[↓2008年][↑2010年]
2009年に観た映画の一覧です
今年の目標: 星をちゃんと付ける。
- 星の見方(以前観たものには付いてません)
- ★★…生きててよかった。
- ★…なかなかやるじゃん。
- ○…観て損はないね。
- 無印…観なくてもよかったな。
- ▽…お金を返してください。
- 凡例
- #通し番号「邦題」監督/製作年/製作国/鑑賞日/会場[星]
- #79「オルグヤ、オルグヤ…」顧桃/2007/中国/Dec. 26/ポレポレ東中野○
- 内蒙の少数民族・エヴェンキ族の姉弟に注目したドキュメンタリー・ビデオ。元々狩猟民族なのに2003年に強制移住させられながらも、毎年(?)故郷でキャンプしトナカイを飼っている。(このあたり、記憶があいまい。)彼らは始終呑んだくれており、口げんかだけではなく相当激しい喧嘩をやる。途中からうとうとしてしまったのだけど、かつて見たプロレスのごとく姉が椅子を相手の脳天に振り下ろし流血騒ぎを起こす凶暴さを見て、すっかり目が覚めてしまった。強制移住政策の張本人・江沢民に対しても堂々と悪口雑言を吐くはアッパレ。さぁ〜て、これで今年の映画鑑賞はおしまい。鎌倉に帰って、原さんの新しいお店でパンダゴロと忘年会だ。
- #78「海角七号 君想う、国境の南」魏徳聖/2008/台湾/Dec. 26/シネスイッチ銀座
- アジアで大ヒットとしたという、台湾の日據時代フレーバーの入った映画がどんなものなのか期待して初日初回に観に行った。冒頭、主演男優(范逸臣)・女優(田中千絵)と中孝介の舞台あいさつ。上映前に三人に見どころを尋ねるのもどうかと思うが、“感動シーンがいっぱいです”なんて答えていて、とても不安になってきた。(この不安は的中)大筋は『リンダリンダリンダ』系のバンド物語。これに恒春への郷土愛と、件の“海角七号”宛の手紙がうす〜く絡む、まあ、普通の映画だ。“うす〜く絡む”ので、恐れていた大感動シーンがなかったのが救い。中孝介は歌はうまいのかもしれないが、モノローグは勘弁してもらいたい。見たことある顔が結構出てきた。ホテルで働くメイドは林暁培だな。
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- #77「ジャライノール」趙曄/2008/中国/Dec. 23/ポレポレ東中野★
- 老運転士が田中浩(あるいは山本麟一)、弟子が山田隆夫(あるいは河村黎吉)に見えて仕方がないのが難点だが、内蒙の露天掘り炭鉱内で石炭や炭坑夫を運ぶため走る蒸気機関車の運転士師弟の別れを寡黙に描き切った力作。捨てられる犬のように老運転士を追う弟子を追い返したり呼び寄せたり、老運転士の心の動きが細やかに描写される。その一方、弟子の表情はあいまい。コントラストの強い黒が印象的な画面がとにかくきれい。ディジタルビデオでここまでいけるのか。定年までひと月を残して老運転士がなぜ故郷に帰ることにしたのかは明示されないが、おそらくは二人で犯した勤務中の飲酒の罪をひとりで被ったのだろう。まだ一人前には見えない弟子の将来が不安である。
- #76「小蛾の行方」彭韜/2007/中国/Dec. 23/ポレポレ東中野○
- 蛾がどんな顔をしているかよく憶えていないが、この主人公の女の子は蛾というより兎だ。何が起こっても同じ顔をし、鳴きもしない。可哀想なことに病気で、ぴょんぴょん跳んだりはできない。こんな子を千元で買い取り、街角に座り病気をネタにお金を募る商売をする夫婦。やるせなきおである。同じ商売の別の男が登場してからは、話がさらに悲惨に…。映画終了後のあの子はどうなっただろうか? DVCAMと自然光による映像は、一般人も映っていてとてもドキュメンタリーっぽいのだけど、リアリティは感じられない。それは、食事のシーンはあっても排泄に関する話題がないから。片腕の少年と逃げた後、自分で立てない体でどうやっておしっことかするというのか? 街角で蘇慧倫の『愛了就懂了』がかかってたよ。
- #75「収穫」徐童/2008/中国/Dec. 19/ポレポレ東中野
- 中国で理容店といえばフーゾクである。どういうサービスをしているのか詳細には知らなかったけど、やはり売春なわけか。似たようなところが黄金町にもあるね。実家が農家の地方から出てきて北京の理容店に勤める、悪いけど美人とは言い難い女性を追ったドキュメンタリー。中国姑娘だからして、気が強い。好きで売春婦をやっているわけではないらしく、どうやら田舎の家族をそれで喰わせているようだ。そんな境遇は知らないのに、若干一名を除き、周囲が彼女をまったく蔑んでいないのが素晴らしい。でも、こういう作品を観るたび気にかかるのは、彼女らの将来。いまはいいけど、おばさんになり、おばあちゃんになり、商品価値は指数関数的に下がるだろう。そうなったとき、彼女たちはどうすればいいのか。
- #74「グッド・キャット」応亮/2008/中国/Dec. 19/ポレポレ東中野
- わざわざ阿佐ヶ谷まで行ってラピュタで会員証を更新してから、東中野へ引き返し、中国インディペンデント映画祭へ。入りはちょぼちょぼである。鄧小平が黒猫白猫論をぶって、中国は実質資本主義国家になった。その後、人民間の生活格差は拡がる一方である。そんな中で、中流と思われる、不動産会社社長の運転手をしている男を中心にして、社会を批判する問題作。なんせ、資本主義のくせにそれを認めない社会主義政府だから、たちが悪い…。とか書いてたらチラシに“中国后天双年度電影賞”と書いてあるのに気がついた。政府が存在を認めているのかどうかは知らないけど。それにしても睡眠不足はつらい。主人公の奥さんは夜勤と嘘をついて何をしていたのかな?
- #73「倫敦から来た男」タル・ベーラ/2007/ハンガリー=独=仏/Dec. 19/シアター・イメージフォーラム2○
- 不思議なテイストのモノクロ映画。一応、犯罪モノなんだろうか。超長廻しのカットを繋ぎながら、焦ることなくものごとが進んでいく。ちょうど『サクリファイス』の予告篇を観たからか、タルコフスキーを思い出した。で、もともと睡眠不足だったのが、さらに眠くなるんだなぁ…。面白いのは、会話シーンや登場人物が何かを見つめるシーンでもカットバックせず、その超ゆるやかなキャメラの動きで対象を変えること。また、登場人物のセリフがすべて吹き替えなのが、フィクション性を盛り上げている。舞台はマルセイユかな? そこにロンドンから船でやって来た男は港湾監視所の男に殺されてしまう。(らしい。ちょうど寝ていたので…。) 港湾監視所の男の娘は肉屋で働いているのだが、なぜかノーパン。なんで? 謎だ。
- #72「ワカラナイ」小林政広/2009/モンキータウンプロダクション/Dec. 5/ヒューマントラストシネマ渋谷○
- お金がない。資産もない。頼れる人もいない。現代社会では文字通り死活問題である。“世間に冷たくされた、何の望みもない”と他人を巻き込む犯罪に走る老若男女も少なくない。そんな極限状態で生きる少年。これは作り話だろうが、彼は本当に空腹なのではないか。チキンラーメンとパンへの食らいつき方が尋常ではない。そうだとすれば、恐るべき小林演出術。その監督は、少年とその母親を見捨てた父親役で出演。一種ハッピーエンドだが全体が暗いからか、いつのまにかレイトショーのみになっていて、憤慨した。こっちは体が弱いんだよぉ。それにしても、あんな状況下の少年がいて、周りは何もしなかったのだろうか? 特に、学校。フィクションだから追及してもしかたないが…。
- #71「千年の祈り」王穎/2007/日=米/Dec. 5/恵比寿ガーデンシネマ○
- 離婚した娘を心配して渡米してきた父とそれを疎ましく感じる娘が、互いに歩み寄るまでの物語。親子の確執と和解も永遠の紋切り型といえよう。お互いの嘘を受け入れる大人の対応から本音ベースに移行するとき、一気に問題は緩和に向かう。中国人が西洋にやってきて中国文化をかたくなに守るというのはお決まりのパターンだが、この元紅衛兵らしいコミュニストの父親はエンジニアだけあってか、なかなか順応性がある。英語があまりできなくてもどこへも行ける。イラン人のおばさんと会話もできる。Amtrakで国内観光に出かける父親。汽笛を職場で聴きながら、心で見送る娘は『東京物語』の香川京子のようでもある。ところでこのお父さん、マトリョーシカを知らないのだろうか?
- #70「恐るべき子供たち」ジャン=ピエール・メルヴィル/1950/仏/Dec. 5/東京日仏学院
- 監督作ではないけれど、コクトーものと認識されている一本。うちには赤地にコクトーの絵が描かれたかっこいいジャケットのレーザーディスクがある。7,800円也。もはやただの光る円盤だが…。その作品をスクリーンで観ようというのが今回の企画である。“コードネームはメルヴィル 第2部”の会場である、初めて訪れた日仏学院の劇場はなかなか快適。シードルを飲んだ後では、なかなか辛く、リールのかけ間違いというハプニングが起こっても、パッチリとはいかなかった。まあしらふでも、仲の良すぎる姉弟が周辺を巻き込みながら破滅へ向かう物語は過分に演劇的で、やはり辛いけどね。コクトーじゃないのに(しつこい)、フィルム逆廻しの術が見られます。
- #69「きみに微笑む雨」ホ・ジノ/2009/韓国=中国/Nov. 29/シネマスクエアとうきゅう
- 『八月のクリスマス』のホ・ジノも、もうそれで語られることはなくなった。シネマスクエアとうきゅうも、かつての高級感は微塵もなく、単に歌舞伎町の場末にある怪しい映画館である。客はまばら。淋しい。でも、舞台は韓国国内でなく成都、主要な言語は英語という、一風変わった設定であるところが、なんだか新鮮。とは言っても、焼酎で呑んだくれるところは、やはり韓国映画である。チョン・ウソンはどうでもいいけど、相手役の高圓圓が美しい。って誰、このパンダみたいな名前の女優は。あー、『愛情麻辣燙』の女学生か。大きくなったね。成都だから、本物のパンダも出てくるよ。四川大地震に絡ませた設定は、もう一ひねり欲しいところ。
- #68「フェルショー家の長男」ジャン=ピエール・メルヴィル/1962/仏/Nov. 29/有楽町朝日ホール(FILMeX)
- 今年のフィルメックス、最後に観るのもメルヴィル。本作はボクサーくずれのジャン=ポール・ベルモンドが、警察に追われる身となる大銀行家フェルショーの秘書となって逃避行を手伝うロード・ムーヴィー。パリからニューヨークへひとっ飛び。そこから自動車で南部へ向かうのである。その過程でベルモンドと銀行家の立場が逆転していき、携行している大金の行方は…。イタリア系のベルモンドが、フランク・シナトラが住んでいたアパートを訪ねたりして、茶目っ気もある。それにしても、雇われてすぐアメリカに飛べたり、英語を何の苦もなく喋ったり、単なるボクサーじゃなかったんだな、ベルモンドは。イッチ・アイク。フランス人の喋る英語って、楽しいなあ。
- #67「この手紙を読むときは」ジャン=ピエール・メルヴィル/1953/仏/Nov. 29/有楽町朝日ホール(FILMeX)○
- ジュリエット・グレコが元修道女の厳格なお姉さんを演じる。おお、かっこいい。修道女を見ると『プレイタイム』を思い出す。同作では頭巾(ウィンブル)の裾がピコピコ跳ねるのだけど、本作ではもちろんそんな罰当たりな表現はない。ストーリーは、カンヌのプレイボーイが、人妻を殺し、ジュリエット・グレコの妹を犯し、あげくの果てにジュリエット・グレコに迫って彼女までグラグラしてしまうというもの。彼には誠実さのかけらも、反省の“は”の字もない。前日に観た『春風沈酔の夜』と異なるのは、そいつが“無事”死んでしまうところ。我に返り反省したジュリエット・グレコは修道院に戻り、ストイックなユニフォームに再び身を包むのである。
- #66「春風沈酔の夜」婁燁/2009/中国/Nov. 28/有楽町朝日ホール(FILMeX)○
- 映画のテーマらしい郁達夫の『春風沈酔的晩上』が、美しい画面に字幕でときどき提示されるのが印象深かった一品。新人のキャメラとはとても思えない。中国国内のロード・ムーヴィーというのも珍しい。一方、張震みたいなひとりのゲイが他者を不幸にしながら何の反省もなく生き続ける話にはフラストレーションが溜る。上映後のQ&Aでこの映画にも希望があるようなことを監督が発言していたが、本気だろうか? 相手の夫の妻からの依頼を受け贋張震を尾行する張國榮みたいな男(実際、『欲望の翼』を連想させるシーンまである)が、“ミイラ取りがミイラ”状態に結局陥る展開は面白いけど。その贋張國榮のガールフレンドは『天安門、恋人たち』の女優かな?
- #65「春琴抄 お琴と佐助」島津保次郎/1935/松竹蒲田/Nov. 28/東劇(FILMeX)○
- リメイクが繰り返される田中絹代主演作品のひとつ。大店の盲目の箱入り娘・お琴と同店の丁稚・佐助が辿る悲劇(二人にとってはハッピーエンドなのかも)。佐助の行動は理解し難いが、周りがなんとかできなかったのかと、観客は涙しながらもこの事件をレビューするのである。藤野秀夫と葛城文子の両親が頼りない。『戸田家の兄妹』の両親だからな。ここはひとつ、田中絹代に意見するミッチーの出番が必要だったのだ。佐助を演じるのは高田浩吉。針で自分の両眼を突くなどということができるだろうか? 普通、ひとつ潰したところで痛くてやめると思うな。この事件の悪者が斎藤達雄というのには違和感あり。徳大寺伸の方がよかあないか?
- #64「北京陳情村の人々」趙亮/2009/中国/Nov. 28/有楽町朝日ホール(FILMeX)○
- 中国人民が中国政府・行政についての問題提起(=批判)を行う、危険な作品。“危険”というのは、政府による弾圧という製作者への危険と、製作者によるバイアスという観客への危険のふたつの意味がある。われわれ観客は、映画(やTV)の訴えることのみを受け入れてはいけない。この作品を観ると中央政府が陳情を受け付けるしくみを作った意図は人民のガス抜きにありそうだが、本来はちゃんとしたシステムのはずだったかもしれない。陳情が多いと該当の地方自治体の評価が下がるシステムは、理論的には画期的といえる。残念ながら、陳情を減らすために地方自治体の採る施策が、行政をよくすることではなく、陳情を実力で阻止することになる現実。溜息出るね。現状での陳情の成功率はいかほどだろう?
- #63「花形選手」清水宏/1937/松竹大船/Nov. 25/東劇(FILMeX)○
- 清水印満載の娯楽作。劇場で観るのは二度目(⇒一度目)。併映される『團栗と椎の實』のついでに観た。大山健二率いる学生の行軍訓練が、道行く人を追い抜くさまは『有りがたうさん』だし、女性ハイキンググループは『按摩と女』を想起させる。そしてこれらを貫く移動撮影は、まぎれもなく清水だ。それでもやはり、清水映画としては、できはいまみっつくらいだ。“勝ちゃいいんだ”といいながら、負けてもニコニコしている笠智衆の、佐野周二へのライバル意識がヘン。“勝つ方がいい、勝つ方がいい♪”と歌いながら踊る日守新一と近衛敏明もヘン。そういえば上記女性ハイキンググループには水戸光子がいたはずだけど、気がつかなかった。さすがに坪内美子はわかったけど。
- #62「團栗と椎の實」清水宏/1941/松竹大船/Nov. 25/東劇(FILMeX)★
- 清水フォロアーとしては、仕事のため『女醫の記録』を観逃したのは無念。もう、こいつだけは外せない。3ヶ月ほど前フィルムセンターで上映されたが、大人が観るには子供を同伴する必要があったために断念した作品。メインは『花形選手』らしいが、僕にとってはこちらが目当てである。子供の短篇としては『ともだち』が最高だけど、本作も期待を裏切らない。残念なことに保存状態はよくないが。大山健二の養子になった子供が、男の子グループを爆弾小僧が支配している田舎に越してきた。最初はひ弱だった子供が、木登りをきっかけにあっという間に乗っ取ってしまい、爆弾小僧とも仲直りする。駆け回る子供を撮る清水の嬉しそうな顔が目に浮かぶようだ。(実際には見たことないけどね。)
- #61「息もできない」ヤン・イクチュン/2008/韓国/Nov. 23/有楽町朝日ホール(FILMeX)★
- やくざが女のために足を洗おうとした途端殺されてしまうという、世界共通の永遠の紋斬り型ストーリー。ア・リッチョーネの飯田さん、お店を辞めたと思ったら、韓国で映画監督になってたよ。チンピラ・サンフンと女子高生・ヨニがなんとなく惹かれあっていく過程は、互いの家庭内のDVの凄まじさの遠い延長線の交差。微笑ましくいじらしい。ヨニの母親を殺したのはサンフンだという暗示があった気がするけど、暗示のまま終わった。別バージョンがあるのかも。ヨニを演じた女優はなかなかいいよ。その凶暴な兄貴はカープの前田にそっくりだった。英題の『Breathless』はゴダールの『勝手にしやがれ』と同じだ。これには多分に意味がある…、やはり、ないかな。
- #60「母なる証明」ポン・ジュノ/2009/韓国/Nov. 23/シネスイッチ銀座○
- 捻りに捻った経緯の末、単純な真相ながらも複雑な結末を迎えるシナリオ。『羅生門』を参照したと思われるが、あまり好きじゃないな。“韓国では、公開10日で200万人を超える”というチラシの言葉を信じれば、『グエムル』で大ヒットを飛ばしたポン・ジュノのネーム・バリューは相当上がっているのだろう。『ほえる犬は噛まない』みたいな肩の力を抜いた映画はもう撮れないのだろうか? とはいえ、キム・ヘジャ演じる母親のキャラクターは強烈。冒頭の草原、最後の観光バス、それぞれで見せるダンスは、彼女の今後の生き方に対する決意の表れである。一方、韓国の川地民夫となったウォンビンはどうかというと、ただのウスノロという印象。アイドルなの?
- #59「こまどり姉妹がやって来る ヤァ!ヤァ!ヤァ!」片岡英子/2009/アルタミラピクチャーズ/Nov. 23/テアトル新宿★★
- 小さい頃は、NHKの歌番組に出る双子のおばさん演歌歌手。大人になってからは、アキラ映画に出てくる人気双子ユニット。それがこまどり姉妹。まだ現役バリバリだとは、失礼ながら知らなかった。1時間あまりの本作は、こまどり姉妹の現在を撮りながら、ふたりの生い立ち、歌手への波乱万丈の道を辿る、応援歌である。71歳のおばあちゃんを追うドキュメンタリーは映像的にはかなり辛いのでは、とやや危惧していたが、それは杞憂に終わる。昔の樺太の映像や『歌う暴れん坊』が挿入され、まことに興味深い。ヒット曲もバンバンお披露目。『ソーラン渡り鳥』が欲しくなった。iTune Storeでは3枚アルバムがあるなあ…。若い頃のお姉さんは若い頃の轟夕起子に似ているぞ。心中志願者がいたのも頷ける。間違えて妹を刺すなよ。
- #58「ヴィザージュ」蔡明亮/2009/台湾=仏他/Nov. 22/有楽町朝日ホール(FILMeX)
- オルセーに対抗してかどうかは知らぬが、ルーヴル美術館が監督にオファーして撮られた作品で、ルーヴルに収蔵されるらしい。ふーん。蔡明亮印を寄せ集めたって感じの難読作。林ディレクター、これは売れませんよ。『顔』といえば藤山直美だが、同名の本作の顔は、ジャン=ピエール・レオ。それに、ジャンヌ・モロー、ファニー・アルダン、ナタリー・バイという、泣かせる往年のトリュフォー組俳優陣。ジャンヌばあさんは『突然炎のごとく』で歌っていた『つむじ風』まで披露する。Q&Aで監督も言及したように、トリュフォーとジャン=ピエール・レオの関係は、蔡明亮と李康生にそのまま投影できるわけで、トリュフォーの不在が浮き出る。
- #57「ギャング」ジャン=ピエール・メルヴィル/1966/仏/Nov. 22/有楽町朝日ホール(FILMeX)★
- 『マルセイユの決着』観賞後、どうしてもオリジナルが観たくなり、Amazon.comでCriterion版DVDを買った。ので、すでに観ているのだが、それは当然英語字幕でもあり、やはりスクリーンで観たいよねー、と思っていたら、FILMeXでの特集上映。さすが、市山プログラム・ディレクター。モノクロームのフレーム内で繰り広げられる脱獄老ギャングの死にざまは決して格好いいものではない。潜伏中、広場にペタンクを見に行って見つかっちゃうなんて、なんとも間抜けではないか。でも、リノ・ヴァンチュラが演じると格好いいと錯覚してしまうから不思議だ。ジャン・ギャバンも格好いいけど、この役は無理だな。塀を越えられず、犬に噛まれるからね。
- #56「モラン神父」ジャン=ピエール・メルヴィル/1961/仏/Nov. 22/有楽町朝日ホール(FILMeX)★
- こんな堅い話で、かくも緊張感のあるスリリングな映画を撮るとは、あっぱれ、メルヴィルである。共産党シンパの未亡人(?)と神父の関係を描いた作品。神の存在〜信仰を巡るインテリ同士のぶつかり合いは、やがて女の実らない片思いへ進展。とはいえ、神父だって客観的に見れば明らかに彼女に惹かれているのだけど…。神父を演じるのはジャン=ポール・ベルモンド。ストイックな役が新鮮。時代背景は第二次世界大戦。イタリア軍に進駐され、ドイツ軍に進駐され、そして解放。同盟国だった両軍の対比が興味深いと同時に、どちらをも茶化して見るフランス人の視点がいやらしい。しかし、イタリア軍って全然強そうじゃないな。ローマ帝国軍の伝統はないのか?
- #55「ひとりで生きる」ヴィターリー・カネフスキー/1991/仏=ロ/Nov. 14/ユーロスペース2○
- ロシアになり、フランス資本も入った本作はカラー。こちらも観るのは14年ぶりだ(⇒前回)。前作でガーリャは死んでしまったので、続篇では女の子がワーリャに変わった。女優が同じなので、同一人物にしか見えない。“妹”らしいが、双子という設定なんだろう。ワーリャがワシリカを訪ねてきて、自分はカムチャッカに行く途中だという。なんとなく聞き流したが、緯度でいえば10°も北、距離で2,000km以上遠い大変なところだ。とても少女がひとりで行くところとは思えない。(出港後、船から飛び込んだことが暗示されるのは、同じく傷心した『出来ごころ』の喜八みたいだ。) クレジットによれば、前作も抑留者として出演し炭坑節が印象的だったヤマモトさんはワタナベさんという日本人が演じていたようだ。
- #54「動くな、死ね、甦れ!」ヴィターリー・カネフスキー/1989/ソ連/Nov. 14/ユーロスペース2★
- このカネフスキーの大傑作を観たのは1995年。製作から6年も経ったソ連崩壊後だった。画面からほとばしるパワーに終始圧倒された記憶がある。今回のリバイバルは大変喜ばしいが、衝撃はすでに吸収されているので★はひとつ。大戦直後ソ連の厳しい自然・社会・人生が、煤と垢と糞尿、そして雪にまみれた極東の炭鉱町を舞台に瑞々しいキャメラで描写される。スーチャン(蘇城)というのは、現在のパルチザンスクらしい。蘇る町、なんとも強制収容所にはぴったりの場所ではないか。ワシリカとガーリャの関係は『汚れた血』のアレックスとリーズのようなもの。ガーリャが殺されるシーンが記憶と違うのだけど、これはスカパーで録画したやつを再確認する必要があるな。
- #53「よく知りもしないくせに」ホン・サンス/2008/韓国/Oct. 24/TOHOシネマズ六本木ヒルズScreen6 (TIFF)★
- (巻上公一の声で)サンスサンス、ホン・サンス♪ 新作がかかる度、かかさず観ている監督の筆頭、ホン・サンス。これで1、2、3、4、5、6本目だ。去年はフィルメックスだったけど、今年はTIFF(松下さん、“てぃふ”と呼ぶのはやめて。) 相変わらずのホン・サンス・ワールドが展開していて、そろそろどれがどの作品かわからなくなってきた。毎回ヒロインが代わるし。本作は前半と後半に分かれていて、それぞれに当然何人かの女性が出てくる。今回は特に思ったけど、やはり監督の経験にもとづいているのだろうか? 映画祭のスタッフの女性がかわいくて色っぽかったよ。当然、突然怒り出したりするホン・サンス・ガールなわけだが…。(これも監督の趣味に違いない。) それにしても、やはり呑むシーンが秀逸だね。
- #52「ヤンヤン」鄭有傑/2009/台湾/Oct. 24/TOHOシネマズ六本木ヒルズScreen2 (TIFF)○
- 孤独な、フランス人と台湾人の混血娘・陽陽が、3人目の父親を見いだす話。上映後のQ&Aで、思ったことはだいたい監督の口から出てきた。とてもわかりやすい日本語で。僕もあんな感じで中国語や英語を喋りたい。やはり、ラストで陽陽がひたすら走り続けるシーンが印象的。このシーンを筆頭として長廻しを多用しているのだけど、落ち着いているわけではなく、粗削りなキャメラ。この辺は好みの分かれるところ。陽陽、短気を起こしちゃあいけないな。まだ若いからしかたないけれども、そこを如何に早くコントロールできるようになるかで、のちのQoLが変わってくると思うよ。なんて、映画中人物に講釈たれても、しょがないねー♪ それにしても、義姉、恐すぎ。
- #51「テン・ウィンターズ」ヴァレリオ・ミエーリ/2009/伊=ロ/Oct. 18/TOHOシネマズ六本木ヒルズScreen7 (TIFF)
- イタリア映画を観るのは何年ぶりだろう?まさか『息子の部屋』以来?いまやイタリアは映画も音楽も縁遠く、興味があるのは食べ物、乗り物、建物って感じ。イタリア語は挫折中。だめじゃん。で、コンペに出てきたこの作品。ヴェニスとモスクワを舞台に10年越しの恋というのだろうか、男女が接近したり離れたり。ベッドインがゴールというのは浅いし、10年の経緯を見るかぎり、これから先うまくいくという気がしない。一点、季節が常に冬ってのはよかったな。陽気でないイタリア人というのも新鮮かも。それにしても、キャストがよくない。イタリアにだって可愛い娘はたくさんいるぞ。たぶん。イタリアのくせに、パンダが出てこなかったのも減点対象。新人監督、がんばれ。
- #50「タレンタイム」ヤスミン・アフマド/2009/マレイシア/Oct. 17/TOHOシネマズ六本木ヒルズScreen2 (TIFF)★★
- 多言語・多宗教・多民族社会のマレイシアの現実と理想を描き続けた監督の遺作は、トーンは変わらないものの、生の喜びに対する思い入れが大きくなっている。変わらぬヤスミン組のキャストが嬉しい。ときどき監督特有のユーモアを交えながら、全編胸をいっぱいにさせるエピソードが、学芸会(?)・Talentimeに向って集約されていく。マヘシが聾唖者であることにムルーが気付くところは遅すぎて、あり得ない感が大きい。『日本語が亡びるとき』の読後では、この社会をつないでいるのが英語であることに改めて溜息が出る。しかし、この二人は、それ以外で結ばれているぞ。チンク(600かも)出てきたよ。日本でいえば公共広告機構みたいなCF群をおまけで上映。こちらもヤスミン節全開。必見。安らかに。
- #49「低開発の記憶 -メモリアス-」トマス・グティエレス・アレア/1968/キューバ/Oct. 3/ユーロスペース2○
- これ、当時公開されたの?評判は?本作が国内で成功していたとすれば、カストロ政権はかなり寛大だったといえる。ジョン・マルコヴィッチみたいなブルジョアの男が、革命後のハバナで精神的に追いつめられていく過程を、同時録音、男目線のキャメラワーク、他の作品のパッチワーク(ブリジット・バルドーも登場)、ドキュメンタリー映像、TV映像等織り交ぜながら、大胆な手法で描く。背景は、人類初の核戦争に火が着きそうになった1961〜1962年のいわゆる“キューバ危機”。キューバに住む者がどんどん国外に脱出していく中、マルコヴィッチはハバナに残り、口ではかっこいいことを言いながら、ホン・サンスの映画の主人公のように、女性にフラフラしていくのである。中国なら強制労働で思想改造だな。
- #48「忍法忠臣蔵」長谷川安人/1965/東映京都/Sep. 27/ラピュタ阿佐ヶ谷
- 忠臣蔵外伝のひとつ。伊賀忍者・丹波哲郎がくノ一軍団を指揮して、大木実演じる大石内蔵助の仇討ちを邪魔する。くノ一が赤穂浪士をひとりひとりお色気で骨抜きにして仇討ち意欲をなくそうという作戦なのだが、タンバほどの忍法が使えれば、浪士をバッタバッタと処分すれば済む話である。タンバが上杉のこの陰謀に加担する動機にもなんとも説得力がない。西村晃の娘がなぜタンバを裏切って将軍の許に行ってしまった女と瓜二つ(中身は桜町弘子)なのかもよくわからない。上映前に食べたうさぎやのどらやきも消化不良である。まあ、タイトルクレジットの部分だけはなかなかかっこよかったな。終映後、久しぶりに山猫軒で食事。えらく混んでいて料理が出てくるのが遅く、帰ったら深夜。阿佐ヶ谷は遠い。
- #47「空気人形」是枝裕和/2009/『…』製作委員会/Sep. 27/新宿バルト9 シアター8★
- たんたんたんたんたんたんたんたんたんたんたんたん、んたーたっ♪ うー、ペ・ドゥナ、かわいい。彼女の出演作は結構観ているが、そんなこと思ったのは初めてだ。メイド服に反応しているのではないと思う。どういう経緯か不明だが心をもってしまったダッチ・ワイフ(って、差別用語?)の、高橋昌也(うぉっ、じーさんだ)に言わせれば“かげろうのような”儚い生と恋が、李屏賓のなんともやさしいキャメラで描かれる。ぎっちりメカの詰まったロボットものとは異なる、軽やかさと脆さ。変に涙とか流させないところがいい。周りには色々な人物が登場するが、過食症らしい女の子の存在意義が、何も食べない空気人形との対比以外にはよくわからなかった。さて、ペ・ドゥナは『仁義なき戦い』のファンになったかな?
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- #46「グッド・バッド・ウィアード」キム・ジウン/2008/韓国/Sep. 22/109シネマズMM横浜 シアター11★
- 香港に『ワン・チャイ』あれば、韓国に『グッド・バッド・ウィアード』あり。スパゲッティ・ウェスタンの舞台をなんと満洲に移し、馬賊や大日本帝国陸軍を巻き込んだオリエンタル・ウェスタンが展開する。The Good=クリント・イーストウッド役はチョン・ウソン。クールだ。The Badはイ・ビョンホン。相変わらず、ナルシスト。The Ulgyならぬ“変な奴”には定番、ソン・ガンホ。宝の地図を巡って、ノン・ストップ・アクションが延々と続く。このしつこさには、サム・ペキンパーも吃驚であろう。韓国映画界はまだまだ元気だ。お色気がなかったのが残念。そうそう、島田紳助が出ていたのには誰もが気付いただろうが、丹波哲郎が出ていたのに気付いたのは、僕とパンダゴロくらいだったかもしれないな。
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- #45「女の子ものがたり」森岡利行/2009/『…』製作委員会/Sep. 20/シネカノン有楽町2丁目1
- 物語Aを語るまでの物語Bをプロットとし、しかもB=Aという構造の映画は珍しくない。西原理恵子の原作は読んでいないが、おそらく原作の方が面白い。だいたい、深津絵里の若いとき役の二人がまったく似ていない(もしかしたら西原理恵子には似ているのかもしれない)のが気に入らないし、その二人が出るシーンの方が圧倒的に長いのだ。ふかっちゃんは主役ではないのか? 舞台は苦手なのでそちらは遠慮しているが、ふかっちゃんが出演する映画はこれまでだいたいフォローしてきた。(例外は、『ザ・マジックアワー』。三谷幸喜の映画はさすがに観に行く気になれなかった。)今回の役は、よくない。というか、恩田すみれを最後に、ダメダメである。この状況から彼女を救うのは誰だ?
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- #44「白夜」小林政広/2009/『…』製作委員会/Sep. 20/新宿武蔵野館2○
- 『勝手にしやがれ』、『恋人までの距離』、『ポンヌフの恋人』などが陳腐に連想される、運命の橋の上で付きまとう男と限られた時間を女が過ごす物語。サン・サーンスの『白鳥』(といえば『今宵かぎりは』だな。)が繰り返し流れ、女の憂いを強調しようとするのだが、そこにおちゃらけた男のちょっかいが入る、ドリフ・ギャグみたいなプロット。言動をコロコロ変え、二人の女性を見捨ててしまう男に未来は来ない。なぜ、舞台はリヨンなの? 場所がらキャストもスタッフも最小限。三脚もないらしく、すべて手持ち。ここはフィクスでしょう、というとこも画面はカタカタ揺れる。ま、いいけど。出演者は相変わらず素人っぽいし、旅費を除けば超低予算なこの作品、どれくらい儲かるのか、興味深いところである。
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- #43「ブー・ジュンフェン短編集」巫俊鋒/2004-2009/シンガポール/Sep. 13/シネマート六本木4
- Booなんて苗字があるんだ。世界は広い。その若いゲイ監督による短篇を7つ並べたもの。セットなしのビデオ撮影だから、何本でも撮れるんだろうな。どれがどれだか、もうわかんなくなった。まあ、たくさん撮って、勉強してくれたまへ。『シンガポール・ドリーム』でもそうだったが、上映後、シンガポールにいる関係者(今回は監督)とSkypeでQ&Aタイム。これはなかなか画期的だ。スクリーンに相手の姿をドーンと映すので、その場でのセッションよりも臨場感がある。パンデミックな世の中、もっと広まる気がするぞ。映画館入口でお客を迎えるマー・ライオンも微笑ましく、シンガポール映画祭、おぬし、なかなかやるな。シンガポールづいたので海南鶏飯食堂で食事して帰る。
- #42「シンガポール・ドリーム」呉榮平,胡恩恩/2006/シンガポール/Sep. 13/シネマート六本木4○
- HDBに住む、ロト狂いの地井武男と涼茶マニアの正司歌江夫婦には、石破茂というバカ息子と張艾嘉の賢い娘がいる。石破茂のダメダメによってこの中流家庭がズタズタになっていくさまを追っていくのだが、なかなか面白かった。地井武男はついに200万ドルを当ててしまう。これが破滅を加速する。地井武男は心筋梗塞かなんかで死んでしまい、正司歌江はそのショックでぼけ、アテにしていた遺産がもらえない子供たちは対立を深める。張艾嘉の夫の山本太郎も含め、登場人物それぞれの気持ちがよく観客に伝わってきた。誰にでも感情移入できるところが本作のいいところなのかもしれない。マルチ言語環境における登場人物の会話は相変わらず楽しいよ。しかし、ブロックノイズの入るような劣悪なデジタル上映は勘弁して欲しい。
- #41「孫文 -100年先を見た男-」趙崇基/2006/中国/Sep. 5/シネマート新宿1○
- 去年のGWにペナンに行ったとき、李心潔が表紙の『夜・明』本を発見し、こんな出演作品があるんだ、と買って帰った。その後日本公開の予定も聞かず、すっかり忘れていたが、突然、上映の吉報。日本からペナンに逃れ、革命への再挑戦を狙う1910年の孫文の話。クレジットでは台湾俳優に“中国台湾”のカッコ付。という中国製作にもかかわらず、宋慶齢以外の孫文の女性に注目していているのが興味深いところ。脇役と予想していた李心潔は、架空の人物と思われるが準主役級で、撮影当時もう30歳というのに十代の役で元気溌剌。満足だ。ロケがペナンで行われていて、知っている場所もちらほら出てきたのが楽しかった。去年宿泊したブルー・マンションが阿片窟として登場して苦笑。一瞬だが、現代の自動車が写ったのはご愛嬌。
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- #40「乾いた花」篠田正浩/1964/松竹大船/Sep. 5/ラピュタ阿佐ヶ谷○
- これは宍戸錠主演の鈴木清順作品のような、松竹ヌーベル・ヴァーグの一本。池部良がやくざ、というと当たり前のようだが、こんなクールな池部良は見たことがない。ファム・ファタールに加賀まりこ。相変わらず小憎らしい。無声映画を思わせる夢の再現シーンがヘン。一方で、塀の中での池部と杉浦直樹の会話で終わるエンディングが最高。加賀まりこが何者だったかなど、誰も知る必要はない。ところで、山茶花究。どこに出てくるんだ、と思っていたら、終盤、音楽喫茶で水商売の女といるところを池部に刺される、関西系親分。ぴったりの配役だったよ。
追伸:イシイ支配人どの。最前列の特等席を2席占拠する、あの女を出入り禁止にしてください。
- #39「九月に降る風」林書宇/2008/台湾/Aug. 29/ユーロスペース2○
- パンダゴロ絶賛の新竹映画(新松竹みたいだ)が公開。本日、GWに付き合ったロケ地巡りの成果確認篇、といったところ。そんなにいいのか、と問われれば、なかなかよかった、と答えよう。映画の中の新竹は、まだ記憶に新しい街と同じだった。高校のちょいワル・グループが、卒業までに崩壊していく過程が自然に描かれる。自分が悪いのに悪いと言えない年頃ゆえに起こる悲劇は、彼らに一生付いていくわけだ。1996年の野球賭博事件を背景に進むスケールの小ささが気になる。これが現代のジャスト・サイズなのか? ビデオ・ルームで選ぶ映画がレーザー・ディスクなのが懐かしかった。『恋恋風塵』は彼女(千秋を思わせて魅力薄。この映画の弱点だ)が選んだんだろうな。
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- #38「Clean」オリヴィエ・アサイヤス/2004/仏=英=加/Aug. 29/シアター・イメージフォーラム○
- 『夏時間の庭』が意外にもヒットしたアサイヤス。その勢いで、5年前にカンヌで張曼玉に主演女優賞をもたらした作品が日本公開された。ヤク中の張曼玉が子供に会うために立ち直ろうと懸命にもがく姿を描く力作。監督の好みであろう、ロック・ミュージックが助演だが、僕には少々辛かった。しかしながら、演技力はもちろん、英語、フランス語、広東語を自在に操り、歌まで唄ってしまう張曼玉には脱帽した次第である。バンクーバー、ロンドン、パリとそれぞれが見せる街の表情もよかった。ヘロインのOverdoseで死んでしまったミュージシャンの夫、の父親はニック・ノルティ。いつ銃をぶっ放すかハラハラしたけど、この人も好々爺になったなあ。おばさんになったベアトリス・ダルにも吃驚だ。
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- #37「危険旅行」中村登/1959/松竹大船/Aug. 1/ラピュタ阿佐ヶ谷○
- 『集金旅行』(1957; 劇場では未見)と『求人旅行』の間に作られた、『旅行』シリーズの最高作。音楽が武満徹というのは、確かに豪華ですねえ。主演は高橋貞二と有馬稲子。マスコミを嫌って東京を逃げ出す作家・有馬と、雑誌カメラマンの高橋が、ひょんなことから一緒に名古屋〜平戸まで極貧旅行するロードムーヴィー。二人のやり取りや、道中のエピソードも面白いのだけど、本作を最高たらしめているのは、間違いなく沢村貞子の怪演である。平戸に住む有馬の乳母という設定で、その役作りぶりは泣かせるほどプロ。必見です。平戸も、現在はどこまで保存されているか判らないけど、そうとうよさそうなところだった。そういや、十朱父娘出てました。若い三上真一郎もね。
- #36「台湾人生」酒井充子/2009/協映/Aug. 1/ポレポレ東中野○
- 予備知識のない人には見せたくない作品。植民地化で日本は台湾にいいことをしたとか、首相の靖国参拝は当然だとか、台湾人は中国より日本が好きとか、勝手に判断されるのは残念だから。登場人物一人ひとりの波乱万丈人生には本当に心を動かされるが、この5人の話だけで総括してはいけないのだ。もうタイムリミットぎりぎりだけれども、台湾人、大陸人、日本人のさまざまな話をニュートラルに聴きたいものである。弟を処刑され、自身もその寸前までいったと思われる蕭錦文さんの二二八事件の話が強烈な印象を残す。こういうビデオ作品も平気で“映画”と呼ばれるようになった。時代だなあ。それにしても、客を並ばせる階段が暑い、しかも途中に喫煙所を設けるポレポレは何を考えているのか?
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- #35「ゴルゴ13 九竜の首」野田幸男/1977/東映/Jul. 19/シネマヴェーラ渋谷○
- 劇画『ゴルゴ13』を読んだことなくとも、主人公は至るところで見ることができるので、頭にイメージがある。実写としては高倉健版に続くものらしいが、本作の千葉真一演じるデューク東郷は、(パンチパーマは別として)まさに僕のもっているゴルゴのイメージそのものだった。役者だね、チバちゃん。舞台が、香港、マイアミ、香港、東京、京都、マカオ、香港とどんどん変わっていくのが豪華。九龍城砦まで登場。なぜ、そこに鶴田浩二が住んでいるのかは謎だが…。『男と男の生きる街』と同じく、本作も麻薬密売組織の内紛がひとつの軸。心の葛藤があった大阪府警の山本武に対し、組織のチンピラをバンバン撃ち殺す香港皇家警察の嘉倫は、マンガとはいえあまりにも平板。監督の問題だろうが、役者として文句はないのか?
- #34「男と男の生きる街」舛田利雄/1962/日活/Jul. 19/シネマート六本木 Screen 3○
- スクリーンでは未見の、いづみさま#70。六本木の石原裕次郎特集は最小スクリーンでもじじばば客が埋まらず、淋しいものである。舛田らしい、麻薬密売を巡る骨太のドラマで、いづみさまは2番目にクレジットされているにもかかわらず、はっきり言って脇役。殺された男の妹役で、事件を追う新聞記者の裕次郎と心が通うわけでもない。でも、京都弁を操るいづみさまが見られるので、よろしおす。それでは誰が“男”と“男”なのかというと、裕次郎と刑事・山本武である。山本武?よぉし、わかったっ。この役どころは二谷英明がやるはずだったのに、ニタニが関西弁を喋ることができなかったのだ。裕次郎の上司・二本柳寛もいい役だし、クライマックスは『西部警察』みたいで、意外性の一本。
- #33「サインはV」竹林進/1970/東宝/Jul. 11/シネマヴェーラ渋谷
- 立木大和が日立武蔵をモデルにしたというのは有名な話。昔、TVで見てました。実写版スポ根TVドラマとしては、僕にとっては『柔道一直線』と双璧だ。TVドラマを映画化するとよくオリジナル・ストーリー(番外編)になってしまうものだが、本作はTV版のダイジェストになっている。編集ではなく、撮り直しているのではないかな? ワイドだし。稲妻落とし、X攻撃、范文雀の骨肉腫。すべてが懐かしい。いま見ると岡田可愛はぽちゃぽちゃで、こんなので日本一のバレーボール・プレイヤーになれるわけない。監督の中山仁が岡田をレシーブ特訓するシーンで、動けなくなった岡田に中山がボールをいくつも投げつけ叱責するのだが、ボールがまともに岡田の頭とかに当っていて本気で岡田が恐がってるのが、むちゃくちゃ笑えた。
- #32「0課の女 赤い手錠」野田幸男/1974/東映/Jul. 11/シネマヴェーラ渋谷
- 全盛期をとっくに終えた郷鍈治と三原葉子の化物ぶりが強烈なゲテモノ映画。丹波哲郎の極悪ぶりもアッパレ。この三人を前にしては、主演の杉本美樹もおっぱい出して頑張っているにもかかわらずまったく魅力がない。三原葉子のおっぱいの方が5倍くらいでかいのだ。(他所の肉もでかいが。) 郷鍈治は『西遊記』の金角大王みたいで、スマートさは微塵もない。政治家・タンバの嫁入り前の娘が郷の不良グループに強姦・誘拐され身代金を要求されるが、政治的野望のためにタンバがこの事件を(しまいには娘まで)秘密裏に片づけようとして杉本を利用するが失敗する。この嫁入り先が政界の大物“ハトムラ”家。昔から鳩○家はこういう話に利用されてたんだね。客席はガラガラ。こんなのが満席のようでは困るけど。
- #31「キャンディレイン」陳宏一/2008/台湾/Jul. 11/新宿バルト9 シアター8
- この映画館の場所は元新宿東映だな。東映本社なんだ。新しくなって初めて来た。同じ部屋で起こる4つのラブストーリーから構成されるレズ映画。登場人物も部屋のインテリアも異なるのだが、Candy Rain様宛の宅配便が届くところが共通項。どれも完結せず終わっていて、いろんな恋があるよね、というのがメッセージだな、たぶん。特筆すべきは、陳綺貞がナレーションと音楽で参加していること。音楽はストーリーごとに別のものが使われるが、全体としてもまとまっていたと思う。第2話だったかシャングリラの歌が流れたけど、あれ、陳綺貞が唄ってなかったっけ? クレジットでは違ってたけど…。レズビアン&ゲイ映画祭の一本だったのだが、圧倒的に女性客が多かったぞ。ゲイ映画だと、圧倒的に男性客が多いのか?
- #30「愛と死の記録」蔵原惟繕/1966/日活/Jul. 5/ラピュタ阿佐ヶ谷○
- 吉永小百合の難病ものといえば『愛と死をみつめて』だろうが、本作は相手役が渡哲也で、しかも病に伏すのは渡という設定。クラハラの激した監督ぶりが爆発した純愛物語。いづみさま#98。吉永小百合の隣に住むお姉さんということが序盤から推察できるのだが、なかなかスクリーンに登場せずヤキモキ。出てきたのは終盤、シーンにしてもたった2つだったけど、さすがいづみさま、インパクトはかなり大きかったよ。のっけから舞台は広島と判る。それなのに、イサムノグチの平和大橋だって見せるのに、その隣のあの地域は中盤まで出てこない。それで、ははあ、これは原爆ものだな、と伝わってくる次第。20年たっても、60年以上たったいまでも悲劇と恐怖は続いている。誰か核兵器消滅四次元ポケットとか発明してくれ。
- #29「おと・な・り」熊澤尚人/2009/ジェイ・ストーム/Jul. 1/恵比寿ガーデンシネマ2○
- 最近いろんな予告篇で麻生久美子を見かける。この人、いいんだけど抜群でもないのでフォローしてないのだが、ホテルニューカマクラが彼女の住むアパートとして出てくるというので、合わせ技で観に行くことに決定。極薄の壁を隔てて住む麻生(う、苗字が悪いね。)と岡田准一の音を介したふれあいを描く、というのは表向きで、実際は岡田の15年越しのストーカー物語である。最近流行りのノスタルジー訴え型の一本。映画としては邪道だ。でも、二人が口ずさむ『風をあつめて』、帰ってiTunes Storeではっぴいえんど買っちゃったよ。細野晴臣より麻生久美子のウィスパーボイス版が欲しい。隣の音といえば、隣の男が団扇太鼓叩きながら法華経を毎晩唱える、そんなアパートに昔住んでたよ。思い出すと吐き気がしそうだ。
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- #28「何故彼女等はそうなったか」清水宏/1956/新東宝/Jun. 28/神保町シアター○
- 16mmでの上映。新東宝での最後の清水作品である。戦後、松竹を出た清水宏は(当人がどう思っていたかはともかく)社会派といえる作品を新東宝で何本か撮ったが、エログロ大蔵貢が乗り込んできてやっていけなくなったんだな。四国は丸亀に実在した非行少女更生施設が舞台。池内淳子、三ツ矢歌子らの若手スタアを中心に配し、更生した女性達が、冷たい社会に復帰できない実情を訴える。『しいのみ学園』と同じく香川京子が演じる施設の先生は、結局どうすることもできず、負けてはダメと生徒にただ説くばかり。耐え忍ぶ映画になってしまっていて残念。園長の高橋豊子もまったく迫力がない。その一方で、置屋女将の浪花千栄子の憎らしさ・いやらしさは絶品だった。助監督・石井輝男の効果か?
- #27「夏時間の庭」オリヴィエ・アサイヤス/2008/仏/Jun. 20/銀座テアトルシネマ○
- オルセー美術館開館20周年記念作品。そんなものがアサイヤスにオファーされる時代なのか。これは、アサイヤスの『麦秋』へのチャレンジである。もちろん、到底及ばない出来だが、そんなことは監督自身百も承知だろう。そう肩の力を抜いて観れば…、悪くない。コローのタブローみたいなお宝は普通はなかろうが、親の死と子それぞれの事情による遺産相続を巡る波風は誰しもが経験するものだ。観客はある種の懐かしさと親しみやすさをもってスクリーンに入っていける。イル・ド・フランスの、住みたいとは思わないけれども、味のある家と庭。これぞ欧州だ、って感じ。草の生い茂る庭には、蛇はいないのかなあ? 今回のジュリエット・ビノシュはチャーミングに見えた。歳をとるほどいい女優かもしれない。
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- #26「月は上りぬ」田中絹代/1955/日活/Jun. 20/神保町シアター○
- 劇場で観るのは三度目(⇒初回,⇒二度目)。かつては、スカパーで録った8mmビデオがあったのだが、デッキのないいま、半分まぼろし化した作品。観るたびに好きになってくる。DVD出してほしい。当然だが、まず小津印満載の脚本がいい。一部は『お早よう』の重要な原型となっている。それから出演陣。北原三枝と安井昌二は特筆もの。北原は『宗方姉妹』のデコちゃんより純粋だし、安井も『お茶漬の味』のノンちゃんくらい自然だ。舞台が奈良というのもポイントが高い。語られるだけの東京との対比。スポンサーである電電公社のマイクロウェーブの宣伝もうまくストーリーに溶け込んでいる。『流れる』もそうだが、田中絹代は女中を演じればとても素敵になる。女中といえば、2週連続で小田切みきを観たな。
- #25「張込み」野村芳太郎/1958/松竹大船/Jun. 13/ラピュタ阿佐ヶ谷○
- 松本清張原作、野村芳太郎の出世作として評価の高い映画。冒頭の、横浜から佐賀までの急行さつまの描写がえらく細かい。テッちゃんが見ればいろいろ矛盾があるらしいが、僕ら素人はここでまず感心する。遠いところへ行くんだねえ。で、忘れた頃にタイトルがどーん。ここから本題の張込みが始まる。大木実主演。殺人犯の田村高廣を逮捕すべく、元恋人のデコちゃんの行動を監視・尾行する刑事だ。この作品はスカパーかなんかでざっと観ているはずで、暑い、渋い、登場人物が少ない、という記憶だったが、改めて観ると意外にお馴染みの顔がたくさんいて楽しかった。気に入ったのは、二人の温泉での密会をタクシーで追う際のヘリコプター撮影。佐賀の美しい田園地帯を猛スピードでかけ抜けるシーンがすばらしかった。
- #24「モーガン警部と謎の男」関川秀雄/1961/東映東京/Jun. 13/ラピュタ阿佐ヶ谷
- 『モーガン警部』というのは当時日本テレビでやっていたアメリカTVドラマらしい。『奥さまは魔女』みたいなもんだな。その主人公(ただの保安官?)が海を越え、連邦政府特命の麻薬Gメンとして日本にやって来て活躍する話。それだけならアメリカ映画だが、本作はバリバリの東映映画。鶴田浩二を二枚看板のひとり“謎の男”に据えている。この謎が最後まで謎で終わるから、観終わった観客は脱力する。(実はインターポールだろうと思ったのは僕だけではあるまい。)それに久保菜穂子がなぜ鶴田を慕うようになったか、さっぱりわからない。脱力といえば、のっけから声がすべて吹き替え。とはいえ、当時はTVからの連続性があるから、ジョン・ ブロムフィールドが若山弦蔵の声で日本語喋るのは自然だったろうね。
- #23「アイ・カム・ウィズ・ザ・レイン」トラン・アン・ユン/2009/仏/Jun. 13/新宿武蔵野館1○
- 実に約2ヶ月ぶりの映画館。イ・ビョンホン目当てと思われるおばさん連中が騒々しい。耳を画面に集中だ。木村拓哉はイエス、高須クリニック。ではなく、イエス・キリストの再来。荒れ果てた啓徳機場跡地(?)に仙人のように住まい、人びとの苦悩を一身に引き受けた末、残忍なイ・ビョンホンに(再び)磔にされる。イ・ビョンホンはローマ帝国なのか? 監督のミューズ、トラン・ヌー・イェン・ケーはイ・ビョンホンの愛人役で登場。派手なメイクと金髪で最初認識できなかった。キリスト物語に対置される、シリアル・キラーによる石井輝男的肉の芸術製作とそれに魅せられる元刑事の苦悩が観客である紳士・淑女の神経を刺激する。監督の人間観がどのように『ノルウェイの森』に反映されるのか、いまから楽しみである。
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- #22「四川のうた」賈樟柯/2008/中国=日本/Apr. 18/ユーロスペース○
- 巨大国営工場の移転をきっかけに関係者のインタビューを通して中国解放後を振り返る贋ドキュメンタリー作品。移転は事実なのになぜ贋かというと、インタビュー相手がプロの俳優だから。この発想はアタリだ。自分の主演作『戦場の花』(1979)の主役に似ているから“小花”というニックネームを付けられた、という馬鹿げた挿話をシャアシャアと語る陳冲。女優である。傑作、と書きたいが、赤壁の戦いに疲れたらしく、呂麗萍のとこまでは眠くてときどき気を失ってしまい、通してはちゃんと評価できず。タイトルにあるように舞台は四川省・成都。パンダの街で、パンダテレビタワーなるものまであるらしい。タイトルクレジットだったか、呂麗萍の拼音表記が“Lv Liping”。ほんとは“Lǔ”だけど、入力キーがそのまま表示されたんだろな。
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- #21「レッドクリフ Part II -未来への最終決戦-」呉宇森/2009/米=中国=日本=台湾=韓国/Apr. 18/渋東シネタワー2○
- Part I から約半年、もうすっかり忘れていたよ。ようやく赤壁の戦い開始である。Part I に引き続いて周瑜(梁朝偉 飾)軍の妙なマスゲームが見られるクライマックスの合戦は、ここは二〇三高地かと思わせるほど悲惨で壮絶だが、賑やかなだけとも言える。人民解放軍のみなさんお疲れさまです。豪華キャスト中、役得なのはやはり金城武(飾 諸葛亮)だろう。諸葛孔明ってそんなに賢かったのか。赤壁の戦いが彼の掌中にあったことがよくわかった。世の中を動かすのは優れた気象予報士である。趙薇の役どころは架空のはずだが映画では作戦上きわめて重要。原作ではどうなっているのか知りたい。三国志くらい読んでおくか、と思うきょうこの頃。冬至には芝麻湯圓を食べよう。
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- #20「雨が舞う 〜金瓜石 残照〜」林雅行/2009/クリエイティブ21/Apr. 4/ユーロスペース1
- 同監督による『風を聴く 〜台湾・九份物語〜』の姉妹篇。今度は九份の先の金瓜石だ。日據時代に栄えた金山で、現在は廃鉱。街は寂れ、古い建築物は徐々に減ってきていたが、ここ10年くらいで保存活動が進んだ。まあ、これは観光地化と引換えなわけだが…。ここを題材に選ぶなんて渋い(一般論)。だいたい『風を聴く…』と同じ感じで、登場人物のほとんどが流暢な日本語で金瓜石の全盛時代の想い出を語る。相変わらず、音楽過剰。生き証人の貴重な話を聴けたり、博物館にはない写真を見られるのはありがたいのだけれど、映画作品としては落第である。そうか、どうせビデオだし、ドキュメンタリー番組と思って見ればいいのだ。にしては、当日券ひとり1,700円は高いぞ。
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- #19「チェンジリング」クリント・イーストウッド/2008/米/Mar. 21/渋東シネタワー1★
- 久しぶりに面白いと思うアメリカ映画を観た(そもそもアメリカ映画は予告篇くらいしか観ていないのだが)。実話ベースってこともあるのだろうけども、流石、イーストウッド。いぶし銀だ。じいさんになるほど、深くなっていくね。行政・警察の出鱈目に、一人の女性が立ち向かう。個人の問題が社会の問題とガッチリ噛み合って、社会を変える。個人の問題は結局解決しなかったらしいけど、観客は不思議と満たされる。写真がもっとキーにならないのかと思うが、そういう時代じゃなかったのかな? アンジェリーナ・ジョリーとジョン・マルコヴィッチが、客観的に見れば憑かれたような人物を好演。1930年前後のLAも興味深い。セットとCGだろうけど、よくできていた。
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- #18「PLASTIC CITY プラスティック・シティ」余力為/2008/中国=香港=ブラジル=日本/Mar. 21/ヒューマントラストシネマ渋谷○
- 余力為、黄秋生、オダギリジョー、ブラジル。なんだ、この組み合わせは? 興味津々で、人材派遣会社所有に変わった元アミューズCQNへ。アマゾン川流域らしい国境とサンパウロが舞台。サンパウロって、(例によって)Google earthで探険しても、都市として面白くなさそうなところだ。今回、映像を見ても同じ印象。巨大で平板で、くすんでる。タイトルからして、わざとここを選んだんだろうな。(なぜブラジルなのかは依然不明だが。)いかにも余力為的な幻想的CGを交えながら、中国人と日本人の親子関係(というより義理人情か)が描かれる。二人が喋るのは母国語としての北京語とポルトガル語。本人の声だと思うがアフレコで、かなり不自然なのが気になった。黄秋生の女はマサコサンにしか見えなかったよ。
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- #17「離魂」但漢章/1987/香港/Mar. 8/シネマヴェーラ
- クレジットに台湾スタッフが並んでいたので台湾映画と思ったら、香港映画だった。DVD上映。買うと5,000円以上かかるとはいえ、2人で2,800円は高いと思うぞ。西脇美智子にしか見えない王小鳳が主演のホラー。'80年代ファッションとメイクに身を包み、ローテクな特撮で亡霊に恐れおののく。恐れおののくのは王小鳳だけで、観客からすればまったく恐くない。恐いのは女の怨念である。王小鳳が演出し演じる石井輝男作品に出てくるような舞踊も恐い。山海塾を思い出した。まだあるの?⇒山海塾。それにしても、徐淑媛はいかにも怪しい死に方をしているのに、台湾の警察は何をやっているんだ?呪い殺される前に犯人達はさっさと捕まりそうなものだ。
- #16「長江にいきる 秉愛の物語」馮艷/2007/中国/Mar. 8/ユーロスペース2○
- 中華人民共和国の大プロジェクト・三峡ダム。風景を一変させるその貯水量は多くの人民に移住を強制した。さすが社会主義、と思うが、実情は日本とそんなに変わらない。これまで住んでいた家を離れまじとして強情に居座るみかん農家夫婦。彼らを追ったドキュメンタリー・ビデオがこれである。10年以上にわたる記録だが、現在の姿は字幕で示されるのみ。どうせなら映像で見せてほしかった。とはいうものの、奥さんの秉愛が歳をとると太ってくるのが生々しく、彼女の現在は見えなくてもいいや。三峡ダムはなぜだかGoogle earthでときどき眺めてみる。上流へ遡ってみる。デカイよなあ。とてつもない水量だろうなあ。三峡を見て死ね、である。
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- #15「ロルナの祈り」ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ/2008/ベルギー=仏=伊/Mar. 1/恵比寿ガーデンシネマ2★
- 欧州の硬派、ダルデンヌ兄弟の新作。ベルギー国籍を得るためヤク中のベルギー人と偽装結婚するアルバニア人女性・ロルナの、心情変化をシャープに描く。いわゆる“情が移る”というやつである。この2人の関係が徐々に見えてくる導入部の脚本が巧い。(それをあらかじめばらしているチラシは反省すべきだ。)ロルナはヤク中をかばい、恋人を捨て、殺されたヤク中の子を想像妊娠する。観客(少なくとも僕)は感情移入できないが、そんな激しい人もあるだろうと思う。ところで、こういう裏稼業は世の中に結構あるんだろうな。その辺を走っているスマイルタクシーの運ちゃん(ピーッ)も元締めかも知れんぞ。前作はパンダが出てきたが、本作にはグラプン・ショットがあるよ。
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- #14「その場所に女ありて」鈴木英夫/1962/東宝/Mar. 1/神保町シアター
- なぜかタカラダ好きのパンダゴロに誘われ、予想外ですぐに修理の終わった車をうちに置き、急いで電車に飛び乗り、やってきました神保町。司葉子が広告会社のバリバリの営業職。ライバル会社の宝田明が気になりながらも最後にはキャリアウーマンの道を選ぶ。『小早川家の秋』の翌年か。えらいイメージの違いである。言葉遣いが、現代から見ると受け入れ難いが、こんな女性、その頃はたくさんいたのかも。うーん、あまり面白くもなかったよ。鈴木英夫ってそんなにいいの? 司の姉が森光子のダメ女で、その年下のダメ夫が児玉清。若い。さあ、パリがあなたを待っています。舞台はサンジェルマン・デ・プレ。じゃなくて、ごちゃごちゃした数寄屋橋辺り。喧騒の東京だね。
- #13「女体渦巻島」石井輝男/1960/新東宝/Feb. 22/シネマート六本木1
- お昼の海南鶏飯につけた生ビールが効いてかウトウトしてしまったが、本作はスカパーでチェック済の上、今回デジタル上映ゆえ没問題。テルテル・コンビ誕生の記念作品である。こんな作品と『徳川いれずみ師…』みたいな作品の間に『秋刀魚の味』があるなんて、まったく信じ難い。舞台は対馬。しぶー。東洋のカサブランカで、人身売買の経由地。この島で近衛敏明がマネージャーをやっている怪しいキャバレーのママが三原葉子。天知茂の悪の親玉が加わって、にょたいうずまきとう、なんてお洒落なタイトルが付けば、問答無用で石井ワールドである。この世界の問題点は魅力的な女優が三原葉子しかいないことだ。新東宝なら、デコちゃんとか香川京子とかいただろうが。…って、もういないか。
- #12「女王蜂の怒り」石井輝男/1958/新東宝/Feb. 22/シネマート六本木1○
- 松坂大輔みたいな宇津井健。これは笑える。これでハリケーンの政かよ。笑い者の双璧が、菅原文太。なんだこの棒読みセリフは。木偶の坊だな。女王蜂というのは久保菜穂子のことのようだけど、まったく魅力なし。そもそも女王蜂なんてぶくぶく太った産卵マシーンだしね。そんな中での潤いは、三原葉子と中山昭二。ジェットビートルで天知茂を倒すのだ。日活アクションを観てもわかるけど、この時代、まだジーンズがなかったらしく、いい若者が一人残らずスラックスで暴れ回る。よくあれで股が破れないね。上映時間は75分。時代の先を行く、時短による経費節減策である。横浜港がしぶい。いまはワールドポーター。あんな狭いとこで海賊が出るってのが大胆だ。
- #11「喧嘩太郎」舛田利雄/1960/日活/Feb. 14/ラピュタ阿佐ヶ谷○
- こらえても、こらえても、こらえ切れなくなったとき、けんかけんか、けんかけんか♪ いづみさま#58。スクリーンで観るのは実に12年ぶりだ。1960年前後はいづみさまの美しさが絶頂にあった時期。本作はその上婦人警官姿でそれが拝める特典付だよ。寄ってらっしゃい、観てらっしゃい。映画自体の面白さ、つまらなさは没関係。スパイカメラで写真を撮りまくる、芸者役の白木マリもいい。『青い山脈』の木暮実千代みたいな感じ。また、こちらもロケがなかなか楽しい。京橋、恵比寿、日比谷、後楽園ゆうえんち(?)、……。安保時代の東京である。そういえば、島津雅彦にダイレクトに言わせたりするタイアップ広告が笑っちゃうほど、寒気がするほどひどい。日活のお家芸だね。
- #10「月給13,000円」野村芳太郎/1958/松竹大船/Feb. 14/ラピュタ阿佐ヶ谷
- 野村芳太郎が『張込み』のあとで気楽に撮ったと思われる南原宏治(当時は伸二)主演のサラリーマンもの。『サザエさん』みたく登場人物の名前がすべて海がらみなのがおかしい。人事課勤務で佐賀県出身の純情な南原は陸奥吾朗。男性陣はなかなか豪華だが、女性陣がしょぼい。これは残念。松竹なら素敵な女優がたくさんいるのにね。恋愛も汚職も出てくるが、総体としてはたわいもないサラリーマン悲喜交々物語。収穫はロケ。丸の内辺りと渋谷辺りだが、見たことのない東京銀行の壮大な建築が興味深い。元は横浜正金銀行か? 五島プラネタリウムもいまとなっては懐かしいし。それにしても13,000円か。うさぎやのどら焼で70個。1日2個しか食べられないじゃないか。
- #9「早熟」爾冬陞/2005/中国=香港/Feb. 7/シネマ・ジャック
- 親のための育児教育映画。成龍の息子・房祖名主演。顔の大きさ以外は親父そっくりって感じ。相手役はアイドル・薛凱琪。未成年の妊娠が中心になっているにもかかわらず、これは純愛ものだ。社会クラスの差から彼らの交際を親が反対する、『離婚』にもあった金持ち対庶民の対決構図がここでも全開。映画が好む主題のひとつだね。はっきり言ってウンザリである。黄秋生演じる“金持ち”父が最後に“改心”する紋切りエンディングも×。でも、曾志偉と毛舜筠の“庶民”夫婦はよかった。特に毛舜筠。美人なのに変幻自在の顔をするコメディエンヌだ。最近見なかったけどまだ健在だったんだ。久しぶりに黄金町に来たら、横浜日劇がマンションに変わっていたのがショックだ。
- #8「チェ 39歳
別れの手紙」スティーヴン・ソダーバーグ/2008/スペイン=仏=米/Feb. 7/渋東シネタワー3
- 革命成功に向け盛り上がるパート1に対し、チェの死への過程を描くパート2は、重い。華やかさは微塵もなく、ボリビアのジャングルでのゲリラ戦が延々と綴られる。キューバを去り、他国でのさらなる人民解放を目指した稀代の革命家。ここまで自分を捨てられる人間がいたことに感動する。しかし、一度革命を成し遂げた自分の力を過信していたようにも見える。人民を信じ過ぎているようにも。リーダーには向いていなかったんじゃないかな。現状を打破し世の中をよくするには武力闘争しかないと考えるのは、残念ながら、もっともと思う。ただ、“よくなった世の中”が常に遠い先にあり続ける蜃気楼のような存在とすれば(悲観的な確信)、その戦いは虚しいばかりだ。
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- #7「離婚」マキノ雅弘/1952/新東宝=東京プロ/Feb. 7/ラピュタ阿佐ヶ谷○
- 新東宝作品なのになぜか松竹キャスト(特に斎藤達雄がいい)なのが楽しかったので助かったが、映画としてはどうかな。冷たい上流家庭とアットホームな下宿の対比が陳腐。メインキャストは佐分利信&木暮実千代の『お茶漬』コンビ。木暮実千代がスキーに出かけた経緯が不明でもやもやする。離婚する夫役は田中春男。期待したが、英百合子と杉狂児に終始圧倒されていた。再従兄弟で木暮と一緒に遭難するのは田崎潤。木暮をふってしまうほどのいい役だが、彼女は必然的に佐分利へなびくのである。その佐分利は求められる豪放さを発揮するにはだいぶ歳が行っている印象。10年前ならぴったりなんだけど。forgiveとforget、傾斜と鶏舎、妙なシャレはマキノ的ではないな。
- #6「帰郷」西河克己/1964/日活/Jan. 31/神保町シアター
- クラブのシーンで始まる。日活アクションか? でも、金子信雄も白木マリもそこにいない。本日、キューバ革命デー。ここは革命直前のハバナという設定。外交官で公金を革命軍側に渡し追われているという森雅之。(その金はアレイダがチェに運んだのだな。)渡辺美佐子にチクられ逮捕、行方不明に。なんか、アクションなしの小林旭みたいな役だ。中盤からの舞台は日本。吉永小百合を中心とする日活的ホームドラマに変わる。住むのはもちろん田園調布。まったく、日活はあそこが好きだね。吉永は奈良に実父・森を訪ねる。奈良ホテル、法隆寺。(実娘をナンパするなよ。)現役の国鉄奈良駅も出てきたよ。駅構内でロケした模様。盛り上がったろうな。大佛次郎の原作を読んでみたい。
- #5「チェ 28歳の革命」スティーヴン・ソダーバーグ/2008/スペイン=仏=米/Jan. 31/シャンテ・シネ3
- 20世紀の革命ヒーローといえば、チェ・ゲバラ。ドキュメンタリーも含めこれまで何本も彼の映画が作られているが、本作はキューバ革命そのものを扱った硬派なドラマ。革命に猛進するチェは、迷うことも悩むこともない。裏切り者に対する処刑も淡々と命令。もちろん裏ではさまざまな葛藤があるのだろうが、ソダーバーグはそれを一切描かない。そういう意味ではドキュメンタリーに近いのかもしれない。他に気になったのは、フィデロ役もチェ役もなんとなく似てはいるのだけど、なんとなく間抜けなこと。チェ役に問題なのは、ずばり富士額だ。あの象徴的な額がないとチェに見えないんだな。アジトに軍資金を運び、のちに二番目の妻となるアレイダ役の女優はなかなか可愛かった。
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- #4「こころ」市川崑/1955/日活/Jan. 24/神保町シアター○
- イチカワコンは嫌いな監督のひとりだが、やむなく観ることこれまで三度。(漱石の『吾輩は猫である』、題名が気になった『ぼんち』、いづみさまの『青春怪談』)いきなり市川崑的キャメラワークで始まるこの映画は、僕にとって二本目の市川=漱石作品。誰でも読んでいる超有名作を映像化するのは勇気がいるが、そこが“巨匠”(虚匠?)たるところ。実際、そつなく漱石ワールドが再現されている。続いている森雅之特集の一篇で、もちろん“先生”が森。この配役はアタリだ。ただし、現年齢時は。妻を演じる新珠三千代も然り。(新珠といえば、ブラザーの洗濯機だな。関係ないけど。)回想パートになると、おいおい、って感じ。その点、すでに死んでしまっている梶役の三橋達也はなかなかようやりよった。
- #3「貴族の階段」吉村公三郎/1959/大映東京/Jan. 10/神保町シアター○
- 森雅之特集の一篇。この俳優が持たれているイメージにぴったりの、好色な公爵を演じている。森の演じている公爵のモデルは近衞文麿と思われるが、近衛も好色だったのだろうか、奥さんはやはり妙な宗教に入信していたんだろうか、なんて考えると楽しい。誰か、第一悪魔、第三悪魔、第四悪魔の違いを教えてください。作品総体は226事件に至るまでを公爵の娘の視点で描いたもの。なかなか興味深い。洋館作りの西の丸家の階段を中心とした、華族と政治と軍のみで庶民が出てこない世界。ロケとしては、軽井沢、箱根が出てくる。1959年の芦ノ湖畔の様子が四半世紀前のそれと同じとは思えないけど、気にしないことにしよう。しかし、大酒飲んだり、モーターボート飛ばしたり、戦前の女学校生はなかなかアプレだな。
- #2「サザエさんの新婚家庭(スイートホーム)」青柳信雄/1959/東宝/Jan. 10/ラピュタ阿佐ヶ谷○
- 実写版サザエさん。1948年にはマキノ映画ものがあるようなので、本シリーズは2度目の映画化らしい。サザエさんは江利チエミ、マスオさんは小泉博。ぴったりの配役だよ。一方で、波平=藤原釜足、フネ=清川虹子はどうかな…。カツオを演じているのが同年の『お早よう』の幸ちゃんなのがおかしい。同じポーズしてるし、あの頃流行ったんだろな。中学生だからか坊主頭じゃない。タイコさんは白川由美。まだ独身。成城にある磯野家は二階建て。てな感じで、映画の中身はどうでもよいのだが、キャストとか設定とか興味深くて最後まで楽しんだ。江利チエミと雪村いづみによりミニ・ミュージカルの部分もある。退色の進んだ赤いフィルムを観るのは久しぶりだった。
- #1「マルセイユの決着」アラン・コルノー/2007/仏/Jan. 10/シアターN渋谷○
- 『ギャング』(ジャン=ピエール・メルヴィル/1966/仏)の完全リメイク。と言われても、オリジナルを観ていないので、『山のあなた 徳市の恋』のようなお愉しみはない。で、純粋にフィルム・ノワールとして鑑賞したわけだけど、これはなかなか面白い。のっけから脱獄、そしてお決まりの貨物列車、デカいヤマ、信頼と裏切り、そしてファム・ファタール。モニカ・ベルッチ、こういう映画には最高のキャスティングでしょう。ただ、ダニエル・オートゥイユはいただけない。暗黒街の人間には見えない。オリジナルでのギュ役はリノ・ヴァンチュラが演じていたようで、それだけでもオリジナルの、より素晴らしさが推測できるというもの。是非是非観たい。これを機にリバイバル上映あるいはDVD発売をお願いする。
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Last update: 12/27/2009
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