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2022年に観た映画の一覧です

星の見方(以前観たものには付いてません)
★★…生きててよかった。
★…なかなかやるじゃん。
○…観て損はないね。
無印…観なくてもよかったな。
▽…お金を返してください。
凡例
#通し番号「邦題」監督/製作年/製作国/鑑賞日/会場[星]

#74「福岡」張律/2019/韓=日=中/Dec. 29/新宿武蔵野館○
『群山』の1年後に福岡で撮られた大人のファンタジー。福岡フィルムコミッションが全面協力しているようだ。パク・ソダムが古本屋店主のユン・ジェムンを誘って福岡にやってくる。彼の地にはユン・ジェムンの先輩で同じ女性を争ったクォン・へヒョが居酒屋をやっていて、ふたりが過去を巡って口論。そこに福岡の古本屋店主・山本由貴が絡んでくる。パク・ソダムが前作と同じ歌を歌ったり、同じ人形を抱いたり。韓国語、日本語、中国語が飛び交っても自由に会話できたり。初対面でも以前会ったような気がしたり。ユン・ジェムンとクォン・へヒョは先輩後輩の仲なのにタメ口で話す。パク・ソダムが示唆するように、ふたりは実はひとりなのかもしれない。福岡にいるらしい過去の女スニ(?)は出てこないが、それはパク・ソダムあるいは山本由貴で、このふたりもやはりひとりなのかもしれない。とか、不思議な感覚の作品だった。パク・ソダムとユン・ジェムンがAirbnbで泊まるマンションの和室。襖の閉め方が間違ってるよ。そういうのはフィルムコミッションは指摘しないのかな。
#73「群山」張律/2018/韓国/Dec. 29/新宿武蔵野館○
エテックスに続き、僕には新しい監督がまたひとり。朝鮮族のひとらしい。パク・ヘイルにムン・ソリとメジャーな俳優を使っていることからも知られた監督なんだろう。クンサンを訪れたこのふたりが民泊に泊まりそこのオーナーと娘(『パラサイト』のパク・ソダムだ)と触れ合う話が前半。後半はソウルでふたりが久しぶりに出会う話。つまり前半と後半は倒置されており、それは後半に入ってしばらく経ってからわかるしかけ。面白い。パク・ヘイルのうちのお手伝いさんが朝鮮族、民泊オーナーは元在日韓国人で福岡からやってきたという。北朝鮮を含めこの辺りの韓国社会の内なる(よく言えば)多様性は日本からなかなか見えないところで、興味深い。朝鮮族で戦時中の福岡にて獄死したというユン・ドンジュという詩人も初めて知った。ムン・ソリって何歳かな。『ペパーミント・キャンディー』から20年以上経つが、見た目がほとんど変わってなかった。映画館係員が“これよりコオリヤマ開場します”と言ってて和んだ。
#72「恋する男」ピエール・エテックス/1962/仏/Dec. 24/シアター・イメージフォーラム○
こちらがエテックスの長編第一作らしい。一貫して監督、脚本、主演とタチ並み。脚本はジャン=クロード・カリエールとの共同というのは大きいな。天文オタクの主人公が、親に言われて急にお嫁さん探しを始めるものの、うまくいかず、そのうちStellaという歌手にのめり込んで、熱狂的ファン化。彼女のカットアウトまで自室に置くなどオタクの血が騒いだものの、衝撃的な事実を知り、一気に現実に引き戻され、身近な幸福に目覚める。こちらもハッピーエンドといえよう。もちろん、ストーリーはギャグの積み重ねでできている。エテックスはタチの『ぼくの伯父さんの休暇』を観て映画監督を目指したという。なるほどね、同居していたIlkaという女性はどことなくタチ映画に出てきそうだったし。で、Ilkaって何語喋ってたんだろう? 短編『破局』(1961)を併映。出演者はひとり。ひとりなのでセリフもなく、ドリフ的なギャグが延々と続いて、結構つらかった。
#71「大恋愛」ピエール・エテックス/1968/仏/Dec. 24/シアター・イメージフォーラム○
この特集まで名前を知らなかったエテックス。ジャック・タチに憧れていたということで、期待して観に行った。権利問題が解決し、フィルムもリストアされたというので、おめでたい。ただ、結論から言えば、ギャグセンス、緻密さ等、タチには遠く及ばない。一方、シナリオの奔放さには感じるものがあった。軽薄な男(監督)が社長娘に(意識的かどうかはともかく)嵌められ結婚。会社の跡取りとして勤務を始める。円満に暮らしていたところへやってくる若い秘書。世代差をも顧みず、秘書への想いを募らせるものの、最後は元の鞘に収まりハッピーエンド、というたわいもない物語にこれでもかとギャグが仕込まれる。自動運転のベッドのシーンが幻想的。どうやって撮影したんだろう。主人公が秘書のために(?)買った赤いスパイダーはどこのなんという車だろうか。見たことのない車種だった。短編『幸福な結婚記念日』(1961)を併映。どちらもジャック・タチというより『地下鉄のザジ』に近い気がした。
#70「理大囲城」香港ドキュメンタリー映画工作者/2020/香港/Dec. 17/ポレポレ東中野○
こちらは完全なドキュメンタリー。2019年の民主化運動で、香港理工大学キャンパスに立てこもった学生たちの行動をつぶさに記録した貴重なもの。たまたま中にいたら封鎖されて学生と一緒に籠城することになったジャーナリストが撮影したというホンモノの映像である。物資的にも精神的にも疲弊していく学生たちの様子が痛々しい。組織化されていないので、何もまとまらない。包囲する警察は突入もせず、ときどき脱出を試みる学生を捕まえるのみで時間が刻々と過ぎていく。大学への電源遮断とかやればもっと早く終わらせることができるのに、それをやらない理由はなんだろう。とまれ、最後には大量の逮捕者を出し、闘争は無惨に終わったのだった。撮影していたジャーナリストはなぜ無事だったんだろうか。理工大は前を通っているはずだが、記憶にない。香港島へ向かう海底トンネル入口にも記憶がない。でもまあ、香港にふたたび行けたとしても、そこには行かないかな。今年は香港民主化運動関連の作品を本作を含め4本観た。
#69「少年たちの時代革命」任侠, 林森/2021/香港/Dec. 17/ポレポレ東中野○
2019年の民主化運動を背景、というかその只中で起こる少女の自殺行動をなんとか止めようとするグループをメインに据えた劇映画。こんなのよく撮れたね。役者はほぼ素人らしい。テーマに対して、皮肉だがイキイキしていた。一方、実際のデモ映像がかなり使われており、生々しい。生まれたらすでに香港が中国に返還されていた世代。成長するにつれ、世の中はどんどん窮屈になっていく。雨傘運動ののちの、この2019年。この先も彼らは自分たちの自由を求めて行動を起こすだろう。しかしこの世の中、なにが最善なのか、僕にもよくわからない。わかるのは、ハイチュウおいしいよね、ということくらいだ。Telegramはなぜ日本では流行らないんだろうね。WhatsAppと同じく、LINEのスタンプには勝てないということだろうか。終映後、東京外大の准教授による、2019年の香港の状況についてのトークがあり、このような自殺が実際に起こっていたことが語られた。映画スタッフ、出演者がその後どういう状況なのかも気になる。
#68「あのこと」オドレイ・ディワン/2021/仏/Dec. 4/新宿ピカデリー○
1960年代のフランスはいまからすると随分と保守的だったようだ。不用意に妊娠してしまった女学生が学業を続けるために違法な中絶を図る壮絶な物語。学業への情熱なんだか、両親の期待や友人の目に対する引け目なんだか、子供への愛着とかは微塵もない。観ていて痛い。学生でもあるし、いまのアメリカみたいに州を越えて合法なところで安全な手術するというわけにはいかなかったようだ。主役のAnamaria Vartolomeiが美人だ。Sandrine Bonnaireから生まれたとは思えない。いや、彼女もいい感じで年取ってるとは思うけど。文学部って想像できない世界なんだけど、アラゴンの詩を聞いただけでその解釈ができるって秀才だよな。その才能が収入に直結するとは思えないけど人生が豊かになる気がする。観客に女性よりも男性が多いのが上映前は不思議だった。女子寮のシャワールームが見たかったのかな、と終映後に思った凡人でした。
#67「芝居道」成瀬巳喜男/1944/東宝/Nov. 30/神保町シアター○
年休で用事が終わり時間ができたので赤坂から神保町にぶらぶら歩いていく。これを観るのは三度目(→前回)。撃ちてし止まむ。戦況がどんどん悪くなる中で、国威昂揚と臣民に節制・忍耐を求めることを建前とする哀しい作品だが、さすが成瀬。そのパートは古川緑波にまかせ、長谷川一夫と山田五十鈴の芸達者を使い、常に謙虚に自分を磨き続ける芸の道を説く(まあこれを説くのもロッパなのだが)。今回は山田五十鈴特集。『必殺』シリーズでこの大女優を知った世代なので、若い美人を最初に拝んだときは驚いたものだ。美人のうえ、三味線も唄ももちろん演技もとても上手い。本作でも俗な役者・長谷川一夫を一人前にするため、キッと振る強い女性を完璧に演じていた。長谷川一夫が東京に行った後、一座を支えるのが進藤英太郎。これはつらい。客足がにぶるのも無理はない。いい役者だけどね。つけ鼻して西洋人役やるのがいいと思う。
#66「シスター 夏のわかれ道」殷若昕/2021/中国/Nov. 26/ヒューマントラストシネマ有楽町○
邦題がいかん。日本でシスターというと修道院を連想する。といって原題の『我的姐姐』では硬いのでここは『おねえちゃん』くらいがいいのでは、と思った。中国の一人っ子政策は少子化の加速という国家的問題をもたらしているが、ミクロには本作のような悲劇を生む庶民無視の愚策であった。むりやりもうけた弟のために家出せざるを得なかった姉に、両親の交通事故死に伴って因縁の弟が親戚から押し付けられる。話の展開はまあ紋切りだが、演じる姉弟がよかった。張子楓と金遥源。似て気が強いふたりのぶつかり合いとふれあい。とりわけ、頭がいいのにその境遇ゆえに自分の夢を叶えられない張子楓のくやしさはよく伝わってきた。伯母と叔父もいい味出してて、本国でヒットしたのも納得だ。惜しいのは、エンディングで流れる歌。観客にダイレクトに訴えるのはいただけなかったな。そういう意味でも、出演者の演技が支えた作品と思う。
#65「日本残俠伝 死んで貰います」マキノ雅弘/1970/東映/Nov. 26/Stranger★★
スクリーンは文芸坐2で観て以来。マキノ節が炸裂する、言わずと知れたこのシリーズの最高傑作である。観てて何度か目頭が熱くなったよ。ヤマリンの仁義最高、池部良のヘアスタイル最高、藤純子の15歳演技最高、長門裕之の三枚目ぶり最高、そして健さんのストイックさ最高。あの大きなだし巻き食べて、“これよ喜楽の味は”って言いたい。長ドス持って“死んでもらうぜ”って言いたい。関東大震災は第二次世界大戦とともに時代を語る映画が避けられないできごと。(これに東日本大震災も加わりつつあるな…) ところでこの上映はフィルムじゃないよね。巻交換前に右肩に出てた白マルがなかったもん。最近は昔の作品もデジタル化してあるのかな? せっかくだから4Kリマスタリングとかして欲しいものだ。新しいこの劇場は高齢者にやさしくない値段設定なのでか、このプログラムにしてはお客さんは若いひとばかりだったように思う。いいような、悪いような。
#64「あなたの微笑み」リム・カーワイ/2022/日本/Nov. 12/シアター・イメージフォーラム○
沖縄から北海道までローカル映画館を訪ねる映画愛に溢れたロードムービー。主演は大田原愚豚舎の渡辺紘文。ファム・ファタルは平山ひかるというJanhvi Kapoorをきれいにしたようなひと。何度か行ったことがあるものの東側の表情は知らない那須塩原駅から物語は始まり、矢田部さんが突然出てきたり、突然沖縄にいたり、かなり雑な(失礼)展開で、各所で登場する本物の映画館主の微笑ましい演技と相まって、なんでも許せる空気になってくる。そんななか、平山ひかるの存在だけはピリっとしてよいアクセントになっていた。登場する映画館はどこも味のあるもので、機会があれば訪ねてみたい。もともと地方の映画館にはほとんど入ったことがないしね。このワールドプレミア上映後、監督、渡辺紘文、平山ひかる、沖縄のやくざ社長を演じていた尚玄、そして豊岡の映画館主を演じていた田中泰延の5氏が登壇してのトークショウがあった。全員が喋る機会がちゃんとあってよかったし、楽しかった。で、監督、やっぱり変なひとだね。Twitterでの印象どおり。
#63「ホテル」王小帥/2022/香港/Nov. 5/有楽町朝日ホール(FILMeX)○
COVID-19発生直後。チェンマイのホテルで過ごす3組の中国人たち。20歳になろうとする父親のいない娘がこの偶然に同じホテルに滞在する3組をつなぐ。感染を恐れて部屋を出ない母親。諦めたようにプールサイドで静かに過ごす初老のインテリ男と、早く帰国したくて焦る教え子の妻。全盲の男と付き添いのタイ華人の若者。限られた出演者とモノクローム映像は終末的。ホテル従業員も他の宿泊客もどこにいるんだ。娘がいつも同じ水着を着ているのが気になった。長期滞在するんだし、若いんだし、見られるひとは限られるにしろ、何着か欲しいよね。エンディングの急展開は、ちらっと考えは浮かんだものの、どうかな。劇中、国の厳しいCOVID対策に批判的とも取れる意見を俳優に言わせている。監督の立場はいまどうなんだろう。香港映画であることがそのヒントになるのだろうか。香港自体が微妙な立ち位置だし、よくわからない。映画祭おわり。また来年〜
#62「同じ下着を着るふたりの女」キム・セイン/2021/韓国/Nov. 3/有楽町朝日ホール(FILMeX)○
いかにも韓国映画と思ってしまうのはバイアスがかかっているのかな。『石門』とは好対照。極限的に自分勝手なモンスター母と幼い頃からその母親からDVを受け続けている娘の暮らしを手持ちカメラで追い続ける。この母親が絶対に謝らない。自分は被害者だとつねに思っている。この気の滅入りそうな役をヤン・マルボクがどういう気持ちで演じていたのか聞きたかった(残念ながら来日していなかった)。冒頭、洗面台で下着を洗う娘に自分が履いていたパンツを洗わせ、絞っただけのそれをそのまま穿くところが、娘を衝動的に車で轢き殺そうとする場面よりも恐怖。のちには引き出しに綺麗に収納されたたくさんのパンツが確認されるので、なぜあれを濡れたままで穿く必要があったのか。このロジックを想像するのが楽しそう。しないけど。自分もDV体験があるらしい同僚を演じていたチョン・ボラムがQ&Aセッションに登壇。どこかで見たような顔だった。
#61「石門」黄驥, 大塚竜治/2022/日本/Nov. 3/有楽町朝日ホール(FILMeX)○
日本映画なんだ。長沙を舞台にした、ある娘の予期せぬ妊娠とその行く末を10ヶ月追った物語。実際に妊娠してはいないが撮影にちゃんと10ヶ月かけたというところがおもしろい。一定距離をおき固定カメラで主人公を客観的に観察していく。クリニックを経営する母親が起こした死産事件の賠償金づくりを助けるためいろいろバイトをやる娘が妊娠、相手に中絶を求められたので、したことにして子供を産み被害者に提供して賠償を終わりにしようとする。母親が強烈で、賠償金稼ぎのためにクリニックはやめて美容液マルチ販売に手を出しており、なぜか丸坊主。なんと監督(黄驥)の実母らしい。 主人公はCAになるため勉強していたのだが、その学校があったのは武漢かな? 40と14を北京語で練習してた。台湾だとどちらもスースーだな。 Q&Aセッションで知ったが、ふたりの監督は夫婦とのこと。それってリスク大きすぎない?
#60「ノー・ベアーズ」Jafar Panahi/2022/イラン/Oct. 29/有楽町朝日ホール(FILMeX)○
フィルメックスももう23回目か。いろいろあって資金調達も大変そうだけど作家主義は貫いていただきたい。オープニング作品の作家はジャファル・パナヒ。イラン映画の巨匠であるが、現在収監中とのこと。本作はその前に撮られた自身の半ドキュメンタリーで、中に撮影中の映画(半ドキュメンタリーを装うフィクション)が挿入される凝った構造。トルコ国境の村に滞在しネットを介してトルコ側の街で撮影する映画をリモートで監督している彼が村の因習や噂で追い返されるまでと、フランスへの亡命を計画している映画の主役ふたりがパスポート入手トラブルから悲劇に至るまでが描かれる。監督は密越境もしないのになぜ国境の村に来たのか理解不能。当局に睨まれるのも無理はない気がするが、どうなんだろう。それはともかく、国境は見えないのに分厚いことを叩き込まれる作品だった。映画の主役のひとり、妻のZaraがフランス人になりすまして渡航するためにボーダーTシャツを着てたのが個人的に共感を呼んだ。
#59「アヘン」Aman Sachdeva/2022/インド/Oct. 29/TOHOシネマズ・シャンテ(TIFF)○
いかにも留学組っぽい監督がつくった5本の短編連作。テーマは宗教あるいは信心の生み出す人間の愚かさ、滑稽さ。タイトルをマルクスの言葉から取ったりして、監督は無宗教なんだろうか。5話はそれぞれカラーが違っていて、監督がQ&Aセッションで言及したように結末が悲惨なものから微笑ましいものに変わっていくように並べられている。現実に頻発するヒンドゥー教徒対イスラム教徒の争いであろう第1話、ヒンドゥー至上主義など過激な思想がもたらすディストピアを暗示する第2話までが重い。イスラム教の厳しい戒律と都会に生きる現実とのギャップに苦悩する第4話の女性は、ヒンドゥー教の根拠不明な決まりごとに素直にしたがう第5話の少年の将来か。第3話はなんだろね、宗教業界が民衆の信心を手玉にとって儲ける構造を憐んでいるといえるかもしれない。ところで第4話のタイトルは『Pulav』なのだけど、字幕に“焼き飯”とあったのに著しい違和感。あれはFried riceでは断じてない。
#58「Kantara」Rishab Shetty/2022/インド/Oct. 25/イオンシネマ市川妙典★
現在のSandalwoodにおいて土着性の高い作品でヒットを飛ばしているのが『GGVV』のRaj B. Shettyと本作のRishab Shettyだ。ふたりはライバルではあろうが仲もよいらしく、本作もクライマックスシーンはRaj B. Shettyが撮ったらしい。本作がおもしろいのは環境保護の観点が入っている点。Kishoreが森林保護のオフィサーとして地元民と対峙する。地元民からすれば、昔から森で狩りをしたり木を伐採したりしてきたわけで、いまさらなんだ、という訳であるが、それにも昔、さまよえるマハラジャが神と交わした約束が背景としてあったのだった。で、現代の地主Achyuth Kumar、庶民代表のRowdy Rishab Shetty、執念のオフィサーKishoreの三つ巴の戦いが始まる。ときどき挿入される奇声や神?の姿にホラー映画並みに肝をつぶすのには弱ったが、前出のクライマックスシーンで憑依したRishab Shettyがみせる狂気にぶっ飛んだ。会場はインド人でいっぱいだったけど、みんなKannadigaだったんだろか?
#57「消えゆく燈火」曾憲寧/2022/香港/Oct. 25/丸の内TOEI(TIFF)○
張艾嘉主演、夫役に任達華、そしてテーマはいま急速に失われている香港のネオンサイン。行けない間にもう別の街じゃないかと思うくらいにネオンサインが撤去されており、つぎに行ったら“ここどこ?”状態になりそうである。ネオンサイン職人だった夫を亡くし落胆した女性(張艾嘉もついにおばあちゃんの域だ)が工房で夫の弟子に出会い、夫が作ろうとしていたネオンサインを一緒に作ろうとする。一方、カナダへの移住を考えている娘とはギクシャク。うーん、残念ながら期待が大きすぎたようだ。ドラマに深みがない。政府系ファンドが入っているようなので、あまり目立たないようにした上で、チクッとやろうとしたのかもしれない。懐かしいネオンサインがたくさん出てくるよ。上映後、監督とプロデューサー、俳優の蔡思韵と周漢寧のQ&Aセッションがあった。娘役の蔡思韵はなかなかよさそう。誰かに似てるよね。また、弟子役の周漢寧の一所懸命な日本語は好感が持てた。
#56「女巌窟王」小野田嘉幹/1960/新東宝/Oct. 23/シネマヴェーラ渋谷○
ずっと気になってはいたが、なぜだかこれまで観ていなかった作品。女巌窟王とは当然三原葉子。ただし、巌窟のパートはほんのちょっぴり。ちょっぴりなのだが許す。この無人島での話がおもしろすぎる。なぜ海辺の穴から絶壁に出る? 絶食してもなぜ痩せない、三原葉子。どこから来たんだ吉田輝雄。なぜそんなに爽やかなんだ。そして、どれくらいの価値があってどうやって回収したんだ、宝箱。吉田輝雄の分け前は? などなど、きりなし。鹿児島のキャバレーでもちろんダンサーとして働く三原葉子と万里昌代の姉妹。天然色が映える、三原葉子の腋毛が生える。この姉妹がやくざの支配人と社長の情婦にされたあげく無人島で消されそうになるが、奇跡の生還、身元を隠して復讐する。なぜかやくざも横浜に来てるんだな。大金持ちのくせに三原葉子の用心棒となった吉田輝雄が大活躍だった。
#55「火線地帯」武部弘道/1961/新東宝/Oct. 23/シネマヴェーラ渋谷○
石井輝男脚本だが、監督は新人。でも吉田輝雄だし、三原葉子だし、『地帯』シリーズの一篇なんだろう。この作品で光っているのはこのふたりではなく、拳銃密売人・天知茂だ。自身は拳銃を持たず、拳銃型のライターを使うお茶目なやつ。『渡り鳥』シリーズにおける宍戸錠のような役割。いきなり競輪場で始まるように、舞台が川崎なのが楽しい。さいか屋が見える。天知茂と吉田輝雄が飛び乗るのは臨港バス。そして、吉田輝雄と鳴門洋二のチンピラコンビを拾ったダンサー・三原葉子が向かうのは江ノ島だ。まだ有料だった頃の国道134号線。というわけで、記録映画として結構な価値があるんじゃない? 田崎潤が三原葉子を情婦とするやくざの親分。キャバレーを経営し、もちろん三原葉子が踊るのだ。拳銃一丁が2万円ってのは安すぎだ。天知茂がRam Charanと同じ手口で車を停めて奪い返そうとするのも無理はないよ。
#54「アフター・ヤン」Kogonada/2022/米/Oct. 22/TOHOシネマズ・シャンテ○
『Columbus』(ネットで鑑賞)の監督の作品というだけで、何の事前知識もなく観に行った。うん、これもいいな。静かな、照度を落とした画面で、家族の喪失の話が語られる。明らかに『ブレードランナー』の影響を受けた、ロボットのアイデンティティがもうひとつのテーマ。どういうことかというと、家族は男女パートナー(白人と黒人)にアジア人の娘(つまり養女)、そして見た目アジア人のロボット(Techno Sapiens)から構成されるのである。娘はMikaという名だが中国人らしくロボットを哥哥と呼び、Yang(ロボットの名)もMikaを妹妹と呼ぶ。見た目が自分に近いYangに親近感をもつのは自然だ。Yangが突然故障し、Mikaは悲嘆に暮れ、父はYangの修理に奔走する。Techno Sapiensのコアを開け取り出したメモリにはこの家族のもとに来る前の記憶が記録されていた。是枝さんがリメイクするとよさそう。最後にMikaが喋る簡単な北京語が理解できなかったのがショックだった。
#53「RRR」S. S. Rajamouli/2022/インド/Oct. 22/新宿ピカデリー○
めでたく日本一般公開で、初回鑑賞から三度目にしてようやく字幕(しかも日本語)付が観られた。来日プロモーションには監督のほか、主演のふたりも参加。上映後に三人揃っての舞台挨拶があった。字幕の効果は絶大で、好みの問題はさておき、結構いろいろなことが説明されておりわかりやすい映画ということがわかった。インド万歳なメッセージ性、そしてコロナ明け(実際にはまだ継続中だが)という背景も併せ、納得の大ヒットといえる。ぜひ、イギリス公開して反応をみたいものだ。あんなにひどい仕打ちを受けたのにイギリス好きなのは、日本とアメリカの関係に似ているな。言うまでもないが、ツッコミどころは満載。特に主人公ふたりの不死身さ加減はターミネーター並みで、毒蛇に咬まれJr. NTRから手当を受けた数時間後にはピンピンしてるとか、骨折してたと思われるのに脱獄して数時間後にはRama姿でビシビシ矢を射ながら跳ね回るRam Charanは神がかっていた。
#52「アメリカから来た少女」阮鳳儀/2020/台湾/Oct. 9/ユーロスペース○
昨年の東京国際映画祭の頃はインドだったので観そびれていた『美國女孩』だ。素直にうれしい。デビュー時のアグネス・チャンを思い出させる顔立ちのアメリカ帰りで馬好きの女の子(方郁婷)の、乳がんを患う母親(林嘉欣)との繊細なやり取りをSARS禍中の台北を舞台に描く佳作。主人公に男の子の影がないのはめずらしい。英語ができていじめられるなんて、田舎に越してきた東京っ子だな。林嘉欣が娘二人を連れ夫を残してLAに行った理由、あるいは乳がんになったから帰国しなくてはいけなくなった理由は最後まで語られない。想像力が必要である。馬にふられ、台北で生きていかなくてはならないことを悟る芳儀であった。SARSのとき台北に行ったなあ。N95マスクつけて捷運に乗ったっけ。いまはあのときより10倍は大変にもかかわらず、みんな慣れてふつうになってしまった。エンディングに流れる陳綺貞。久しぶりに聴きたくなったのでミュージックON。
#51「バビ・ヤール」セルゲイ・ロズニツァ/2021/蘭=ウクライナ/Oct. 9/シアター・イメージフォーラム○
重い映画(ドキュメンタリー)をまた観た。今度はウクライナである。といっても現在ではなく1941年。不可侵条約を破棄してソ連に攻め込んだナチスドイツがキーウ近くのバビ・ヤールで起こしたユダヤ人大虐殺が発生した過程、戦後の裁判での証言、そして断罪された兵士(指揮官?)らの絞首刑を記録映像で追う。作品がバビ・ヤール記念センターの制作なので記録映像も同センターの所有だろう。独ソ双方のフィルムから構成されているので、一面的にならないのがいい。路上に散らばる遺体や絞首刑の瞬間など、テレビでは流せないし、できれば劇場でも見たくないのだが、見てこそそれが歴史上の事実だと納得できる。明らかな戦争犯罪なのでさすがに虐殺の映像は存在しないが、証言者が語るその過程は衝撃である。どこかの国も似たようなことをしたのではないかな。それにしても、侵攻したナチ軍が入城し歓迎する民衆、奪還した赤軍が入城し歓迎する民衆、同じ人たちである。これが現実だよな。
#50「スター誕生」酒井欣也/1963/松竹/Oct. 8/シネマヴェーラ渋谷○
こちらのプリントは状態が悪かった。並木座を思い出した。人気絶頂の江利チエミ主演映画で、彼女が旅芸人一座から人気歌手・吉田輝雄に認められてスターダムにのしあがり、最後は新宿コマ劇場でワンマンショウを開くという、題名通りの内容。母親が清川虹子、付き人が藤山寛美、レコード会社専務が河津清三郎、その友人が山村聰、と錚々たるサポート陣。江利チエミの出世ストーリーに並行して、吉田輝雄の挫折と復活が描かれる。喉をやられた吉田輝雄が入院するのは聖路加病院だった。デキはまあアイドル映画としてはこんなもんでしょう。この上映の目玉は終映後のトークショウ。86歳とは思えない元気なとっても派手なスーツ姿の吉田輝雄氏は変わらずかっこよかった。ゲストに星輝美さんを招いて昔話に花を咲かせていると、アントニオ古賀が乱入し誰がメインなんだかわからなくなりそうだったのは一興。吉田輝雄氏の卓越なる記憶力には敬服いたしました。佐藤友美のエピソードがよかったね。
#49「100万人の娘たち」五所平之助/1963/松竹/Oct. 8/シネマヴェーラ渋谷○
吉田輝雄ハンサム・イヤーズなる特集で、フィルムを国立フィルムアーカイブから借りてきた特別上映。ホテルマンの吉田輝雄が小畑絹子と岩下志麻のバスガイド姉妹に慕われる三角関係難病もの。じゃあ、題名はなんなんだと思うが、要は職業婦人がんばれがメッセージのようだ。冒頭で小畑絹子のライバルとして登場する牧紀子が典型で、吉田輝雄をめぐる争いに敗れバスガイドを辞めて姿を消すが、上京しバリバリの港湾労働者になったことが終盤に判明する。同じく吉田輝雄をきっぱり振った岩下志麻も上京し、丸の内のキャリアウーマンになる。というわけで、バスガイドはどちらかというとネガティブに描かれている。各キャラクターもみんなネガティブなところが興味深いし面白いんだけど、これじゃ当時ヒットしてないでしょ。でも舞台の宮崎の観光案内としてはいいんじゃないかな。まだ鶏南蛮は発明されていないようだった。そうそう、岩下志麻、19歳でビール飲んじゃいかんね。
#48「暴力をめぐる対話」ダヴィッド・デュフレーヌ/2020/仏/Oct. 2/ユーロスペース○
先日の『時代革命』に続く、民主主義とは何か考えなくてはならない重い作品。フランスの黄色いベスト運動における民衆と警察の対峙について、主にスマホカメラ映像を前に警察含めさまざまな論客が集い議論する。デモ参加者を秩序回復のためゴム弾で撃ち、眼を潰したり手を吹き飛ばしたりする警察あるいは機動隊。主権者である人民から委託されて治安維持のため働くべき警察が、すっかり為政者のために何も考えずに暴力を行使している。というのもひどいのだが、ロシアや中国で起こっているのは秩序を乱さないよう徹底して日頃から見えない暴力をふるうこと。さあ、日本はどっちかな? 話をフランスに戻すと、こうして民衆側と権力側が正面からガチ対決できるところがレベルが違うなあと思う。記憶にないとか、捨てたとか、ごはん論法とか、ほんと恥ずかしいよね。
#47「乾きと偽り」ロバート・コノリー/2020/豪/Sep. 25/キネカ大森○
疑わしい無理心中事件の真相解明ストーリーというと、まあよくありそうな主題である。が、本作品のシナリオはひと味違っていて、これが旱魃に喘ぐオーストラリアの穀倉地帯を舞台にして、西部劇のような硬派な見応えのあるドラマに仕上がっている。連邦捜査官でかつ無理心中事件を起こした男の旧友である主人公を演じるにはEric Banaという、よく見りゃ似てないがなんとなくVishalを想起させるオーストラリア人俳優。無理心中事件の真相解明に並行して、主人公と心中男、そして20年前に死んだ女友達ともうひとりの(存命の)女友達の過去が主人公の思い出の形で描かれ、最後に女友達の死の真相まで明らかになる。ふたつの真相に迫る過程で複数の伏線が敷かれ、主人公と共に観客も右往左往するしかけになっているのが面白い。こういう最終的な筋に無関係なファクターをいかに巧くシナリオに組み込みながら観客を白けさせないかが監督の力量の発揮どころだよね。最後に雨降らせるかと思ったけど、それはなかった。
#46「3つの鍵」ナンニ・モレッティ/2021/伊=仏/Sep. 17/ヒューマントラストシネマ有楽町○
親愛なる日記』がリバイバルすると聞いて喜んでたら、新作が来てたのか。隣同士3家族(つまり3つのドア=鍵)の微妙な関係を10年にわたって追う物語。監督もそのうちの一家族の父親として出演。もうひょうきんな若者ではない。イタリア映画なのでのっけからFIAT PANDAがバシバシ出てきて楽しい。不思議なのは時代的にはすでに500が出ているはずだが一台も見なかったこと。主たる家族のくるまがイタ車でなかったのもよろしくないな。物語は、西洋の人間関係が滲み出ていたようだ。基本は個人。息子が他人を跳ね殺そうが親は謝らない。お隣とも仲良くしてても信頼はしていない。ときどき現実と区別のつかないシーンが挿入され、観客を不安にさせる。そんななかでも、時が互いの距離を縮めていく。ちょっぴりハッピーエンド。イタリア語聞くのは久しぶりかな。なんとなくウキウキするね。しかし、彼の国では飲酒運転でひとを殺して5年で出所できるの?
#45「人質 韓国トップスター誘拐事件」ピル・カムソン/2021/韓国/Sep. 10/シネマート新宿○
ファン・ジョンミンが自身として主演、猟奇的な犯罪集団に誘拐される話。誘拐事件としてはありそうな展開で、その点はどうということもない。ただ、仕上げがいかにも韓国映画。チゲのように激しい。えげつない。これが、観客を興奮させるのだ。で、終わったときのカタルシスを味わうと。ときどきはいいけど、こういうのばかり観ると映画嫌いになりそうだ。さて、誘拐されて人質になっているのは彼だけではなく、もうひとり。『イカ・ゲーム』で無気力な参加者を演じてたイ・ユミである。はっきりいっていなくても成り立つ役ではあるが、ちゃんと存在感があった。ずっとひどい顔だったのが可哀想。韓国映画というと、登場人物の上下関係による言葉遣い、敬語とタメ口の使い分けがいつも気になる。とはいえ韓国語はわからないので字幕に頼る。字幕大切。字幕と邦題を付けるひとは別なんだろうね。『韓国トップスター誘拐事件』って何このベタベタ感。これだけで、劇場に向かう姿勢が変わるよね。
#44「7月の物語」ギヨーム・ブラック/2017/仏/Sep. 3/ユーロスペース○
アルプス越えするサイクリストの短編ドキュメンタリー『勇者の休息』を併映。監督、自転車よほど好きなんだね。冒頭シーンでFiat Pandaが走っていたことをメモしておく。で、本作も短編2本からなる小品。こういうつくり方をするとますますホン・サンス的になってくる。教授も映画監督も出ないけどね。一本目は、パリのブティック店員らしい二人の女の子が湖畔のレジャー施設に日曜に遊びに行って、そこで知り合う男とのコミュニケーションに女同士の微妙な感情が絡むお話。ひとりがSruthi Hariharan似だった。二本目は、パリのl国際大学都市はMaison de Norvège (おお、コルブ建築に挟まれたとこだ)に暮らすノルウェー人の女学生が過ごす革命記念日の一日。ここでも男と女の友人との微妙な感情のやり取りが描かれる。自分本位で奔放に男と接する女と、引け目を感じながら男にやや慎重にアプローチする女がどちらも出てきて、観客もモヤモヤするやり取りが展開されていた。もっと観たいな、ブラック作品。
#43「ラ・スクムーン」ジョゼ・ジョヴァンニ/1972/仏/Sep. 3/新宿武蔵野館○
ジャン=ポール・ベルモンドはゴダール作品を除けば積極的に観てはいない。去年だったか、アマプラで『カトマンズの男』を観たら、なんだか破茶滅茶で冗談みたいな映画だった(おもしろかったけど)。で、暗黒街ものの本作はコメディーではないものの、シナリオのいい加減さは同じ匂い。無実の罪で刑務所に入った友人を助けるため手段を選ばない無敵のやくざの半生を描く。見どころはやや劣化したクラウディア・カルディナーレ(友人の妹でベルモンドの恋人)の出演かな。むっちゃ若くて痩せたジェラール・ドパルデューはどうでもいい。全体としてはやはり映画としての完成度はさておき、結構楽しめた(それが映画というものだ)。興味深いのはWikipedia日本語版の記述によると日本のTV放映時、南原宏治やら草薙幸二郎やらが吹き替えしているらしいこと。そういうのがあると吹き替え版っていうのも存在意義がある。観てみたいな。
#42「恋する惑星」王家衛/1994/香港/Aug. 27/109シネマズ木場★★
王家衛5作品が4Kレストアされてリバイバル。全作やっていただきたいが、まずはめでたい。で、一番お気に入りの本作を観に行った(初回鑑賞は1995年)。タイトルとエンドロールがオリジナルと違っているが本篇部分は変わっていないと思う(字幕は違うね)。とにかく、監督と杜司風と王菲の自由奔放さが弾けたEvergreenな傑作である。もちろん林青霞さまもすばらしい。30年近く経って新世代に観てもらい、当時の香港電影の勢いと英国領香港の雰囲気を感じてもらうのはいいね。インド人いっぱいの怪しい重慶大廈と華やかな蘭桂坊の対比。Midnight ExpressもCaliforniaも啓徳機場もとうになくなってしまった。ヒルサイド・エスカレーターはまだあるよね。当時探すのに苦労した梁朝偉のアパートはどうだっけ? あー、香港に行きたい。王家衛っていまどこにいるの? 香港脱出組かな?
#41「みんなのヴァカンス」ギヨーム・ブラック/2020/仏/Aug. 20/ユーロスペース○
公開初日ということで、開映前にフランスにいる(と思われる)監督やシェリフ役とエドゥアール役の俳優とのZoomセッションあり。フェリックス役もいればよかったのに。母親を訪れるエドゥアールのくるまに、ガールフレンドに会いにいくフェリックス、付き合いのよい友人のシェリフが同乗し、南仏の町を訪れるヴァカンス。フェリックスのせいで狭い路地をバックして自損事故を起こすエドゥアールがかわいそう。くるまがルノーだったのが他人事でなかった。ともかく、3人それぞれに意味のあるヴァカンスを過ごすことになる。やはりシェリフのパートがいい。赤ちゃんを連れて滞在中の女性と親しくなるが、社会クラスの差か、人種の違いか、当人は極めて謙虚。なのだが、最後に一線を越える。女性にはパートナーがいる。さあ、どうなる、というところまではいかず。他のふたりの結末もない。エドゥアールなんか、トイレ掃除。これでいいのだ。シルヴァンがいなくてもちゃんとギヨーム・ブラック映画だ。
#40「女っ気なし」ギヨーム・ブラック/2011/仏/Aug. 20/ユーロスペース○
というわけで、こちらも9年ぶりの再鑑賞。女っ気なしだったシルヴァンのもとに若い母娘、パトリシアとジュリエットがヴァカンスにやって来る。ときめくシルヴァン。愛車プジョー1008でふたりをもてなすシルヴァン。他の男と戯れるパトリシアにヤキモチを焼くシルヴァン。泳がず、踊れないシルヴァン。そんなシルヴァンを密かに慕っていたジュリエット。さあ、シルヴァンのときめきとあきらめの行く末はいかに。舞台のオー(オルト? Ault)は『僕の伯父さんの休暇』に出てくるリゾートの風情、と今回も思った。ヴァカンスはいいね。シルヴァンが貸す部屋にはインターネットがない。みんなまだケータイを持っていない。10年前だとどちらも普及が進んでいたから、インターネットはともかく、ケータイが登場しないのはやや違和感ありだな。
#39「遭難者」ギヨーム・ブラック/2009/仏/Aug. 20/ユーロスペース○
9年前とはいえ『女っ気なし』を観ているいま、当時のような第一印象は持たず、シルヴァンを安心して見ていられる。その分、主人公の男が彼に対して懐疑的な態度をとるのがもどかしい。ま、そこも含めて流れる空気の変化が心地よい作品には違いない。神経の細そうな主人公と臆病だけど呑気そうなシルヴァンは不思議なコンビ。どっちかというと本作品の方が女っ気はない。シルヴァンの愛車は猫目で電動スライドドアだった先代のプジョー1008。以前乗ってたFIAT Pandaの対抗馬だったんだよね。しかし、ビールをちょっと飲んで運転するなんてのはあっちでは普通だと思うので、ふたりは不運だったといえよう。舞台のオーは、いかにもノルマンディーな崖が印象的。パリからはダンケルクより近いんだ。
#38「時代革命」Kiwi Chow/2021/香港/Aug. 20/ユーロスペース○
最後に香港を訪れたのは2019年11月だった。いつものように一時帰国からの帰り道で菠蘿包調達のために立ち寄ったのだが、空港は半分閉鎖、街ではデモが起こっており、黒いTシャツを着るのは避け、武装警察を避けながら、落書きだらけの深水埗〜旺角を恐る恐る歩いた。このドキュメンタリーはまさにその頃を含む、香港人が自由を求めもがいていた数年間を記録したもの。市民を守るべき警察が市民を攻撃する。実弾で撃たれるひとまで出る。自分たちに従わない市民をゴミ扱いする政府。勝ち目のない抗争。言葉を失う。そして、いま香港の人たちは口をつぐんだ。インスタグラムにはおいしそうなものが以前と同じくポストされているが、この状態が続くかぎり、パンデミックが終わっても香港を訪れることはむずかしい気がする。香港人加油、とは誰でも言える。でも、誰もが言ってもアソコは動かないだろう。似たような状況がいまこの国でも起こりつつあることに戦慄する。ひとまず、日本のほんこんにはうんざりだ。
#37「ガザ 素顔の日常」ガリー・キーン,アンドリュー・マコーネル/2019/アイルランド=加=独/Aug. 7/横浜シネマリン○
ハマスに牛耳られイスラエルから完全封鎖された10km×40kmの長方形のガザ地区に暮らすパレスチナ人の日常を伝えるドキュメンタリー。この“日常”が僕らのそれとはまったく異なることは想像できるが、観てみるとその厳しさはそんなものではなかった。それでも、それが日常となればそこを標準として喜怒哀楽が生まれる。カメラはそんな人びとの暮らしを追う。が、イスラエルから突如打ち込まれる砲弾、瓦礫から見える人の手、イスラエルに大型パチンコで石を投げる若者たち、それに対する迎撃、負傷した者を手当てする医者、これがリアル。出てきたおっさんは奥さんが3人いて子供が30人以上。これ以上いると養えないので4人目の奥さんは諦めたという。これがパレスチナ人の逞しさなのか? 長方形の一辺が地中海なのは不幸中の幸い。5km沖までに制限されていても、見た目無限。
#36「プアン 友だちと呼ばせて」Nattawut Poonpiriya/2021/タイ/Aug. 6/UPLINK吉祥寺○
王家衛プロデュースのタイ映画。末期ガンで余命いくばくもない男AoodがNYにいる旧友Bossをタイに呼び出し、男の元カノ巡りを手伝うというロードムービー。舞台はタイだが、回想シーンとしてNYが挟まれる。最初の3人(Alice, Noona, Roong)までが割と淡々と進むので、なんだかなー、と思って観ていると、予想外の4人目Primが出てきておもしろくなった。というか、最初の3人は前座だったんだな。それまで半分他人事だったBossを巻き込む三角関係へと展開していく。ハッピーエンドと言っていいと思う。映像やストーリーに王家衛の影響が感じられた。この監督の作品を観るのは初めてなので、元々なのか王家衛のファンだったからなのか王家衛が提案したからなのかはわからない。4人の女性のうちNoona役のChutimon ChuengcharoensukyingとPrim役のViolette Wautierは出色で、やはり二人とも人気俳優(モデル?)のようだ。Aoodは丸坊主。でも化学療法はやっていないと言う。おかしい。NY時代の姿も明らかにカツラだ。おかしい。
#35「ムクシン」ヤスミン・アフマド/2006/マレーシア/Jul. 31/イメージフォーラム★
4Kデジタル修復版。初めて観たのは15年前(もちろんフィルム)。いま読むと、当時は本作よりも『グブラ』を気に入ったようだ。今回のアディバ・ヌール追悼上映ではそれをやらないので比較できないが、きょうはとても感動した。とはいえ、いつものヤスミン節。マレイ人も華人もない。主人とメイドもない。ハッピーな両親。ひと夏の初恋。自転車乗り、凧揚げ、木登り。最高だ。Mukhsin役は『タレンタイム』ではギター弾いてた親孝行のSyafie Naswip。Sharifah姉妹大活躍。大人になったOrkedとの対面、浮遊するOrked。ザッツ、シネマである。そして劇終後、監督の両親、監督自身、撮影スタッフ登場してのフィナーレ。動く監督の姿にはあらためて動揺する。Adibah Noorも監督と同じ51歳で亡くなったそうだ。R.I.P.
#34「Blue Island 憂鬱之島」陳梓桓/2022/香港=日本=台湾/Jul. 24/ユーロスペース○
終映後、共同プロデューサーの馬奈木厳太郎氏があいさつに立ち詳しく説明してくれたので、ここに書くのがそのメモみたいになるのを恐れている。フィクションを混えたノン・フィクション、ドキュメンタリーという構成が冴える。文革、六七暴動、天安門事件、そして雨傘運動を経験してきた世代がいまの香港で感じている暗い将来を語る。もちろん香港・中国で上映できる内容ではなく、出演者を含む関係者に多くの現勾留者がいる事実が憂鬱を客席に蔓延させる。香港人が被ってきた抑圧がいまの日本国内にも起ころうとしていることを、この映画を能動的に観にきたあの場の観客は感じたはずだ。馬奈木氏は香港との違いは日本国民が声を上げないところだと言った。確かにそういう面はあるが、衰退途上国日本には保守層、つまりそのような抑圧を抑圧と思わないひとがどんどん増えているのではないか。おそろしいことだ。
#33「グレイマン」 Anthony Russo, Joe Russo/2022/米/Jul. 17/kino cinema横浜みなとみらい○
Dhanushがハリウッドに出るってんで、観に行った。なかなか出てこない。あ、一瞬。あれ? また出なくなった。やきもきしていたところ、後半でようやく堂々の登場。堂々のアクション。Tamil friendはいい奴だった。さて、主役はRyan Gosling。人気あるんだね、このひと。で、その相棒(?)にAna de Armas。このかわい子ちゃんも最近よく見る。(考えてみりゃ、ふたりは『Blade Runner 2049』コンビだね) 次作ではMarilyn Monroe役らしい。 ほとんどの登場人物が凄腕の殺し屋で、CIA内部のいざこざを世界にまたがる大事件に仕立てた大げさな展開。アクションが『007』なみに派手だが、Ryan GoslingはNo. 6のためか、タフであっても超かっこいいわけでもセクシーなわけでもない。悪の大ボスが出てこなかったところをみると、続篇の準備ありそう。Ana de Armasも出てくるといいな。Dhanushも死んでないし、レギュラー化したりして。うん、それがいい。それに決めた。
#32「リコリス・ピザ」 ポール・トーマス・アンダーソン/2021/米/Jul. 9/TOHOシネマズ新宿★
Phantom Thread』の監督で、かつ評判がいいので観に行った。アメリカンなボーイ・ミーツ・ガール映画。主演のふたりは本作が初出演。女の子が絶望的に好みではないが、まあそんなことはどうでもよいほど、確かによい作品だった。10歳年上の女性に一目惚れするマセた15歳の少年が彼女に猛烈アタック(死語)。でもストレートにはいかず、ふたりの成長とともに距離をとったり縮めたりが抜群。1970年代のカルチャー、音楽、クルマ、ファッションが満載のラヴコメディーになっていた。疾走シーンはもちろん『汚れた血』だな。脇については、Sean Pennはすぐにわかったが、Tom Waitsが登場したのに気づかず。いいじいさんだね。Bradley CooperのFerrari Daytona、ガラスぶち壊してもったいない。本物かね。この劇場初めて来たけど、25時の回があったりして、さすが歌舞伎町と妙に感心した。
#31「エルヴィス」 バズ・ラーマン/2022/米/Jul. 2/丸の内ピカデリーDolby Cinema○
これまでの人生、Elvis Presleyにはほとんど縁なくレコード類も持っていない。Marilyn Monroeと並ぶ、戦後アメリカのアイコンという認識だ。本作は彼のスターダムの表裏をマネージャーの視点で描いたもので、デビュー〜最盛期〜衰退期〜死という安易なタイムラインにマネージャーの出自と思惑を編み込んだ多面的なシナリオ。ふんだんに盛り込んだ楽曲とあわせ、この長尺作品をインターミッションなしで一気に観られるエキサイティングなものに仕上げている。Elvisを演じたのはAustin Butler、マネージャーのParker大佐はTom Hanks。『Once Upon a Time in Hollywood』でやばい奴を演ってた俳優だな。(そいやSharon Tate殺人事件の話も出てきた。) 太ったElvisしか知らない僕は、こんな痩せてていいのかと最初思ったが、若けりゃそりゃそうか。後半にはちゃんと太ってた。一方、Tom Hanksの太り具合にはたまげたよ。Dolby CinemaってのはIMAXのDolby版かな。音響はAtmosみたいだし。
#30「イントロダクション」 ホン・サンス/2020/韓国/Jul. 1/ヒューマントラストシネマ有楽町○
まだインドにいる頃にリリースされて、バンガロール国際映画祭に来ないかなぁ〜、と叶わぬ期待をもっていたモノクロ作品。次作とまとめて今回観られた。のだが、この60分余りの3部構成の短尺でうとうとしてしまい、特に第2部の記憶があいまいで、キム・ミニを見逃した。ま、それもホン・サンス的。主人公はシン・ソクホで母親がジョ・ヨンヒって、次作と同じ。つまり俳優に挫折し、韓国料理屋になったということ。まあ俳優を志したのは伯母の影響ではなく、キ・ジュボン演じる俳優だが。恋人にパク・ミソ。キム・ヨンホ演じる父親は韓方医。漢方との違いがよくわからないけど、朝鮮人参とか多用するのかな。キム・ヨンホといえば『アバンチュールはパリで』。渋いおじさんになってた。同作にはキ・ジュボンも不思議な役で出てたね。目がすっかり覚めた第3章は海辺の居酒屋。みんな酔っ払う。で、酔った勢いか酔い覚ましか、シン・ソクホが寒そうな海に無邪気に入っていくシーンがよかった。
#29「あなたの顔の前に」 ホン・サンス/2021/韓国/Jul. 1/ヒューマントラストシネマ有楽町★
サンス、サンス、ホンサーンス♪ 最近2作の同時公開、めでたい。まずは最新作。ホン・サンスが死を意識し始めた。変わらず背景の説明を省き、アメリカから突然帰国した壮年の元女優(イ・ヘヨン)が妹(ジョ・ヨンヒ)と映画監督(クォン・ヘヒョ)に会う。自身が幼年期を過ごした旧宅を訪問する。イ・ヘヨンがすばらしい。クォン・ヘヒョは相変わらず。このふたりが会う居酒屋“小説”って、以前出てこなかったかな。ちょっとどの作品か思い出せないけど、やはりクォン・ヘヒョが出てきたような… ともかく、この居酒屋でのふたりの会話がホン・サンスならではなのだが、今回はここで意表を突いた展開となる。そして、ラストシーン。これがまた最高だ。ジョ・ヨンヒの息子としてシン・ソクホなる知らない俳優が出てた。なんかぬぼーっとしてるけど人気あるの? ところで、今回は久しぶりに1日に映画を観た。昔は1,000円くらいだった気がするけど、いま1,200円。まあ1,900円を考えるとお得はお得だけど。
#28「アリーガル」 Hansal Mehta/2015/インド/Jun. 26/キネカ大森○
公開時は字幕なしで観た。学内権力抗争に巻き込まれ、陰謀により同性愛者として排除される言語学者かつ詩人の教授は、自身は大きな抵抗は見せず諦念からか好きなウィスキーを舐める。が、時代のうねりがこの事件に反応し、大学を糾弾する裁判に発展。その末に教授に職と名誉が戻ってくるも、本人は静かに人生を終える。Manoj Bajpayeeの抑えた演技が秀逸で、暗いトーンの映像と相まって上品な作品に仕上がっている。一方でインド人が大好きな裁判シーンはややコミカル。字幕があるからこそ楽しめるパートだ。興味深いのは、舞台はAligarh Muslim Universityで、そこの教授である主人公はBrahmin、つまりヒンドゥー教徒であることだ。酒を飲むからそんなに敬虔ではないようだがヴェジタリアンであり、新聞社インターン(Rajkummar Rao)と食事する際にカーストの違いから同じ器の料理を食べない。宗教の違い、カーストの違い、この辺り、インド社会の芯のようなものが垣間見えるよね。
#27「ベイビー・ブローカー」 是枝裕和/2022/韓国/Jun. 26/ユナイテッド・シネマ アクアシティお台場○
家族のようにあるいは家族を装って旅する、いずれも何か(誰か)を失っている4人(+2人)の物語。ここでいう“家族”は日本の一部の人たちが重視しているそれとは異質のもの。政治的ポジションから右傾化する日本では持ち上げられにくくなったように見える監督は、フランス、韓国と渡り歩く世界一級の映画作家である。カンヌで主演男優賞を獲ったソン・ガンホはいつも通り、貫禄の演技。ペ・ドゥナももうベテランの域だ。イ・ジウンは超人気歌手とのこと(すみません、存じ上げませんでした)。こちらも堂々の赤ちゃんを捨てた母親ぶりだった。赤ちゃんポストの問題と最近話題の中絶禁止問題はダイレクトにつながっている。女性を一方的に非難することは間違いだ。観覧車のシーンは、ゴンドラが狭いために監督はその場におらず撮ったそうだ。なのにちゃんと是枝映画になっている。ところで本作の英題は『Broker』だと思うが、日本のポスターには『Baby Broker』とあるのが謎。
#26「シャンカラーバラナム 不滅のメロディ」 K. Viswanath/1979/インド/Jun. 11/キネカ大森○
この作品を芸道物と呼ぶのは抵抗があるな。オリジナルはテルグ語だが、観たのはタミル語版。約40年前の作品を4Kリストアしたらしい。いや、おもしろかった。どれくらいって『デーヴダース』の10倍くらいかな。歌も踊りも同じくらいあったし、こちらもカースト制度の深刻な害悪が描かれているのだが。Braminである名高いインド伝統音楽歌手が、彼に憧れる娼館に生まれた歌と踊りが大好きな娘を支援しようとして社会から抹殺される。娘は生まれた息子を密かにすっかり落ちぶれた(がしかし変わらず崇高な)彼の許に置き恩返しを図る。歌手とロックバンドとのやりとりがよかった。しかし、一旦身を隠した娘がどうやって財を築いたのかが最後まで謎だった。ここまで“娘”と書いてきたが、演じたManju Bhargaviはばりばりのドラヴィダ人で僕には年齢が推定できず。Wiki見たら当時25歳くらいだったようだ。ついでに“伝統音楽”はCarnaticでKarnataka発祥らしい。それでKarnatakaに招待されたのかな?
#25「デーヴダース」 Sanjay Leela Bhansali/2002/インド/Jun. 11/キネカ大森○
この監督の映画は20年前も同じだったということがよくわかった。とにかく派手。派手なもの好き向けのつくり。豪華なセットに、絢爛な衣装、大勢のダンス。日本におけるボリウッドのイメージはこういう映画なんだろう。で、本作はShah Rukh KhanとAishwarya Rai、Madhuri Dixitという大スターの共演。主役級の女優をふたり起用するのもこの監督の特徴か。ミュージカル性が他作品よりも強いところは興味深かった。Devdas (SRK)が英国から帰ってくると母親が大騒ぎする冒頭の長回しはちょっとだけ溝口っぽかったかな。カースト違いの幼なじみ同士(SRKとAishwarya Rai)の恋は悲劇に終わるわけだが、そこに至るまでのSRKの堕落ぶりは、それを触媒するJackie Shroffの大げさな演技と相まって痛々しかった。娼婦であるMadhuri Dixitを徹底的に蔑むSRKの態度には腹が立った。ほんと、カースト制度ってやつはえげつない。いろいろ書いたけど、感想をひと言でまとめると、疲れた、だね。
#24「マドラス 我らが街」 Pa. Ranjith/2014/インド/Jun. 10/キネカ大森○
このタミル映画をバンガロールで観たのは8年前。当時は英語字幕もなくただ画面と雰囲気だけで本作のすばらしさを堪能したものである。北チェンナイの団地で起こる政争、つまりふたりの地域実力者のいざこざの元凶が広場に面した団地建屋の壁面に描かれた肖像画だという、とてもタミルナドゥ的な話が、主人公Karthiの親友Kalaiyarasanとの絆とCatherine Tresaとの恋愛の2軸で進められる。Karthiの名前がKaaliでITエンジニアのくせに(というのは変だけど)短気で喧嘩っぱやく、これが災いする。彼らが熱中するのがクリケットでなくサッカーなのはなぜだろうか。単なる監督の趣味? また、至るところにBlue Boysが出没するのに改めて注目。このようなスタイルはめずらしいと思う。インド音楽界はまったくわからないので彼らの人気も知らず。ゲスト出演だったのかプロモーションだったのか。いまも健在なのか。日本語字幕の存在はありがたいね。“まっちゃん”の意味もわかるしね。
#23「シティ・オブ・ジョイ」 ローランド・ジョフィ/1992/仏=英/Jun. 10/キネカ大森○
1990年代のKolkataが見られるという意味で興味深い欧州映画。原作を読んでいないので、失意の主人公Patrick Swayzeがなぜ行き先にインドを選んだのかはわからない。一方、Om Puri (若い)がBiharから一家でKolkataにやってくる理由は明確である。奥さん役のShabana Azmiがきれいだった。彼女は『Neerja』でSonam Kapoorの母親役で最後に演説してたひとだな。KolkataのHowrah Bridge近くのスラムを舞台に貧しいひと向けの診療所とリキシャワーラーが地元実力者の横暴な息子に立ち向かう。最後に主人公が自分の居場所を見つけてハッピーエンド。こういう抑圧→抵抗→解放のストーリーは地域を問わず、大衆(≠支配者層)にウケる永遠の定番だ。リキシャワーラーOm Puriの息子が映画好きで、医師Patrick SwayzeにKrishna Theatreに連れて行ってもらう。その帰りに“Anil Kapoorはランボーより強い”と言っていた。そうだそうだ。美人の娘も生まれるぞ。
#22「Vikram」 Lokesh Kanagaraj/2022/インド/Jun. 5/キネカ大森○
またインド映画新作を観に行った。ここは本当に日本なのか? 会場はインド人でいっぱい。当然、本篇が始まってもケータイ照らして席探し。なことはともかく、評判がよかったのにKarthiがやや苦手なので敬遠した『Kaithi』つながり作品。本作にはKarthi出てこない。で、おもしろかった。主演は先日“何してるの?”と書いたKamal Haasan。失礼しました。67歳、がんばってます。悪役にVijay Sethupathi、秘密捜査チームのリーダーにFahadh Faasilという布陣。舞台はふつうにChennai。行方不明となった麻薬原料を巡る黒社会と警察と謎のマスク集団が入り混じり、一度で理解するのは日本語字幕があっても難儀そうな憎悪渦巻く話。3人の迫真の演技に脳は麻痺するのであった。特にVSPの金歯入れた悪党ぶりは特筆もの。硬派映画ゆえ、綺麗どころはいない。その代わり、実はエージェントのアンティがかっこよかったよ。タミル式ドーサイはいらないけど、ビリヤニはおいしそうだったな。さらに続篇あるらしい。今度はSuriyaか。英語字幕あった。
#21「歩いて見た世界 ブルース・チャトウィンの足跡」 ベルナー・ヘルツォーク/2019/英=スコットランド=仏/Jun. 4/岩波ホール○
ヘルツォーク作品はほとんど観ていないし、ブルース・チャトウィンも読んだことがないというシチュエーションではあるが、あと2ヶ月で閉館してしまうという岩波ホールに行っておくという目的もあり、慌てて『パタゴニア』を車中で読みながら出京。ブロントサウルスのくだりからひきこまれ、それが映画でもいきなり出てきてすっかり居心地がよくなり、途中で若干ウトウトしてしまった。典型的なNomadのチャトウィンが歩き回った、パタゴニアをはじめとする世界を彼の死後にヘルツォークが訪れるドキュメンタリー。チャトウィンの生前の映像や本人による朗読を混じえ、彼の世界あるいは生に対する見方を振り返る哲学的かつリアルな、キンスキーが暴れるのとはまったく異なる体験だった。まずは『パタゴニア』を読み終えよう。記録(≠記憶)によると岩波ホール初見参は1986年『パパは、出張中!』。長い間ありがとうございました。
#20「クライ・マッチョ」 クリント・イーストウッド/2021/米/May 28/早稲田松竹○
90歳を越え、さらに映画を撮る、自ら演じる、まさにマッチョなイーストウッドである。とはいえ歳には勝てず、さすがに渋さを過ぎヨボヨボになってきた。『東京物語』の笠智衆の歩き方によく似ているのだ。そのビジュアルでロマンスを演じるってのはどうなの。というか、何歳の設定なんだろうか。でも、全体としては、西部劇(?)にもかかわらずドンパチもアクションもなく、肩の力がまったく抜けたいい感じの作品に仕上がっている。西部劇と書いたが、ジャンルとしてはロードムービーである。少年と鶏を車に乗せ、メキシコシティから一路テキサスをめざす途中で、いくつかの事件、出会いがあるというわけ。セリフの1/3以上はスペイン語だった。イーストウッドが下痢して野●しようとするシーンがあるのだが、直前に車を乗り逃げされ、それどころではなくなった。ショックで治ったのかな。『マディソン郡の橋』との2本立てだったが、そちらは観ずに劇場をあとにした。
#19「シン・ウルトラマン」 樋口真嗣/2022/円谷プロダクション=東宝=カラー/May 28/新宿ピカデリー○
そそるオープニングから猛スピードで背景を説明する映像がシリーズもののように流れ、あれよあれよとその世界に入っていく。『シン・ゴジラ』の監督による『ウルトラマン』。また政治家を含む日本政府内部の混乱が皮肉に描かれている。総理大臣は嶋田久作。禍威獣やら禍特対といったむりやり感のある言葉づかいにはやや抵抗を感じたものの、オリジナルのサウンドを多用していたりCG全盛の時代にかなりアナログ風味を残した映像は、『ウルトラマン』を知っている世代だけでなく現代の若い観客にもウケるだろう。斎藤工と長澤まさみの関係は、ハヤタとフジではなくダンとアンヌに近かったね。随所で楽しめたけど、一番気に入ったのは禍威獣が日本にしか現れないことをさらっと言っているところかな。次点はマイティジャックの壁紙。カラータイマーと“シュワッチ”をなくした理由はなんだろう? さて、つぎは『仮面ライダー』だね。
#18「K.G.F: Chapter 2」 Prashanth Neel/2022/インド/May 7/池袋HUMAXシネマズ○
オリジナルであるカンナダ語版のあとでテルグ語版を観る。どちらが発話されているか識別はできるが内容までわからないので大勢には影響がない。前作と違い、言語違いによるシーンの入れ替えもなさそう。とにかく映像と英語字幕を追い続ける。Rockyのマザコンがインドの一大事となる壮大な物語。カラシニコフやBig Mamaによる圧倒的な火器攻勢から鎚は剣より強しという基本まで、RockyとSanjay Duttの死闘はつづく。たまに入るギャグ、Nepotisimのくだりとか、Jimmy Carterの登場とか、必要かな。息抜き狙いなら、頻繁に戻ってくる現在シーンがあるし、お茶汲みのおっちゃんもいるし。さて、エンディングはChapter 3の計画があることを明確に示している。どういう設定なのか興味津々。まさか、Rockyには双子の弟がいた、とかじゃないよね。音響がいまひとつだった。せっかくならIMAXで観たかった。本作にも出演しているMohan Junejaの訃報がこの日あった。R.I.P。
#17「Kaathuvaakula Rendu Kaadhal」 Vignesh Shivan/2022/インド/May 4/SKIPシティ映像ホール○
また、観たかった新作を日本で速攻上映。日本のインド人コミュニティすばらし。今度は“Lady Superstar” Nayanthara作品。婚約者のVignesh Shivanが監督で共演がVijay Sethupathiとくれば誰もが『Naanum Rowdy Dhaan』を想起するだろうが、今回はあれほどの快作にはならなかった。もうひとりの共演者が最近絶好調のSamantha。NayanとSamantha同時に好かれるVSPという二等辺三角関係。ぜいたくだ。残念ながら話はつまらなかったので、ひたすらNayanとSamanthaを拝むのが吉。そういう意味で満足である。今回はSamanthaへの対抗上Nayanも若いときのようにがんばって踊ってた。VSPとふたりとの重婚式(?)では、ヒンドゥー教徒のNayan側とイスラム教徒のSamantha側で客席を幕で分け、前者はベジ、後者はノンベジで、互いに料理を密かに交換していた。イスラム教徒もあのベジ料理は好きなのだろうか。興味深い。晩ご飯にビリヤニを食べ、帰宅途中にチョコアイスバーを買って帰った。
#16「パリ13区」 Jacques Audiard/2021/仏/May 2/新宿ピカデリー★
デプレシャンの『そして僕は恋をする』以降、個人的にはひさびさにフランス映画らしさをフルに感じる恋愛映画。原題は『Les Olympiades』で13区にあるニュータウンのこと。ドイツ出身の建築家Michel Holleyの設計で、なかなかかっこいい。治安のよしあしは不明だけど、今度行ってみよう。国語教師の陽気なアフリカ系青年Camilleと自分の立ち位置が見定まらない台湾系女性Émilie、ボルドーからやってきたEma Watson似の謎めいたアラサーNoraの移ろう関係を18禁にもかかわらず爽やかに描写している。モノクローム作品だがCamgirlのAmber SweetがPC画面で“営業”する一シーンだけカラー。説明的で余計なエピソードは一切ない。しかも、はっぴいえんど。コテコテのインド映画まみれからこういう映画に戻ってくるとほっとする。ときどきはこういう作品に触れたいものだ。もちろんインド映画もいい。でもスパイス飽和状態がつづくと精神衛生上よくないよ。
#15「男たちの挽歌」 呉宇森/1986/香港/May 2/新宿武蔵野館○
『ならず者』と『恋する惑星』の間の香港のイメージをくれる映画。(ついでにいうと台北も出てくる。) 懐かしい。36年前の作品だが、初見は1993年。その頃、香港映画を結構集中して観てはまっていったわけだ。2丁拳銃をぶっ放す周潤發メインのイメージが強いが、主演はあくまで狄龍。警官を志す弟(張國榮)が父親(田豐)の死を境に、かつては慕っていた極道の兄(狄龍)を憎むようになる。足抜けし服役後は的士運転手となった兄は弟との和解と弟の身を守ることに苦悩するというテルグ映画にはないファミリーストーリーで、建て付けは日本の仁侠ものである。いまはもう存在しない香港がそこにある。市民の味方、皇家警察。あの頃は仲のよかった呉宇森(監督)と徐克(プロデューサー)も出演。Wiki見たらインド版リメイクがあるんだね。観てみたいけど、Sanjay Duttか。Jacky役はKarisma Kapoorだし、金出したくないな。
#14「ドライブ・マイ・カー」 濱口竜介/2021/『…』製作委員会/Apr. 23/TOHOシネマズシャンテ○
アカデミー賞作品賞ノミネート、国際長編映画賞受賞の昨年度作品。帰国してようやく観られた。村上春樹の同名小説が原作とのことだが、幸か不幸か読んでいない。始まってみれば、いつものムラカミテイストなストーリー。インテリ濱口監督がどのように料理しているのか。これまで濱口作品は観たことがなかったのだけど、今回、村上春樹原作以外に、舞台が広島、主演が西島秀俊というポイントから興味を持っていた。西島秀俊は僕が若い頃にお世話になった方の息子なのである。顔似てるよ。タイトルからしてクルマも重要なキャラ。赤いSAAB 900 Turboである。これを寡黙な三浦透子が運転する。かっこいいよね、SAAB。広島市環境局中工場もかっこよかった。多言語版『ワーニャ伯父さん』とシンクロする現実に苦悩していた主人公はふっ切れた。ラストシーンまでの過程を推測するのは楽しいが、答がオープンなのでWordleよりむずかしいな。緑内障とほほの傷のエピソードは弱い気がした。何か見逃したかも。
#13「K.G.F: Chapter 2」 Prashanth Neel/2022/インド/Apr. 17/SKIPシティ映像ホール○
COVID-19のせいで公開が遅れて帰国までに観られないことがわかったときの落胆たるや。しかし在日インド人コミュニティの力は公開即日上映を日本で実現。その日はしごとの関係上行けなくなったが、ヒンディー語版だしまあいいかと。で、この日のカンナダ語版上映会に川口まで赴いた。諸々考慮すると2,800円は高くない。外国人料金ではなかったことを祈る。『K.G.F: Chapter 1』から3年、Rocky Bhai登場時は興奮した。実際に訪れたK.G.Fで歩いた道が出てきて、また興奮。正直なところ、成り上がりストーリーのChapter 1の方がおもしろいし、GarudaがSanjay Duttに勝っている。それでも続篇としての本作は合格点である。語り手はAnant NagからPrakash Rajに交替(なぜ?)。PMのRamika SenはIndira Gandhiだと思うが、なんで名前変えたのかな? 演じるRaveena TandonはSrinidhi Shettyなど足元にも及ばない美人だった。最後のオチにはいささか驚いた。どぜうがもっといるといいね。
#12「アネット」 レオス・カラックス/2021/仏=独=白=米=日=墨=瑞/Apr. 9/ユーロスペース○
帰国一本目はカラックス。超ひさしぶりだけど、相変わらず濃い映画を撮るひとだ。驚きのミュージカル、しかもほぼすべてのセリフが歌。これをAdam Driverが主演するという。相手役はMarion Cotillard。(李香蘭+Anna Karina)/2って感じ。コメディアン(Adam Driver)とオペラ歌手(Marion Cotillard)の恋の末生まれるアネット(ふたりの娘)は文字通りのあやつり人形。この設定で魅せる映画を撮ることができるカラックス。『ポーラx』で暗い気持ちになり、以降はあまりチェックしていなかったが、話は重いもののカラックスらしい作品がまた観られたことはよかったよ。オープニングとエンディングにカラックス自身が登場。Adam Driverに過去暴力を受けたと主張する6人の女性に水原希子がいるのはすぐにわかったが、Angèleもいるのにまもなく気がついた。Super Bowlが“Hyper Bowl”なのは商標の問題だろうか。日本のミニシアター、シート小さい、スクリーン小さい、観客静か、と改めて感じた。
#11「RRR」 S. S. Rajamouli/2022/インド/Mar. 28/Delite Cinema○
インド最後の映画観賞は、つい2日前に観た作品のヒンディー語版。ボイスオーバーがヒンディー語になった以外、キャスティングもシーンも同じだったようだ。Ram CharanとJr. NTRが演じた人物は実在のヒーローらしい。じゃあたまたまRamaという名前だったので、Ram Charanに神様のRamaの格好をさせたということか。3時間というインド映画でも長尺な作品の前半のハイライトは、英国人Governerの邸宅で開催されたパーティーでのダンス合戦。西洋のダンスとテルグ映画ダンスの好対照はエキサイティングで『フレンチカンカン』のクライマックスを思い出した。後半のハイライトは地下牢に入れられたRam CharanをJr. NTRが助け出し刑務所を脱出する際の戦い。脚を負傷して動けないRam CharanをJr. NTRが肩車して襲ってくる兵士(?)をダブルライフルでバッタバッタと倒していくのは香港映画ばりに爽快だった。で、Jr. NTRが好きになるOlivia Morrisって何者かね。残念ながら今回も字幕付けてくれなかった。
#10「RRR」 S. S. Rajamouli/2022/インド/Mar. 26/Bhumika Digital 2K Cinema○
Baahubali』のRajamouli監督の新作はCOVID-19の影響で公開が延びに延びてバンガロールを離れる直前の3/25が初日。これまたせっかくなのでカットアウトのあるMajesticのシネマで観ようということになった。とにかくド派手な、これぞインド・エンタメ映画という感じだが、大英帝国による支配への抵抗という硬派なテーマなのでダンスシーンは一度のみで(エンディングにもある)、基本はRam CharanとJr. NTRの男の絆による1920年あたりの流血抗争の物語である。予告篇でRam Charanがいろんな格好で出てくるので複数の時代を語るものかと思っていたら違ってて、当人の立場がいろいろ変わっていくのであった。Ajay DevgnがRam Charanの父親役で、Alia Bhattが同許嫁役でボリウッドから出演。Ram CharanがRamaでAlia BhattがSita、ふたりは離れて暮らしている、というのはインド映画伝統の設定。覚悟していたが字幕はなかった。こんなにテルグ語話者がいるのか、バンガロール。英語の台詞にテルグ語をボイスオーバーするのやめてほしい。せめてテルグ語字幕にして。
#9「James」 Chethan Kumar/2022/インド/Mar. 19/Anupama Theatre○
去年急逝したAppu, Power Star, Puneeth Rajkumarの遺作。バンガロールは本作一色で盛り上がっている。じゃあ単館で観ようってことで、Majesticに赴きモーニング・ショウ(10:30am開演)。空いていた。李小龍の『死亡遊戯』みたいに撮れていないシーンを吹き替えで無理やり完成させたわけではなく、ちゃんと最後までPuneethが動いていた。ただし、カンナダ語版なのに声が違うなあと思ったら、ボイスオーバーはShiva Rajkumar兄貴がやったらしい。兄貴はPuneethの育ての親(?)役でも特別出演。話はありきたり。滅法強い警備員が実は秘密任務を受けた陸軍少佐。ちょっといくら相手がマフィアだからって殺しすぎ。硬派ってツラでもないのにPriya Anandとのロマンスもない。遺作だからって容赦しないよ。現実にとてもいいひとだったんだろうけど、役者としてはやはり親の七光りだったと思う。字幕なかった。
#8「Hey! Sinamika」 Brinda/2022/インド/Mar. 5/Balaj Theatre○
インド映画界で一番きれいな女優はNayanではなくAditi Rao Hydariである。鼻がもう少し小さいともっといい。演技についてはまだ成長の余地があるが(と今回も思った)、歌とダンスは一流。Hyderabadが生んだこのインド版Audrey Hepburn主演のコメディーはDulquer Salmaanとの共演で、なぜかタミル映画。監督はこれがデビュー作だがこれまで映画のダンスシーンを担当してきたひとらしい。なので本作にもふんだんにダンスシーンが組み込まれる。喋り続ける夫(DQ)から逃れるためカウンセラーKajal Aggarwalに夫への誘惑を依頼するがふたりが接近するにつれ後悔し寄りを戻そうとするたわいもない話の舞台は、Cochinに始まり、Chennai、Pondicherryと移動する。タミル映画なんだから一曲くらいはサリー姿のおばちゃんが混じって踊るシーンを入れて欲しかったな。Yogi Babuがどうでもいいエログル役で特別出演。僕もDQみたいな声だったらなー。字幕あった。このローカル単館はなんのチェックもなし、国歌もなし。
#7「Gangubai Kathiawadi」 Sanjay Leela Bhansali/2022/インド/Feb. 27/PVR: Forum Mall, Koramangala○
こないだのベルリン映画祭でプレミア上映されたSanjay Leela Bhansaliの新作。主演はAlia Bhatt。『Gang』っていうからドンパチものかと思ったら、Kamathipuraの娼館主の話だった。実話ベースらしい。恋人に売られたAlia Bhattが一娼婦から地域の議員(Presidentと言ってた気もするが)までなる過程を思い出形式で語る。歳とってなかなかいい演技しているな。いにしえのMumbaiセットは、いかにも“セットです”という感じに作られていて映画に雰囲気を与えるのに一役買っていた。でも、どうもBollywood映画にはワクワクしなくなったなあ。Alia Bhattが選挙での勝利スピーチをする会場のイラニカフェの名前が“Yazdani”だったぞ。直前に観たHuma Qureshiがアイテムナンバーで踊ってた。HQデーか。あとはCREDのあんちゃん(Jim Sarbh)が出てたな。きょうのPMはIndira Gandhiでなく、そのお父さんのJawaharlal Nehru。Manmohan Singhはよ。字幕なかった。
#6「Valimai」 H. Vinoth/2022/インド/Feb. 27/PVR: Gold, Forum Mall, Koramangala○
ごま塩頭Ajith Kumarの新作だが、これまでの作品とちっとも変わらない。やたらと強いスーパーコップ。MaduraiからChennaiに呼ばれて巨大ギャングを征伐する。これに家族の絆が絡む南インド仕様。Ajithの兄役になぜかAchyuth Kumar。相棒に苦手なHuma Qureshi。スーパーコップは何人も非情に殺したギャングをやはり何人も非情に殺す。殺しのライセンスをもっているのだろうか。怖い。建前として物語は就職できない若者に焦点を当てている。これはいまのインドが抱える社会問題なのかな。もしそこに目新しさがあるのだとしても、全体としては旧態依然。まあ『水戸黄門』みたいなものだと思えばいいのかもしれない。ダンスシーンはBollywood並みに派手だがタミルのおばちゃん達が出てこないのが不満。ごま塩頭と書いたけど、本作では髪を染めてた。でも若くは見えない。アクションスターはつらいよ。そういや、Kamal Haasanは何してるの? 最近のHaasan一家は低調だね。字幕あった。
#5「Majestic」 P. N. Satya/2002/インド/Feb. 19/Prasanna Digital 4K Cinema○
Darshanは最初からChallenging Starだったのか? そんなはずはないので、冒頭部分は今回のリバイバルに際して付けたのだろう。Darshanのデビュー作である。登場時のルックスに当惑する。知っているDarshanに見えないからだが、デビュー作ということは当時の観客の一部はこれがDarshanかと思ったに違いない。目が青くて歯が汚いRowdy。やることも残虐。で、Sparsha Rekhaに近づくためイメチェンすると、知っているDarshanを若くした姿になった。恋人のために更生しようとするが、悲劇的な結末を迎える。ダンスシーンは四度あったが、その度に一階席の観客がスクリーン前に出て踊り出すという、単館ならではの楽しいできごとがあった。そういえばオープニングのBangalore紹介シークエンスには、在りし日のSantosh TheatreとNartaki Theatreの勇姿も見えた。単館、カットアウトと共になくならないでほしい。20年前の作品でもあり最初から字幕は諦めていた。よって詳細は不明なままである。
#4「Veeramae Vaagai Soodum」 Thu Pa Saravanan/2022/インド/Feb. 5/PVR: Gold, Forum Mall, Koramangala○
KollywoodのベストアクターはDhanushで間違いないが、かっこよさではVishalが勝っている。固そうな体で繰り出すオーソドックスな格闘、踊れないダンス、狭い演技の幅。でも観ていてかっこいい。おそらく立ったときのモビルスーツみたいな姿勢のよさとあの目つきだと思う。新作は、息子の犯罪を隠蔽するため誰でも平気で殺す悪党に妹を殺され、そいつに立ち向かう無職(?)の男の話。相棒にYogi Babu (こいつも無職?)。相手役にDimple Hayathi (彼女は銀行員)。Ileana D'Cruz似の美人だけど、添え役。この3人は同級生という設定。残虐な上に重要人物も早々に犠牲になるので、観ていて気が重くなる。警官である父親は上司の悪事に何も言えない意気地なしでモヤモヤ。格闘シーンだけは楽しめたな。悪党を仕留めた最後にVishalは職を得るのだが、なんなんだこの結末は。よくわからん。というのも字幕がなかったからである。ワナッカム、マッチャン、タンビー程度のタミル語知識ではどうにもならないよ。
#3「Ombatthane Dikku」 Dayal Padmanabhan/2022/インド/Jan. 29/INOX: Mantri Square○
2017年のタミル映画『Kurangu Bommai』のカンナダ・リメイクらしいが、オリジナルはさいわい未見。オープニングにPuneethに捧ぐと出た後, DarshanとかAryaも出てきて派手な感じ。本篇が始まってみると、字幕がない。ここで撃沈を確信。 映像が素人っぽいし、俳優は魅力がないし、同じ型のふたつのバッグが引き起こすよくあるドタバタかと思ってボーッと観てた。そしたらそのうちそのバッグが同じものだということがわかり、いまだに話には付いていけないものの俄然おもしろくなってきた。なるほどリメイクしたくなるようなシナリオのようだ。主人公の男(Loose Mada Yogi)と恋人(Aditi Prabhudeva)がドーサの話をしてた。カーリーじゃなくてマサラでベンネ載せてとか(画面から想像)。そういうの、楽しい。引ったくり役のPrashanth Siddiはインド人には見えないのだけど調べたらSiddi族というアフリカ由来の少数民族のひとらしい。インドは広い。しかし、いかにもの低予算映画には英語字幕は付かないということは肝に銘じておかなくてはならないな。
#2「Hridayam」 Vineeth Sreenivasan/2022/インド/Jan. 23/INOX: Garuda Mall○
週末外出禁止令が解除され、ようやく新年2本目。劇場は50%キャパで安心。『Premam』を思わせる、Pranav Mohanlal主演の青春ものである。というわけでヒロインはふたり、Darshana Rajendran (前半のカレッジ時代)とKalyani Priyadarshan (後半の社会人時代)。最近Kalyani Priyadarshanはよく見るね。マラヤラム映画界でいま一番売れている気がする。面白いのは舞台がチェンナイの工科大学 (KC College of Technology; 実際にはKCG College of Technology) でそこで学ぶケララ人学生コミュニティーが中心となっているところ。こういうシチュエーションは結構あるのかな? 全体としてちょっと理想化しすぎている気がした。カレッジのSecret Alleyのエピソードが締めのパートで出てくるのもクサい上に捻りがない。時の流れをケータイで表現するのも。異常に評価が高いのは、新作映画にみんな飢えているからなのか? 英語字幕あった。
#1「83」 Kabir Khan/2021/インド/Jan. 1/Metro INOX Cinemas (Mumbai)○
2022年最初はムンバイでヒンディー語作品を観る。一応劇映画だよね。1983年のクリケット・ワールドカップでインドチームが優勝したというインド人なら誰でも憶えている、広島人にとっての1975年のようなできごとを記録に沿ってなぞる。主演はRanveer SinghでキャプテンKapil Devを真似る。額と歯が特徴的。他のメンバーも容姿含めモノマネしていたようだ。とにかく結末はわかっているし、お気楽に観られて高揚感も保証されたお正月映画であった。プロデューサーのDeepika Padukoneがカメオで(え?違うの?) Ranveer Singhの奥さん役。劣勢だからとマッチの途中でパスを破り捨ててスタジアムを出、盛り返すと慌てて戻るも入れてもらえない情けないエピソードは本当にあったのだろうか? またIndira Gandhiが出てた。わかりやすいPMだから? ぜひ将来はManmohan Singhをばーんと出す映画を誰か撮ってもらいたい。こういう映画だと以前は必ず国旗がバーンとはためいて観客全員起立だったけど、時代は変わった。字幕、当然なし。

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Updated: 12/30/2022

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