[↓2019年][↑2021年]

2020年に観た映画の一覧です

星の見方(以前観たものには付いてません)
★★…生きててよかった。
★…なかなかやるじゃん。
○…観て損はないね。
無印…観なくてもよかったな。
▽…お金を返してください。
凡例
#通し番号「邦題」監督/製作年/製作国/鑑賞日/会場[星]

#61「ジガルタンダ」カールティク・スッバラージ/2014/インド/Dec. 31/キネカ大森○
映画はタミル。脚本がいい。舞台がMaduraiってとこもいい。ダンスシーンが少ない割にはふんだんに音楽が使われている。カメオ出演のVSPを除いて出演陣は決して豪華とはいえないものの、馴染みの脇役がたくさん出てて楽しい。真の主役といえる脇役はBobby Simha。だいたいいつも悪役を演じている俳優だが、本作は悪役が一等重要なんである。主演はSiddharth。いつ見てもうちのAnkitくんに似ているな。相手役はLakshmi Menon。見た記憶があって、調べたら『Komban』のヒロインだった。話は、Karthikという名(つまり監督本人)の新人監督が極道を主人公にした実録物を構想し、本物(Bobby Simha)の調査のためMaduraiに出向く。極秘調査中に捕まり殺されそうになるが映画構想を話すと許し協力してくれるようになる。主役はVSPで考えていたのにある事件から本人が出る気になり、大混乱。(中略)映画は大ヒット、監督は次回『Jigarthanda』(つまり本作)の制作にかかる。面白いところを書かなくてもこれくらい面白いくらい面白かった。
#60「白夫人の妖恋」豊田四郎/1956/日本=香港/Dec. 19/国立映画アーカイブ○
女優としての山口淑子末期の一本。東宝にとっては初のカラー特撮作品だったらしい。香港側は邵氏。かつての李香蘭人気を当て込んだのだろうか。当時はヒットしたらしいが…、コメディーだったとは知らなかった。上田吉二郎、田中春男、左卜全、清川虹子らが出てきて、それだけで笑いあるいは失笑を誘っていた。山口淑子と東野英治郎の対決シーンだけは素直に笑えたな。山口淑子の白娘と八千草薫の小青もなんとなく漫才のかけ合いのようだったし、ふたりにとって不幸な思い出ではないかな。池部良も冴えない役でもったいない限りである。円谷英二の特撮はカラーだといろいろ見えて辛いが、まあ当時としてはがんばった結果なのだろう。本作があってのウルトラマンかもしれない。洪水の場面とかね。特撮よりも鳥にどう演技指導したのかが気になった。タイトルの“恋”の字体が風変わりだったが、あんな字あったんだ。指定席になったフィルセン、じゃなくて国立映画アーカイブには初めて来た。客層は変わらず。みんな、感染したら重症化しそうだからステイホームしましょう。
#59「ラーンジャナー」アーナンド L. ラーイ/2013/インド/Dec. 13/キネカ大森○
Raanjhanaa』は2013年にバンガロールに行ってから観た15本目の映画。Sonam Kapoorの美貌を確認したのが最大の収穫で、それを除いてもいい作品だった印象を憶えている。今回ひさしぶりにしかも日本語字幕付きで観賞。いやあ、やはりこれはいいですね。(Katrina Kaif似(笑)の?、いややはり“インドの原節子”の)Sonam Kapoor、その後僕の中ではインド映画最優秀男優になったDhanushの眼光にキレキレダンス、A.R.Rahmanの音楽の煌びやかな上質さ(名曲ぞろい)。そしていま観るとわかる細々した事柄。Abhay Deol (もちろん当時はそんな俳優知らず)はヒンドゥーではなくシークだとか、農民デモを鎮圧に来た警官がタミル語を喋っているとか、“aap”と“tum”の使いわけとか。もちろん日本語字幕だから会話の内容もひとつひとつ理解できてありがたや。あ、でも“ラーマーヤナ”の話をしているところはいまもってモヤモヤ。まあ“ラーマーヤナ”の話だとわかるだけ進歩したことにしとくか。
#58「人生は二度とない」ゾーヤー・アクタル/2011/インド/Dec. 12/キネカ大森○
Zoya Akhtarは寡作といっていいと思うけど、いつも良質の映画をつくっている印象。いつも弟Farhan Akhtarを起用するという印象もある。これは彼女のデビュー第2作で、ほぼ全編スペインロケのロードムービー。結婚を控えた男が親友ふたりと冒険の旅に出る。観光、アドベンチャー、出会いを背景に、3人それぞれの自分発見が描かれる。Hrithik Roshan、Abhay Deol、そしてFarhan Akhtarがその3人。道中の華がKatrina Kaif。人気絶頂の頃だろうか。『冒険者たち』を思わせなくもないが、全体的にはてんこ盛りのばりばりボリウッド(良質な方)で楽しめた。スペインの風景もすばらしく、本当かどうか当時インド人のスペイン旅行が増えたというのもわかる気がした。Hrithik Roshanが“もしもし”と、“ヤマモトさん”とビデオコールする場面は、インド人に面白いんだろうかね。日本人にはやや恥ずかしい。Abhay Deolが黒いMacBookを使ってた。いま見ると新鮮だね。
#57「ハッピー・オールド・イヤー」ナワポン・タムロンラタナリット/2019/タイ/Dec. 12/ヒューマントラストシネマ渋谷○
チュティモン・ジョンジャルーンスックジンという、舒淇と楊靜恰を足して2で割ったような女優が演じる北欧帰りのアーティストが、ごちゃごちゃの自宅を北欧風のシンプルなスタジオ兼住宅にリノベするため奮闘するという、おもしろい発想の作品。劇中でも出てくるようにコンマリ理論に対するアンチテーゼになっている。徹底的な断捨離のなかで出てくる思い出を本当に捨てることができるのか、思い出が自分だけのものではないことを繰り返し示され動揺する主人公。最終的には自分の理想通りの空間を手にするのであるが、本人は満足しているようには見えない。常に白いトップ、黒いボトムというシンプルないで立ちはかっこいい。北欧かぶれというよりは、コムデギャルソンのハウスマヌカン(死語?)に見えた。(いまでもそうなのかは知らない) 兄妹で東アジア顔で、東南アジアっぽい顔立ちの母親にまったく似ていない。家出した父親が中華系なのかな。タイ社会では昔からふつうなんだろうか。捨てるものが懐かしいものばかり。そういう意味で楽しかった。
#56「東京の孤独」井上梅次/1959/日活/Dec. 5/ラピュタ阿佐ヶ谷○
劇場では初拝観のいづみさま作品No.44。大坂志郎と安部徹の『東京物語』国鉄コンビが、プロ野球ナショナル・リーグの名門ディッパーズの監督・コーチとして、三島雅夫と西村晃の陰謀に立ち向かうのが物語の骨子。盛り立てるのは新人の小林旭(ピッチャー)と宍戸錠(スラッガー)で、大坂志郎の妹・いづみさまをめぐり新人王めざし奮闘する。いづみさまは日本航空のスチュワーデス試験に一発で合格するのは当然として、ドジでノロマな亀でもあり得ないが数日後(?)には業務で搭乗していたのはさすがにどうかと思うな。いづみさまの英語アナウンスが聞けるよ。その頃の普通なのか予算の都合なのかはわからないが、ディッパーズのキャンプ地は伊東。湯布院キャンプみたいなもので、東京のチームにはいいかもしれない。清水まゆみが出演していた。“おねえさんには勝てない”と最初からいづみさまに対し謙虚な姿勢をみせていたのはよろしい。でも彼女も結構イケてたよ。
#55「バクラウ 地図から消された村」クレベール・メンドンサ・フィリオ/2019/ブラジル=仏/Dec. 5/シアター・イメージフォーラム○
奇想天外にみえる予告篇を見て気になっていたやつを観た。警察のいないブラジル北部の村に起こった事件を描いているのだが、『ワイルドバンチ』に『プレデター』をちょいと効かせたような、と書くとネタバレになるのだろうか。ヒーロー、ヒロイン不在。あぶない村そのものが主人公である。謎が解けていく過程が楽しいので多くは書けないし、最後まで謎はとことん明らかにはならない。この、謎が残るところは意外と重要なポイント。これを不満とするひとたちとよしとするひとたちには深い溝があると思う。物語の背景に根深い人種・民族差別問題があることが示唆されるのは、監督が本作をただのエンターテイメント作品とは考えていないということだろう。従来はまちがいなくR18指定だったろうが、確認したらR15+だった。時代だね。移動娼館のトレーラーに“欢喜的房子” (だったかな?簡体字だったのはまちがいない)なる中華幕を垂らしているのに笑った。
#54「Malu 夢路」楊毅恆/2020/マレーシア=日本/Nov. 29/TOHOシネマズ シャンテ○
濱マイクが探偵やめてジャズ喫茶やってる黄金町でマレーシア華人のかわい子ちゃんと知り合うのだが、彼女は他殺体で発見されマレーシアから姉がやってきて妹のルームメイトに会うと、今度はこの姉のストーカーを始めるという話。妹が蕭麗玲で姉が陳美君。故郷のペナンで母親が死に、長い間不在にしていた姉が妹に会いに帰ってくる前段がある。と、朝日新聞が製作に絡んでいるのが謎ながらロケ地が魅力的な映画。永瀬正敏のほか、ルームメイトとして水原希子が出演している。陳美君がジムノペディを弾いてたな。最近サティブームなの? 蕭麗玲は黄金町では複数の名前を使い分け、それに合わせて自己紹介も変わる風俗嬢。上海人を装う際の北京語がきれいすぎない? 黄金町はジャック&ベティに行くのでなじみのある風景が見られた。ペナンの水上家屋が懐かしい。行きたい。マレーシア華人といえば僕には、先日の金馬奨で台湾に来て金色の大同電鍋をもらってた李心潔である。『夕霧花園』を観ていないのが無念。
#53「ヴィクラムとヴェーダー -Vikram Vedha」プシュカル-ガーヤトリ/2017/インド/Nov. 22/UPLINK渋谷○
バンガロールで公開時に観たときは英語字幕で今回は日本語字幕。気がついたのは、言葉によらず、字幕に付いていくのは気が抜けないということ。やはりよくできたエンタメ作品だ。前も書いたので感想は省略する。存在感たっぷりながらVSPから大物の匂いを感じないのはいつも目がうつろに見えるからだな。いい俳優だ。ボリウッドから来たR. MadhavanもVSPとがっぷり四つだ。でも、なんで脇毛剃ってんの? 女優陣はShraddha Srinath、Varalaxmi Sarathkumarの2美人。Varalaxmiは相変わらずごつくて怖い。字幕に戻るけど、VSPが自首してきたときにある警官が同僚に“Vedhaだけだ”と囁くのだが、僕の勘ではここは(タミル語はわからないので)インド英語でいえば“Vedha only”と言っていて、“こいつがVedhaだ”と訳すべきだと思う。まあ、字幕担当にはインド人らしきひとがクレジットされていたので間違っているかもしれないけどね。
#52「セードゥ -Sethu」バーラー/1999/インド/Nov. 22/UPLINK渋谷
20年も前のVikram主演作品を日本で観ようとは。状態のよくないフィルムをビデオ化したものに日本語字幕を付けたのかな。暴れん坊の大学生Vikramが新入生Abitha (知らない女優さん)に一目惚れするも結ばれない悲劇。強い推しで話は進むのだが、その方向は真っ直ぐではない。ときどき意味がわからない。なぜ義姉が実兄よりVikramに肩入れするのか、なぜAbithaの姉はあっさり娼館で働くのか。襲撃を受け脳を患ったVikramを怪しい宗教的収容施設に送ることを医者が勧めるのはどうなの? ふたりはBrahminで特にAbithaの方は実家がお寺。この事実とVikramの粗暴な性格の対立が焦点かと思いきや、話は意外な展開へ。すれ違いながらも最後はハッピーエンド、といってほしかった。当時は結構ヒットしたようだ。社会がこのような屈折した物語を受け入れる状況だったということか。当たり前だけど、Vikramが若い。やはり鼻の穴がでかい。出世作らしい。全体として痛々しく笑いが少ないなか、沐浴シーンは腹の底で腹の底から笑ったよ。
#51「粛清裁判」セルゲイ・ロズニツァ/2018/蘭=ロ/Nov. 21/シアター・イメージフォーラム○
1930年、モスクワで開催されたソ連最高裁特別法廷で国家転覆を図った容疑により逮捕された8人の知識人(大学教授等)が裁かれ、数人が銃殺刑を宣告され、民衆が狂喜するさまが描かれている、当時のフィルムを再構成して製作されたドキュメンタリー。音声がクリアでびっくりする。この裁判は『13日』という映画にもなっているらしいが、スターリンが指示したいわゆる見せしめ裁判だったとのこと。恥ずかしながらこの“産業党事件”なるものを知らないので、フィルムに出てくる人物のどこまでが役者、つまり嘘を演じているのかもよくわからず混乱する。首謀者とされたラムジンは銃殺刑を宣告されるもすぐに減刑され、のちにスターリン賞までもらっているらしい。でも、本物の工学者である彼の法廷での振る舞いが演技とは到底信じられない。検事は後に銃殺刑、裁判官は外務大臣になったというのは興味深いね。こうやって、国家権力が事件を捏造し民衆をコントロールするのは恐ろしい。共産党だからじゃないよ。
#50「国葬」セルゲイ・ロズニツァ/2019/蘭=リトアニア/Nov. 21/シアター・イメージフォーラム○
1953年のソ連で、スターリンが死去した際行われた国葬のドキュメンタリー。といってもこの監督が撮影したわけではなく、大量に撮影されていた当時のフィルムを21世紀に編集したもの。モノクロフィルムのカラー化を頻繁に施し、当然のように画面を覆う赤色が流れにメリハリを与えている。が、それが想像できるものにはモノクロのままで十二分にその迫力が伝わってくると思う。赤の広場だけではなく、各地の様子、農夫、工夫、アジア人種、さまざまな国民、労働者が厳かに指導者の死を弔う。第三者が後年に編集したものゆえ、それは単なる追悼ではなく、ソ連の歴史で最も暗黒の時代を滲ませていて観客を圧倒する。いわゆるレーニン廟の入口にはスターリンの名前も刻まれていたが、あれは死んでから付けたのかね。まあ、スターリンが後年追い出された際にそれも消されたのだろうが。この企画のキャッチ通り、似たような服を纏って集まっている群衆の映像が驚異的。CGじゃないよ。それにしても、どこも寒そうだった。
#49「バルタザールどこへ行く」ロベール・ブレッソン/1966/仏=瑞/Nov. 15/新宿シネマカリテ○
この有名作品、これまでロバが主役だと思っていたがそうではなかった。マリーという少女が不幸になるさまに、バルタザールと名付けられたロバの人生(?)が背景として重ねられる大胆な映画。ドストエフスキーの『白痴』から発想したらしい。加えてカトリックの七つの大罪をひとつずつエピソードで示す構成が興味深いが、非信者にはそんなこと鑑賞時にはわからず無念。マリーは不良青年‏ジェラールから逃れられず、幼なじみ(バルタザールの最初の飼い主)で純真なジャックに冷たい。バルタザールはロバとしてペットから重労働まで奉仕するのだけど、出色なのがひどい飼い主から逃げ出して行き着いたサーカス。かけ算をやる。数字が読めるのだ、ひぇー。やはりただのロバではなかった。マリーはジェラールに裏切られ、バルタザールはジェラールを追う警察の流れ弾に当たって絶命するサッド・エンディング。驚いたことに本作にはタミル映画でのリメイクがあるらしい。『Agraharathil Kazhutai』というやつ。観る機会は訪れるだろうか。
#48「少女ムシェット」ロベール・ブレッソン/1967/仏/Nov. 15/新宿シネマカリテ○
やさしい女』とか『ラルジャン』とか、ブレッソンといえば切れ味鋭いイメージ。で、これ。貧困からきたものか親父のDVからきたものか、ひねくれ者の少女ムシェットがどんどん苦境に陥り、しまいには自殺してしまう、ストーリーとしては救いのない冷徹な作品。母親が病床にあるからか、ムシェットは髪もとかずリボンはばらばら。重そうな木靴をがたがたいわせながら歩く。モノクロ・スタンダードのスクリーンは容赦ない。密猟者の男が突然発作を起こすとか、母親が死ぬとか重要イベントが突然起こる(少なくとも僕にはそう見えた)ので、付いていくのがややしんどかった。移動遊園地のシーンは躍動感があってよかったな。ディジタル修復時にやったとは思えないが、ラストシーンでの川の流れ映像が順回しと逆回しの無限ループになっていたのが不思議。序盤、下校する女子生徒が鉄棒で逆上がりしてパンツ見せるシーンも不思議。監督の趣味かな。
#47「バウハウス 原形と神話」ニールス・ボルブリンカー,ケルスティン・シュトゥッテルハイム/2020/独/Nov. 14/横浜シネマリン○
バウハウスの卒業生へのインタビューを通じ、伝説のバウハウスの真の姿を探るドキュメンタリー。クレジットによると1998年あたりにインタビューが行われているようで、2020年現在、登場人物の存命率は低そうである。そもそもバウハウスに関する僕の知識は限られたもので、繰り返し使用されるBAUHAUSと壁面にある校舎の写真や、鉄骨とガラスでできた建物、特に角までガラスというのが特徴的で、それらが第二次大戦前につくられ、ナチスの台頭とともに消滅した、くらいのもの。なので、この作品は勉強になった。当初の超充実した講師陣と創造的で自由な雰囲気、そして後年のナチスとの一筋縄ではいかない微妙な関係。アメリカや南アフリカに亡命したものもいれば、アウシュヴィッツの建物を設計したものもいる。最後の校長であるミース・ファン・デル・ローエもナチスに抵抗はしなかったようだ。モダニズム×工業デザインの化身、開校100年を経ても新鮮である。キュービズムは芸術の不具者と当時呼ばれたのか。
#46「足を探して」張耀升/2020/台湾/Nov. 8/TOHOシネマズ 六本木ヒルズ(TIFF)○
端的にいって楊祐寧がわるい。こいつが博打に手を出したのがすべての発端である。でもこれがないと物語が始まらないということなので目をつむろう。『仁義なき戦い』に着想を得た、桂綸鎂主演の喜劇である(おそらく嘘)。描写は喜劇だが、本質は悲劇。敗血症のため切断した亡夫(楊祐寧)の右足の返却を求め、桂綸鎂が病院相手にしつこくしつこくしつこく要求する。足の廃棄には同意していたので、病院にとってみれば迷惑なクレーマーである。廃棄された臓物の入った袋を漁ってまで探すのは、例えばダイヤが埋め込んであるとかそういう裏事情があるのではないかと思ったのだが、どうやら本気だったらしい。が、そこも弱く、全体として説得力がなくプロセスを楽しむだけのコメディーになってしまっているのは残念。芸術家肌で写真館を営む楊祐寧の親友が中村ゆうじにしか見えず。最後の巨大な“再會”はどういう意味かな? これで今年の映画祭もおわり。
#45「ラヴ・アフェアズ」エマニュエル・ムレ/2020/仏/Nov. 7/TOHOシネマズ 六本木ヒルズ(TIFF)○
直前の『アラヤ』にも本作にもBGMにサティが使われていた。そしてどちらもひとのこころに深く斬りこむ作品。複数の映画を同日に観るとそういうことってよくある。そんなわけできょうは“サティ・デー”。こちらのテーマはおフランスらしく“愛”。既婚者との恋愛、愛と恋との違い、元カレ、元カノ、入り乱れての、それぞれの愛さがし。愛とは見返りを求めない無償のもの、とは至言である。パリ郊外(イル・ド・フランス?フランス語聞きとれません。駅名見忘れた)に友人の家を訪ねる作家志望の男と友人のパートナー(映画編集者)との会話からお互いの恋愛経験が語られる(映像化される)。そして、友人の帰りを待つ数日の同居・会話から生まれる感情。物語のキモとなる夫婦それぞれの不倫相手の顔合わせは紋切りではあるが、全体としてなかなかの佳作。ヴァンサン・マケーニュが友人を演じていた。歳をとって髪が増えていたぞ。カツラかな?
#44「アラヤ」石梦/2020/中国/Nov. 7/TOHOシネマズ 六本木ヒルズ(TIFF)○
なかなか大胆なデビュー作。アラヤというのは仏教のことばで阿頼耶という、ひとの認識機能の最深層部分のことで、ひとが認識しているものすべてはこの層がつくりだしているらしい。タイトルクレジットにも指導した法師の名前があった。舞台は1997年から2014年の山間部のアラヤという村というのが示唆的、というか地名は観客には最後に知らされる。さまざまな登場人物が出てくるが中心となるのは、レイプの結果生まれ心臓病を患う私生児を産む娘。多くは説明されず、とにかくスクリーンから得られる情報を頭のポケットに入れながら観続ける、体力が必要ながら脳が活性化される長尺ものであった。突然精神病院にいたり、火事が起こったり、混乱する。同じ事象に複数の見え方があるさまが展開される。生まれたばかりの赤ちゃんにミルクも与えず心臓病の薬を飲ませると泣き止み、うんちをする様子もないのはとても不自然だが、これも認識の問題だな。娘の部屋のとうもろこしが並べられた窓辺が映像的には印象に残った。
#43「平静」宋方/2020/中国/Nov. 3/TOHOシネマズ シャンテ(FILMeX)○
賈樟柯プロデュースの、タイトル通り静かな作品。タイトルクレジットから、市山さんも絡んでるんだと思ったらいきなり本人が出てきてびっくりした。パートナーと別れたばかりの映像作家(齊溪)が日本を訪れたり、北京の自宅にいたり、地方の両親に会いに行ったりする。市山さんや渡辺真起子と別れた後、齊溪は“雪国”をめざす。越後湯沢かな? そこの観光ホテルでか、他の資料館でか、川端康成の書を見たりするのだけど、その横に笹川良一の“世界は一家、人類は皆兄弟”の書が…。東京ではタクシーに乗るシーンが二度あってたぶん別の日なのだけど、同じくるまだったよ。やはりタクシーから始まる北京のシーンは、よく見ないと東京と区別がつかないくらいだし、新幹線網の発展でどこでもすぐ行けるって感じ。これが中国の現在だ。一般市民には資本主義も社会主義も関係ないな。そして、人生はつづく。上映では市山さんも客席にいたけど、終映後はさっと退出。残念ながら舞台あいさつはなかった。
#42「チャンケ:よそ者」張智瑋/2020/台湾/Nov. 1/TOHOシネマズ 六本木ヒルズ(TIFF)○
この視点は僕の脳内になかった。韓国に暮らす華僑3世のアンデンティティーについての苦悩。監督自身の体験をベースにしているようだ。父親が華僑2世、母親は韓国人で、学校(高校?韓国では何ていうの?)では外国人扱いで差別される。祖父が大陸出身で国共内戦で韓国に逃げ込んだため、本人の国籍は中華民国、つまり台湾なんである。しかも本人は韓国から出たこともない。兵役義務がないのなら選挙権もないのだろうか。これは決意がないとつらいな。という背景のなかで、冷たかった家族が不治の病によりつながるところは紋切りの展開。ガールフレンドになる女の子が細い。キム・ミニといい、そういえば韓国人って太っているイメージがほとんどないね。『チャンケ』って何だと思ったら醤狗。ふーん、でも炸醬麵って台湾じゃメジャーじゃないよね。そんなとこだけ台湾を主張するのはずるいかな。“幹” Tシャツ欲しい。デザインはいまみっつくらいだったけど。背中の3文字(忘れた)も過激な意味かな。
#41「消えゆくものたちへの年代記」エリア・スレイマン/1996/パレスチナ/Nov. 1/TOHOシネマズ シャンテ(FILMeX)○
今回のフィルメックスのクロージング作品(観ないけど)に選ばれている監督の、著名らしい長編デビュー作。事前知識まったくなしで観始めた。不覚にもウトウトしてしまって全容がクリアではないのだけれど、とても興味深い作品だった。各所にコメディー要素をちりばめながらも全体としてはきわめてシリアス。1996年製作なのか。道理でケータイがでかかった。イスラエルとパレスチナの深い溝。繰り返し出てくるアラビア語とヘブライ語のバイリンガル看板のついたレストランの前で車から出てきて喧嘩する兄弟。そう、兄弟なんだし仲よく、とまではいかずとも、折り合いをつけるわけにはいかないものか。部屋を探すアラブ人女性(実はテロリスト)が不動産屋にヘブライ語で電話すると、訛りを指摘されたり名前で判断されて紹介を断られる。そういうところなんだ。周囲では最近イスラエルをもてはやしてるひとが多いんだけど、やはり僕には無理だな。ラストシーンのテレビで流れるイスラエル国旗と国歌が皮肉。
#40「イエローキャット」アディルハン・イェルジャノフ/2020/カザフスタン=仏/Nov. 1/TOHOシネマズ シャンテ(FILMeX)○
このひとの作品を観るのは初めてだけど、カザフのカウリスマキという印象は最初からもった。シネフィルだな。『サムライ』のアラン・ドロンに自分は似ていると信じている青年と、おじの借金返済のために娼館で働く娘の『ボニー&クライド』犯罪ロードムービーの姿を借りたおとぎ話。カウリスマキの登場人物と違い、誰もが何も深く考えていない単なるうすのろに見えて、ちょっと僕は入っていけなかったな。ふたりが乗る車は『イエローキャット』にふさわしく、黄色いカングー。つねにセカンドギヤで走っているようなのが気になった。主人公を“雇う”警官は、制服の下に水色のボーダーTシャツを着ていた。これには既視感がある。かつての日本のラクダシャツくらいあのあたりでは普通なのかもしれないな。ところで登場人物はすべてカザフ語で喋ってるんだろうが、僕にはロシア語にしか聞こえず。“聞こえない”というのは、“ロシア語わかりません”と同義だな。情けない。
#39「逃げた女」ホン・サンス/2019/韓国/Oct. 31/有楽町朝日ホール(FILMeX)○
(『さいざんすマンボ』の節で)さんすさんすー、ほんさーんすっ♪ FILMeX 2本目はホン・サンス。いいプログラムだ。髪を切りソバージュにしたキム・ミニが、だんなの出張中に三人の女友達(正確にはひとりは元友人だな)に順次会う、という緩やかな繰り返しがホン・サンス印。それぞれが男問題あるいはトラウマを抱えるエピソード。大傑作というわけじゃないし、ベルリンで監督賞をもらったのは名誉賞みたいなものかな。訪問に肉とマッコリを持参し、友達の同居人に調理してもらって食べる、って普通? その同居人と訪ねてきた隣人の、野良猫への餌付けについてのやりとりが楽しい。途中でどちらかがキレるのが従来のパターンだったけど、その辺りの感じが変わってきたかな。酔っ払わないし。そういえばタイトルバックも手書きじゃなかった。キム・ミニは相変わらずの不思議ちゃん。コーヒーは濃いのが好きなのか、本当は嫌いなのか。それにしても彼女の華奢さには圧倒される。内側はシックスパックだったりして。
#38「海が青くなるまで泳ぐ」賈樟柯/2020/中国/Oct. 31/有楽町朝日ホール(FILMeX)★
(『Jajambo』の節で)じゃっじゃじゃんく、じゃじゃんくー♪ 強制帰国で来ることができたFILMeX。1本目は賈樟柯のドキュメンタリー。ふるさとの山西省賈家荘に著名な文人を招いて開いた文学フェスティバルを紹介し、四人の文人に順次迫る。ここまで寄るかのクローズアップが迫力。世代の異なる四人なので戦中から80年代までの中国国内の変化が背景に反映される、ってところが賈樟柯印。そして14歳という梁鸿の息子。現代っ子&北京っ子であり、中国の近未来を象徴するのだろうが、もう東京でもソウルでも台北でも変わりがない。グローバリゼーションって単なる画一化だろうか。四人のなかでは『活著』で有名な余華のパートが滅法おもしろい。こんなおもしろいおっちゃんだったのか。大河の河口は水が濁ってるから海が青いことを知らなかった、というのはあの世代には十分あり得るよな。終映後のリモートでのQ&Aセッションはよくできていた。市山さん、コロナ終わってもこの方式がいいのでは?
#37「タゴール・ソングス」佐々木美佳/2019/ノンデライコ/Oct. 25/シネマ・ジャック&ベティ○
『ジャナ・ガナ・マナ』が流れてきて思わず起立しそうになった、なんてことはないが、インドの映画館が懐かしいね。タゴールの強い影響を受ける現代のインドとバングラデシュの人びとを追うドキュメンタリー。主なロケ地は当然コルカタとダッカなのだけど、なんと東京、横浜、軽井沢も出てくる。日本映画なのだ。日本人、いろんなひとがいるなあ。誰に向かってつくったんだろ。超ニッチあるいはマニアックな層向け。ともかく、この作品を観るといかにタゴールがベンガル人のこころに染み付いているかがわかる、そう信じていいのだろうか? ベンガル人への独自取材が必要な気がちょっとした。でも確かに歌われる唄はどれも美しくなじみやすい。日本にやってきたコルカタの女子大生の旅費は製作費から出したのかな。とするとそこだけフィクションといえるかも。言語はベンガル語、英語とあったが、ヒンディー語も多用されてたよ。じゃやじゃやじゃやじゃやへー。
#36「スパイの妻」黒沢清/2020/NHK他/Oct. 17/新宿ピカデリー○
ヴェネチアで銀獅子賞を獲ったという、第二次世界大戦を背景にした反戦(反日?)もの。黒沢清は藝大教授でもあると思うが、政府から煙たがられてないのかな? まあ是枝監督ほどじゃないか。貿易商の夫が満洲で行われているペスト生体実験の証拠を入手し、それを世界に知らしめようとすることを知った妻がそれを助けようとする。正義を謳っているが、やり方の巧妙さからするとやはりこの夫、なんらかの組織に属する工作員だったことは間違いなさそう。あちこち物足りない演出だけど、蒼井優の演技だけは見応えがあった。彼らが住む神戸の邸宅として華頂宮邸が出てくる。満洲のシーンやボンベイのシーンが見たかった。731部隊(?)の記録フィルムみたいなのは本物だろうか。あの建物は検索しても見つからないけど。映画といえば夫婦は映画好きらしく、溝口の話をしたり『河内山宗俊』を一緒に観たりする。まあこれは監督の趣味だな。
#35「ラブ ゴーゴー」陳玉勳/1997/台湾/Oct. 17/K's Cinema★
なんだかんだで『愛情來了』(原題)はお気に入り、エヴァグリーンのひとつになっている。久しぶりの劇場上映に出向いた。23年前の台北がスクリーンに拡がる。街並みや、直接はもちろんビルに映ったりする空の描写が印象的。『ブエノスアイレス』と並ぶ捷運映画だ。あ、『獨立時代』もそうかな。坣娜がやはりいい。特にラストシーンの泣き笑いは最高だな。ふかっちゃんの美容師は昇天ものだけど、坣娜でもしあわせになれそう。他の主役たちもそれぞれ親近感があるし、喬書培だって憎めないやつだ。だーあしゃん、だーあしゃん♪ ビル屋上の俯瞰撮影はいまならドローンで簡単だけど、当時はヘリコプター使ったのかな。それだと敷いたマットが飛んじゃいそう。今回はじめて気づいたのは、エンドクレジットの小坂史子さんが“小板史子”になってたこと。ご本人、当時指摘しなかったのだろうか?
#34「フェアウェル」ルル・ワン/2019/米/Oct. 11/TOHOシネマズ日比谷○
『Crazy Rich Asians』(飛行機で観たんだっけな?) にエキセントリックな役で出てたAwkwafina主演。末期癌で余命幾ばくもないと診断された祖母に会いに、子供たち、孫たちが長春に集まってくる。日本に移住した長男の息子が日本人(ミズハラアオイとクレジット)と結婚するというのでその結婚式という口実である。Awkwafinaはアメリカに移住した次男の娘で、本人に病状を伝えない中国のやり方が理解できない、というお話。西方から見た東方の神秘が穏便に描写されており、アメリカで評判がいいというのもわかる。スタンダードな音楽を使っているところに好感。興味あったのは舞台がなぜ長春なのか。で、いつものようにWikipediaで調べた。監督本人は北京出身だが祖母が長春にいて一時一緒に住んでいたらしい。冒頭に“Based on a real lie”とあるのは自身の体験だったのだ。開発区ばかり見せているとはいえ、長春も変わったものだ。あの場違いな関東軍のお城はまだあるのだろうか?
#33「TENET テネット」クリストファー・ノーラン/2020/英=米/Oct. 3/新宿ピカデリー○
Google翻訳が辞書にないクエリーに対して返す答をコピペしたとしか思えない邦題。『Dunkirk』から3年でまたSFに戻ってきたノーラン作品。絶対に一度観ただけでは理解できない。量子力学がアイデアのベースらしく、その辺りからくる時間のゆらぎだの逆転したエントロピーだのから“時間の逆走” (≠ワープ)を可能としてタイムトラベルする。都合の悪い過去を修正しに行くよくある話とは少し違っていて、修正しにきた未来を迎える側にも視点がある。現在と未来の両方から同時に同一ターゲット攻撃するなどという、そんなのどうやって映像化するんだというシーンを実現。おおこれか、という感動まではいかないけどよくやってるよ。舞台にMumbaiが出てくる。また重要人物にAkshay Kumarの義母Dimple Kapadia (って、歳は10しか違わないみたいだけど)も出演、というインド案件であった。『Yesterday』のHimesh Patelも出てたよ。自分の死に人類を道連れにしようとする悪者はKenneth Branaghだった。いい爺さんになってるな。
#32「デッド・ドント・ダイ」ジム・ジャームッシュ/2019/米/Oct. 3/早稲田松竹○
なぜ“doesn't”じゃないんだろうと思う原題だが、ひねりが皆無の邦題はもっとハテナ。ジャームッシュの新作(まだそうだよね?)がようやく観られた。映画好きが撮ったふざけた作品で、そういう背景を踏まえない観客は怒りだすだろう。地球の地軸が変わった影響で死者が目醒め人間を喰らうという世紀末的状況下でゾンビに立ち向かうBill MurrayとAdam Driverの警官コンビも最期を迎える、あら〜な結末(思い切りネタバレ御免)。臓物を喰われた死体のえげつない描写(インドならぼかしが入る)。豪華な出演陣(みーんな、ゾンビ)。『ゾンビ』はもちろんのこと、散りばめられる映画へのオマージュ。というより、タランティーノのパロディーに見えてくる。特にTilda Swinton演じる葬儀場の謎の女主人の日本刀を操る姿とかね。彼女の正体は想像通りだった。『ストレンジャー・ザン・パラダイス』(なんだこれもそのままの邦題だな)のEszter Balintが30ン年ぶりに見られたのは収穫といえるかな。
#31「鵞鳥湖の夜」刁亦男/2019/中=仏/Sep. 26/ヒューマントラストシネマ有楽町
大陸映画に桂綸鎂が出るというので気になっていた。こちらもうまいこと一時帰国中に公開された中国ノワール。黒社会内の諍い中に誤って警官を殺してしまった胡歌の逃亡劇。追う警官に『江湖儿女』の廖凡。日本の仁侠映画にも毒されていそうな演出が微笑ましいが、総じて駄作であった。オチも弱い。桂綸鎂は『藍色夏恋』の頃みたいなショートカットで水浴嬢(陪泳女)。この聞き慣れない職業の存在を知ったのが収穫だな。白昼の(夜でもいいけど)オープンエアの水浴場を商いの場とする風俗で客と一緒に泳いだりする面白いビジネスである。でも誰の目にも水浴嬢とわかるのはどうなの? 野鹅塘というのは中国に何ヶ所もあるみたいなので具体的にどこかわからないのだけど、話される言葉は北京語と広東語の中間みたいに聞こえた。テーマソングは北京語版“ブンガワンソロ”。大陸でも正の字で数を数えるんだ、というのが小さな発見。
#30「マティアス&マキシム」グザビエ・ドラン/2019/カナダ/Sep. 26/ヒューマントラストシネマ有楽町○
昨年のカンヌ、コンペ作品。この監督の作品を観るのは初めてだと思う。みんなフランス語喋ってるけど景色がアメリカっぽいな、なんて呑気に観始めたが、その映像、音楽、ストーリーが、なんというか、新鮮だった。これぞヌーヴェルヴァーグ。単に奇抜なのではなく、たくさん映画観て勉強した上で撮っていると思う。舞台はモントリオール。オーストラリアに行くことになった、言葉遊びが大好きな幼なじみグループのひとり(監督が自演)と、特に仲がよいもうひとりのBL映画だが、全体としては青春ばりばり映画。そういう意味では『藍色夏恋』っぽいとも言える。バラエティに富んだ音楽、ショット。疾走シーンは『汚れた血』かな。カナダからオーストラリアに行くというのは、ピンとこないな。ピンとこないところを選んだのかも。
#29「ブリング・ミー・ホーム 尋ね人」キム・スンウ/2019/韓国/Sep. 20/チネチッタ○
イ・ヨンエが銀幕復帰。運よく帰国中に公開となったので早速観に出かけた。これまた『チャングム』でファンになったひとには気の毒な『親切なクムジャさん』系の血腥い話。行方不明になった息子を執念で探す母親役で、息子を奴隷のように使う一家+悪徳警官を相手に息子奪還のため戦う。看護師ならではの武器もあり、正当防衛的要素は大いにあるとはいえ、あそこまでやって無罪だったのかな? 2年後には穏やかな暮らしをしていた。イ・ヨンエは当然歳をとったが相変わらずきれいだ。このままホラー女優にならないでほしい。行方不明者は韓国にはたくさんいるんだろう。北の問題もあるかもしれないが、社会的背景はなんなのか。日本でも目立たないだけで同様なのかもしれないけど。終映時に“虐待は一切していません”とテロップが出る。リアルだったあの鹿母子はどういうしかけかな。
#28「バナナパラダイス」王童/1989/台湾/Sep. 19/K's Cinema○
デジタルリマスターされた名作の上映。劇場初公開とのことだが調べてみると22年前に三百人劇場で観ているな。『中国映画の全貌』かな? 当時ほどの衝撃はないが、終盤の盛り上がりは国共内戦がもたらした市民の悲劇を集約し、壮絶。いわゆる外省人の視点で内戦後〜民主化までの台湾史を振り返る。『悲情城市』は本作へのカウンターパンチか。人生で二度名前を変え、別の人格を渡り歩く鈕承澤。兄貴分の張世は中共スパイの容疑をかけられ精神を病む一方、少し頭が足りないように見えた鈕承澤は“妻” 曾慶瑜の助けも借りながら台湾に自分の居場所を確保するのである。自分を騙し居心地の悪さを忘れるが、最後に本来の自分を曝け出す。バナナ農家に暮らす台湾の菅井きん・文英らの閩南語とすれ違う鈕承澤らの言葉は山東話なんだろうか。僕の知っている台湾バナナは小さくて皮の薄いおいしいやつだけど、出てくるバナナは普通のでかいやつだったぞ。
#27「その手に触れるまで」Jean-Pierre Dardenne, Luc Dardenne/2019/ベルギー=仏/Sep. 13/シネマ・ジャック&ベティ○
若い導師に感化されたムスリムの少年がコーランを歌で教える不届きな恩師をジハードとして殺そうとする物語。何歳か知らないが、イスラム教の(僕からすれば)過激な思想と純粋無垢な精神が化学反応し原理主義化するとエラいことになる。世の中に宗教は必要だ。そしてそれは複数がお互いを認めて共存しなくてはならない。他の宗教、あるいは無宗教を攻撃してはだめだ。困ったものだ。さて映画に戻ると、さすがのダルデンヌ兄弟、シンプルかつシャープ。導師に感化された過去は若干語られるだけで映像は一切ない。また、少年がその後どうなるのかも観客に委ねられる。ひとによっては終映後に発狂するかもしれない。まあそういうひとはダルデンヌ兄弟なんぞに来てはいかんのだが。少年の一家はみなムスリムだが、彼以外は緩そうだったのが印象的。一般的なムスリムはそんなものかな。
#26「イップ・マン 完結」葉偉信/2019/香港=中国/Aug. 30/UPLINK渋谷○
甄子丹主演の人気シリーズ完結篇。ついに葉問老師の最期だ。ガンを宣告されながら息子の留学先を探すためサンフランシスコに老師が出かける話。そこには弟子の李小龍がいる。演じるのは『少林サッカー』からおなじみの陳國坤。相変わらずのなりきり。空手大会(?)とかの映像は実物がYouTubeで見られるけど、まあそっくりに再現しているよ。チャイナタウンのセットがセットっぽさを出しながらよくできてた。Washington St.とかPine St.とか懐かしい。通ったCD屋はもうないだろな。てなことはさておき、甄子丹の詠春拳は堪能できるが相手は空手だし、アメリカ人だし、全体的に荒っぽいのがいかん。徹底的にアメリカのレイシズムを批判するのはいいけど、みんな中国人、助けあわないと、というメッセージには、そうだよねと素直に肯けないところだ。海兵隊軍曹として懐かしのF4呉建豪が出てた。アメリカ人とは知らなかった。
#25「在りし日の歌」王小帥/2019/中国/Aug. 29/シネマ・ジャック&ベティ○
胡波の自殺の原因ではないかと噂される王小帥。いつの間にか中国映画界の重鎮、そして作品のこの貫禄。なんとも複雑な心境だ。同じ日に生まれた星星と浩浩は兄弟同様に育っていたが星星が事故で早逝、星星の親はひとりっ子政策のために浩寛の親に咎められてふたり目を中絶していた過去があり…、と下手に作るとベタベタになる話を淡々と進める監督の手腕はさすがである。抑え気味にハッピーエンドなところもいい。80年代から現在までの時代の移り変わりの描写はある意味定番だけど、その落差には改めて凄まじいものがあるな。日本と違って政治が破壊的にモードを変えたからね。さすがに子供は年に応じて俳優が交代するが、ふた組の夫婦は同じ俳優が演じる。南に行っても主食に饅頭を食べるふたりがいじらしい。これがベルリンで銀熊賞を獲った理由(たぶん嘘)。ピオネールあるいは少年先鋒隊の赤いスカーフは仮面ライダーのそれよりかっこいいよね。
#24「シチリアーノ 裏切りの美学」Marco Bellocchio/2019/伊=独=仏=ブラジル/Aug. 29/kino cinema 横浜みなとみらい○
シシリアン・マフィアの大物で後に検察に協力しコーザ・ノストラの幹部たちの逮捕に協力したTommaso Buscettaの物語をベロッキオがかっこよく描いた秀作。『仁義なき戦い』よりも生々しく感じるのは金子信雄がいないからかな。長尺だけど、インド映画で鍛えた脳には何の問題もなく、イタリア黒社会の物語にぐいぐいひき込まれていった。20年ほどのスパンの中で時間が行ったり来たりする。場所もパレルモ、リオデジャネイロ、フロリダ、ローマと目まぐるしく移る。でも、混乱はない。主人公の豪快なようで緻密な性格は黒社会では(いやどこでも)成功確率が高そう。検事と“どちらが先に死ぬかだ”みたいな話をしていた。ふたりとも覚悟あっての大量検挙。コーザ・ノストラの掟を守り誇りを持ってると言いつつ、裏切り者には違いない。殺られたのは検事だったが。ブラジルからイタリアに送還されるとき、ビジネスクラスに乗ってたな。大物だから当然か。警官には儲けもんだね。機内食はエコノミー・レベルに見えた。
#23「きっと、またあえる (Chhichhore)」Nitesh Tiwari/2019/インド/Aug. 22/ユナイテッド・シネマ アクアシティお台場
Sushant Singh Rajputの遺作ということでは追悼として観る価値はあろうが、映画としてはダメダメなキャンパスコメディー。スポーツトーナメントがインド人の琴線に触れるのか公開時には結構ヒットしてたよな。JEE Advancedの試験に落ちた失意から自殺しようとしてICUにいる息子にIIT Bombay (映画の中ではNational College of Technologyだったけど)出身の父親(Sushant Singh Rajput)が自分の学生寮でのLoserと呼ばれながらも仲間と過ごした充実した時間を話し、息子に生きたいと再び思わせる二重構造。説得力ない。Shraddha Kapoorと離婚している必然性なし。昔の仲間が息子のために集まってくる不自然さ。母親含めてみんなIIT出だよ。なんで息子が自信を持てる? 登場人物の学生時代と現在をそれぞれ自分で演じていて、そのギャップもコメディー要素なわけだが、これもちっとも笑えなかった。すっかりおなじみになったインドの病院。Operation Theatreってガラス張りでオペ状況が見学できるのかな、と思ったことが懐かしい。でっかい日本語字幕あった。
#22「追龍」王晶,關智耀/2017/中国=香港/Aug. 22/ユナイテッド・シネマ アクアシティお台場○
約半年ぶりに映画館で映画を観るチャンスがやってきた。まずは安心できそうなシネコンで、と選んだのは、予告篇で見られた懐かしい香港の風景が気になっていた甄子丹主演の黒社会もの。共演は劉德華。大物すぎて特別出演扱いか。1974年に廉政公署ができるまで香港を裏で牛耳っていたらしい吳錫豪と呂樂という人物(恥ずかしながら知らない)の追憶である。吳錫豪は武術家ではなかったらしく甄子丹のアクションは控えめ。カツラが自然には控えめにも見えなかった。香港の風景は当然CGバリバリなわけだが、ワクワクする。惜しむらくは自分が九龍城砦を訪れた経験がなく、その空気は想像するしかなかったこと。美都餐室の店内はロケに見えた。当時、英国人は為政者として不可侵。これに甄子丹は反発するのだが、全体としてそれを是とするようには描かれていない。大陸資本も入ってるしね。曾江がいい爺さんになってたよ。ところで菠蘿油ってテイクアウトできるの?ただの菠蘿包でなく。
#21「Kannum Kannum Kollaiyadithaal」Desingh Periyasamy/2020/インド/Mar. 8/SPI: Kripa Cinemas - Mahathma Gandhi Road (Trivandrum)○
DQ25はタミル映画。愛車のナンバーもDQ25、相手役はRitu Varmaというテルグ女優という面白さ。クライムムービーで、Dulquer Salmaanはハイテク(でもないが現実には難しい)を使って金を稼ぐリッチな詐欺師である。で、ラッタッタに乗りガラケーの質素な生活を送るメイクさんRitu Varmaに一目惚れして接近する。そこに娘に買ってやった、DQがつくった偽の新品ラップトップが火を吹いたのに怒ったコミッショナーGautham Menon(まただ)が執念の捜査を開始する。ここからどんでん返しの連続で、主役は悪いやつのはずなのに最後まで楽しめる稀有なシナリオだった。例によって @royalenfield に乗っかるロードムービー要素もある。冒頭のシークエンスの意味が全くわからなかった。プールの時間に間に合わないから愛車をぶっ飛ばした? んな、どっかの総理大臣や法務大臣みたいな説明が通じるわけない。字幕なかった。タミル映画をケララで観たのに、そりゃないぜ。
#20「Trance」Anwar Rasheed/2020/インド/Mar. 7/New Theatre Dolby Atmos: Thampanoor (Trivandrum)○
いまだに名前が憶えられない、@Nazriya4U_ のダンナFahadh Faasil主演。ついにNazriyaちゃんと共演というので期待したわけなのだが、彼女の登場は後半の後半でようやくだった。Fahadh Faasilが自己啓発セミナー講師もどきでひとをその気にさせるのがうまいってんでGautham Menonに採用され、キリスト教の本格的な煽動者に仕立てられて信者から金を巻き上げる道具にされるお話。集会の演出(舞台裏)がえぐい。トランス状態を表現するためのサイケなビジュアルはいまひとつの感あり。肝腎のNazriyaちゃんは、言うことを聞かなくなってきたFahadh Faasilを薬物漬けにするために彼の秘書として雇われたズベ公で、出番は少なかったけど重要な役。まだまだかわいい25歳である。舞台はFemiちゃん(誰?)の故郷Kanyakumariに始まり、Mumbaiに行ったり、果てはAmsterdamまで。Kanyakumari、一度行ってみたい。字幕なかった。マラヤラム映画をケララで観りゃ、そりゃそうだ。
#19「Les Misérables」Ladj Ly/2019/仏/Mar. 1/PVR: Orion Mall(BIFFES)★
こちらは話題作なので会場は満席。開映1時間前に並んだけどそれでも100人目くらいだったと思う。パリ近郊のMontfermeilという小説『レ・ミゼラブル』でジャン・バルジャンがコゼットと出会う町(憶えてない)を舞台にした、治安維持を任務とするSCU(たぶん警察の一組織)と地域住民(いまどきの不良少年グループ、やくざもどき集団等)のいざこざを描いた硬派な群像劇。相手が一応一般住民だからかドンパチはないが、パトロール中のSCUが少年らを挑発したあげくに誤ってある少年を負傷させ、その様子をドローン撮影したビデオがやくざもどき集団にわたり、と緊張感のつづく展開。そして、夜。SCUメンバーは帰宅し、それぞれの静かな時間を過ごす。この対照が印象的。そして、翌日のリベンジは無情な結末へと向かう。大型花火を手から発射しSCUを攻撃する少年たち。ひぇー。多民族国家なのに登場人物にアジア人がいなかったのが気になった。もしかして低所得者層にアジア人はレアなの?
#18「六欲天 Summer of Changsha」祖峰/2019/中国/Mar. 1/PVR: Orion Mall(BIFFES)○
Changshaは長沙。こういう地方都市ももはや大都会の中国。ここで起きたバラバラ死体遺棄事件を軸に、恋人を過去に亡くし希望を失っている担当刑事(祖峰)と、死体の姉で娘を亡くし希望を失っている医師(黄璐)の悲しい共鳴をデリケートに描く、俳優・祖峰の初監督作。なかなかいい。事件が解明されていくに連れ、ふたりの過去も少しずつ明らかになっていき、ふたりの距離も近づいていく。黄璐が小保方さんに見えてしかたなかった。コンクリート詰めの頭は、あります。中国で仏教徒であることは何か特別なことなのだろうか。法輪功かと思わせるほど、“危ない”という認識があるように見えたが、その辺が不勉強だ。出てきたお葬式は道教式かな? 参列者が円卓を囲ってわいわいビールを飲みながら食事していた。朝一番の上映だったからか、メイン会場なのに観客はまばら。その上開映が遅れて気の短いひとは出て行っていた。まあインドでは一般に中国映画は人気ないけどね。
#17「Bhinna」Adarsh Eshwarappa/2019/インド/Feb. 29/Navrang Theatre(BIFFES)○
Shuddhi』の監督@AdarshEshwar の新作ということで期待して@BIFFESBLR のメイン会場Orion Mallから徒歩30分の単館に出向いたのだが、ホラーでがっかり。インド人がホラー好きだからといって、僕のような神経の細い観客を脅かす必然はないストーリーだと思った。出演者はごくわずか。『Lucia』のプロデューサーをやってたらしいSowmya Jaganmurthy、『Shuddhi』のSidhaartha Maadhyamika、Shashank Purushotham、そしてどこかで見たような顔のPaayal Radhakrishna。全員役者の設定。話の二重構造は目新しくはないがおもしろい。Paayal Radhakrishnaが精神的に病んでおりその主観で話が進むと、ロジックが効かないのがミソだな。ホラー要素を抜けばいいのになー。Paayal Radhakrishnaのクローズアップとか超都会にしか見えないバンガロールとか、撮影もよかったのに残念。監督、自分も出たり、『Shuddhi』のポスターを見せたり…。ま、いいけど。当然字幕あった。
#16「Thappad」Anubhav Sinha/2020/インド/Feb. 29/INOX Lido○
普段Taapsee Pannuの出演作はスルーしているのだけど、たまたま見た@timesofindia の映画評が4.5点を付けていて、んな高いポイントを付けた映画はどんなだ、と観にいくことにした。Twitterで@sonamakapoor が本作の@taapsee を褒めてたのも背中を押した。公衆の面前で夫の平手打ちを喰らった専業主婦(Taapsee Pannu)がそれまでの平凡で幸福な毎日から目覚め、しまいに離婚、第二の人生を歩み始めるというお話。つぎの男が現れるわけでもない。Thappadが平手打ちという意味だというのは観賞後に知った。事件後よりも事件前までの普段の描写がよかった。毎日少しずつ違いながらも同じことの繰り返し。そこに、自分は何してるんだろうという問題意識は微塵もない。映画ではTaapsee Pannuの行動に触発される女性がふたり。彼女の弁護士とメイド。ふだんから夫によるDVに遭いしかもそれを受け入れていたメイドさんが目覚めるサブエピソードがよい。離婚するダンナの会社はMicronだった。あのマイクロン? 字幕なかった。
#15「Mafia Chapter 1」Karthick Naren/2020/インド/Feb. 23/PVR: Orion Mall○
撃沈した『Dhuruvangal Pathinaaru』の監督の新作が到来。打って変わってわかりやすいシナリオ。というか、スーパーコップArun Vijayとそのチームが強すぎて、ピンチもなく悪(Prasannaを頭とするドラッグ製造団)を倒してしまうのは物足りない。まあ倒れた悪の背後にはさらなる悪があるという、Chapter 2への予告はあるのだが。そもそも僕はArun Vijayをあまり評価していないので、彼がスーパーヒーローを演じても盛り上がらないのだな。スローモーションを多用したスタイリッシュさを狙った映像も鼻についてしまう。そんな中、Arun Vijayチームメンバーを演じていたPriya Bhavani Shankarの発見は明るいニュースである。TV出身らしい。ちょいとNayantharaの若い頃(失礼)を思わせる美人。ガンさばきも鮮やかに敵を撃つ姿がクール。今年突然出演映画が7本と、急にブレイクしているようだ。そんなわけで、『Chapter 2』待ってます。字幕あった。『Dhuruvangal Pathinaaru』再見したいな。Amazon Primeにないかね。
#14「Shubh Mangal Zyada Saavdhan」Hitesh Kewalya/2020/インド/Feb. 22/INOX Lido○
ここんとこ高値安定人気のAyushmann Khurranaは色々な役を器用に演じてきている。今回の役どころはゲイ。昨年のSonam K Ahujaの『Ek Ladki Ko Dekha Toh Aisa Laga』の静かなファミリードラマから一歩進めて、結婚させられようとしているパートナーのファミリーにAyushmann Khurranaが乗り込み堂々と関係を宣言して巻き起こすドタバタを描くコメディーに仕上げてある。それなりの成功を期待しているのだろうが、それはインド社会のLGBに対する許容の1年間の進捗にかかっているわけだ。インドの性別欄はMale, Female, Transgenderの3択だからね。興業成績に注目。息子(Jitendra Kumar; 『燃えよドラゴン』のJohn Saxon似)の姿をなかなか受け入れられない父親(Gajraj Rao)のヘアスタイルが気に入った。カツラだと思う。虫のわかないカリフラワーの研究は応援したい。単に農薬の問題かもしれないが、オーガニックで虫なしのカリフラワーがインドで作れればひと財産できるんじゃないかな。字幕あった。ボリウッドが最近親切になってきた。
#13「Popcorn Monkey Tiger」Duniya Soori/2019/インド/Feb. 21/INOX: Garuda Mall○
A-ratedの超暴力カンナダ映画。下がちょっぴり切れた字幕を追うと肝心な画面が把握できないジレンマに苦しみながら迫力に圧倒される2時間余り。PopcornがNivedhithaでMonkey TigerがDhananjay。Nivedhithaは『Shuddhi』のジャーナリストやってた爬虫類系女優だな。Dhananjayは同じ監督の『Tagaru』でいつもKF Ultra飲んでた悪役。今回も飲んだくれ。このふたりの極道の話が並行し、途中から合流する。Dhananjay側の血で血を洗う仁義なき戦いが凄まじい。時間の経過(トータルで3年間)に伴って変化するふたりの容姿(特にDhananjay)が印象的。ときどき時間が前後するのをわかりやすくする意味合いもあったかも。ただし、最後のシーンは意味不明。わかったひと挙手願います。今回もロード・ムーヴィー要素があって、そこだけ爽やか。好きだねー。髪を剃られ“MONKEY”と剃刀で彫られた頭でバナナを喰らうDhananjayの隣に“猿に注意”の看板ってシーンが、ベタベタだけどよかったな。
#12「World Famous Lover」Kranthi Madhav/2020/インド/Feb. 16/Cinepolis: Binnypet Mall○
バレンタイン映画3発目はテルグ。Vijay Deverakondaが書けない作家で、それに愛想を尽かす恋人がRaashi Khanna。こいつも観ていてウンザリする作品だった。が、である。そんなことは百も(いや十くらいは)承知で観にきたのはAishwarya Rajeshが出ているから。Vijay DeverakondaがRaashi Khannaが出て行った後に書く小説のひとつの登場人物で、炭鉱で働く夫(Vijay Deverakonda)に献身する奥さんを演じている。これが客観的に考えてもすばらしかった。新しいサリーを着たときの姿はまぶしいくらい可愛かったのだよ。それだけだ。この小説といい、パリを舞台にしたインド人IT企業マネージャー(Vijay Deverakonda)とフランス人飛行士(Izabelle Leite)の恋物語といい、陳腐で、こんなのがベストセラーになるわけないって感じ。結末も、ありゃー。Raashi Khannaはかつての石原真理子を想起させる。顔もさることながら、その演技のトホホなこと。遠いとこまで来たんだけど字幕なかった。
#11「Love Aaj Kal」Imtiaz Ali/2020/インド/Feb. 15/PVR: Forum Mall○
同じ監督の2009年製作の作品と同名、しかも前作はSaif Ali Khan、新作はSara Ali Khanが主演というちと胡散臭さを感じるバレンタイン映画。“純愛”について現在と過去のふたつの物語を対比するという構造が似ているようだ。新作の主演の一方はKartik Aaryanで、“過去”の男と二役。その“過去”の男の現在の姿がRandeep Hoodaである。コ・ワークスペースの理解あるオーナーとして、テナントであるSara Ali Khanに過去の純愛を語るRandeep Hoodaって信用できなくない? その期待を裏切らないのがRandeep Hoodaの面目躍如というものである。それはそれとして、Sara Ali KhanとKartik Aaryanのやりとりが見ていてイライラした。現在の舞台はDelhi、Himalayaで、過去のはUdaipur、Delhi、Mumbai。インド人にとってヒマラヤの山岳地帯は特別なようだ。ほとんど異国扱い、かつ憧れの地。どこでもドアがあれば行ってみたいが…。最近売り出し中のSara Ali Khanは苦手だ。そもそも父親似の顔がいかんと思う。字幕あった。
#10「Varane Avashyamund」Anoop Sathyan/2020/インド/Feb. 15/Balaji Digital 2K Cinema○
美しい母娘がいてそれぞれの結婚話が持ちあがって娘が反発するというどこかで聞いたような渋い映画をDulquer Salmaanがプロデュース。主役のふたりはSuresh GopiとShobanaという往年のスターである。ケララ人コミュニティーが住むチェンナイのアパートが主な舞台。ここにSuresh Gopi演じる独り者の元陸軍少校と、(刺繍でなく)フランス語講師兼ダイエット講師でダンスもうまい母Shobanaと結婚紹介所に登録しながらなかなか相手が決まらない娘Kalyani Priyadarshan、それから女優のおばさんと同居しているDulquer Salmaanとその弟らが住む。コメディーでありグランドホテル式に登場人物が入れ替わり立ち替わり出てくるし、字幕を追うのが精いっぱいで疲れた。母は無事ゴールイン、娘もいろいろありながら最後には(佐田啓二じゃなくて) Dulquer Salmaanとうまくいくというハッピーエンディングなバレンタイン映画だった。Shobanaは映画中、“女優のShobanaに似ている”とか言われてた。子供に“Nayanthara”と名付けるのは勇気いるよ。
#9「Vaanam Kottattum」Dhana Sekaran/2020/インド/Feb. 8/PVR: VR GOLD○
Mani SirのMadras Talkies作品。まあ、それだけでも要チェックなのだけど、予告篇のAishwarya Rajeshを見たら誰にも(少なくともファンは)観に行かないという選択肢はあり得ない。偶然にも同日観た『パラサイト』と同じく、格差社会に一部焦点をあてている。主眼はファミリーって、テルグ映画か。兄を刺された復讐でひとを殺してしまった父親、残された母親と息子、娘は社会的に暮らせなくなりChennaiへ。境遇から凶暴化した息子はバナナ卸業に目覚め、事業がうまくいったころに父親が出所してくるも、子供たちは彼を受け入れられない。というような説明的なメモはよくないね。やっちゃばのようなバナナ市場の活気が魅力的に撮られていたのが印象的。殺された男の息子を怪物化する必然性はないと思った。Madonna Sebastianが世間知らずのお嬢様で出演。Aishuは予告篇のとおり快活な女の子を演じていてとてもよかったよ。よっ、Chennai Ponnu。バレンタインデー映画の『World Famous Lover』にも超期待。字幕あった。
#8「Parasite」Bong Joon-ho/2019/韓国/Feb. 8/PVR: VR GOLD★
いつかのフライトの機内エンタメで観たので一応二度目の観賞。ポン・ジュノ作品はどれも基本的に好きだけど、今回の世界的称賛にはたまげた。それだけ現代の普遍的問題を突いているということだろう。ネタバレ厳禁らしいので詳しいことは書かない。新自由主義が生み出したこの大胆な格差社会の上下関係をそのまま舞台装置に幾重にも組み込んでエグいくらいに見せる、喜劇のような悲劇である。そのきっかけとなる、息子が友人から受け取る石は何を象徴しているかな。前の住人だった建築家が自分が住むために設計したというアップヒルにたつモダンな豪邸は、その大きさを考えると娘の部屋が小さ過ぎるように思う。ソン・ガンホ一家に追い出される住込みお手伝いさんは、某クレープ屋の奥さんを思い出させた。モールス信号、小さい頃に流行ったなあ。“SOS”くらいなら憶えてる、と思ったらすっかり忘れてるわ。ははー。せっかくの機会なので映画関係の賞は総なめで行こう。監督にいつも付いてる凄腕通訳さんに乾杯。
#7「Panga」Ashwiny Iyer Tiwari/2020/インド/Jan. 26/INOX: Mantri Square○
Kangana Ranautがめずらしく普通の役、スポーツ選手を演じる、もうじき消滅のFOX作品。種目はカバディ。一度はナショナルチームのキャプテン、出産を機に引退するも息子の一言から32歳にして再起動、ふたたびナショナルチームを目指すというスポ根+女性礼讃映画である。Disney系なので(きっぱり)、極端な暴力も深刻な落ち込みもなくハッピーエンドに向かい、感動願望の観客にはウケるようにできている。というわけで、映画的な面白味はない。Kangana Ranautはどういう経緯でオファーを受けたのかな? Republic Day映画という側面もあるが、ナショナルチームが勝って国旗見せて全員起立という指導がなくなって久しい。舞台はBhopal、Mumbai、Kolkata、Delhi。最終盤、KolkataでIndian Coffee Houseが出てきた。East RailwayチームでのルームメイトMegha Burmanはまあまあかな。TV女優のようだ。字幕があったけど、2時間見てもカバディのルールはよくわからず。カバディ、カバディ…。
#6「Psycho」Mysskin/2020/インド/Jan. 25/PVR: Forum Mall○
Aditi Rao Hydariがこちらに向かって手を伸ばす映像が印象的で、なんだろうと思っていた作品が来た。『Super Deluxe』の脚本を書いたMysskinの脚本・監督、連続殺人鬼もの。Aditiはその被害者一歩手前の役。彼女の美しさが堪能できるのがすばらしい(ただしタミル語ゆえ吹き替え。彼女のハスキーボイスは聴けず)のは当然なのだが、ザッツシネマな作り込んだ映像、(字幕がなかったので細かいところは不明なものの)遠慮のない力強いストーリーで、時折入る斬首シーンを交え、息を飲む70分×2だった。突っ込みどころがたくさんあっても気にならない。最初にヒッチコックへのオマージュが示される。音楽がそんなクラシックな感じ。舞台はCoimbatore中心。Bangaloreから近いけど行ったことないな。途中からNithya Menen登場。元警官で現在は半身不随、主役Udhayanidhi StalinのAditi救出をアシストする。車椅子で体を隠していたな。この映画はぜひタラちゃんに見せたいね。字幕〜。
#5「Pattas」R. S. Durai Senthilkumar/2020/インド/Jan. 18/Balaji Digital 2K Cinema: Tavarekere○
Pongal映画としてDhanushの新作がまたまた公開。なんでこんなにペース速いの? 今度のはMarshal artsである。李小龍の真似ではなくAdimuraiというタミル伝統の拳法のようだが、手を器用に使うというところが詠春拳に似てるように素人には見えた。話はコソ泥Dhanushが実はAdimuraiの達人の息子であることがわかり、道場の師匠(Nassar)の娘で本人もAdimuraiが使える母親(Sneha)と、殺された父親(Dhanush; 二役)と師匠の敵討ちをするという紋切り。20年近くの服役後、Snehaが道場では習わなかったであろうなぞの武器を易々作ったり、最後にはインド人大好き異種格闘技トーナメントになったりして、ストーリー展開もその演出もかなり雑。もうちょっとちゃんと作ればおもしろいのに。Adimuraiを操るDhanush(とそのキレキレダンス)だけは輝いていた。息子の方のDhanushの相手役はMehreen Kaur Pirzadaという(たぶん)知らない女優。字幕がなかったので、彼女がなぜ選挙に出てたりしたのかまったくわからず。新年を跨いでの字幕連勝記録は6でストップ。
#4「Ala Vaikunthapurramuloo」Trivikram/2020/インド/Jan. 15/INOX: Mantri Square○
“Stylish Star” Allu Arjun。ルックス、キャラともどこがいいのかよくわからないのだけど、映画を観ると毎度結構イケるんだよね。『パラサイト』(飛行機で観たんだけど、ちゃんとスクリーンで観たい。インドに来てね) で注目されている格差社会、の本場インドのバリバリのテルグ的ファミリードラマの本作も楽しめた。簡単にいえば、上流家庭の赤ちゃんと下流家庭の赤ちゃんが入れ替わって育てられた結果生まれる愛憎劇である。もちろん、実は上流家庭の息子がAllu Arjun。『Maharshi』に出てた美女Pooja HegdeがAllu Arjunのお相手。ほぼ全編ミニスカートで美脚を披露し、Allu Arjunを悩殺していた。ライバルはRakul Preet Singhあたりかと思うが、Pooja Hegdeの方がいいな(美脚ゆえではない)。ところで本作を観た理由はTabu。Allu Arjunの実母役である。Hyderabad出身だけあってテルグ語はペラペラ。なんだけど、なんか冴えなかった。今週末公開の『Jawaani Jaaneman』はどうかな? 字幕あった。
#3「Chhapaak」Meghna Gulzar/2020/インド/Jan. 12/INOX: Garuda Mall○
Deepika PadukoneがAcid attackの被害者を演じるという、その衝撃的なビジュアルが話題で、かつJNUで起こっている抗議活動に彼女が映画宣伝のために参加したとしてネットが騒然となった話題作。レイプ犯罪で世界的に悪名を轟かせているインドは、Acid attackの事件数も年間100件以上らしい。被害者がほぼ全員女性ということからもこの国におけるミソジニーが他国と比較してひどいと言える。(やはりヒンドゥー教が…以下、自粛) 映画は被害者のDPが七度にわたる整形手術を受けながら、自身裁判で戦い、他の被害者を支援するNGOに献身、酸販売禁止を求め政府に働きかける姿、そしてNGO主宰の青年への想いを描いている。シナリオがNGOに加わるあたりから始まっていて最後に裁判で勝利する際に事件を振り返る時間の逆転が効果的。みんな、『Dabangg 3』を観る金と時間があったらこれを観ろ。字幕を見逃したのか、父親がどうなったのかわからず、とほほ。そう、字幕があったのだ。
#2「Darbar」A. R. Murugadoss/2020/インド/Jan. 11/PVR: Forum Mall○
Mumbaiを舞台に、IPS CommissionerのRajinikanthが街を腐敗させた巨悪をMumbai Policeの力で一掃する、(映画としては)有り体な話。有り体ではあるがそこはRajini作品ゆえ途轍もないパワーとカリスマ性でグイグイ引っ張り飽きることはなかった。もちろん、途中から登場するNayantharaのビューティフルさも堪能できた。ただし、ほんとは"Superstar" Rajinikanthと"Lady Superstar" Nayantharaの共演が見たかったのだけど、彼女が旧来の添え物扱いだったのは残念である。ダンスシーンはふんだんにあったが、舞台が舞台だけにタミル的要素に乏しかったのも個人的にはマイナス点。RajiniがNayanに会いに行くとき車内で『Kolamaavu Kokila』の歌をかけるのにほくそ笑む。Nayantharaの役名はLily、って浅丘ルリ子か。本作ではそうでもないけど、目の大胆メイクという共通項はあるな。Police大好きなインド、香港のそういう時代が懐かしい。観たのはオリジナルのタミル語版。英語字幕あった。
#1「Asur」Pavel/2020/インド/Jan. 3/Indira Cinema: Kolkata○
2020年はベンガル映画でスタート。正月休みに訪れたコルカタの街角のあちこちにあった鼻毛くん(Abir Chatterjee)ポスターで公開を知ったもの。鼻毛くんは準主役で、観客の反応を見るかぎり彼よりもずっと人気のありそうなJeetというベンガル俳優が破天荒な酒浸り芸術家を主演する。このふたりは親友で、共通の友達Nusrat Jahan (鼻毛くんの鼻毛くんたる所以の『Har Har Byomkesh』にも出てたらしいベンガル美人)との三角関係があるというのが背景。前景がDurga pujaというのがベンガルど真ん中で、史上最大のDurga像つくりを巡る親友対決って、これは確かにバンガロールには来そうにない映画だな。Asurは阿修羅だろうが、その末裔を謳うJeetが芸術家(彫刻家)ってのはなにか謂れがあるのかな。Jeetが幻影を見る女性の意味するものは? 公開初回に観たのだが、劇場前ではお揃いのTシャツを着込んだファンによる花火打ち上げなどあり、楽しい観賞となった。ローカルシアターなのに字幕あった。ありがとー。

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Updated: 1/2/2021

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