[↓2022年]
2023年に観た映画の一覧です
- 星の見方(以前観たものには付いてません)
- ★★…生きててよかった。
- ★…なかなかやるじゃん。
- ○…観て損はないね。
- 無印…観なくてもよかったな。
- ▽…お金を返してください。
- 凡例
- #通し番号「邦題」監督/製作年/製作国/鑑賞日/会場[星]
- #30「苦い涙」フランソワ・オゾン/2022/仏/Jun. 5/ヒューマントラストシネマ有楽町○
- メモはのちほど。
- #29「怪物」是枝裕和/2023/AOI Pro./Jun. 5/TOHOシネマズ日比谷○
- メモはのちほど。
- #28「私のプリンス・エドワード」黃綺琳/2019/香港/May 28/新宿武蔵野館○
- で、こっちの主人公もとっても可愛い鄧麗欣。え、もう40歳なの?そうは見えない。大陸人が香港居住権を得るためにやる偽装結婚に、若い頃お金が欲しくて応じた香港人女性役で、自分が結婚することになって調べるとまだ籍が残っていて慌てる話。この視点はおもしろい。で、予想通り、夫である大陸人の方がフィアンセの香港人よりかっこいい。フィアンセ自身がいろいろちょっかい出して雲行きがあやしくなっていく。さらにフィアンセの母親がいろいろちょっかい出すのがおかしいというか、やっぱりねというか。舞台は太子にある金都商城。入ったことない。同棲中のふたりが住む部屋(金都商城上階のアパート)にはジャームッシュのポスターが貼ってあったりして、監督の趣味が窺える。フィアンセの英名がEdward Yanだったが、せっかくならYangにしてほしかった。しかし香港と大陸の行き来は面倒そうだね。『線路はるばる』の主役の男(岑珈其)がこっちにも出てた。
- #27「線路はるばる」黃浩然/2022/香港/May 28/新宿武蔵野館○
- 香港とかシンガポール行くと、街を歩く女性の多くがすっぴんで、うわーっと思うことがある。ところがこういう映画の中の女性はとっても可愛い。これがどういうわけか深追いするのはやめておこう。あまりパッとしないけど有能らしいプログラマーの男がつぎつぎと可愛い女性と付き合い彼女らの居住地を訪れるという、奇抜な、政治の匂いがまったくしない物語。男が開発中のおせっかいなナビ兼グルメガイドアプリが案内してくれる。女性の居住地がことごとく都心から遠く離れているのがミソで、監督の香港大好き感が伝わってきた。出てきた中では大澳にしか行ったことないかな。沙頭角が禁区というのは大陸との境だから? あぶない“ゾーン”とか? よくわからない。最後に結ばれるMela姐を演じていた余香凝って、蘇慧倫に似てるよね。大柄だけど。字幕はかなり乱暴な言葉遣いだった。実際にそんな感じで喋っていたのだろうか? そんなことがわかるようになりたいものだ。
- #26「ジャンヌ・ディエルマン ブリュッセル1080、コメルス河畔通り23番地」シャンタル・アケルマン/1975/ベルギー=仏/May 20/アンスティチュ・フランセ東京 エスパス・イマージュ★
- 監督のFamily nameは“アッカーマン”と表記されてたのにいつなぜ“アケルマン”に変わったのか、という話はさておき、今回Sight and Soundがオールタイムベスト1に選んだというこの作品に俄然興味が湧き、世間もそう思ったんでしょう、アケルマン特集が組まれたので、観に行った。夫を6年前に亡くし学生の息子と二人暮らしの女性(『去年マリエンバートで』や『インディアソング』のDelphine Seyrig)の日常を淡々と追う4時間。序盤の繰返しモチーフは『ニーチェの馬』を思い出させる。女性一人のシーンが多く、自然と台詞がない。固定カメラしか使わず、長回し。しかも絵はほとんど動かない。同時収録の自然音。観る者は女性が何を考えているのかじっと考えるしかない。そして突然の断絶。保温ポットへのスタッフ(監督とカメラマン?)の映り込みなど気にしない大胆さといい、確かに並のフィルムではない。でも僕ぁ『東京物語』の方が好きだね。
- #25「それでも私は生きていく」ミア・ハンセン=ラブ/2022/仏=独/May 13/シネスイッチ銀座○
- Mia Hansen-Løveの新作。Léa Seydouxが主演。パートナーを亡くし娘をひとりで育てながら難病で視力と認知機能を失っていく父親も面倒をみる女性が、そんな状況下で亡夫の友人に再会し、新たな人生へ向かって格闘するさまを描く。先日観た長編第一作『すべてが許される』と雰囲気は
基本同じ、自然な感じがとてもいい。Léa Seydouxも『No Time to Die』とかとは違い、等身大の自分を演じているように見えた。あのジェーン・バーキン譲りの(ってことはないが)すきっ歯は何故か目立たないように撮影されていた。介護問題はどんな社会にもあることを改めて認識した上で、それを背景にこんな映画が撮れるのはさすが。舞台は現代のパリで、スクリーンを凝視していると、Twingoが1台確認できた。オランジュリー美術館に日本人いたね。KIN TAROなる日本料理屋も出てきたね。どうでもいいけど。
- #24「Ponniyin Selvan: II」Mani Ratnam/2023/インド/May 2/PVR Director’s Cut (Bangalore)○
- 巨匠Mani Sirの作品がちょうど公開されたので、新しいデラックスなマルチプレックスに観に行く。とはいえ『PS-1』は未見なのでどこまで話に付いていけるのか不安だった。登場人物がわんさかいるっていうし。始まってみれば『PS-2』はこれで完結しており、何の問題もなかった(もちろん前作を観ている方がより楽しめたのだろうが)。このタミル映画にAishwarya Raiがボリウッドから出ているのが目玉のようだ。Aishwarya Lekshmiも出てたし、どうせならAishwarya Rajeshも出してAishuかしまし娘にして欲しかった。若いころ王子Vikramに捨てられた孤児Aishwarya Raiの彼に対する憎悪が話の柱。でも、題名からするとJayam Raviが主役なのかな? Karthiもかなり目立ってたけど。重要なロケーションとしてスリランカが出てくる。この話も『ラーマーヤナ』に関係があるのだろうか。もっとも、もっと重要なのはカーヴェリ川だけどね。英語字幕あって助かった。
- #23「Shivaji Surathkal 2」Akash Srivatsa/2023/インド/May 1/Triveni Theatre (Bangalore)○
- Majesticの単館はローカル度が高くトイレの難易度も高いという思い込みもあり、あまり行っていない。Triveniもそんなイメージで建物の外観やカットアウトを撮るだけだったが、ついに中に入ることになった。本作は題名が示すように『Shivaji Surathkal』の続篇。COVIDパンデミック直前に公開された作品だが、観ていない。しかし、犯罪スリラーもので前作と本作では違う事件が対象なので問題はない。ヴェテラン俳優Ramesh Aravind が、薬を飲まないと亡くした奥さんが見えるという精神のやばい探偵で、実は自分が犯人ではないかと(観客も)疑う中、事件を解決していく。サイコ的要素もあってなかなか面白かったよ。奥さんが『U Turn』でも幽霊だったRadhika Chetanというのが興味深い。劇場はシートが新調されていて、ローカルシアターにありがちな湿っぽさとか臭気がなく、動物もおらず快適だった。カンナダ映画は安定の英語字幕付。
- #22「すべてが許される」ミア・ハンセン=ラブ/2006/仏=澳/Apr. 16/アンスティチュ・フランセ東京 エスパス・イマージュ○
- 天気不安定な日、久しぶりに飯田橋へ。ミア・ハンセン=ラブ特集をやっているのだが、観たことない監督なので慎重に長編第一作から。自伝的作品とのこと。娘のPamelaが監督自身だな。『女っ気なし』のコンスタンス・ルソーが演じている。なんというか個性的な顔だ。まなこが崔洋一みたいに常に動いてる。無職でドラッグに溺れるフランス人の父親とDVまで受け愛想をつかすオーストリア人の母親。浮気相手のドラッグ死で父親は警察沙汰を起こし、ついに離婚。母親に連れられ離れたものの、成長して父親に再会し、純粋に慕うさまを瑞々しく描いている。元妻は決して許さないが、娘に許されることで父親は心の安寧を得たのである。舞台はウィーンとパリ、そしてイル・ド・フランス。日常的な街の情景がよかった。監督はアサイヤスの元奥さんか。映画のつくり方を教わったのだろうか? 機会があれば別の作品もボチボチ観てみようかな。
- #21「トリとロキタ」リュック・ダルデンヌ, ジャン=ピエール・ダルデンヌ/2022/ベルギー=仏/Apr. 9/ヒューマントラストシネマ有楽町○
- 硬派なダルデンヌ兄弟の新作は、アフリカからベルギーに密入国した姉弟が主人公。余計な説明は一切ない。感傷的なエンディングもなく、ピシャリと映画は終わる。切れ味抜群である。トリとロキタが血が繋がっていないことはすぐに示唆されるし、ロキタが祖国に家族を残していて欧州からサポートしようとしていることもわかるのだけど、トリがなぜ出国しベルギーで何をしようとしているのかは最後までわからず。健全にとは言わないがたくましく異国で生きていってもらいたい。移民局はロキタにビザを発給しようとしないが、それでも監禁されることもなく、自由に街に出て働いている。どこかの国とは違うね。とはいえ、まともな職に就くのはむずかしいようで、しまいには違法な大麻工場(?)に監禁され働かされる。こういうとこ、現実にあるんだろうと想像。Wiki見たらトリは11歳、ロキタは16歳だそうだ。うーん、人種が違うと年齢がまったく推定できないことを改めて実感した。
- #20「知と愛の出発」齊藤武市/1958/日活/Apr. 9/神保町シアター○
- むかしチャンネルNECOでやったやつを観たっきりの、いづみさまご出演作品#37。カラー復元版というが、復元してないじゃん。セーラー服姿のみならず、アルバイト先ホテルの制服姿、泳ぐ姿、極めつけは入浴姿が拝見できる崇高な作品を、妙なAI処理 (GAN?) で貶めてはいかん。モノクロで没問題。さて、お話は諏訪湖の辺りが舞台。お茶の水女子大をめざす秀才のいづみさまと東大法科をめざす秀才の川地民夫の純愛を、白木マリやら、中原早苗やら、小高雄二やらの不良常連が汚そうとする。川地民夫の親父の元軍人がいづみさまの父親(宇野重吉)の教師を“日教組”と呼ぶのが、なんというかリアル。いづみさまは輸血拒否ってエホバの証人信者かと心配になる。レイプ事件を実名・写真付きでスキャンダラスに報道するローカル新聞、二谷英明。ええかげんにせんかい。ラストシーンの妙高山頂のふたりを撮るためだけに飛行機飛ばしたのかね? 残念ながらよく見えなかったけど。
- #19「Viduthalai」Vetrimaaran/2023/インド/Apr. 8/SKIPシティ映像ホール★
- Sooriが主役?しょうもないコメディーかと思いきや監督がVetrimaaranではないか。これは何かある、ということでまたはるばる川口へ。いきなり、溝口や相米も真っ青の自在に動くカメラによる超絶長回しにぶっ飛ぶ。一部CGを使っているとは思うが、時間軸はぶれていないので撮影自体は一気にやっているはずだ。この派手なオープニングから一転、Soori演じる真面目な警官が配属された“幽霊狩り”作戦でテロリストとの対峙、組織内部や政治のドロドロ、地元の娘との恋と、何かが溜まっていく抑えた演出で魅せる。そして幽霊=テロリストの頭目(Vijay Sethupathi)の逮捕に至る銃撃戦でSooriがヒーロー的活躍。なのだが、何も解決しないまま本篇は終了。そしてPart 2の詳しい予告。はあ?一度にやってよ。『K.G.F』まがいの作品が連投される中、ストーリー自体は紋切り要素が多いもののこいつは新鮮な良作だ。Part 2、日本でちゃんとやってくださいよ。男女問わず容疑者を裸にする警察の拷問が怖かった。
- #18「青春弑恋」何蔚庭,胡至欣/2021/台湾/Mar. 26/シネマート新宿○
- 事前知識なしで観始めたら、なんだか雰囲気が『恐怖份子』だ。Monicaが住んでた部屋の窓とか。あとで確認したら英題が『Terrorizers』で納得。この監督の楊徳昌へのオマージュなのだな。そういえば『獨立時代』の香りもしたよ。主役の林柏宏の役名が明亮なのは蔡明亮から取ったのだろうか。あぶないストーカー青年を好演。ひとつのストーリーが男二人、女二人、それぞれにフォーカスした章で順次語られる。その間、時間が二回りするというユニークなシナリオがよかった。女優陣も好演。玉芳役のMoon Leeって李賽鳳じゃなくて李沐か。Monica役の陳庭妮はセクシー、Kiki役の姚愛寗はなかなか可愛かったよ。日本語を喋る。日本のテレビにも出てたのか。舞台は台北と基隆かな。あの桃園-台北迅運に乗りたい。台湾に行きたいわん。
- #17「Kabzaa」R. Chandru/2023/インド/Mar. 19/SKIPシティ映像ホール
- Upendra, Sudeep, Dr. Shiva Rajkumarの共演って、悪い予感しかしなかったのだけどどうしても観たいらしいひとがいたので付き合った。ホールの入りは悪く、割高の鑑賞料金でも主催者は元が取れてないと思う。端的に言えば『K.G.F』の劣化コピーである。これまで何本も同作にインスパイアされた作品が出てきているが、これはそのレベルではない。カット遷移に暗転を挟むとか、アニメーションの導入、車列の真上からの鳥瞰、ルックスがRockyにそっくりの主人公、そっくりな歌とダンスなどなど、枚挙にいとまがない上、Uppyの演じる(もちろん)無敵のArkeshはRockyから信念を抜き取ったような、何がしたいのかまったくわからない不気味な存在。Sudeepはただの語り部か?そのあたりは、Part 2でShiva兄貴とともに明らかになるだろうが、観たくなるようなモチベーションは皆無だ。せっかく近年reputationが高まってきたカンナダ映画を自ら貶めてはいかん、いかんぞぉ。
- #16「オマージュ」シン・スウォン/2021/韓国/Mar. 18/ヒューマントラストシネマ有楽町○
- 以前、東京国際映画祭のコンペに出てた作品。『パラサイト』の家政婦のおばちゃん(イ・ジョンウン)が主演というだけで異色作というと失礼だな。新作がヒットせず悩む映画監督が主役だなんてホン・サンスか、と思いきや、話はずっと高尚で、女性の地位についてのお話。日本と並んでいまだに男性優位社会の韓国において、国初の女性映画監督が最後に撮った作品『女判事』のプリントが発見されたものの、音声が一部欠落、いくつかのカットが失われていた。これを修復するしごとを依頼される主人公。映画に縁の人物を訪ねていきながら自分の生き方を見つけていくという、ホン・サンスには興味なさそうなプロットはなかなかよかった。閉館した映画館が侘しいのは世界共通。で、その作品が当時封切られたという映画館で、帽子の飾りとなって発見された別プリントの断片は16mmに見えた。なぜ35mmではないのか気になったが、主題には無関係そうだった。この作品 #BIFFES でもかかるよ。インドのひとたちにも観てほしいね。
- #15「郊外の鳥たち」仇晟/2018/中国/Mar. 18/シアター・イメージフォーラム○
- 長くて短くて、離れた2つの塊、だったかな。考えても答が見つからない。都市開発とドローバックとしての地盤沈下が進む地方都市(杭州)を舞台として、時間、空間、人間が曖昧に重なり合うふたつのストーリーが展開する。その空気の心地よさが眠りをちょいと誘い前半の重要なパートを見逃しているのが無念。スタンダードサイズの画面と麻布のタイトルバックが、監督は小津ファンではないかと思わせた。ただし、ダイナミックに動くカメラによるハッとする映像は監督独自のものだ。片方の子供グループのストーリーがよかった。世間的には『スタンド・バイ・ミー』なんだろうが、なんとなく『友だちのうちはどこ?』を思い出した。女の子ふたりから迫られる男の子はそれとはまったく違うけれど。中国ではいまだに(というわけではないが)子供が紅いスカーフ(紅領巾)をしてるんだね。かっこいい。赤帽よりあれがよかった。大人グループの主人公は李安の息子だとか。似てるような似てないような。
- #14「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」ダニエル・クワン,ダニエル・シャイナート/2022/米/Mar. 11/TOHOシネマズ渋谷
- 楊紫瓊の主演女優賞をはじめ、アカデミー賞に多部門でノミネートされている話題作。彼女のキレのよいカンフーも見られそうだし、いつもとは違う映画環境に赴いた。いやほんと、ハリウッド小屋(マルチプレックス)とミニシアターの雰囲気の差はまさにマルチバース。予告篇見てるだけで目が回る。そしてハリウッド自体異次元。話はいつでも、最後に地球は守られ、主人公ファミリーはハッピーになる。これで観衆はみんな満足? エロとかソーセージとかベーグルとか、あんなギャグがなぜ面白いのかさっぱりわからないし、バース移動の手段のバカバカしさったらないし、そのうえ楊紫瓊はあまりカンフー使わないし。ところで楊紫瓊の役名"Evelyn"は、僕にとってトラウマワードだ。あれがちゃんと発音できるひとは全世界で何パーセントいるだろうか。楊紫瓊が、英語は男と女で"he"、"she"と呼び方が違うけど中国語は同じだ、なんて言ってたけど、"他"と"她"の方が訳わかんないよね。
- #13「コンパートメント No. 6」ユホ・クオスマネン/2021/フィンランド=ロシア=エストニア=独/Feb. 26/新宿シネマカリテ○
- 本日、寒い映画デー(あるいはロシア語映画デー)。寝台列車の同じコンパートメントに偶然乗り合わせた男女が、モスクワを出発しスカンジナビア半島北端(?)のムルマンスクに向かうロードムービー。カンヌでグランプリを獲得している話題作。タイトルバックが北欧っぽくておしゃれ。一方で本編は暗めで寒め。主人公のフィンランドからの女子留学生は日本人からするとおばさん。同席の呑んだくれはプーチンみたいなマッチョ男。寂しいふたりの道中の、決して楽しいとはいえないふれあいから徐々に縮まる距離感が淡々と描かれる良品であった。途中で立ち寄る男のおばあちゃんちとか、ムルマンスクの街とか、南のモスクワでのパーティーとの温度差もよかった。それにしても凍結道路を爆走するロシア車、おそるべし。そして、そもそも無関係の男女を考慮なく同じコンパートメントに押し込めるロシア鉄道、おそるべし。
- #12「崖上のスパイ」張藝謀/2021/中国/Feb. 26/新宿ピカデリー○
- 偽満洲国は哈爾濱を舞台にしたスパイもので、日本人がひとりも登場しない抗日作品とでも呼ぼうか。(おそらくは)731部隊の悪行の生き証人を国外脱出させる“ウートラ作戦”のため、偽満洲国の特務とソ連で訓練を受けた共産党スパイが騙し合う。スパイはカップル2組の四人。小蘭役の劉浩存がむっちゃかわいい。秦海璐も超ひさしぶりで、美人のおばさんになってた。話の前半は『シベリア超特急』(あれ、観た記憶はあるのだが記録見つからず。閲覧されないからか、Google使えなくなった)。哈爾濱に到着してからは、特務内の二重スパイ探しも絡んで華やかなスパイ合戦が展開する。クラシックカーが走り回る雪の哈爾濱セット。ロシア語看板の付いた亞洲戯院。いい感じ。特務に坂東彌十郎と笹野高史がいたよ。笹野高史は罠に嵌められて共産党スパイと見なされ拷問、処刑でかわいそうだったね。全体としてはさすがの張藝謀、抗日メッセージも共産党礼賛も控えめでエンタメとして楽しめた。
- #11「別れる決心」パク・チャヌク/2022/韓国/Feb. 18/TOHOシネマズ日比谷○
- 『ラスト、コーション』の湯唯が韓国映画に出てて、しかもパク・チャヌク作品。これは何かある、というわけでTo Watchリスト入り。原発に勤務する妻をイポ(どこ?)に残し釜山に単身赴任している刑事パク・ヘイルがクソ山(どこ?)から落ちて死んだ入国審査官の捜査を担当、未亡人(死語?)湯唯は中国人だった。クライム・サスペンスの姿をしたディープなラブストーリーである。事件解決(自殺認定)後、パク・ヘイルはイポに転勤、そして再婚した湯唯もイポに現れ、やくざな新しい夫も変死、ふたたびパク・ヘイルが担当に。スクリーンを異様な空気で包み込む、自分の想いを口にしないパク・ヘイルと湯唯には、舞ちゃんと貴司くんとはだいぶ違う結末が待っていた。いや、おそらくパク・ヘイルにとっては死ぬまで続く苦悩の再スタートであろう。山、海、崩壊、不眠症、認知症、高所恐怖症、iPhone (とSiri)、目薬、スッポン、そして歌謡曲『霧』。さまざまな要素が散りばめられた濃密なシナリオに、TVドラマ的カットなど交えた凝った映像。パク・チャヌク、これがピークか、まだまだ上があるか?
- #10「Vendhu Thanindhathu Kaadu」Gautham Vasudev Menon/2022/インド/Feb. 12/ヒューマントラストシネマ渋谷○
- 『K.G.F』にインスパイアされた映画がまたひとつ。主演はSimbu、相手役はSiddhi Idnaniである。である、と書いたがこの女優、不覚にもMalayali美人のAnu Emmanuelだと思って見てた。彼女よりシャープな顔つきのSiddhi IdnaniはMarathiのようだ。出番はそんなに多くはないが重要で、どうやらPart 2で存在が大きくなりそうなので楽しみにしておこう。TN州からMumbaiに出てきてタミル人が集まるパロタ屋に住み込みで働き始めたSimbuが、このホテルの裏稼業に気づいた時には遅かった。あとは密かに持ち込んでいた拳銃と天性のワルぶりを武器にのし上がるのみ、というストーリー。Mumbaiが舞台のタミル映画はときどきあるが、いろいろ有名な場所が出てきて楽しい。裏社会の抗争を軸に、実際にはその上に実力者が多層に展開する構造は『K.G.F』でも見られたね。小指をなくしながらもRocky BhaiみたいになったSimbuが暴れそうなPart 2、いつになることやら。『Pushpa』のPart 2も待っているのに、話を一向に聞かないな。早くしないと『K.G.F』Part 3が来るぞ。
- #9「未成年」井上梅次/1955/日活/Feb. 4/シネマヴェーラ渋谷○
- てっきり35mmフィルム上映だと思って行ったら、プロジェクションでがっかり。それでも、このいづみさまの初期作品(いづみさま#9)は未見なのでワクワクだ。“新人”長門裕之とのコンビである。いすゞ川崎工場で職工として働く未成年の長門が、横浜のチンピラ佐野浅夫に絡まれたのがきっかけで、港湾荷役会社(もちろんやくざ)の手下に堕ちたのを、アタラント号に住むいづみさまが救おうとするお話。長門が未成年で“僕”なんて言ってるのと安部徹が“五郎ちゃん”と呼ばれているのが笑いのポイントである。まだ20歳だからして顔が丸いいづみさまの登場はかなり遅い。その分、登場時は劇場内の空気が変わった。母親の清川虹子だけはマイペースだが、残る井上梅次の脚本・演出は軽やか。中華料理屋で日本人店員間で注文の符牒(?)として喋る北京語がいい。のちの香港時代を遠く連想させた。最後に長門を刺すせむし男のあだ名が(ノートルダムの)“ダム”ってのも井上ならではか。今回の井上梅次特集では『裏町のお転婆娘』もかかるのだが日程が合わず観られないのが無念。
- #8「新生ロシア1991」セルゲイ・ロズニツァ/2015/ベルギー=オランダ/Jan. 29/シアター・イメージフォーラム○
- “CCCP”がちゃんと読めるのが自慢です。1991年8月19日からの3日間、モスクワで起こったクーデターのことを知ったレニングラードの様子を撮影した貴重なフィルムを編集したドキュメンタリー。情報が錯綜する中で広場に集まる群衆、バリケードを築きストライキに入る労働者たち。エリツィン派の市長が市民に訴える。クーデターは失敗し、市庁舎(?)には例の三色旗が掲揚される。そしてレニングラードはサンクトペテルブルクに。ゴルビーがアメリカに行ったのはいつだっけ? 市長が車に向かう際にエスコートしている人物がフィルムに写る。帝政ロシアにラスプーチン、新生ロシアにはプーチンありだ。いまや金正恩より危ない男だな。お願いだから、自分が死んだ後のことは知らん、とか思わないでほしい。ソ連の象徴、エレガンスとは無縁ながら迫力満点のスターリン建築(と勝手に思っている)。新宿のNTTのタワーってスターリン建築を思わせるよね。
- #7「シャドウプレイ」婁燁/2018/中国/Jan. 22/K's cinema★
- 〈完全版〉らしいが、そもそも日本にいなかったので2019年のフィルメックスでの〈カット版〉上映を観ていない。なので比較できないのだけど、陳冠希(懐かしいね)が出てくるシーンがあるかないかのようだ。何が問題だったんだろう? ま、そんなことはさておき、クライムサスペンスを婁燁がつくるとこうなるという感じの良品。『ふたりの人魚』を思い出させるノワールな雰囲気。周迅どうしてるかな。と、そんなことはさておき、ふたりの男(秦昊、張颂文)とひとりの女(宋佳)がなすドロドロの三角形は、張颂文のおっさんなビジュアルが気になるが役人だからしかたないか。これに、張颂文の転落死事件を追う若い刑事(井柏然)と、張颂文・宋佳夫妻の娘(馬思純)が絡み、秦昊のパートナー(陳妍希)の失踪事件とか、25年間の時間軸を行き来しながら三角形の頂点と辺のすべてが明らかになっていく過程は見応えあり。カーアクションもあるよ。上映後のトークショウは予想外。
- #6「エンドロールのつづき」Pan Nalin/2021/インド/Jan. 21/新宿ピカデリー○
- グジャラート語映画を松竹が配給? 期待値を超えてよかった。インド版『ニュー・シネマパラダイス』として誰もが期待しそうな、フィルムが燃えたりパッチワークしたフィルムをつくったりはないが、『2001年宇宙の旅』や『ストーカー』など、ところどころに過去へのオマージュが見られる。異常なまでに映画の上映にこだわり、盗み出したフィルムを仲間とジュガールな方法でつくった映写機で投影するブラミン(なのにチャイワーラー)の息子Samay。仲間含め、クリケットに興味ないのかね。フィルム上映時代は突然終わり、田舎映画館GalaxyにもDCPが導入され、スクラップとなった映写機はスプーンに、フィルムはバングルに生まれ変わっていく。そんな感傷的なシーンをDCPで観てる自分に苦笑する。美人のお母さん(Richa Meena)がつくるお弁当(ブラミンなのでもちろんベジ)が調理シーン含めとてもおいしそうで監督のこだわりを感じた。ラストに大人になったSamayの声が名監督の名前を並べていく。監督の空想的自叙伝なんだろうな。
- #5「Varisu」Vamshi Paidipally/2023/インド/Jan. 14/ヒューマントラストシネマ渋谷○
- Pongal映画はVijay vs. Ajithらしい。AjithのはManju Warriorも出てて気になったが、選んだのはThalapathy。相手役はRashmika Mandannaである。大人気俳優でBangaloreでもだいたいかかることもあり、特にファンでもないのに結構観てるThalaphathy映画。だいたいいつも同じ演技、同じパターンで、鑑賞後まもなく観たことも内容も忘れてしまうことが多い。なのだが、本作はビジネス+ファミリーもので“テルグ映画かい”と思った。真の主役はAmma役のJayasudhaかもしれない。ストーリーは、ビジネス部分は早めに切り上げ、一旦崩壊した家族が終盤に集結し、Appaを見送って終わる、いささか散漫な展開。Rashmika Mandannaは単なる添え物あるいはダンサー。Thalapathyは相変わらず強すぎてつまらないのであった。 序盤のインド国内放浪(?)や最後のバラナシの合成っぽさが気になった。とまあ腐しすぎかもしれないけど、スクリーンを堂々と撮影したり、歓声をあげたり、上映中に堂々と歩いたり、インドの映画館にいるかのような雰囲気は十分楽しんだな。英語字幕付上映。
- #4「カンフースタントマン」魏君子/2021/香港=中国/Jan. 8/新宿武蔵野館○
- 龍虎武師と呼ばれたスタントマンたちに焦点をあてたドキュメンタリー。嘉禾も邵氏もなくなってしまい、大陸に呑み込まれて滅亡した香港功夫電影の全盛期に想いを馳せるノスタルジックな一編である。かつて、どんな作品を観ても同じような顔ぶれの脇役、その他大勢を構成していた人たちが出てきて凄みが伝わってくる。くま・きんきんとか懐かしいね。7階から飛び降りるとか真剣を使っていたとか、現代では不可能だし、なんでもCGでできてしまうので、この職業は永遠に失われてしまうだろう。スタントマンのほか、監督や、作品の断片などが映し出されるたびに“おー”と心の中で唸ってしまった。主役級では洪金寶と甄子丹が出演してたけど、李小龍はもちろんだが、成龍や李連杰がいないのは寂しかった。(まあ成龍は政治的にアレだが) 一瞬だったけど『新龍門客棧』のポスターが出てきたよ。最近Facebookで林青霞の写真がたくさんお勧めされるんだよねー。
- #3「柳川」張律/2021/中国/Jan. 8/新宿武蔵野館○
- こちらも新年越しの張律特集。去年はこの監督作品を観るのははじめてだと思っていたが、実は韓=中合作の『キムチを売る女』を観ていた。本作は純粋な中国映画で韓国の匂いはしないながら、日本に過去の女性を訪ねたり民泊したり少女が赤い着物の人形を持っていたり、デジャヴを起こす構成。マルチ言語で通訳なしで会話する、というのはない。北京に住む兄弟が20年前の恋人を訪ねてやってくるのは福岡県柳川。この元恋人を演じるのは倪倪(頭にバンド巻いたニーニーじゃないよ)で柳川(リウ・チュアン)という役名である。街も女性もとても魅力的に撮られている。日本のヴェニスなのかぁ。おでん屋のおかみとして中野良子が出演。ここは方言使って欲しかった。そういえば弟が喋る訛りってどこのだろう。そういうことがわかるようになりたい。北京から柳川行くのって、現実にはどういうルートかな。福岡に直行便があるのかな。
- #2「健康でさえあれば」ピエール・エテックス/1965/仏/Jan. 7/シアター・イメージフォーラム○
- 短編4作『不眠症』、『シネマトグラフ』、『健康でさえあれば』、そして『もう森なんか行かない』からなるオムニバス。コンセプトがよくわからない…。吸血鬼ものの『不眠症』のみカラー。『シネマトグラフ』での映画館の描写がとても興味深かった。上映中の場内で懐中電灯を照らして客を案内するのはいまでもインドにあるけど(最近は自分のスマホでやるのが主流だが)、ああやって頻繁に席を移動したりしたのかとか、誰もタバコを吸ってないとか、まあ多分に演出が入っているのだろうけど新鮮に感じた。『健康でさえあれば』のブラックさがなかなかよかった。渋滞の中、ストレスフルな誰もが微笑んでいるのは医者が処方するクスリの効果かな。短編『絶好調』を併映。これまで観た短編はどれもスタンダードだったが、こいつはもともと本作からのスピンオフなのでヴィスタであった。で、これも入っていてもまったく違和感ないように思った。
- #1「ヨーヨー」ピエール・エテックス/1964/仏/Jan. 7/シアター・イメージフォーラム○
- 新年はエテックスでスタート。1925年からの40年、親子二代にわたる波瀾万丈のサーカス讃歌で、主人公はもちろんエテックス自身が二役である。サーカスというジャック・タチも好んだ題材は偶然なのか、その時代の流行なのか、それともやはりタチへの憧れだったのか。すでにカラーが全盛となっていた中で敢えてモノクローム作品だが、時の流れで映像がサイレント(というかサウンド版)からトーキーにスイッチする演出がにくい。カラー化のお金をこっちに注ぎ込んだのかも、と思わせるほど豪邸(とその変貌)のセットは見事だった。ギャグのキレは相変わらずに感じた(要は僕には合わないのだろう)が、大富豪とサーカス団員の恋とその息子Yoyoがおりなすドラマは観客を動かすダイナミズムを持っていた。その分、今回のエテックス特集の中では一番よかったな。楊德昌は本作品を観たことがあるだろうか?『YIYI』は『YOYO』から取ったのかもとなんとなく思った。
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Updated: 6/5/2023
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