oct. 28/TOHOシネマズ六本木 Screen 7(TIFF)★
王小帥期待の新作は、文化大革命末期の子供が主人公。文革映画は、映画人がそうだからしかたがないのか、常にインテリの視点から描かれるのが不満だ。本作も例外ではない。しかし、作品は『青い凧』並みに素晴らしかった。いつも一緒の中1四人組。そのひとり、役者で絵が好きな父を持つ優等生ワン・ハンが、ラジオ体操の模範演技をするため毎朝朝礼台に上がることになったことから物語は始まり、ある事件を経て、ひとつ大人になり、思春期に入るところで映画は終わる。清水映画を想起させる子供たちの戯れ、女子高生へのかすかな憧れが、文革末期の混乱を背景に生き生きと描写されている。ワン・ハンの家族がみんな元気で観ていて楽しかった。英題、仏題の“11本の花”は意味不明。
#67「転山」杜家毅/2011/中国/Oct. 27/TOHOシネマズ六本木 Screen 7(TIFF)
兄の遺志を勝手についで、自転車でラサに向かう台湾青年(張書豪)が、その体験を通じて兄の死のショックから立ち直る話。山は険しいが、ドラマの起伏はあまりない。雪山を自転車で登っていく苦難は伝わるが、心は動かなかった。物語の展開がやや唐突。張書豪に途中まで同行、というか領導してやる李暁川のキャラクターはよかった。濃そうなチベット料理を本当に美味しそうに食べていたよ。作品は中国政府が後ろ盾なので、チベット問題など微塵も出てこない。到着したラサの街の描写もごくわずかだった。Q&Aセッションにはチベット族の未亡人役の李桃もいたのに質問がなく、ただ座っていただけだったのは残念。司会が気を配るべきだ。(そう言うなら自分が手を挙げりゃいいんだけどね。)
#66「消えゆく恋の歌」章明/2011/中国/Oct. 23/TOHOシネマズ日劇 Screen 1○
2011東京・中国映画週間の目玉作品。例によって河のほとりの町が舞台。公務員家庭の一人娘に声楽の家庭教師がやってくる。北京で学んできたという若者に惹かれる少女の初恋は、幼なじみのジャイアンのしつこさと、家庭教師の母親の面倒を見てくれているという怪しい“お姉さん”の存在により、数年かけて崩れていく。そもそも母親は亡くなってしまうのになぜか同居しているのが怪しい。あいかわらずの暗いトーンの映像で、少女の絶望感がよく伝わってきた。これから彼女はどうなるだろうか。あきらめてジャイアンと結婚するのか。上映前に長時間行われた開会式の壇上に少女役の呂星辰と導演の姿があった。導演はともかく、呂星辰は他作品主演の徐若瑄の輝きには圧倒的に負けていた。董潔もさえなかったな。
#65「運命の死化粧師」連奕琦/2011/台湾/Oct. 23/TOHOシネマズシャンテ Screen 1(TIFF)○
『おくりびと』のリメイクみたいなもんかと観に行ったら全然違ってた。遺体に化粧したり、司法解剖痕を目立たなくしたりする、こんな商売、日本にもあるのかな? その死化粧師が担当することになった遺体が、彼女が高校のとき特殊関係にあった女性音楽教師で、その死因に不審点があり追及していくとその特殊関係に戻っていく。話がドラッグに落ちていくのが安易に感じられるが、そこまでの展開には映画として引き込まれるものがあった。舞台あいさつとQ&Aセッションあり。元教師役の隋棠は台湾のトップモデルということで、超絶プロポーション。フォトセッションでのポーズはプロそのもの。一方の死化粧師役の謝欣穎は、安達祐実+浅田真央のファニーフェイス系で好対照だった。
#64「赤い星の生まれ」韓三平,黄建新/2011/中国/Oct. 22/有楽町スバル座
香港、台湾俳優を含む超豪華メンバーで製作された建国60年紀念電影。辛亥革命から中国共産党結党までの10年を、孫文〜毛沢東を中心に据えながら描く。ヒーローはもちろんのこと、袁世凱とか張勲の非道もしっかり描かれているのだが、全体としては詰め込みすぎ。面白かったのは、モスクワのパートで、ちゃんとレーニンのそっくりさんが出てきて、癇癪を起こしていたところ。毛沢東を演じた劉燁は役作りのためか太っていた。袁世凱を演じた周潤發は普通に太っていた。これだけ豪華出演陣なのだから中国の大女優として当然なのだけど、周迅が出てきたのは思いがけなかった。ラッキー。結党のための会議が行われた上海の建物は現在は観光名所なので、1999年に行った。そうか、あそこに周迅は住んでいたのか。ふんふん。
#63「肩の上の蝶」張之亮/2011/中国/Oct. 22/有楽町スバル座
TIFF提携の2011東京・中国映画週間開始。桂綸鎂、梁詠琪と出演者の名前があったのでとりあえずエントリーしたのだが、3Dアニメを駆使(?)したファンタジックなものだったのでいささかがっかり。全体のトーンは環境保護。社会としての人間の身勝手さを明確に指摘している点はよかった。人間にそれが起こると何もしないのに、伝染病の疑いが少しでもあるからと牛や鶏は大量虐殺するのは、全生態系からすればまったく許しがたい暴挙であり、歪んだ生存競争である。まあ、そのうち伝染病とか戦争とか天変地異で人口もドラスティックに減るさ。70億は多すぎる。舞台は月島という架空の楽園で、実際のロケは北海道だったらしい。舞台挨拶に主演女優の江一燕。映画ではうんざりする役柄だったが、ルックスは悪くなかったよ。
#62「アクシデント」鄭保瑞/2009/香港/Oct. 21/新宿武蔵野館2○
杜琪峰監製。事故に見せかけ人を殺す暗殺グループが崩壊する過程を描く。あくまで自然に見せるための周到な仕掛けを考案するのは大脳と呼ばれる古天樂の役割。自分たちのようなグループが他にもいると認識している彼は、周囲に起こる事故が、仕掛けられたものではないかと、疑心暗鬼。とても用心深く、仲間も信用できない。つまり、“崩壊”は大脳の神経衰弱に起因する。すべては彼の思い込みだったのだ。こちらとしては最後に大どんでん返しがあるのかと構えていたが、そのまま終わった。暗殺グループのメンバーが次々と死んでいき、最後にリーダーまで、という展開は面白かったな。香港の雑踏が味わえる作品。今度、ひさしぶりに行く計画。楽しみだ。
公式サイト
#61「さすらいの女神たち」マチュー・アマルリック/2010/仏/Oct. 1/シネスイッチ銀座1○
だらしのないむかつく男をやらせると一等のマチュー・アマルリックの監督作品。アメリカのアーティストを率い移動型エロ系ショウビジネス(バーレスクというらしい)を母国フランスで営む男を自身で演じている。このショウが、ラス・メイヤー的というかフェリーニ的というか、とにかく強烈。(あのヒモはどこから出てくるんだろう…)この濃さと男のだらしなさの相乗効果か、観る者に快感を与えるのが不思議である。母国でかつて人気TVプロデューサーだったらしい男の過去は明らかにはならないものの、居場所がなくなったことは間違いなく、男の望郷の念が垣間見える。息子が警察で“パリ15区生まれ”を誇らしげに告げるのが印象的。マチュー・アマルリック、立派に監督です。一瞬だけどパンダ写ってた。
公式サイト
#60「女と銃と荒野の麺屋」張藝謀/2009/中国/Oct. 1/シネマライズ
ブラッド・シンプル』のリメイクらしいが、よく憶えていないので、そんなことは考えずに鑑賞。中国の砂漠地帯にある麺屋で殺人事件は起こる。登場人物も舞台も限られているのだけど、結構お金かかっている印象。作品全体はかなり軽い印象。どぎつい衣装、わかりやすい人格、キッチュな小物類。面白くないわけじゃないけど、“何が面白いの?”と思わず聞き返したくなるような…。実際、個々のギャグは面白くない。まあ、張藝謀にとっては『キープ・クール』のような、少し息抜きした作品なのだろう。小林稔侍似の一見クールな警察官、こいつがどうしようもない極悪なのだけど、もう少しドジ度を上げるとよかったかも。彼が強奪したお金は、女(殺される倪大紅のDVを受ける妻)の許に戻ってくるだろうか?
公式サイト
#59「レジェンド・オブ・フィスト 怒りの鉄拳」劉偉強/2010/中国/Sep. 25/新宿武蔵野館3○
英題が『Return of Chen Zhen』。『精武門』の続篇なんだな。で、つまり甄子丹が李小龍の後継者であると。いまの活躍ぶりなら納得である。『グリーン・ホーネット』のカトーの格好で魔都・上海を舞台に日本軍と戦うレジスタンス・陳真を演じる。怪鳥音は控えめだったけど、ヌンチャクは堂に入っていた。実はヤマグチユミなる間諜の歌手兼ホステスKIKI役には舒淇。そう明らかになっても日本人には見えませんねえ。虹口道場にズカズカとブーツのまま上がるのにおいおいと思ったら、他の軍人もそうしてた。そりゃ流石にあり得ないだろう。その辺り、ちょいと丁寧にやって欲しかった。時代的にハッピーエンドにはできないにしても、エンディングも中途半端な印象だったよ。とはいえ、甄子丹なのでそれなりに楽しめた。
公式サイト
#58「黒い賭博師」中平康/1965/日活/Sep. 25/シネマヴェーラ渋谷○
アキラ&ギャンブルといえば、どちらかというと『渡り鳥』シリーズがイメージされるのだが、この『賭博師』シリーズの方がプロな分ストレート。なんだけど、氷室浩次は滝伸次みたいにめっぽう強いわけではない。その点がアキラ完全無欠主義の僕にはいまひとつピンと来ないんだな。本作はヒロインが冨士眞奈美ってのもそそられない。『おくさまは18歳』を想起してしまう。多言語・無国籍なとこは、さすがの中平だし、団体でやってくる秘密国際賭博団とか笑っちゃうんだけどね。何国人かわからない小池朝雄とか立派に北京語を喋る高橋昌也は頑張ってるよ。オープニングの“賭博唱歌”なる“自動車ショー歌”の替え歌も楽しい。ところで、何が“黒い”の? “赤”じゃだめなんですか?
#57「パレルモ・シューティング」ヴィム・ヴェンダース/2008/独=伊=仏/Sep. 18/吉祥寺バウスシアター3○
“デジタルは実在を保証しない”とホッパーに言わせながら、デジタル処理の塊という重層的な構造をもつ作品。なんでもありのデジタル処理は僕も大嫌い。テクニックとしてヴェンダースがどこへ向かっているのかは知らないが、死と直接対峙するテーマが興味深かった。この重さが日本で一般公開されなかった理由だろう。でも、デニス・ホッパー演じる死神の、生死についての解説はとてもわかりやすい。死があるから生が認識できる。死は唯一の出口である。永遠の生は地獄だ。毎日を最後だと思え。ま、ホッパーにいま逢っても“Not now.”だが。前半の舞台はデュッセルドルフ。ラインタワーとアルトシュタットが見えた。そして後半はお待ちかねのパレルモ。いいなあ、シチリア。ああっ、いつ行ける?もちろん、パンダも出てきたよ。
公式サイト
#56「裁かるゝジャンヌ」カール・Th. ドライヤー/1928/仏/Sep. 18/フィルムセンター○
恥ずかしながら未見だった、歴史的超有名作品。シネフィルっぽい人たちがもちろん集まるのだけど、フィルムセンター常連の老人たちもいて、待合室は妙な雰囲気。ジャンヌ・ダルクのことは不勉強なので、純粋に映画を観ることにするが、サイレント上映は緊張する。緊張のあまり、うとうとする…。クローズアップの連続。憑かれたような絶望したようなジャンヌの顔と、裁判官たちの複雑な表情の交差。クライマックスの火刑のモンタージュ。なるほど。映画発明から30年あまり。映画的表現法はここまで研ぎ澄まされたというわけだ。フィルムの状態のよさに感動した。同時期の『忠次旅日記』などはボロボロだというのに、この差は何なんだろう。
#55「アジョシ」イ・ジョンボム/2010/韓国/Sep. 17/横浜ブルク13 Theater 6○
隣のおじさんを慕う誘拐された少女を救うべく、隣のおじさんがひとりで巨悪をやっつけ、めでたしめでたし、という話。ソミちゃんがとーってもかわいい。この歳ならまだ整形してないだろうから本物だよね。成長が楽しみだ。ウォンビン演じる隣のアジョシは、元特殊工作員。ムキムキで格闘技がめっぽう強く甄子丹も負けそうだし、ナイフを使えば相手の動脈を一発で的確に斬っていく。韓国映画にはこういう設定がとても多いけど、実際にいるんだろうから説得力が1/3くらいはあるな。なんでR15+なんだろうと思ったら、過激な暴力のほかに、エグいものがあった。あ、『ビー・デビル』で斉藤由貴をいじめていたババァ(本作でもこわ〜い)のことじゃありません。
公式サイト
#54「シャンハイ」ミカエル・ハフストローム/2010/米=中国/Sep. 7/丸の内ピカデリー○
上海映画といえば、魔都の退廃的な空気をゴージャスに描いた後、日本鬼子の占領で暗転するのがお決まりコース。ところがアメリカ目線の本作は、舞台を1941年に限定し、いきなり暗い。上海で米国諜報員が暗殺された事件の解決がぐずぐずしたことが真珠湾攻撃につながっていたという話。知らんメリケン俳優はおいておいて、鞏俐、周潤發、渡辺謙、菊地凛子という布陣はなかなか豪華。周潤發が最後に見せるガンアクション、これ観に来たんだ。せっかくだから両手に持って欲しかった。渡辺謙は徹底的に悪役にすればよかったのに、なんだか中途半端。菊地凛子はほとんど存在感がない。それにしても、鞏俐の豊満なこと。何歳、この人? 周潤發も豊満だよ。アキラほどじゃないけどね。
公式サイト
#53「レイン・オブ・アサシン」蘇照彬,呉宇森/2010/中国=香港=台湾/Sep. 3/新宿武蔵野館1○
林熙蕾は美人だ。そして、彼女が人相を変えるため整形すると楊紫瓊になるというのは、なかなか納得する。達磨大師のミイラを上下半身揃えると“再び生えてくる”と信じる宦官率いる必殺仕事人集団“黒石”と上半身を持ち逃げした元黒石メンバーの林熙蕾=楊紫瓊の、ミイラをめぐる冒険、もとい死闘。3Dでなくてよかった。最近カンフーといえば甄子丹ものばかり観ている気がするけど、あのおじさん抜きでもとても見応えがあって面白いアクション、できるじゃん。頑張れミシェルさん。韓国から招聘したチョン・ウソンのほか、戴立忍やら徐熙媛やら、台湾系の俳優がバンバン出てくる。文化レベルでは統一したのか、って感じだね。しかし、呉宇森も年取ったな。だいぶしなびてきたじゃないか。(ご本人の外見の話ね)
公式サイト
#52「ジーンズ・ブルース 明日なき無頼派」中島貞夫/1974/東映/Sep. 3/シネマヴェーラ渋谷○
梶芽衣子は美人だ。ロックにブルース、Wow Wow Wow♪ 歌もうまい。なぜカルト女優になってしまったのか不思議だなあ。本作はタイトルからも推測できるように東映版『俺たちに明日はない』。もちろんボニーが梶芽衣子、クライドはまたまた渡瀬恒彦である。クールな梶に対し、相変わらずお調子者の渡瀬。東京から京都へ山本燐一から(結果的に)奪ったポンコツで逃避行だ。曽根晴美から猟銃を奪い、さらに凶暴化。銃撃の練習中、梶が的にと持ち出してくる日の丸。見事に命中。ウヨな人が観たら激昂しそうなシーンが可能なのは東映だけだね。そして追い詰められ、最後まで戦う梶。死にざまもクールだ。国鉄コンテナに二人が閉じ込められていた間、梶芽衣子はトイレもクールに我慢したんだろうか?
#51「現代やくざ 血桜三兄弟」中島貞夫/1971/東映/Sep. 3/シネマヴェーラ渋谷○
いきなり0系新幹線が疾走し、当時いかにもの新幹線駅が出てきて、小池朝雄が下り立ち、舞台が岐阜ってのが渋い。渡瀬恒彦が出てくると、途端に緊張感がなくなるけど。三兄弟というのは、菅原文太、伊吹吾郎、渡瀬恒彦。菅原は一応カタギ、伊吹と同じ組の渡瀬は血縁ではないようだ。小池は大阪の大組織(山口組がモデルだろう)からの鉄砲玉で、伊吹らの組のシマである岐阜のネオン街で派手に暴れる。小池を一気にやっつけたい伊吹らに対し、おとなの事情で手が出せず大阪に屈服する組長の河津清三郎ら。と書けば、あとはお決まりの結末に向かい物語は自動的に進行する。意外にもキーマンは兄弟外の荒木一郎。マリリン・モンロー、ノー・リターン♪ 戦いは終わり、やくざは壊滅し、荒木一郎の天下取りだ。たぶん。
#50「ハウスメイド」イム・サンス/2010/韓国/Aug. 27/TOHOシネマズ シャンテ1○
あの『下女』のリメイク。当時のメモに“家政婦を雇うならふかっちゃん”と記しているが、本作の主役は、最近ふかっちゃん似と評判(?)のチョン・ドヨンである。でも、今回は似ている印象はなし。気が優しくてちょっぴりエロいメイドである。『下女』はホラーだったけど、リメイクはあくまで人間の愛憎劇にとどまっている 。“復讐する”と言って、最期があれでは??な気分だけど、子供たちに何か仕込んだのだろうか。残念ながら見逃した。チョン・ドヨンが働くイ・ジョンジェの豪邸では、掃除にルンバが活躍していた。でも、見たところバリアフリーなどまったく考えられていなさそうな邸でルンバが自分で動ける範囲は限られているのではないかな。もしかして、複数台で分担?
公式サイト
#49「鉄砲玉の美学」中島貞夫/1973/白楊舎=ATG/Aug. 27/シネマヴェーラ渋谷○
きぼーというなのぉ、あなたをたずねてぇ♪ 頭脳警察のうるさい歌より、主人公の、元気はいいがうだつの上がらないチンピラ・渡瀬恒彦が唄うこの歌がいい。'70年代の高度成長期の匂いがプンプンする弾けた一品。杉本美樹が駆るFairlady 240ZG、くー、しびれるねぇ。プラモデルよく作ったよ。“美学”とは皮肉な題名だが、ホテルで鏡に向かって啖呵を切る練習をする渡瀬を見れば、彼なりに鉄砲玉としてのあるべき姿をもっていたのだろう。老練な小池朝雄に、にわか鉄砲玉の渡瀬がかなうわけがなく、死に様もまあ相応しい。声でしか登場しない遠藤辰雄の作戦は、完全に失敗である。大阪の部屋で飼っていたアンゴラうさぎ。ありゃ、臭いよ。
#48「くノ一忍法」中島貞夫/1964/東映/Aug. 27/シネマヴェーラ渋谷○
豊臣家の血を絶やさないため、真田幸村の指示で5人のくノ一が死ぬ直前の秀頼の子を忍法で宿し、これを許さない徳川家康がやはり5人の伊賀忍者を使い、千姫(野川由美子)の侍女となった5人を抹殺しようとする、歴史も学べる珍品。くノ一には、中原早苗、三島ゆり子、芳村真理など。伊賀忍者には、大木実、待田京介、山城新伍など。豪華だね。お色気部分はプロが演じるので安心。くノ一のお色気忍法は強力。芳村真理の幻菩薩とか、三島ゆり子の筒涸らしとか、怖いよぉ。芳村真理は日本人に見えないところも怖い。一番怖い忍法はやどかり。妊娠中の胎児を母体間で自由にやり取りできるのだ。で、なんと春日局(木暮実千代)に移してしまう。しかし、そんなことができるなら、最初から千姫に移せばよかろうに。
#47「中国娘」郭小橹/2009/英=仏=独/Aug. 20/ヒューマントラストシネマ渋谷 Theatre 1○
これ、面白かった。中国の片田舎でつまらなそうに暮らしていた少女が、男を換えながら、住む場所も変え、ついにはロンドンまで行ってしまう。しかし、そこに成長は見えない。何も考えていない者の考えを考えるにはなかなかよい教材だ。食べるため職については辞め、男の元へ。泡銭でロンドン旅行。ツアーから抜け出して不法移民化。英国人のじいさんと結婚し英国籍取得。(えー、そんなことが可能なの?) そのじいさんからも逃げだし、インディアンムスリムとコスプレ交際。しまいには妊娠して棄てられ、さすらいの旅へ。少女、いやこの女性は、これで自分で考えるようになるだろうか。ずっと着てきた、お気に入りらしいパンダのTシャツを捨てたときがそのときだ、きっと。
#46「我らが愛にゆれる時」王小帥/2008/中国/Aug. 20/ヒューマントラストシネマ渋谷 Theatre 1○
子供が白血病。治癒の可能性は骨髄移植を残すのみ。でもドナー適合者なし。さあどうする。子供を助けることしか考えず、他人の意見も聞かず、一方的にすべてを決めていく母親に、現夫、元夫、元夫の現妻が振り回されるお話。母親=元妻のトンデモ提案に素直に反応する元夫、元夫の現妻の行動は、一般に受け入れられそうだが、現夫のそれは、なかなか複雑である。自分の子供は堕ろされたのに、元夫の子供は生むという。それを了承した上で、さらにその子を自分の子として心から認知するなどということが可能だろうか。僕なりの結論は、可能。観客の、現夫に対する視線は冷たいのではないかと想像するが、僕は現夫に“あっぱれ”だ。生まれてくる子も、この父親がいれば幸せになれると思うよ。
#45「エッセンシャル・キリング」イエジー・スコリモフスキ/2010/ポーランド=ノルウェー=アイルランド=ハンガリー/Jul. 31/シアター・イメージフォーラム○
網走番外地』をよりコミカルにすると『ダウン・バイ・ロー』だけど、究極にシリアスにするとこれになる。動物の生存本能だけを描き出す、その前もその先もない、極めて野心的な作品。ひたすら生きようとする獣、ビンセント・ギャロ。本人が一言も喋らないし、あまり訓練を受けているようにも見えないので、断定できないのだけど、ナレーションからするとタリバン兵とみるのが妥当だろう。金満装備でお調子者のアメリカ兵との戦いは辛いね。怖いよ〜。寒いよ〜。お腹すいたよ〜。“死んだ方がマシだ”とはまったく考えることができないのは、まさに獣である。買い物袋に食べ物があるかもしれないのに、そちらを確認せず巨乳おっぱいを貪るのも獣だからかもしれないね。
公式サイト
#44「100,000年後の安全」マイケル・マドセン/2009/デンマーク=フィンランド=スウェーデン=イタリア/Jul. 17/UPLINK X○
れーでぃーおー、あくてぃーびてぃー♪ インパクトのある唄だ。原発が生成する放射性廃棄物の処理はとてもやっかい。宇宙に捨てる、できれば巨大な原子炉・太陽にぶち込むのが最良と誰しもが思うが、ロケットを打ち上げるときに爆発する危険があるのでだめなんだそうだ。じゃあ、地下だってことで、フィンランドの深い地下にトンネルを掘り、そこに、無害となる10万年を想定し放射性廃棄物を封止する施設が建設中。ン千年前の文章を解読できないのに、10万年にわたり人類がこの施設を発見し、曝き、破滅的な事態を生じさせることはないという保証はどこにもない。そこが最大の問題のようだ。いや、根本の大問題があるんだけどね。この劇場には初めて来た。ACTミニシアターを思い出した。
公式サイト
#43「鯨とり ナドヤカンダ」ペ・チャンホ/1984/韓国/Jul. 17/新宿K's cinema○
ソウルから東海岸の牛島まで無一文の三人が向かうロード・ムービー。ピョンテとチュンジャのヘアスタイルが、俊ちゃん系、聖子ちゃん系のなんとも80年代。この時代から(も?)韓国は日本文化を見ていたということなのだろう。二人のナビゲーターとなる安聖基は、インテリ浮浪者。なぜ浮浪者になったのかは一切説明がないし、なぜナビゲーターなどやるのかもよくわからないが、彼がいないと太白山脈を越えられず、二人が東海岸に行き着けなかったのは間違いないので、映画として必然な役だったと言えようか。前半、建設ラッシュの街中に辰野式のソウル駅がたびたび見えた。上映直前に『田中さんはラジオ体操をしない』のトーク・ショーがあったようで、田中さんと聞き手のピーター・バラカン氏がロビーにいたよ。
公式サイト
#42「タレンタイム」ヤスミン・アフマド/2009/マレーシア/Jul. 16/ユーロスペース 1★
前回観たのは訃報のあと。ヤスミン監督の遺言と言えるだろう。人生の規範をイスラム教に自身置きながら、キリスト教にもヒンズー教にも理解を示し、多民族・多宗教・多言語社会におけるさまざまな軋轢をやさしく見つめる、菩薩のようなひとだった。本作はひとりの少女(英国人とマレー人のハーフ)を三人の少年(インド系,マレー系,中華系)がそれぞれに静かに慕う物語である。それぞれがそれぞれのやり方で自分の気持ちを控えめに表現するのが微笑ましい。一方、ハーフの少女はかなり西洋化されているので、ストレートに伝えないと理解できないんだな。それでひょんなことから身近になったインド系少年とたまたま結ばれた、なんて考えるのは夢がないかな?
#41「導火線」葉偉信/2007/香港/Jul. 16/シネマート六本木 Screen 1○
悪い奴を裁くためなら(多少の?)暴力は必要だ、という甄子丹の力強いメッセージ。この主題は社会にとって永遠の課題のひとつ。本当の悪人は卑怯でどうしようもないので徹底的にやるしかないが、問題は本当の悪人かどうかわかる者が理論的にひとりもいないこと。そうなれば冤罪の可能性が棄てきれず一方的な裁きは不当となる。これが現在の法治。法の裏でこれを回避するなら必殺仕事人だが、甄子丹は警察の中にいて堂々とこれをやってのける。もはや過去となった、1997年以前の香港ではあり得たかもしれない…。なんてね。とにかくハード、とってもクール。映画の中でだけでも、こういう風にスッキリいきたいものだ。しかし、甄子丹ものとなると観客席が暑苦しくなるのは、なんとかならないものか。
#40「サンザシの樹の下で」張藝謀/2010/中国/Jul. 9/横浜ブルク13 Theater 5○
また文革ものだよ。いつか天安門事件ものラッシュが来るのだろうか。鞏俐、章子怡とアイドルを発掘してきた張藝謀の今度の兵器は、18歳の周冬雨。細い、かよわい、笑顔がかわいい。あの二人のような貫禄は微塵もないが、今後どうなるか楽しみである。その周冬雨に、水着に着替えさせたり、セメント捏ねさせたり、革命劇で大きな声を出させたり、これは犯罪的だ。実習に行った村で知り合う地質調査隊の青年との純愛を軸に、話はお決まりの難病ものに転位していく。放射性物質の調査でもしていたのだろう。周冬雨もその青年もとてもおしゃれ。ボーダー長袖Tシャツなんて着てたぞ。実際あんなファッションがあったとは思えないのだが…。ところで、『青い凧』の呂麗萍が登場したときは、目を疑った。なぜかは書くまい。
公式サイト
#39「スリ」ロベール・ブレッソン/1960/仏/Jul. 8/シアター・イメージフォーラム○
ラルジャン』を観たのは25年前かぁ。本作がそのモトだということは当時から知っていたけど、観る機会がなかった。好奇心から手を染め、どんどん腕をあげるスリのミシェル。かっこよくスピーディーに見せる華麗なテクニックと対極にある心の暗黒の対比。ラストシーンを除き、緊張感がみなぎる、贅肉のない映画。そのラストシーンは、ミシェルの苦悩からの解放を示している。第三者のモノローグによる進行はこの時代の作品によくあるような気がするな。古いメトロの映像も貴重。個人的に懐かしい、ロンシャン競馬場も出てきた。『惑星ソラリス』のハリーみたいな、ミシェルを慕い彼の心を開くジャンヌ(マリカ・グリーン?知らないな)がきれいだったよ。
#38「東京公園」青山真治/2011/『…』製作委員会/Jul. 2/新宿バルト9 Theater 4★
小津満載映画。原節子が北竜二と再婚し、司葉子が義理の弟の三上真一郎に恋して苦悩する話。というわけではなく、ビジュアルとして小津にこだわっている、これは僕にとってはかなり理想に近い映画。ローポジ、こたつでの会話の切り返しショットは、横にちゃーんとワインのビンが見えているし、バーのカウンターで二人並んでグラスを傾けるシンクロした動作、そして、小西真奈美の部屋にあるはずの、見えない階段。IKEAでのおじぎは、小津というより『変態家族・兄貴の嫁さん』だが。原作ものでも、こういう遊びごころを持って映画化すると楽しいだろうな。小西真奈美の部屋の冷蔵庫は、うちのと同じ無印良品のだったけど、ああいう小物は誰が選んでいるんだろう?
公式サイト
#37「風吹く良き日」イ・ジャンホ/1980/韓国/Jul. 2/新宿K's cinema○
地方出身の若者3人が味わう、大都会ソウルでの格差社会。夢を捨てず、突っ走る。青春だ。安聖基が若いよ。まだ20代だ。役所広司というより篠田三郎みたい。で、安聖基をもてあそぶブルジョアの女を演じるキム・ボヨンは梶芽衣子みたい。安聖基の仲間のひとりは尾藤イサオみたいで、その妹がなかなかかわいかった。女優名は不明。朴大統領暗殺直後の時代の空気がどんなものだったのか、真実は知る由もないが、画面から伝わってくるのは、台湾ニューシネマと同じような、抑圧されながらも爆発できる薄い壁を探しているような懐かしさだった。カルチャーはやはり、アメリカの影響をバリバリに受けていたようだ。商業的には、やんわりお色気、これがウケたに違いない。
公式サイト
#36「遙かなるふるさと 旅順・大連」羽田澄子/2011/自由工房/Jul. 1/岩波ホール
これは映画ではない。ドキュメンタリーとも言い難い。大連で生まれ、旅順で少女時代を過ごした監督の、ふるさと訪問記。開放されたのを機に、団体旅行で旅順に乗り込む。二○三高地って、禿げ山じゃないんだ。へぇ〜。旅順は行ったことがないのでなんとも言えないが、大連の変わりようには、僕だって驚いた。道を渡る危険度合いはあまり変わっていないようだけども。というわけで、どちらかというとTV番組を見るような感覚だった。幸か不幸か再開発を逃れ残っていた、70年も前に住んでいた異国の住居の門を叩くと、現在の住人が中を気軽に見せてくれる。なんだか信じがたい。通訳が事前にお金を掴ませているのかもしれないな。こういう客層にはありがちなことだが、上映中もうるさかった。
#35「マムート」ブノワ・ドゥレピーヌ,ギュスタヴ・ケルヴェン/2009/仏/Jun. 26/有楽町朝日ホール(フランス映画祭)▽
フランス映画祭って行くの初めてじゃないかなあ…。イザベル・アジャーニを観に行った。『死への逃避行』から28年、54歳。まだ、ばあさんではない。演出は少々あざといが、相変わらずの狂気的存在感。それだけの映画だった。まったくもって、お金と時間のムダだ。でぶでぶのジェラール・ドパルデューが、定年退職後、年金受け取りのための証明書をもらうため、過去に勤めた会社を巡るロード・ムーヴィー。チラシには“定年後の自分探し”みたいなことが書いてあったけど、(まあそんなものを期待していないのでどおでもいいのだが)大嘘だ。愛車はマムートと呼ばれる単車。行く先々でのエピソードが、ことごとく面白くない。もしかしてフランス人には面白いのかなあ。
#34「酔拳 レジェンド・オブ・カンフー」袁和平/2010/中国/Jun. 26/シネマート六本木 Screen 1
あまり興味なかったのだけど、チラシを見ると周迅ではないか。『スリ』を観るのはまたにして、六本木に出向いた。『酔拳』といえば成龍だが、これはそのリメイクというわけでもない、趙文卓主演作。34歳の周迅、大活躍で、その点は満足だ。ちょっぴり顔にしわができたかも。映画は、趙文卓の奥さんである周迅が死ぬまでと死んだ後の二部構成。特に『葉問』みたいな、白人との異種格闘技戦になってしまう後半がつまらない。やはり、武侠映画は、中国人対外国人のわかりやすい愛国性よりも、中国人対中国人のドロドロの方が圧倒的に面白いと思うぞ。とはいえ、周迅が登場するまでのオープニング・パートは、その中国人対中国人の戦いだったのだけど、もうビデオゲームにしか見えず、果てしなく僕を不安にさせたのであった。
公式サイト
#33「姿なき目撃者」日高繁明/1955/東宝/Jun. 26/神保町シアター○
“美女と探偵”という特集。本作の“美女”は次郎長シリーズでもおなじみの久慈あさみと越路吹雪。“探偵”は出てこず、これも次郎長でおなじみの小泉博が刑事で登場する。話はなかなか面白い。久慈の旦那が新藤英太郎、情夫が徳大寺伸。越路は久慈の家の女中で、徳大寺の元カノという複雑な人間関係。で、徳大寺が死に、刑事が犯人を追う。なんといってもかわいそうなのが新藤で、元々何の罪もないのにどんどん自滅していく。途中からヤクザに連絡取ったりして、本当は悪い奴だったのかと、こちらが戸惑うほど。まだ子供の山内賢(当時は久保賢)が久慈の家の隣に住むカメラ小僧で登場。デビュー作らしい。町のランドマークである巨大な教会が印象的。どこのかな?桜新町?
#32「わたしを深く埋めて」井上梅次/1963/大映東京/Jun. 18/神保町シアター○
井上梅次+若尾文子。こんな組み合わせもあるのか。タイトルからして『姦婦の生き埋葬』を連想させて面白そうなので、青山から神保町に半蔵門線で急ぎ移動。91番でなんとか滑り込んだ。昼ご飯は後回しだ。田宮二郎主演の探偵もの。といっても田宮は弁護士なのだが。話は少々複雑で、冒頭のエピソードが最後に効くなど、凝っている。もちろん、キーパーソンは若尾ちゃん。若尾ちゃんが登場するたびメロな音楽が流れるのが笑える。安部徹が出てくるのだが、いつもの安部とも『東京物語』の安部とも違って新鮮だったな。タイトルの意味がわからないなあと思って観ていると…、唖然とするエンディング。これが本作の汚点だ。いや、大映に“あっぱれ”をやるべきか。
#31「亡命」翰光/2010/シグロ/Jun. 18/シアター・イメージフォーラム○
主に天安門事件を契機に中国にいられなくなった人たちを海外に取材したドキュメンタリービデオ。日本作品なんだ。残念ながら(どこの政府も多かれ少なかれそうだと思うけど)中共政府が非人道的なことは否定しようがない。母国にいては命が危ない人たち。しかし、国外にいては、国内の人たちには思いは伝わらないどころか、存在さえ忘れられてしまう。中国が民主化される日は、僕が生きているうちに来るだろうか。インターネットがどこまでこの問題を打破できるか注目だ。亡命者間のネットワークが強化できるだろうし、もちろん“万里の長城”に穴を開けることだってできるんじゃないかな。ところで、“亡命”とか“帰化”という言葉はどうやって生まれたのかな。不思議な語感だ。中国語?
公式サイト
#30「ドリーム・ホーム」彭浩翔/2010/香港/Jun. 4/シアターN渋谷
ストーリー・テリングが万人向けではないが、内容もR18+で万人向けではないので、もうまんたい。あるマンションに異常な執着をもつ女が、そのマンションで壮絶な連続殺人を犯し、安くなったそのマンションの一室を手に入れる、実話にもとづいたというスプラッタ・ホラー。あそこまで派手にやって、しかも傷だらけなのに、なぜ女(何超儀)が捕まらないのかは尋ねまい。強い。単なるOLではない。マンションに対する執着心が産み出した怪物である。殺人シーンはとにかく笑っちゃうくらい派手。対照的に、肺気腫で苦しむ父親を見殺しにし購入資金となる生命保険金を手に入れるシーンが映画中もっとも恐ろしいところかもしれない。糸電話って糸を2本にすれば半二重でなく全二重になるのに、なぜそうしないんだろ?
公式サイト
#29「炎の城」加藤泰/1960/東映京都/Jun. 4/シネマヴェーラ
二本立てだったので観ることになった一本。始まるまで時代劇とは知らなかった。父を殺して君主となった戦国時代の暴君(大河内傳次郎)に対し、明から帰ってきた息子(大川橋蔵)が仇討ちをする、イタダキもの。ふーん。単純に、面白くない。もっと話をオリジナルにしてエンタテインメントにしなきゃ、ハムレットは日本では受けないんじゃないか、クロサワみたく(そう書きながら『悪い奴ほどよく眠る』は未見)。例えば橋蔵がカンフー使うとか、ワイヤーアクションありとか。当時の興行成績はぼろぼろだったに違いない、あるいは橋蔵人気でそこそこ?どうだったんだろう? 三田佳子っていつの世も不快。ほんと、東映って女優がいないよね。伊福部昭のゴジラ音楽もなんとかならんかな。
#28「男の顔は履歴書」加藤泰/1966/松竹大船/Jun. 4/シネマヴェーラ★
加藤泰の特集でまた観てしまった。前回褒めたので、今回はこき下ろそうと思ったが、やめる。代わりに安藤昇の顔について触れたい。履歴書としての安藤の顔は、もちろん左頬の瑕である。元々安藤組はヤクザ組織ではないので、この瑕は抗争の過程で得たものではなく、街角でチンピラに因縁を付けられてやられたものらしい。そう知ってしまうとなんだか肩すかしだが、これによって安藤に大きなハクが付いたことは間違いなかろう。映画では、最後の抗争時に三国人に切られたことになっていたが、当然最初からその瑕は観客には見えていた。ずっと、この人は誰かに似ていると思っていたが、頭の中で瑕を取ってみれば、それは藤田まことであった。なるほど。黒めがね+軍医ということでは、『赤い天使』の芦田伸介のようでもある。
#27「悪の華」クロード・シャブロル/2003/仏/May 21/シアター・イメージフォーラム○
甘い罠』より数倍パワフルな“血”の話。見かけ上のヒロインはナタリー・バイ。といえば、僕には『ゴダールの探偵』くらいかなあ。すっかりおばさんだ。ドロドロした複雑な家族関係が、これでもかと徐々に明らかになっていき、しまいに真のヒロインがだめ押しの告白。フランス版『犬神家の一族』といったところか。意外とエンディングがさわやかなのがいいね。食事にうなぎが出てきたのには、少々びっくり。フレンチでもうなぎ食べるんだ。すみません、無知で。“2CV”だの“Twingo”だの、ルノーから金がだいぶ出たんだろうか、車名がよく台詞に出てきた。しかし、シャブロルでいくら面白いとはいえ、映画3本続けて観るのは疲れる。もう勘弁だ。
#26「甘い罠」クロード・シャブロル/2000/仏/May 21/シアター・イメージフォーラム○
イザベル・ユペールの歪んだ悪意にゾクッとする。キーとなるのは“血”。ピアニストの男、その息子と同日同じ病院で生まれたピアニスト志望の娘、写真家兼実業家(チョコレート会社社長)の後妻(=イザベル)。後妻は毎晩、義理の息子のために疑惑のホットチョコレートを作る。シャブロル作品には珍しく、性的背景が示唆されることはない。一方、人間関係はやや複雑で理解しにくい。この点が日本公開を躊躇させたのだろう。テーマ曲はリストの『葬送』。実に効果的に使われている。ナイフもピストルも出てこないけど、ひとりのファム・ファタルがいれば立派なフィルム・ノワールだ。海辺の町(どこだろう?)の高台の邸から車で下っていく夜の道路もね。
#25「最後の賭け」クロード・シャブロル/1997/仏/May 21/シアター・イメージフォーラム★
堅実だったはずのミシェル・セローとイザベル・ユペールの詐欺コンビが組織の金に手を出すフィルム・ノワール。ミシェル・セローといえば『死への逃避行』の独り言探偵だ。同作の主役は絶頂期のイザベル・アジャーニの七変化だったわけだが、その頃よく見たこのもう一人のイザベルも、本作で七変化を見せている。例によって先が読めず心が読めない、最後までハラハラする脚本がすばらしい。そして、振り返ってみれば意味のわからないシーンがちらほら。これは観客を惑わす仕掛けなんだな。カリブ海に飛ぶとき、どーんと出てくるエールフランス機(しかもB747)も楽しい、やはり古きよき時代の映画をいい意味で引きずっている作品。フランスって、あんな大金をすんなり持ち出せる国なんだろうか。
#24「昼間から呑む」ノ・ヨンソク/2009/韓国/May 14/シネマート新宿 Screen 1★
土日はよく昼間から呑む。主にワインかビールだけど。韓国なら焼酎だろな。とにかく、この主題は見逃せない。見るからに超低予算のビデオ映画なのだが、そんなことはまったく気にならない。シナリオが最高、監督が作ってるらしい音楽もいいよ。悪友にそそのかされた男の感傷旅行は、昼から夜まで呑みっぱなし。妖しい女に言い寄られたり、怪しい男に言い寄られたり、ソン・ガンホみたいな女にクソ呼ばわりされたり、その上親友からは裏切られ、散々。でも懲りない。ホン・サンス並みの心地よいリズム感。『春の日は過ぎゆく』ロケ地のチョンソン・バスターミナルも出てきて笑うよ。海辺で辛拉麺と焼酎か。今度、由比ヶ浜でやってみるか。でも、マッコリがいいな。
公式サイト
#23「名前のない男」王兵/2009/中国=仏/May 1/パークタワーホール(IFF2011)○
』の王兵の、ある意味、より強力な一本。以前は集落があったらしい荒野で原始的生活を送る男を受動的に追う。それだけ。男は農耕をやって暮らしているのだけど、使っている道具が石器時代よりひどい。その辺に鉄は残っていないのか? どうも工夫が足りない気がする。男は喋らない。喋る必要がないから。路上でうんこを手づかみで拾う。拾ってどうするの? 燃料? ここは砂漠か? 肥料か? 自分のでいいじゃん。衛生という言葉が虚しい。食事がまずそう。男もまずそうに食らう。酒はないが煙草らしきものはある。この男、生まれてすぐこの生活を始めたのではあるまい。いかにしてこうなったのか。そして、これからいつまでこの暮らしを続けるのか。本人が語る続篇を求む。
#22「四つのいのち」ミケランジェロ・フランマルティーノ/2010/伊=独=スイス/May 1/シアター・イメージフォーラム○
予告篇がとても魅力的だったので、食後、ふたたびイメージフォーラムへ。“四つ”とは、じいさん、山羊、巨木、炭、なの? “炭”っていのちあるのかな? それよりも、犬だ。じいさんが飼っていた牧(山)羊犬。あの演技達者な犬はプロだったらしい。じいさんが死んで、あの犬はどこに行ったのか、気になる。巨木の下でうずくまる子山羊がどうなったかよりも。四つのエピソードが切り替わる際、画面は暗転する。素朴な、淡々とした言葉が不要の語り口。人は死に、山羊が生まれ、木は切られ、炭になる。切り倒された巨木(樹齢ン百年?)の行く末がいい。村祭りのシンボルとなり、大勢に集られ、用が済めばバラバラにされ、興味深い方法で炭になる。炭になれば、別のいのち?(やっぱり、ヘンだと思う)
公式サイト
#21「引き裂かれた女」クロード・シャブロル/2006/仏/May 1/シアター・イメージフォーラム★
ヌーヴェルバーグのシャブロル、何歳?いいなあ、先の読めないプロットがすばらしい。この懐かしさと斬新さが同居する映画、まだまだ枯れてないね。それでまたガブリエルを演じる女優がかわいいものだから、じいさん、やりたい放題だ。でも、ガブリエルのリュディヴィーヌ・サニエより、その母親役のマリー・ビュネルがよかったな。知的美人だ。(脇の下の汗が気になったけど…) ところで、ガブリエルを巡って女たらしの作家の男に絡んでくる若い男。彼女に会う前かららしいが、なぜ絡むのかがよくわからない。まあわからなくてもいいのだ、シャブロルなんだから。舞台はリヨン、一時リスボン。いつ見てもリスボンの街は魅力的だ。食が強力なら行ってみるのだが、澳門で食べるポルトガル料理も最高ってわけではないし…。
公式サイト
#20「孫文の義士団」陳德森/2010/中国=香港/Apr. 24/シネマスクエアとうきゅう
民国政府も中共政府も今年は辛亥革命100周年紀念だ。英国租借地の香港を舞台にした、清朝の暗殺団と日本からやってくる孫文を守ろうとする一派の戦いを描く、かなり薄っぺらい作品。こんな出来事があったからこそ、1911年、晴れて清朝は壊滅し中国で初めての民主的国家が誕生した、らしいよ。130min以上の長尺のうえ、面白くない。中華ナショナリズム昂揚というわけでもない。ただし、ゲスト出演も含め出演者は豪華。李嘉欣を久しぶりに見たよ。主演は、急に強くなるのが変な甄子丹だったのかな? 存在感からすれば、暗殺団のボス、胡軍が迫力満点でよかった。サイボーグみたいで怖かったよ。黎明も出てたね、わけわかんない役で。
公式サイト
#19「暖流」吉村公三郎/1939/松竹大船/Apr. 24/フィルムセンター○
『暖流』ではなく『Warm Current』。日本で上映するものではなく、海外向けの英語字幕版である。そんなわけで、編集が微妙に違う。どこが違うのかを考えながら観ていたけど、増村版とこんがらがっているところもあったりして、それは自分の記憶のあいまいさとの斗いだった。忍節子の出番が日本版より長かった気がするな。他にもいくつか。高峰三枝子は、西洋人からみて美人なんだろうか。仏像顔だよね。それはさておき、お茶の水の喫茶店での白黒の配置とか、水戸光子の大クローズアップとか、ときどき違和感のある演出が入るけど、全般にはやはりこの作品、傑作だと思う。徳大寺伸のいやらしさより佐分利信の狡猾さが光り、水戸光子の思い込みより高峰三枝子の“お高さ”が影を落とす。
#18「素晴らしい一日」イ・ユンギ/2008/韓国/Apr. 15/シネマート新宿 Screen 1 ○
1年前に別れた男に借金の返済を求めに行くとその男は文無しになっていて、借金を返すための借金をするのに付いていくといろいろなひと(主に女性)に会う、一種のロードムービー。男が田中邦衛に見える。調子もいいが気のいい奴。周りから軽く軽蔑されないところが青大将とは違うところだ。借金返済を要求する女を演じるのは『下女』リメイク日本公開が待ち遠しい、『シークレット・サンシャイン』のチョン・ドヨン。今回はふかっちゃんにやや似。確かにふかっちゃんでリメイクしても面白いかも。男が発案する「スペインでマッコリ屋をやる」という発想とロジックは、なかなか感心した。でも、トマトに合うかな? やはりサングリアの方がいいかも。それにしても、最近韓国映画ばかりだね。
公式サイト
#17「ビー・デビル」チャン・チョルス/2010/韓国/Apr. 8/シアターN渋谷 Theater 2 ○
悪魔を見た』を観たらこちらもセットで。分林里佳 @wakerika 似のOLが幼友達・『はね駒』(ふる〜)の斉藤由貴を島に訪ねるとそこは地獄だったという話で、DV被害者の斉藤由貴が途中でぶちキレ、島住民を皆(-1)殺しにする。その強さはイ・ビョンホン並み。対決させたい。あっちに○を付けずこっちに付けたのは、こっちの方が痛いから。傍観者で済ます、あるいは見て見ぬふりをするというのは、正義感がトラブル回避願望に負けているわけで、加害者に結局は加担したと同義という罪悪感に苛まれる。映画はそこを突いている。作中は分林里佳が傍観者で、この事件によって彼女が心を入れ換えて終わるのだが、信じがたい。彼女も、観客も変わりゃしないよ、いくら痛くてもね。(ま、監督もそう思ってるだろうけど)
公式サイト
#16「トゥルー・グリット」ジョエル・コーエン,イーサン・コーエン/2010/米/Apr. 1/TOHOシネマズ六本木ヒルズ Screen 2 ○
コーエン兄弟の西部劇。予告篇、面白そうじゃん。というわけで、映画サービスデーに鑑賞。ジョン・ウェイン主演の元作品は未見だけど、ジェフ・ブリッジス、十分渋かった。ストーリーは躊躇することなくクールに進み、仇討ちが達成されるまではよかったが、その後しばらくのシーンはいまひとつだなぁと思っていたら、再びクールなエンディングが待っていた。またマット・デイモンが出てきた。最近よく観るね、この人。確かに演技はうまい。主人公のマティを演じる14歳の女の子は、かわいいとは言わないがとても魅力的だ。芯が強くて、弁護士が好きで、口が達者。遠藤辰雄との馬を巡る駆け引きが楽しい。こんな子はあんなおばさんになるよと想像していたら、終盤にほぼイメージ通りのが出てきた。ただし…。
公式サイト
#15「ブンミおじさんの森」アピチャッポン・ウィーラセタクン/2010/英=タイ=独=仏=スペイン/Mar. 26/シネマライズ○
カンヌでパルムドールを獲った作品。審査委員長はティム・バートンだった。ティム・バートンの作品は予告篇以外見たことはないが、なるほど好きそうなテイスト。タイ北部でラオス人を雇って養蜂園を営むブンミおじさんが死ぬ前後を描き、幽霊だの精霊だのが出てくる。とても静かだ。これが日本的だの、東洋的だの論ずる向きもあるようだが、世界共通じゃないの? 西洋にも“向こう”の世界はあるし、精霊もいるのだから。息子が猿の精霊になったというのが気に入った。“毛が伸びたわね”もないもんだ。人間がそのまま精霊に移行できるとは。しかも身長、人間並みだし、階段上ってくるし。監督はタイの将来を案じているようだ。将来は誰にもわからないよ。
公式サイト
#14「悪魔を見た」キム・ジウン/2010/韓国/Mar. 26/シネマート六本木 Screen 2
18禁。悪魔のようなチェ・ミンシクに復讐するイ・ビョンホンが本当の悪魔だった、みたいな単純な話ではない。復讐は不毛だ、みたいな話にも還元できない。これは、チェ・ミンシク演じる変質殺人鬼の生きざまを描いた恐ろしい映画である。獲物は無感情にバラバラにし、イ・ビョンホンに復讐されても傷つけられていく自分を楽しみ、生への執着もないくせに自殺もしない。恐るべし、キム・ジウン。恐るべし、韓国ホラー。タフなチェ・ミンシクにも驚くが、イ・ビョンホン強すぎ。普通の映画なら、主人公にも一度くらい絶体絶命のピンチがあるものなのに、そんなものは一切ない。相手を容赦なく叩きのめす。しかも殺さずに。あんたはターミネーターか?
公式サイト
#13「台北の朝、僕は恋をする」陳駿霖/2009/台湾=米/Mar. 13/新宿武蔵野館○
台湾のアイドル(?)郭采潔主演の、プチ・ラブストーリー。ほんわか、とぼけた感じの作品で、悪くない。村上春樹の初期作品って印象。郭采潔も、いかにも現代台湾娘って感じで、悪くない。室井滋って印象ではない。何といっても85分という時間が素晴らしい。ビールがんがん呑んでも大丈夫。呑んでないけど。何故ヴェンダースがExecutive Producerなのかは知らないが、オープニング・シークェンスが小津っぽかったよ。郭采潔が働くのは、お馴染みの誠品書店。コンビニは全家便利店。最近行ってないな、台北。酒醸湯圓が食べたい。あ、ありゃ基隆か。高捷が普通のおじさんでびっくりした。クレジットに出る“楊徳昌に献げる”メッセージに泣けた。の割りにゃ、柯宇綸はヘンな役だったな。
公式サイト
#12「霧の音」清水宏/1956/大映京都/Mar. 9/フィルムセンター○
久しぶりのシミズ未見作、修復上映感謝感激。ナルセのようなタイトルだが、冒頭の移動撮影は清水印以外の何物でもない。足かけ10年にわたる男女のすれ違いを描くメロドラマという点は成瀬もアリって気はするね。同じ場所、同じひと、異なる立場。上原謙と木暮実千代、この一世代ずれ感が絶妙。2人とも10年で(といっても、10年目には彼女は死んでいるのだが)かなり歳をとるのだけど、木暮実千代はどんどんよくなっていった。上原謙と再会したときの複雑な表情は最高。山小屋を守る坂本武、浦辺粂子夫婦もよかった。川崎敬三さえ出てこなければこれが大映作品ということを忘れそう。浪花千栄子の芸者っつうのは、色気はないけど景気がよくていいかもしれない。
#11「再生の朝に -ある裁判官の選択-」劉杰/2009/中国/Mar. 6/銀座シネパトス○
判決から刑執行までの間に、自動車窃盗2件で死刑になる旧法が改正される、冗談のような、当事者にとっては文字通り死活問題の話。実話に基づいているらしい。判決を下した裁判官が主人公。“悪法でも法は法”的な法治国家を取るか、伝統的(?)な人治国家を取るか。自身、娘を交通事故で亡くし、そのショックで奥さんも“う”の字。倪大紅? 観たことないはずだけど、なんとなく親しみが持てる、悩むおじさんである。ショックで何もできない奥さんのために、せっせと食事を作る。山盛りご飯におかずを載せながら食べると、どうしてあんなに美味いんだろうね。中国料理は偉大だ。イタリアンの次に。それにしても、ここの公式サイトはひどい。編集中途で堂々と公開中。
公式サイト
#10「嫁ぐ今宵に」斎藤達雄/1953/新東宝=新映プロ/Mar. 6/フィルムセンター○
小津映画初期〜中盤の常連、斎藤達雄が監督した作品。1953年といえば『東京物語』と同じ年。斎藤達雄が『宗方姉妹』で小津組を卒業してから3年である。脚本が池田忠雄であることも手伝ってか、助監督・石井輝男の影響力は及ばず、かなり小津っぽい。娘を嫁にやる話は、イケチュウというより野田高梧の世界だけど、元商社マンの斎藤達雄が坂本武と湯たんぽレンタル屋をやる姿なんかは、まさしく『東京の合唱』や『一人息子』の世界である。正直者は報われる、という主題は小津にはないけどね。少し前なら飯田蝶子がやりそうなおばさんを沢村貞子が演じていて秀逸。日活の彼を知る者には、山内明がいい人過ぎるな。芦田伸介は相変わらずなのにさ。
#9「MAD探偵 7人の容疑者」杜琪峰,韋家輝/2007/香港/Feb. 19/新宿K's cinema○
プロジェクタによるディジタルソースの上映。なら、少し安くしてもらいたいものだ。劉青雲が狂人、といっていいのか微妙だが、少なくともエスパーの元刑事。マット・デイモンのように手を握らずとも、相手を見るだけで人格がわかってしまう。さらに、犯罪を自分で疑似体験(シミュレーション)することで、犯人が特定できる能力をもつ。なぜか、自分がスーツケースに入れられて階段から落とされたり、土に埋められたり、犯人の側でなく被害者の立場でシミュレーションするのが不思議。そんなので犯人をプロファイリングできるの? 上映後、DVD(?)の特典映像も観た。それによると劉青雲が冒頭で自分の耳を切り落とすのは、ゴッホをなぞって役を造型しているからだとの説明があった。なるほど、ゴッホもエスパーだったか。
公式サイト
#8「ヒア アフター」クリント・イーストウッド/2010/米/Feb. 19/新宿バルト9 (Theater 9)○
死までは慣れっこのイーストウッドが、死の向こう側と向き合った力作。僕自身は、死とは「無に返ること」であり、死後の世界(小さい頃、この題名の本を買って読んだなぁ)などないと思っている頭の固い人間だ。臨死体験は理解可能だが、死者とのconnectionは無理。でも、もしもマット・デイモンに会ったなら、考えを改めるだろう。SFXバリバリの冒頭の津波シーンの疑似体験は強烈。鎌倉があんなになったらどうしようかと本気で考えてしまう。最後は、ボーイ・ミーツ・ガール的にハッピーエンド。ハリウッドだなあ。ま、この重い主題にはいいんじゃない? ストーリーには関係ないが、ロンドンの街とどこか(アルザス?)のホスピスで、フィアット・パンダ出てきた。その点でも、いいんじゃない?
公式サイト
#7「男たちの挽歌 A BETTER TOMORROW」ソン・ヘソン/2010/韓国/Feb. 19/新宿バルト9 (Theater 6)○
安住紳一郎が松岡修造を裏切ってソン・スンホン(この人だけ誰にも似ていない)が復讐して脚がダメになって安住は成り上がりスンホンさん(ファンの母はそう呼ぶ)は落ちぶれ松岡はムショ暮らし後足を洗うが実弟の堀内孝雄が警官になって兄を追う。香港は釜山へ、台湾はタイへ、偽札は武器密輸へ、細部は変わっても、プロットはエンディングまでオリジナルそっくり。スンホンさんに、俺は周潤發とは違うんだとばかり、最初だけ楊枝のようにチュッパチャップスを咥えたり、“オフコース”と一度だけ言わせたりする演出が憎い。迫力は倍増。兄弟の出自を脱北者とし、狄龍と張國榮のような無邪気な雰囲気は息をひそめ、緊張感が高い。朱寶意のようなギャグキャラもなし(というか、女性はほとんど出てこない)。脱北者差別の片鱗も窺えるハードな一作。
公式サイト
#6「嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん」瀬田なつき/2010/『…』製作委員会(角川系)/Feb. 11/角川シネマ新宿(Screen 1)○
大政絢って、おじいちゃんは河津清三郎かい。なわけないが…。原作がとても売れたらしい、現代らしいラブストーリー。人命の価値に鋭く突っ込んだ猟奇犯罪は、最初から拒否反応を起こすのではなく、きちんと正面から見据えなくてはならない。その拒否反応を緩和するのがみーくんとまーちゃんの関係なのだが、ちょっとうざったいなあ。「嘘だけど」と、みーくんがキャメラに向かって言う台詞には寒気がする。話の骨格も紋切り。細部が破綻しているのは、おそらくわざとだろうな。鈴木京香と田畑智子が助演でいい味出してた。田畑智子って、『お引越し』からそのまま大きくなったって印象だ。ラストシーンで、パンダ(FIAT NEW PANDA)が二人の後方に駐車してて、ずっと写ってた。うほっほ。
公式サイト
#5「ビバ!アルジェリア」ナディール・モクネシュ/2004/仏/Feb. 11/フィルムセンター(小ホール)
アルジェリア映画なんて珍しいと、パンダゴロの誘いに乗ったものの、これはフランス映画だったんだ。寒い中、フィルムセンターに着いてから気がついた。ま、監督はアルジェリア人だけど。睡魔が襲ってきたので、細かいところがよくわかっていない。アルジェに住む、非イスラム教徒の母娘の話。母は元ダンサー。働いていたキャバレーはテロで爆破(?)され、その際夫も亡くした。娘は写真屋で働くが、医師との不倫をはじめ、自堕落な生活を送っている。ホテル住まいの二人の隣には娼婦が住んでいて…。イスラム原理主義の波の中で“西”の生活を求めてあがく人たちの閉塞感みたいなものが出ていたと思う。元フランス植民地だけあって、パリっぽい街並みが印象的だったな。国のアイデンティティって何だろね。
#4「再会の食卓」王全安/2010/中国/Feb. 11/TOHOシネマズシャンテ(Screen 1)○
台湾に逃れた元國民党軍兵が上海に里帰りし、生き別れた妻と再会する話。ストーリーはかなり紋切り。原題は『團圓』だが邦題に「食卓」とあるように、よく食べる映画で、そこんとこに注目していたのだけど、めがねを忘れていたこともあり、料理がよく見えなかったのが無念である。一方、『東京物語』みたく、バスで上海観光をするシーンはなかなか楽しかった。こちらは、見ている対象を見せないところがいい。妻役の盧燕は、なんというか京劇俳優のようでもあり、山田五十鈴のようでもあり。妻を連れ帰るのを諦めた男は、最後は1949年のように船で上海を離れるのだが、この設定は事実に即しているのか、脚色なのか。その際の妻の嘘泣きはなんとかならないものか。せめて目薬でもさしたらどうかな?
公式サイト
#3「わが心の歌舞伎座」十河壯吉/2010/松竹/Feb. 5/東劇○
僕は演劇を観ない、従って歌舞伎も観ない。が、スクリーンに映せばそれは映画である。だから観に行く。僕の心の歌舞伎座は、岡田信一郎であり『淑女は何を忘れたか』であり『麦秋』であり『お茶漬の味』であり、要は中身ではなくハコなんであるが、それがなくなってしまうなんて寂しい。『鏡獅子』はさておき、改めて今回歌舞伎を観てみると、これはまさしく大衆演芸。伝統を守るだけではなく、果敢に新しくウケるものを産み出しながら進化していく点が好印象である。僕でも名前を知っている大スターが勢揃いの名場面集で、舞台裏も観られる、お得な作品。海老蔵がこれっぽっち、出てたよ。ところで、演劇を映画にすると、実際の観客とは異なる視点・視座となってしまう。女形のクローズアップはやめてもらいたい。
公式サイト
#2「グリーン・ホーネット」ミシェル・ゴンドリー/2011/米/Feb. 4/109シネマズMM横浜 シアター9
約20年ぶりの3D映画鑑賞。前売り券を持って行ったら400円取られた。花金の夜なのに、僕を入れて観客は10名足らず。背景となるストーリーは意外に悪くなかったのだが、しょうもないギャグ満載のコメディであくまでハリウッド流なのが残念。グリーン・ホーネットの相棒である周杰倫はカトーという名前の中国人。ご丁寧に日本と中国を混同するギャグも挿入されているけど、果たして一般のアメリカ人に伝わるのか疑わしいものだ。続篇がありそうな終わり方がいや。3Dはかなり不自然。平らな絵が、奥行きをもって配置されている感覚。メガネが重いので、途中で取りたくなった。実際に取ったら余計気分の悪くなる画面になったので我慢した。ま、3D技術の20年の進歩の程度がわかってよかった。
公式サイト
#1「イップ・マン」葉偉信/2010/香港/Jan. 23/横浜ブルク13 シアター3○
昨年のTIFFで唯一観たのが第1作。続篇の本作は、葉問一家が逃れた香港の戦後が舞台。第1作を観ていなくても、周辺人物が何者かよくわからないかもしれない以外、特に問題はない。相変わらず、華人ナショナリズム昂揚路線バリバリである。敵は統治国のイギリス、戦いの場はボクシング・リング。つまり異種格闘技なわけだ。イギリス人を思い切り悪者にしている。こんなの1997年以前には作れなかったよね。ところで、功夫ってボクシングと同等なの? 本当は圧倒的に強いんじゃないかなあ。とにかく、クライマックスのボクシングより、甄子丹と洪金寶の戦いの方が見応えあり。そうそう、このシネコン、初めて来たけど交通の便がよくていいね。割と空いてるし。トイレの通路が異常に狭いのが謎だけど。

[←先頭][↓2010年][↑2012年]

Index
Last update: 12/19/2011

いさむちゃん1号 Copyright ©2011 Jinqi, All Rights Reserved.