[↓2022年][↑2024年]

2023年に観た映画の一覧です

星の見方(以前観たものには付いてません)
★★…生きててよかった。
★…なかなかやるじゃん。
○…観て損はないね。
無印…観なくてもよかったな。
▽…お金を返してください。
凡例
#通し番号「邦題」監督/製作年/製作国/鑑賞日/会場[星]

#89「K.G.F: Chapter 2」Prashanth Neel/2022/インド/Dec. 29/チネチッタ★
『Chapter 1』の公開時鑑賞から3年以上も待たされてようやく観た『Chapter 2』だったので、こうやって『Chapter 1』のあと、短期記憶があるうちに続篇が観られるのはありがたいことだ。前作では影でしかなかったRaveena TandonやSanjay Duttが登場し、キャストも全印レベルに、話もインド黒社会から政治と国際犯罪組織に拡大。スケールが大きすぎてCG使いまくり、Rockyも成り上がって横暴に歯止めがない。という感じで、どうしても『Chapter 1』には勝てないが、前作での話がいろいろ回収されるのでスッキリする。最後に出てくるインドネシアとアメリカの存在は謎で、これが『Chapter 3』への伏線となっている。おそらく当初の計画にはなかったよね。主要登場人物は死んでるし、時間を遡るというよくあるそして危険な反則技にPrashanth Neelも手を出すのかな。これで2023年の映画は打ち止め。
#88「K.G.F: Chapter 1」Prashanth Neel/2018/インド/Dec. 29/チネチッタ★★
観るたびによくなるので星ひとつ追加。タイトルが出てくるシーンからしてゾクゾクする。今回はどちらかというと日本語字幕を注視しながらの鑑賞。そのためか前回より字幕が詳しかった気がする。タマちゃんが踊るシーンに流れるアイテムナンバーのときもバッチリで、“この細い腰”とかいう字幕に心の中で思い切り“ダウトーッ”と叫ぶ。『Chapter 1』には『Chapter 2』からのカットが散見され、撮影を含めこの二作が最初から統合的に製作されていたことがわかる。なのにCOVIDのせいで『Chapter 2』の完成は遅れたのはただただ残念。もしかしてこれがAnant Nagが『Chapter 2』に出なかった原因かもしれないとか考える。Rockyは間違いなくVillainだが、映画ではとてつもないHeroだ。まあ、『Chapter 1』の話は黒社会で閉じているので、相対的にRockyが善人に見えるだけだけどね。Harish Raiのセリフで改めて思ったが、インド人にとってBiryaniはやっぱり特別なんだね。僕からみたらRice BathもBiryaniも同じくらいごちそうなんだが。
#87「PERFECT DAYS」ヴィム・ヴェンダース/2023/日=独/Dec. 23/TOHOシネマズ日本橋○
小津ファン監督作品二つ目はヴェンダースが撮った日本映画。こういうのは好物だ。こちらの主人公も孤独。渋谷区内のトイレ(日本財団が絡んだデザイナートイレというのがやばいが、目を瞑る)を定期清掃する、浅草の安アパートに住む平山という無口な男(役所広司飾)の毎日を綴る。部屋には大量の文庫本、カセットテープとラジカセ、撮り溜めた木漏れ日の写真、そしてミニ盆栽しかない。カセットテープの横にはクルミッ子の缶がいくつか。盆栽が植る小津風の湯呑み。同じようで一日一日が少しずつ違う日の繰り返し。休日にはコインランドリーと、石川さゆりが女将をやっている飲み屋(あがた森魚も常連)での晩酌。公園での姪と一緒のサンドイッチランチの相似形所作に微笑む。浅草から渋谷にはカセットテープを聴きながら毎朝首都高。夜は一日を反映した夢のモンタージュ。この辺りは多分にタルコフスキー的だったね。平山の過去や本心は決して語られない。しかし、朝日に向かって首都高を走るラストシーンでの、男の潤んだ瞳と笑みが彼の幸福感を伝えていた。
#86「枯れ葉」アキ・カウリスマキ/2023/フィンランド=独/Dec. 23/ユーロスペース○
小津ファン監督作品一つ目、カウリスマキ復帰作は、熟練の中年ボーイミーツガールもの。ヘルシンキで孤独に暮らす中年男女がカラオケで出会い、すれ違いを繰り返しながらはっぴいえんどに至る、観客もちょっとハッピーになれる良品。セリフ回しやカットの小津的リズムが心地よい。いわゆる枕ショットもあるよ。カウリスマキ映画の色彩感覚は独特のくすんだカラフルさを持つのだが、これがカラオケのロシアっぽい(フィンランドっぽさを知らないので)歌唱と相まって北国の物悲しさを加速する。ラジオからはロシアがウクライナを空爆したニュースがいつも流れてくる。これは監督の明確なメッセージだな。主人公のふたりはどちらもさまざまな職を転々とする。高望みをしないからなのか無職にはならないもののカツカツの生活で、女は水色のコートを着たきりであるが、最後は新調したのか違うの着るんだよね。このクラスの喜怒哀楽をユーモラスに語り続けるカウリスマキ、ウェルカムバックである。
#85「イン・アワ・ディ」ホン・サンス/2023/韓国/Dec. 17/ヒューマントラストシネマ渋谷○
サンス、サンス、ホンサーンスッ♪ カンヌ監督週間 in Tokioの一本で、英語(のみ)字幕上映。いつものホン・サンスが戻ってきた。女優キム・ミニと詩人キ・ジュボン、それぞれの一日を並行して描くのだが、それらがゆる〜くリンクしている。どこかから帰国したキム・ミニは靴屋を営む友人宅に泊まり、猫(ウリ)と戯れる。やっぱり、キム・ミニかわいい。ウリウリ。ウクレレ並みに小さいギターに驚いた。いや、あれは六弦ウクレレ? 一方、若い女性にドキュメンタリーを撮られている禁酒・禁煙中のキ・ジュボンには若い男の来訪者。結局三人で酒盛りに突入し、野球拳みたいなの始めてグダグダ。明らかに女の子は焼酎で(本気で)酔っ払っていた。ラーメンにコチュジャンは、味変にはいいけど最初から入れちゃダメでしょ。てな感じでホン・サンス節を楽しんだ。で、キム・ミニとキ・ジュボンに関係はあるのか、ないのか。まあ、それも観客次第であるが、僕は“ある”に一票。
#84「神に誓って」ショエイブ・マンスール/2007/パキスタン/Dec. 16/東京外国語大学 アゴラ・グローバル プロメテウス・ホール○
パキスタン映画。イギリスで生まれ育ったパキスタン人娘とラホールの音楽好き一家の兄弟を主人公とした、イスラム社会内部と、イスラムと外部(主にアメリカ)の問題を浮き彫りにする作品。イスラム教の下での娘(Iman Ali)と弟(Fawad Khan)の強制結婚に代表される女性の立場。そして、シカゴの音大に留学した兄(Shaan)の911後の受難が凄まじい。これをパキスタン映画として、しかもアメリカ側のスタッフも入れて製作できたことにやや驚く。エンドクレジットにはMumbaiの文字も見えたりNaseeruddin Shahが出てたりして、パキスタンとインドが睨み合うだけではないことがわかるのもグー。…と、そうか本作は2001年より後、2008年より前なんだ。なるほど…Fawad Khanといえば、『Khoobsurat』でSonam Kapoorの相手役やってたね。『Kapoor & Sons』ってのもあった。あの頃は印パ関係は良好だったということか。上映後に外大の萬宮教授による解説、というか監督と背景となるパキスタン社会の紹介があった。
#83「欲望の翼」王家衛/1990/香港/Dec. 9/ル・シネマ渋谷宮下○
4Kレストア版。王家衛の私的ベストは『恋する惑星』なわけだけど、監督らしさという点では本作の醸し出す雰囲気がMAXである。サッカースタジアムでの張曼玉と張國榮の出会いから、結局作られなかった第二部の梁朝偉が唐突にあらわれるエンディングまで、ムンムンする蒸し暑さの世界に浸る。ぼーっとしてくるので、緻密なストーリーは不要。気障な張國榮、寡黙な劉徳華、頼りない張學友、可憐な張曼玉、ダイナマイトな劉嘉玲、そして妖艶な潘迪華。この超豪華な出演陣一人ひとりの演技を堪能しよう。特に本作の劉嘉玲はすばらしく、彼女の最高傑作だと思う。観た後、香港でいろいろロケ地も訪問したなあ。懐かしい。さすがにフィリピンには行ってないが。クレジットは4Kレストアしてもあの頃のアナログな雰囲気は消えておらず、安心した。そのエンディングに流れる唄は梅艷芳姐御。彼女も張國榮も同じ2003年に亡くなった、ってもう20年経つんだね。
#82「ディス・マジック・モーメント」リム・カーワイ/2023/Cinema Drifters/Dec. 9/シアター・イメージフォーラム○
あなたの微笑み』の姉妹篇のような。監督自身が全国のミニシアターを訪ね関係者にインタビューし、シネコンに駆逐され消えゆく単館上映館を偲ぶ全映画ファンがしんみりするドキュメンタリーである。すでに閉館した小屋や亡くなった関係者があり、悲しさが倍増する。構成はきわめてシンプル。各劇場内で、客席に並んで座るふたりの会話をスクリーン側から固定ショットで撮る構図が、ぴったり左右対称で気持ちいい。シアター・ドーナツ、いいね。ドーナツなら劇場で食べてもうるさくないし。ほかにもこういうアイデア出せるんじゃないかな。酒屋入れてオールスタンディングで角打ち上映専門とか。巨大モール+モータリゼーションに制覇された街の商店街と同様、風前の灯といえる単館。ちょうどシネマ・ジャック&ベティ支援のクラウドファンディングやってるね。みんな、映画館(シネコンを除く)に行こう。
#81「青春」王兵/2023/仏=ルクセンブルク=蘭/Nov. 26/有楽町朝日ホール(FILMeX)○
織里という浙江省の町に集まる縫製所ではたらく若者たちを4年越しで追ったドキュメンタリー。今回のは『春』篇で212分。上映後のQ&Aで監督は三部作の予定で9時間ちょっとになるだろうと発言。いつもながら長い。ときどきウトウトして観てた身で言うのもなんだけど、ここまでいくと結構おもしろい。劣悪環境で住み込みで働く若者たちも、カメラを意識していることもあろうが、楽しんでしごとをしているし、しごとが終われば異性の同僚とふざけ合う。歩合制であることが理由だろうが、給料が後払いであることに驚く。しかも、加工単価をあとで交渉してた。これじゃ労働者が不利だ。それにしても凄まじいスピードで服を縫い上げていてみんな優秀だなあと思ってたら、案の定、結構不良を出しているみたい。中国製品の品質の根源を見たって感じ。監督は彼らにいくら払って撮影したんだろう。何時間撮った結果の9時間なのか知りたい。Q&Aで聞けばよかったな。
#80「水の中で」ホン・サンス/2023/韓国/Nov. 26/有楽町朝日ホール(FILMeX)
サンス、サンス、ホンサーンスッ♪ フィルメックスに定番のホン・サンスというわけで、寒い中るんるんと出かけた。が、残念ながらこれまでのホン・サンス作品では最悪だな(個人の見解です)。一貫してのピンボケ画面(ピンホールカメラじゃないぞ)はさすがにちょっと耐えられない。キム・ソンユンの顔がよくわからない。シン・ソクホが出会うゴミ拾い女ってキム・ミニだった? それもよくわからない。まあ、展開されるストーリーはいつものホン・サンス調で、どこかの南の島に撮影にやってきた男ふたり、女ひとりの日々。歩いて、食べて、呑んで、ぼーっとする。で、ある日撮影開始。海に向かうシン・ソクホ。完全に入水したように見えたけど、帰ってきたのかな? それもよくわからない。好き嫌いはひとそれぞれだけど、この作品を評価するひと、仕掛けたホン・サンスに笑われてるかもしれないよ。いや、まさか次作もこの路線じゃないよね。
#79「川辺の過ち」魏書鈞/2023/中国/Nov. 25/有楽町朝日ホール(FILMeX)○
余華の同名小説の映画化とのこと。原作を知らないのでどれくらい忠実なのかはわからないが、真実になかなか到達できない連続殺人事件を担当する主人公刑事(朱一龍)の焦りが悲痛なフィルム・ノワールに仕上がっている。地方の閉館した映画館を捜査本部にするって『兎たちの暴走』と似たような設定だね。中国でもシネコンがはびこり、単館は減っているんだろう。精神障害がひとつのキーになっており、生前診断でその可能性が指摘された主人公夫婦の苦悩が、容疑者の精神障害と並行して描かれ、映画の重みを増している。ただし、エンディングは、ちょっと逃げたな、感あり。捜査が深みにハマる中、主人公が現実と悪夢の間を彷徨うさまがホラー映画のように恐ろしい。撃ったはずの拳銃はなぜフル装填なのか。完成したジグソーパズルは現実なのか。
#78「ミマン」キム・テヤン/2023/韓国/Nov. 25/有楽町朝日ホール(FILMeX)★
迷妄、未忘、彌望、微望。すべて“ミマン”と読むキーワードで進行する、青春終盤〜オトナあたりの男女の数年おき3つの物語。上映後のQ&Aで元々“未亡(ミマン)人” へのモヤモヤから発想したと監督が言っていた。韓国でも“未亡人”なんだ。韓国初の女性監督が撮った『未亡人』が映画中でも使われ、それを解説する女性主人公(イ・ミュンハ)が言うように、映画の話が劇場を出た観客、主人公当人、そしてこの映画の観客の生活につながっていく、三重構造。冒頭のロングショットで撮影されたふたりが会話しながら歩くシーンなど、大好きな『恋人までの距離』を彷彿とさせた。このシーンを含め、再開発が進むソウル光化門周辺をロケ地とし、特に右手に剣を持つ李舜臣像が繰り返し写され、登場人物たちの話題にのぼる、この繰返し感も気持ちいい。懐かしいカフェ“小雨”での超長回しシーンもよかったなぁ。次作も期待大。
#77「華麗なる一族」山本薩夫/1974/芸苑社/Nov. 23/国立フィルムアーカイブ○
月丘夢路・井上梅次100年祭の一本。山崎豊子の同名小説の映画化で、当時相当ヒットしたらしい。カラーでスタンダードサイズなのが意外。小津じゃないんだから、こういう大作はドーンとシネスコでやってほしいと東宝なら言うだろうが、独立プロだとそうもいかないのかな。エロ爺・佐分利信の奥さんが月丘夢路。入浴&全裸シーンあり。まあ後者は吹き替えだけど、さすがよろめき夫人である。で、佐分利信の妾に京マチ子。毒婦をやらせたらピカイチだね。などなど、出演陣が超豪華。腹黒い奴らばかりの政財界のドロドロを描く物語はもちろん見応えがあって面白いし、ホテル・オークラ、ホテル・ニュージャパンなど、建築も極めて興味深い。211分という長尺も気にならなかった。気になったのは、万俵家の子供たちの名前。長男(仲代達矢)は鉄平で製鉄会社勤め、次男(目黒祐樹)は銀平で銀行勤め。さらに長女(香川京子)は一子、次女(酒井和歌子)は二子ときたもんだ。そこんとこどうなの、山崎先生。
#76「熱帯雨」陳哲藝/2019/シンガポール=台湾/Nov. 12/ヒューマントラストシネマ渋谷★
これは傑作。『881 歌え!パパイヤ』の楊雁雁演じる、シンガポール人と結婚したマレーシア華人国語(つまり中国語)教師に降りかかる義父の介護、不妊、夫の浮気、気になる男子生徒との不適切な関係などが、熱帯雨のどんよりした空気の下、繊細なタッチで語られる。テレビでいつも胡金銓の『侠女』とか『大酔侠』を見ている半身不随の義父と、成龍が大好きで演武をやっている男子生徒のふれ合いが絶妙。夫の浮気を知りながら、うんこで汚れた義父のおしりを拭く、子供のない妻。切なすぎる。その義父が亡くなったとき、奇跡は起こり、空は晴れ、彼女は解放される。シンガポール国籍なんて要らない。彼女の未来に幸あれ、だ。ところで、教室でドリアン食べるのはいけないんじゃないかな。あと、気になったのは、楊雁雁が車で毎日打つ注射。あれは何だったんだろうか。
#75「ゴジラ -1.0」山崎貴/2023/東宝/Nov. 12/TOHOシネマズ渋谷○
神木隆之介、浜辺美波の『らんまん』コンビ主演、安藤サクラまで出てて朝ドラムードいっぱいのゴジラ映画。『らんまん』を見ながら神木隆之介の演技はどうも好かないと思っていたのを思い出した。演じる元特攻飛行兵でも、その表情にリアリティが感じられず。一方の浜辺美波は、喋り方が朝ドラと同じでテレビを見てるのかと錯覚しそうになった(やや誇張あり)。肝心のゴジラについては知能があるのかないのか、とにかく凶暴で無目的に見えた。あれだけ都心で暴れれば、何十年も首都圏は放射能汚染でゾーンになるはずだが、みんな平気そうだったし、このような怪獣にリアリティを求めてもしかたないとわかってはいるが、爆破されても再生するってターミネーターみたいなのは20世紀半ばにあっちゃいけない、と勝手に思う。そうそう、みんながやってる敬礼がね、加東大介説くところの海軍式と違うんだ。こうじゃない、こうっ。エンドクレジットに一畑電鉄の協力が。へー。
#74「サタデー・フィクション」婁燁/2019/中国/Nov. 11/新宿武蔵野館○
原題は『蘭心大劇院』。上海に実在の劇場である(行った記憶なし)。こことCathay Hotel (現在は和平飯店; 泊まったことはない)を舞台として、太平洋戦争直前における日帝、重慶、南京、連合国間のスパイ合戦が描かれる。演劇と現実を入り交ぜて観客を錯乱させるシナリオは成功していると思う。虹影の『上海之死』と横光利一の『上海』がベースとのこと(後者は読んでいるが、憶えてない)。主演は鞏俐、撮影当時53歳?。画面が終始暗めだからというのもあろうが、いやあ、若い。女優兼連合国系の工作員を貫禄で演じている。相手役は趙又廷。台湾俳優だが、本作では重慶寄りの左翼舞台監督だ。で、日本からオダギリジョーが新しい暗号を持ってきた陸軍少佐として出演。オダギリジョー、僕にはまだ『カムカムエヴリバディ』の印象が強くて軍人にはとても見えなかった。製作にUPLINKが絡んでおり、他の日本人もちゃんと日本人が演じ違和感がない(皆無とは言わないが)のはよかったな。
#73「軽蔑」ジャン=リュック・ゴダール/1963/仏=伊/Nov. 11/ヒューマントラストシネマ渋谷○
60周年4Kレストア版。うぅ、スクリーンが小さかった。イタリアを舞台とするミシェル・ピコリ(脚本家)とブリジット・バルドー夫妻の破綻劇。おなじみカプリ島のヴィラ、マラパルテ邸で炸裂するBBの魅力を堪能する映画だ。フリッツ・ラング(本人)が撮影中の『オデュッセイア』を低俗にしろと脚本改変をプロデューサーのジャック・バランスから依頼された脚本家と、依頼主に自分が手を出されるのに対し無策の夫を軽蔑する妻、という構図。ゴダールは彼女にアンナ・カリーナを見ていたらしいが、詳しいことは知らない。夫を見限った妻とプロデューサーが事故死する車は(当然)赤いアルファロメオ・スパイダーであった。レストアの効果は抜群と思われ、赤、青、黄、そしてBBのブロンドがよく映えていた。いまみると、ミシェル・ピコリがむちゃくちゃかっこいい。あの帽子の被り方は最高だな。
#72「相撲ディーディー」Jayant Rohatgi/2023/インド/Oct. 29/TOHOシネマズ シャンテ(TIFF)○
インドにはレスリングがあって男女とも結構盛んだし、Sumoもほとんどのインド人がテレビなどを通じて日本のイメージとして知っていると思うが、確かに相撲をやるという話は聞いたことがない。そんなインドで女性初(インド初?)の力士となったHetal Daveが国際試合で銅メダルを取るまでの実話ベースの物語。国際試合のくだりは、インド人大好きの“インドがんばれ”モードなのでどこまでほんとかは疑わしいものの、体にコンプレックスを抱えた女性が自分を見出し成長していく爽やかな青春スポ根コメディーに仕上がっている。舞台はKolkataで、有名観光地を背景にしているところが、スタッフも観光客気分みたいで楽しい。彼女のコーチに“元横綱タオシ”。実際には佐藤さんという元力士らしい(イズミサト?)。タオシに招かれ日本は千葉県・佐原にある彼の自宅でトレーニングする。日本人でも佐原を知るよい機会になった。で、両国には行かなかったのは、千葉のフィルムコミッションが紹介しなかったから?
#71「ロングショット」高朋/2023/中国/Oct. 29/ヒューマントラストシネマ有楽町(TIFF)○
祖峰は射撃の衝撃で難聴になったらしいが、僕にとって本作の甚大な衝撃は秦海璐の変わり果てた姿であった。あの華奢な女性はどこに行ってしまったのか。てなことはさておき、東北地方の、財政難故に何ヶ月も給料が出ていない鉄工所の警務室で働きながら秦海璐と付き合っているまじめな中年男(祖峰)が、職場で頻発する窃盗に立ち向かう。で、久しぶりに給料が支払われることになり、現金を積んだSUVが工場にやってくる。そこで起こる事件で明るみになる真実。字幕で説明されたが、1990年代の中国では警備のための武装(しかもマシンガン)が認められてたらしい。なかなか見応えのある銃撃戦だった。祖峰は隠し持っていた競技用の単発拳銃を使い、正確な射撃で応戦する。うひょー。祖峰は老いて剽軽さを失った柴田恭兵のように見えた。秦海璐が浅野温子には見えなかったのは残念だ。でも、映画はよかったよ。
#70「西湖畔に生きる」顧暁剛/2023/中国/Oct. 28/丸の内 TOEI(TIFF)○
自然の美しさと人間の醜さの対比というか映画の中での共存を目指したチャレンジングな作品。舞台は浙江省杭州市西湖。龍井茶で有名なところだ。西湖はそうでもないが、茶畑と森が圧巻だったな。茶摘みから健康足裏湿布のセールスに転向する母親を介して、マルチ商法の内幕という人間界の暗部に移行していく。母親をなんとか救い出そうとする息子。あんな怪しい態度じゃ、すぐに潜入者だとバレるでしょ。ボロボロになりながら地獄を抜け出した母子はふたたび森に帰っていく。上映後のQ&Aで、監督が原題『草木人間』について説明。草と木の間に人=茶、という構造を知り感心。主演の女優は蒋勤勤(Jiang Qinqin)。当然いるよね、この名前のひと。市山さんはさらっと紹介していたが…。Q&Aに登壇したゲストは六人もいたのだが、中に王宏偉がいて、このおっさんだけ違う雰囲気を漂わせていた。出演していることに気が付かなかったのは内緒である。
#69「年少日記」卓亦謙/2023/香港/Oct. 28/ヒューリックホール東京(TIFF)○
観客をハッとさせるシナリオが秀逸で、かなり気に入った。『星くずの片隅で』と同じく、黒社会も政治も出てこないイマドキの香港良品映画。校内で見つかった、捨てられた遺書の書き主を探そうとする教師(盧鎮業)が、この事件をきっかけに古い日記を取り出す。頭のよい弟だけを溺愛し、落第する兄には容赦なく、母親にも手をあげたDV父の記憶。病院で最期を迎えようとしているそんな父に対し教師は冷たいのだけど、最後には焼売を一緒に食べようと病室にやってくる。書き主は誰でもなり得ることが学生たちの匿名性を使ってうまく描写されていたし、この事件の終わり方もスマート。教師が子供を持つことへの恐怖心から別れてしまった妻とも父親の葬儀で再会。そんな感じで、ハッピーエンドとまでいかなくても観客全員が穏やかになった。この元妻役の陳漢娜のそばかす顔が可愛かった。東京国際映画祭ももう36回目。そろそろ国際的な地位が高くなってほしい。
#68「突貫小僧 [パテベビー短縮版][マーヴェルグラフ版]」小津安二郎/1929/松竹蒲田/Oct. 24/国立フィルムアーカイブ○
パテベビー短縮版は1998年に観ている。今回のマーヴェルグラフ版は小津ネットの築山氏がネットオークションで入手したものらしい。なるほど、巷にはまだまだお宝が眠っているらしい。パテベビーは9.5mmだがこれは16mm。それだけでも情報量が多そうだが、時間も21分で7分長い(オリジナルの劇場向けは38分)。両者の違いをその場で確認できる、ありがたい比較上映である。とはいえ、パテベビー版にあってマーヴェルグラフ版にないカットは、後付けの字幕などを除けば気が付かなかった。増えた部分は、移動撮影等、色々興味深かった。横浜と言ってたけど、どこの公園の噴水かね、あれは。かくれんぼをする子供たちに葉山正雄がいたね。突貫が坂本武の10円ハゲに吸盤式の矢を放つシーンは、小津映画では極めて珍しい特殊撮影と思う。まあ、失われた作品も含め初期にはよく使っていたテクニックかもしれないけどね。
#67「淑女と髯」小津安二郎/1931/松竹蒲田/Oct. 24/国立フィルムアーカイブ○
東京国際映画祭の関連企画で小津特集。平日夜に出京。目当ては『突貫小僧』マーヴェルグラフ版だが、おまけでこれが付いてきた。劇場で観るのは約30年ぶりってほんとかね。岡田時彦のアパートにLaurel & Hardyのポスターが貼ってあるように、アメリカ式のギャグがこれでもかと盛り込まれている。髯を剃ることによる岡田の変貌と周囲の変化がもちろん目立つが、それに対する川崎弘子の不動の姿勢と、それがもたらす伊達里子の更生が本作の真の見どころである。笠智衆、飯田蝶子、吉川満子らの若い姿が見られる。長身の笠智衆、かっこいいよ。伊達里子はリンカーンを運転してたけど、ありゃ誰のかね。いくら不良でもあんな高い(実際幾らかは知らないが)くるまを買う金は作れまい。ノロノロ運転する姿が微笑ましかった。昔は日本でもケーキをインド式に手づかみで食べていたことがわかったのが今回の収穫だな。ところで、夕飯時のサイレント上映は、なかなかサイレントにはならないね。
#66「極限境界線 - 救出までの18日間」イム・スルレ/2023/韓国/Oct. 22/横浜ブルク13○
拉致された韓国人グループの解放を求めて、外交官(ファン・ジョンミン)と国家情報院の諜報員(ヒョンビン)がタリバンと交渉に臨む。ふたりのスターをフィーチャーした構成なれども、2007年、アフガニスタンで実際に起こった事件を題材とした硬派なアクションドラマに仕上げたイマドキの韓国映画である。渡航禁止のはずのアフガニスタンに布教のため特殊ルートで入国した宗教団体23人という微妙な自国民を救わなくてはならない韓国政府。身代金は払わずかつ一人の犠牲者も出さないという命題の元交渉に入るが、相手が悪いしアフガニスタン政府もタリバンに対して強い姿勢で悪戦苦闘。結局2名の犠牲者は出たが、最後には残りの救出に成功する。この交渉が事実に忠実とは思わないが達成感MAXとしない演出にリアリティを認めた。終いには人質の入国動機などは不問になっているが、現実はどうだったのだろう?(どこかの国だったら、という話はやめておく。)
#65「キラー・オブ・ザ・フラワームーン」マーティン・スコセッシ/2023/米/Oct. 21/TOHOシネマズ上野○
上映時間206分。インド映画より長くてインターミッションもない、スコセッシとロバート・デ・ニーロの80歳コンビが創り出した、エキサイティングなれど悲しい犯罪映画である。1920年代にオクラホマ州のOsage郡で石油権益を巡って実際に起こった先住民Osage族に対する連続殺人事件を描く。張本人の牧場主をデ・ニーロが、その甥でOsage族の裕福な女性と結婚し伯父(叔父?)の凶悪犯罪の片棒を担ぐ男をレオナルド・ディカプリオがそれぞれ演じる。先住民族に対する人権意識が希薄な白人の非道ぶりが際立つ演出は、監督の先住民族へのリスペクトの一面であろう。それはOsage族の言葉や文字をふんだんに差し込むことでも感じられた。ディカプリオの妻を演じたLily GladstoneはNative Americanの血筋のようで、やはりアジアとの繋がりを感じさせるルックスだった。監督自身が最後の最後に登場。80歳はまだまだ元気だ。2億ドルの制作費がちゃんと回収できるといいね。まあ、Appleが出資してるから赤字でもいいか。
#64「アアルト」ビルピ・スータリ/2020/フィンランド/Oct. 15/ヒューマントラストシネマ有楽町○
AAで始まる人物といえば、アーミル・カーンとこのひとである。とはいえ、ライト、コルビュジエ、ミースあたりにはなじみ(建物の実物を少なくとも一度は見たこと)があっても、アアルトといえばスツールやアームチェアで、建築が具体的にイメージできないのが恥ずかしながら正直なところ。このドキュメンタリーでお勉強しようと思った次第。ランチで飲んだTiger Beerが効いたのか無念にもウトウトしてしまったのだけれども、いくつものすばらしい建築の姿を拝むことができた。MITの学生寮など、レンガがいい感じ。ライトやコルブがきわめて変人なのに比べれば、アアルトは至極まともなひとだったらしい。同業者と結婚し、病気で亡くすとほどなくまた同業者と再婚、それが前妻によく似てるってのがチラっと性格を物語る。ヘルシンキは旅先としては優先度が残念ながら低い。どこか近くに作品がないものか。
#63「栗の森のものがたり」グレゴル・ボジッチ/2019/スロベニア/Oct. 15/シアター・イメージフォーラム○
言葉がイタリア語にしか聞こえない。それは僕がイタリア語もスロベニア語もわからないからなのだが、この類似性からスロベニアはラテン系なのかなと思ったが、この暗さはギリシャ、というかアンゲロプロスに近い。記憶、幻想、夢、現実が重層的に配置される好きなタイプのシナリオ。で、映像も深みがあって、光の増減がこれまた心地よい。しかも、ときどきダンスなどのアクティブなシーンもあり、眠くならない。『アイドルを探せ』も突然かかるし。そんな感じで、この老いた大工と若い栗拾いの女性の悲しいものがたりを満喫した。一点、静かなシーンの音が繊細すぎて、劇場では病気の奥さんの息遣いがよく聞こえなかったのは残念だった。序盤の大工が興じるじゃんけんのようなゲームと、冒頭およびエンディングの栗林に掘られた四角い穴が謎だ。栗のイガを詰めたその穴は落とし穴かと思ったのだが、どうなんだろ?
#62「明日は日本晴れ」清水宏/1948/松竹/Oct. 1/シネマヴェーラ○
清水の戦後第二作目。ネットでは松竹作品となっているが、クレジットはなんとか社という独立プロのようだった。明らかに自身の傑作『按摩と女』と『有りがたうさん』を合体させつくり出した清水調朗らか無難作品。ではあるが、終わったばかりの戦争、というかそれを起こした国に対する清水の怒りが露わに刻まれている。戦後間も無くの岐阜の山中をバスが行く。運転手は水島道太郎、水島に思いを寄せる車掌は三谷幸子。バスには、どうやら昔水島と付き合っていた東京帰りの踊り子・国友和歌子をはじめとする実にダイバーシティのある乗客が、故障したバスを背景にさまざまなドラマを起こすのである。その筆頭が按摩さんの日守新一。徳大寺伸がいなくてもバッチリと映画を先導(扇動?)していた。久しぶりに清水映画を堪能した。しかし、視覚障害者や聾唖者へのイジリは現代では御法度だぞ。
#61「娘の季節」樋口弘美/1968/日活/Oct. 1/シネマヴェーラ○
いづみさまの引退直前作(#106)。舞台は川崎、臨港バス(映画では新港バス)。ツーマンからワンマンへの移行期におけるバス車掌が和泉雅子。コンビを組む運転手が杉良太郎。ふたり自身、ふたりの周囲で起こるさまざまなドラマが描き込まれていく。いづみさまは労災で片腕をなくした元バス車掌、現バス会社事務員兼女子寮長でスモックご着用。義手には常に白い手袋。こわい。叱られたい。藤竜也が出てて、ワンマン化に反対する労働組合長を景気良くやっていたと思ったら、ちゃっかり係長昇進の話に乗り会社側へ。いづみさま、そんな男と結婚してはいけませぬ。映画は、和泉雅子と杉良太郎が結婚を決めてハッピーエンド。女子寮を飛び出しホステスになってパチンコ屋経営の台湾人・高さんと結婚するのは笹森礼子かと思ったら、体つきが華奢じゃないので別人と気がついた。妹の笹森みち子だった。調べたら笹森礼子はこの年にはすでに引退してた。
#60「燃えあがる女性記者たち」Sushmit Ghosh, Rintu Thomas/2021/インド/Sep. 18/ユーロスペース○
前の回に望月衣塑子氏のトークがあったようだ。残念。これはとても観たかったドキュメンタリー。インドUP州で設立されたダリット女性たちによる新聞社で三人の記者にスポットを当て、彼女らが彼の国の最も醜い部分に挑んでいく姿を追う。当然インド国内では上映機会などないだろう。国外では絶賛の嵐である。UPなんてBJPの牙城。スクリーンには出てこないが、ModiやYogiやCowが絶大な支持を受ける歪んだ民主主義の州である。レイプ事件や殺人事件が起こっても被害者がダリットであれば揉み消されるなど、ダリットが何をされても彼らのカルマに帰着させる狂気のヒンドゥー教徒。これが国の8割いれば、それを地盤とする政党は何でも都合よく正義にできるんである。そんな国がいまや世界最大人口。実に心配だ。イスラム教やカトリックも含め、宗教が政治と結びつくとロクなことはない。統一教会の影がちらつく日本も例外ではないぞ。ふぅ。ちょいとかわいいSuneetaはSruthi Hariharanに似てる気がした。
#59「私の大嫌いな弟へ ブラザー&シスター」アルノー・デプレシャン/2022/仏/Sep. 18/Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下○
というわけで、デプレシャンの新作をチェック。仲が悪い姉・マリオン・コティヤールと弟・メルビル・プポー。序盤は弟の激しさが強調され、中盤になって姉の不安定さが露呈する。なんだ、結局似た者姉弟か。きっかけは最後まで語られないが、この性格がぶつかり合えば、そんな状況にもなるかなー。でも、あのおだかやそうな両親からこんなふたりが生まれるだろうか、とか考えていると、観客をほっとさせるエンディング。いや、あのままだと遺産相続で血を見たでしょ、ほんと。『イスマエルの亡霊たち』にも出てたマリオン・コティヤールって、ちょいと苦手。スーザン・サランドンに似てない? ところで、本作でもユダヤ人問題(?)が出てくる。イスラエル大嫌いだけど、ユダヤ人の歩みには興味津々である。ひとまず、ユダヤ人とは人種ではなくユダヤ教徒のことだと週末に勉強した。おとといのもそうだったが、道ゆくクルマにトゥインゴはいなかった。
#58「Mark Antony」Adhik Ravichandran/2023/インド/Sep. 17/SKIPシティ映像ホール
インドで公開されたばかりのVishalの新作を観に川口まではるばるドライブ。Vishalのwildでrowdyな姿を予告篇で見たきりで、なんの事前知識もなかった。始まってみればタイムトラベルものの一種で、マルクス・アントニウスとはまったく関係がないらしい。タイムトラベルものは必ず破綻するし全体としてはコメディーのようなので、ここでシナリオを追うのはやめ、Vishalのアクションとタミルダンスに集中することにした。うん、アクションはあまりなかったが、ダンスシーンはたくさんあった。Vishalとペアを組むのがS. J. Suryahというのが怪しさ満点で、案の定の展開。ふたりの二役というのは面白いけど、まあそれだけだな。(終盤に出てくるスキンヘッドは誰?) Ritu Varmaの出番は極めて少ない。出演する意味がわからない。とにかく、Vishalにはもっとクールな役をやってもらいたい。タイトルクレジットでVIjayとKarthiへの謝辞があった。ナレーションがKarthiだったらしいが、Thalapathyは?
#57「イスマエルの亡霊たち」アルノー・デプレシャン/2017/仏/Sep. 16/国立映画アーカイブ(PFF)○
分身マチュー・アマルリックを映画監督としていて、ホン・サンスみたいに自分を反映した作品かな、と思ったら違ってた。失踪した妻や地球の裏側にいる仲の悪い弟に悩まされる神経のいかれた映画監督、身障者の弟を抱えて自分の人生を半ば諦めた天体物理学者(シャルロット・ゲンズブール)、突然インドから戻ってくる妻(マリオン・コティヤール)、その父親で高名な映画監督、弟を題材にした撮影中のスパイ映画。破天荒な主人公を中心に(いかにもフランス的な)さまざまなことが起こるその裏側にあるのは、主人公とその妻に出会って変わっていく天体物理学者の姿である。見応えあり。義父はユダヤ人(つまり妻もユダヤ人。主人公も?)。映画中でもそれを背景としてエピソードがあるのだが、フランス(あるいは欧州)におけるユダヤ人の立ち位置を残念ながらわかっておらず、その点がモヤモヤした。新作公開にあわせて来日した監督が上映後の対談に登壇。しっかりフランス人のおっさんになっていた。渋くなっているマチュー・アマルリックとは対称的。
#56「Kushi」Shiva Nirvana/2023/インド/Sep. 10/池袋HUMAXシネマズ
Samanthaという女優は昔から結構気に入ってて、その理由はぷにゅぷにゅした肌、もとい、その演技力である。日本では『マッキー』くらいでほぼ無名と思われるのに、なぜか知らぬがその新作の上映会があるというので出向いたら、案の定客席はガラガラだった。最近減ってきたテルグ映画王道のファミリーもの。Vijay Deverakondaは無神論者の父をもち、SamanthaはばりばりBrahmin家庭で育っているという対極のふたりが、家族の反対を押し切って結婚するも子供に恵まれずぎくしゃくする話。前半はKashmirが舞台でイスタンブールでのダンスシーン、アレッピロケもある豪華版なれど、残念ながら話がおもしろくないし、Samanthaの演技力も活かされていない。ヒンディー語を喋らせるためか声も吹替えだったしね。驚いたのはBrahmanandamがカメオ出演していたこと。もう5年以上見かけず、モウロクでもして引退したとばかり思っていた。まったく変わりなさそうだった。英語字幕。
#55「兎たちの暴走」申瑜/2021/中国/Sep. 3/K's cinema○
原題は『兔子暴力』。そうか、うさぎって字、日中違うんだ。実話をベースとした、美人母娘(←ここが実話ベースかどうかは不明)が誘拐事件を犯すまでの物語。かなりよかった。古い工場を抱える街の感じも悪くない。そこを疾走する黄色いセダン(一瞬タクシーかと思った)の浮き加減が、娘(李庚希)を一歳足らずで見捨てた母親(万茜)の異常性を示唆する。詰めた小指(くっ付けようとしているようだ)が意味するものは何か。母親が娘のもとに突然帰ってきて関係を順調に修復している最中、ヤクザが乗り込んできて母親の素性が明らかになる。母親を救い、二度と姿を消さないよう、娘の必死の策略が始まる。最近ありがちな、冒頭にクライマックスをもってきて、結末を見せる前に時間を巻き戻してそこに至る経緯を描く構造。かと思いきや、過去のパートの途中で映画は終わってしまう。結末は字幕。ひょえー、大胆だな。その空白を空想すべし。過去に戻れるトンネルも、抜けた先を見せてはくれなかった。監督…
#54「エドワード・ヤンの恋愛時代」楊德昌/1994/台湾/Aug. 27/kino cinema横浜みなとみらい★
4Kリストア版。京都国際映画祭で『獨立時代』として最初に観たときには“まずまずだね”とか書いてる。いや、これ傑作でしょう(→翌年の言い訳)。90年代版『台北ストーリー』では、社会人となった陳湘琪、倪淑君、王維明という同級の青年たちが、ぶつかりながら手探りで人生を進んでいく。ラストシーンは何度見ても最高だ。『牯嶺街少年殺人事件』を頂点とする、楊德昌お得意の群像劇だが、中でもこれは演劇性が高いと思う。“生きることを楽しむ”という、小説家の悟りは真である。その小説家は、“天安門”だの“一国両制度”だの、危うい言葉を連発していた。大陸では上映禁止だな(実際はどうだか知らないけど)。陳湘琪、『台北ソリチュード』以降見かけないなぁと思っていたけど、まだ現役で結構映画に出て賞も獲ってるんだね。大女優じゃないか。近作を観てみたいものだ。
#53「あしたの少女」チョン・ジュリ/2022/韓国/Aug. 26/シネマート新宿○
『私の少女』(2014; 未見)にあやかった邦題が付けられているが原題は『Next Sohee』。刑事(ペ・ドゥナ)が、コールセンター実習生ソヒの自死に至った背景を追求する姿を描く労働問題の“Me, too”だ。『私の…』のテーマがDVだったようなので、社会問題に眼を向ける監督と認識。本作は、コールセンターにおける顧客vs企業の陰湿な戦い(カスハラvsマインドコントロール)というローカルな話はメインではなく、KPIに呪われ多くのものを犠牲にしながらメンバー間、部門間で競争する組織のあり方と、事件や問題が起こっても誰も責任を取らない、なれ合い・事なかれ主義を許す被害者個人が報われない社会構造を訴える。2017年に起こった実話をベースにしているとのことで、問題は解決されず、最後まで回収されない事柄も散見され、まさにそういう社会に生きていることを実感している観客には、悲しさと虚しさと怒りが渦巻くのみである。こういう映画をニヤニヤして観る輩もいるだろうな。ペ・ドゥナはおばさんになっても、いいね。
#52「Jailer」Nelson/2023/インド/Aug. 11/ヒューマントラストシネマ渋谷○
, Hey, Hey, Hey♪ SUPER STAR R-A-J-N-I… お馴染みのオープニング。インド人でいっぱいのホールの大声援と、平気なスクリーンのスマホ撮影。ここはほんとに日本か? インド公開に合わせたThalaivar 169上映会。衰えを隠せなくなった最近のRajinikanthだが、本作は実年齢に近い設定もあって合理的にアクションやダンスを控え、それでいてちゃんとSuperstar映画になっている点がよかった。G ratedで上映するには描写にいささか残虐性が認められるが、シナリオはやや散漫ながらも意外性があった。見どころは豪華カメオ出演陣、というと怒られそうだけど、Dr. Shiva Rajkumar (from Sandalwood), Mohanlal (from Mollywood), Jackie Shroff (from Bollywood), そしてTamannaah (from Tollywood)の登場には興奮するよね。特にShiva兄貴の迫力にはファンならずとも圧倒された。Rajiniの家から見えるArun Icecreamsの看板が目立っていた。スポンサーだな。多言語が飛び交っていたがちゃんと英語字幕では何語かラベル付けしてあって親切だった。
#51「ジェーンとシャルロット」シャルロット・ゲンズブール/2021/仏/Aug. 5/ヒューマントラストシネマ有楽町○
シャルロットによるジェーン。邦題は“と”だが原題は“par”であり、あくまで主役は母親のジェーン・バーキンである。彼女も今年永眠した組。過去の歌やフィルムをいろいろ散りばめた回想録かと思いきや、母親の晩年を娘が密着記録したドキュメンタリー。明らかにフランス人のものではない“メルシー”から始まる映像は、なんと2017年の東京であった。それからブルターニュの自宅、ニューヨーク、パリとロケーションを変えながら、娘と母との対話がなされる。老いて何も求めないけど前向きなジェーン・バーキンである。しかし、ジョン・バリー、セルジュ・ゲンズブール、ジャック・ドワイヨンという錚々たる作家たちと結婚し、それぞれ娘一人ずつ産んだ女の一生は、波瀾万丈だったろうね。すきっ歯もいつの間にか治るくらい。パリのゲンズブール旧宅は前まで見に行ったことがあるかな。今度公開されたんだっけ。映画の中ではふたりが旧宅を訪問し、その公開について話していた。
#50「フィフィ・マルタンガル」ジャック・ロジエ/2001/仏/Aug. 5/ユーロスペース○
まだあったJacques Rozier未見作。亡くなったのは今年だが、2001年(21世紀だ)製作の本作が遺作らしい。もはやビキニの女の子は出てこないものの、空気感は同じである。ある劇団の座長(Jean Lefebvre; このひとの遺作でもあるようだ)が金策のために、別の劇団で演じたりその前金を元手にカジノに行ったりする、基本的にはコメディー。劇中劇含めあまり笑えないが、まあいいじゃないの。空気を楽しむのだ。座長の相手をする別劇団のメイド役Fifiは、あの三人娘ではないが『メーヌ・オセアン』にも出演していたLydia Feldだ。どちらかというと彼女を軸に物語が進む。まあ名前が題名に入ってるから当然か。で、“過去の情報に制限して計算した期待値と未来の期待値が同一になる性質”がmartingaleらしい。彼女がおまじないをするとルーレットが的中する。オープニングクレジットにYohji Yamamotoの名前が。誰かの衣装を担当していたのだろうか。
#49「トルテュ島の遭難者たち」ジャック・ロジエ/1976/仏/Jul. 30/ユーロスペース★
夏だ、ロジエだ、女の子だ。期待通り、これ、おもしろかった(公開当時はヒットしなかったようだ)。旅行代理店の変人社員がカリブ海での無人島サバイバルツアーってのを思いつき、現地調査、そしてモニターを募ってのトライアルを開催する、先が見えない展開の破茶滅茶コメディー。参加者がツアーの主旨を理解せず起こるドタバタ。島を勝手にトルテュ島(亀島)と呼ぶ、無計画な変人社員。まあ、ああいうところでは計画してもうまくいかないものではあるが。で、苦労してたどり着いた島は…。つぎつぎと起こる事件が笑えて楽しい。亀島にボートで上陸するふたりのうちのひとりが若い女性で、彼女が可愛い、と思ったら『オルエットの方へ』の主役、Caroline Cartierだった。同作から6年経ったとは思えない、ゆるく身につけたビキニ姿がとても自然で、これぞパリジェンヌという風情でした。
#48「天使の影」ダニエル・シュミット/1976/スイス/Jul. 30/Bunkamuraル・シネマ渋谷宮下○
イングリット・カーフェン主演でダニエル・シュミット監督といえば傑作『ラ・パロマ』。その2年後に撮られた、ファスビンダー原作のファスビンダー出演作。人気のない娼婦のイングリット・カーフェンが、街の富豪ユダヤ人の情婦となり、かつて同情し支えてくれた仲間から軽蔑されるようになる、シンデレラの悲劇である。撮影もレナート・ベルタだしね。もうダニエル・シュミットの映像世界。だが、その前景や登場人物の口から出るセリフはファスビンダーのいかがわしいもので、やや戸惑う(ファスビンダー作品はほぼ観たことがない個人的事由故)。戦後のドイツでユダヤ人を茶化すことがどこまで許されるのかわからないが、映画自体はスイスの作品なので問題なかったのだろう。出稼ぎ外国人についてはどうかな。富豪ユダヤ人の車がやけに大きかった。アメ車かな? あんなので路地に入っていくのは僕には自殺行為だと思いながら見てた。
#47「望郷子守唄」小沢茂弘/1972/東映京都/Jul. 29/ラピュタ阿佐ヶ谷○
高倉健の母親が畏れ多くも(気を付けっ)、浪花千栄子、(なおれっ)って、小次郎とオババか。小倉の侠客・昇り竜刺青の健さんが近衛連隊に招集され、山本麟一に虐められて暴れ除隊される前半が新鮮。まあ、刑務所内と似たようなものではあったが。元軍医・藤田進の医院でカタギとして精進しながら最後は卑劣漢・天津敏一家に対し殴り込みをかける後半はいつもの東映仁俠ものである。池部良がいつもの容貌で登場するものの、殴り込みの前に死んでしまうのは残念だった。山本麟一が天津敏の弟だったというご都合主義には苦笑。前半で健さんを助けた伊吹吾郎はやまりんに殴られただけで、後半には出てこず可哀想だった。しかし、この頃になると藤田進が笠智衆に見えてくるね。天津敏にそそのかされて健さんはアカを虐める(東映だねえ)のだが、三四郎・藤田進に怒られるのであった。オロロン、オロロン、オロロンバーイ♪
#46「鉄砲玉の美学」中島貞夫/1973/白楊社/Jul. 29/ラピュタ阿佐ヶ谷
中島貞夫作品ということを踏まえても、変な映画。そうか、東映じゃないんだ。のっけから頭脳警察の歌が猥雑な映像と共に観客を刺激する。姿を見せない遠藤辰雄。アンゴラウサギを飼育して売るチンピラ渡瀬恒彦演じるコイケキヨシが鉄砲玉に選ばれ、拳銃と100万円を持たされ宮崎に飛ぶ。あの頃の空港セキュリティはザルだったんだなあ。宮崎の歓楽街でかっこよく暴れるはずが、現地の堂々たるボス小池朝雄に軽くあしらわれ、派遣元の会から見放されて、霧島山をめざす観光バス内でかっこ悪く野垂れ死ぬ。あのきれいなバスガイドさんは本物っぽかった。小池朝雄の女・杉本美樹が駆るのはFairlady 240ZGだ。ここがバスガイドさんに次ぐ本作の見どころ。渡瀬恒彦を誘って都城に向かう車のヘッドライトは明らかにFairladyではないのに、ホテルに着くとFairladyといういい加減さ。ガラスも割らないし、相当低予算で撮ったんだろうなぁ。キャベツを大食いしたアンゴラがどれくらい大きくなったか見たかったが、それもなしで残念。
#45「豚が井戸に落ちた日」ホン・サンス/1996/韓国/Jul. 22/シネマート新宿○
サンス、サンス、ホンサーンスっ♪のデビュー作。恥ずかしながら初見。いわゆるホン・サンスらしい映画とはかなり趣が違うと聞いていた。確かにそういう心構えがないと始まってから呆然としそうな、ある意味悪趣味なシーンがある。あるのだが、突き詰めればどれもいまのホン・サンス・スタイルの原型と言える。不安を煽る音楽、芸術家(本作は小説家)でだらしない主人公、険悪となる飲み会、美人揃いの女優陣。のちの作品では主人公がいくらひどくても“しょうがないやつだ”と許せるキャラなのに対し、本作の主人公はあまりに独善的で理解できず親近感が得られないのが最大の違いだ。ともかく本作が評価されたおかげでいまのホン・サンスがある、という意味で観ておくべき作品。主人公のふたりいる彼女の一方の勤務先が映画館というのがいいね。チケット売り場の裏側(座敷)が新鮮だった。ソン・ガンホのデビュー作でもあるらしい。端役ではあるがちゃんとセリフがあった。
#44「少年」陳坤厚/1983/台湾/Jul. 22/K's cinema○
スクリーンで観るのが初めての気がしない『小畢的故事』がデジタルリマスターで公開。40年前の淡水。初めて訪れたのはその10年余後だったが、小畢の家をはじめとしてまだ映画内の風景が残っていた。台鐵淡水線が廃止されたあとで捷運はまだ開通しておらず、バスで行ったなあ。いまの淡水は新北市の一部で、“安浦が東広島市なの、えーっ”、と同じような感覚(超ローカルですみません)。変わらないのは対岸の観音山くらいである。畢さん家に連れ子としてやってきた少年が青年になるまでを四人の俳優を使って瑞々しく描く、朱天文の小説を原作とするいわゆる“台湾ニューシネマ”。中年男に嫁いだ母親の事情などドラマに完全にフォーカスしており、淡水の風俗とか食べ物とかは背景として感じるしかないのだが、40年という時間を経たいま、社会面だけでなく文化の記録としても価値ある作品と思う。4年生のときの小畢が近藤宏に見えてしかたなかった。中学生を演じた鈕承澤、若いよねぇ。お馴染みの顏正國が弟役で出てた。
#43「星くずの片隅で」林森/2022/香港/Jul. 17/シャンテ・シネ○
いまの香港で映画をつくるというのは、ピュア・ベジ料理つくるようなものかな。限られた材料でもとびきりおいしいものができる。しかし、豚肉使えればもっとうまい、みたいな。『少年たちの時代革命』の共同監督だった林森による、清掃業者・張繼聰とシングルマザー・袁澧林の、コロナ禍中に懸命に生きるさまを見つめる良品。ふたりの過去は語られず、いまを大切にし、これからを期待させて、静かに映画は終わる。ふたりは香港で生きていく。コロナ禍が何を意味するのか、とかは考えないことにして…、張繼聰、タバコ吸いすぎじゃないかな。この点、時代が逆行してるね。モデルらしい袁澧林は確かにかっこよくてかわいい。僕らの世代でいえば、梁詠琪みたいな感じ。香港の街歩いててもこんなひとまずいない。喋り方が『重慶森林』の王菲に似てる気がした。いくつか日本語喋ってたね。
#42「有りがたうさん」清水宏/1936/松竹キネマ/Jul. 15/鎌倉市川喜多映画記念館★
“シネマ紀行”という企画展をやっているというので市民は入場無料の川喜多記念館に行ったところ、ちょうどきょう上映するというので1,000円払って鑑賞することにした清水の傑作。うちでDVDを穴の開くほど観ているのだが、ぼろぼろのマスターとはいえやはり大画面はいい。思いのほか、音声も良好だった。とにかくミッチーはじめ、すべてが最高のロードムーヴィーである。みんなに“ありがたうさん”と好かれる上原謙は意外にいじわる。特に天城峠での朝鮮人女性への扱いは、例えば旅芸人の水戸光子へのそれとはまったく異なる。台詞上は朝鮮人労働者への同情が感じられるも、呼ばれ追いかけてくるのに停まってやらないなど、根底にはやはり差別的なものが見られるのは、時代とはいえ残念である。小学生として葉山正雄がクレジットされているのだけど、これってバスのうしろにただ乗りする三人のうちどれかだよね。よく見たけど、やはり特定できなかった。
#41「K.G.F: Chapter 2」Prashanth Neel/2022/インド/Jul. 14/新宿バルト9★
『Chapter 1』終了後、たったの30分あまりで『Chapter 2』開始。この間にAnant NagがいなくなったりKGFのわんぱく小僧グループで目立ってたやつがいなくなる違和感と、Vasishta N. Simhaがいきなり撃たれる唖然感と。『Chapter 2』はRockyを止めることができる(母親を除けば)唯一の人物、Ramika Sen首相を演じたRaveena Tandonの凛々しい美しさを賞賛したい。インドの林青霞とでも呼びたいくらいである。同じく『Chapter 2』で姿を現したアディーラ役のSanjay DuttとRockyの対決も見応えあった。しかし、Ganeshクラスのキザダサ・ローカル若手俳優くらいに思っていた“Rocking Star” Yashは『K.G.F』で化けたねえ。いまやSamdalwood No.1だろう。せっかくなので(?)演技力つけて欲しい。Rockyの英語はYashの英語そのままではないかと思われる。Democracyをdemographyと発音してたような気がしたが、本当にそうならさすがに訂正されるよね。
#40「K.G.F: Chapter 1」Prashanth Neel/2018/インド/Jul. 14/新宿バルト9★
祝、『K.G.F』日本一般公開。しかもChapter 1, 2同時とはすばらしい。『RRR』ほど一般ウケするとは思わないが、コアなファンは増えるだろう。特に、Sandalwoodが日本に知られるようになるのは喜ばしいことだ。というわけで、公開初日初回に観に来た。『Chapter 1』の劇場鑑賞は実に4年半ぶりである。それだけでも新鮮だが、今回は何といっても日本語字幕が付いているのがでかい。あと、『Chapter 2』への布石が着々と打たれているのもよく確認できた。次作の方が予算もデカいしエンタメ感増し増しと思われがちであるが、実際には本作の前半の方がItem number (しかもタマちゃん)もあるし、ミュージカル感が高い。個人的にはこちらが高揚感もある。Rockyが生まれたのはマイソール近くという設定。あの辺りからボンベイに行くというのは簡単じゃないと思うのだけど、どうやったのかな。カンナダ語とヒンディー語のバイリンガル(英語入れればトリリンガル)になる過程も知りたいものだ。
#39「狼と子羊の夜」Mysskin/2013/インド/Jul. 9/キネカ大森○
2013年当時、気にした記憶がないコリウッド産フィルム・ノワール。あらすじを一文で書けば、黒社会のいざこざに巻き込まれた一般人が殺し屋の人間性を知る、みたいな紋切りになってしまう。インド映画の常として、腐敗した警察組織が絡むのはしかたないが、そのまた上の狡猾な政治家は出てこなかった。シナリオには現実味が一切ない。あんな手術器具を自宅にもつ医学生などいるものか。輸血もしない手術後数時間で立ち去り、その後数日間(?)バリバリ戦う殺し屋(監督Mysskinが自演)。Rockyより不死身度高いし。殺し屋により物語として背景が口述説明されるのもダサい。さりながら、Mysskinが冷酷に敵を撃つ各シーンはなかなかクールで、この連なりが本作を観応えあるものにしている。Mysskin、あのルックスにして結構ナルシストだな。日本語字幕は“日印ソフトウェア”の労作。おおっ。
#38「ラヴソング」陳可辛/1996/香港/Jul. 8/ル・シネマ渋谷宮下★
これを公開時に観たのは香港。その映画館も閉館したようだ。絶頂期の陳可辛がつくった鄧麗君追悼作で、当時の金馬奨や金像奨を総舐めした。ファンだったんだろうね。今回の張曼玉レトロスペクティヴ。いいのはわかっていても敢えてスクリーンで観なくてもいいと思ったが、本作は唯一の35mmフィルム上映ということで、移転したル・シネマに見参。いきなりの画面ノイズとコマ飛びに感激する。1986年に大陸から九龍站に着いた張曼玉と黎明のボーイ・ミーツ・ガール映画の構図。『甜蜜蜜』をはじめとした鄧麗君の唄を散りばめながら、それぞれの夢と時代に翻弄される10年。エンディングは1995年5月8日。鄧麗君が亡くなった日であり、そこからふたりの新しい人生が始まる。ベタベタで、歳のせいか改めて感動した。香港とニューヨークの対比(というか類似性)が際立っていた。横長看板のトンネルもWTCもいまはない。当然のように鄧麗君を聴きながら、湘南新宿ラインで帰る。
#37「小説家の映画」ホン・サンス/2022/韓国/Jul. 3/ヒューマントラストシネマ有楽町○
サンス、サンス、ホン・サーンス♪ 書けなくなった有名作家イ・ヘヨンが近作のない有名女優キム・ミニに偶然出会い、作家が女優に自分のつくる映画への出演オファーをする話。クォン・ヘヒョやキ・ジュボンなど、見た顔ばかりが出てくる相変わらずのホン・サンス作品。河南市のブックカフェ、ユニオンタワー、公園、食堂、ミニシアターなどで登場人物の会話がだらだらと映される相変わらずのホン・サンス。いつもの焼酎ではなくマッコリで全員が飲んだくれるのはちょっぴり新鮮かも。ズームインも減っているかな。映画の話は話だけで終わるのかと思いきや、ちゃんと完成し、ちゃんと映画中映画として見せる。本作もモノクロームで始まるが、途中から突然天然色になる。この映画の中のキム・ミニが犯罪的に可愛い。画面に出てこない夫はホン・サンス自身だろうか。イ・ヘヨンとキム・ミニが食事するシーンで窓の外から女の子が覗き込むのが偶然ではなかったようだが、その意味がよくわからなかった。
#36「遺灰は語る」パオロ・タヴィアーニ/2022/伊/Jul. 3/ヒューマントラストシネマ有楽町○
シチリアの海が美しかった『カオス・シチリア物語』鑑賞から38年、兄ビットリオが亡くなっても、残された弟パオロは90歳を越えても映画を撮り続ける。予告篇をチラ見しただけでこれは観なくてはと映画館に来たので、ノーベル賞作家ピランデッロの遺灰をローマからシチリアへ運ぶロードムーヴィーかとてっきり思っていた。オープニングは記録映像をいろいろ使ってピランデッロのノーベル賞受賞や第二次大戦を控えた時代背景を描写。頭を狙う銃殺刑とか生々しい。戦後になり、いよいよ遺灰の旅が始まる。貨物列車の旅の描写はよかったが、あっさりアグリジェントに到着しロードムーヴィーは終了。ここからお葬式と納骨(納灰)のエピソード。そして、ここまでモノクロームだったのに、鮮やかに真っ青な海が現れる。おー、これよタヴィアーニ兄弟の色は。で、さらなるサプライズは、突然始まるニューヨークが舞台の『釘』なるカラー短編。不思議な体験。ピランデッロ原作とのことで、あとから納得したのであった。
#35「探偵マーロウ」ニール・ジョーダン/2022/アイルランド=スペイン=仏/Jul. 2/シャンテ・シネ○
Philip Marloweが主人公だが、チャンドラー原作ではない。でも『The Long Goodbye』の続編として公認なんだそうだ。たまたまいま何度か目に再読している漱石の『明暗』にも別作者の続編があるが、あれは“勝手に”だったかな。舞台は1939年のLA。『The Long Goodbye』のマーロウは42歳らしいので、どう見てもじいさんにしか見えない本作のマーロウは別人としか考えられない。が、ストーリーも映画も面白かったし、超久しぶりにジェシカ・ラングも見られたので満足だ。全体として渋めの出演陣もよかった。でも、リーアム・ニーソン、ハンフリー・ボガート、エリオット・グールド、さあどれだと聞かれたら、エリオット・グールドかな。製作が非米国なのは、昔の話とはいえ内容がハリウッドの裏側に関するからだろうか。エンドクレジットを眺めてたらDrone pilotとDrone operatorというのが流れてきた。そのふたつ、役割違うの?
#34「脱獄・広島殺人囚」中島貞夫/1974/東映/Jul. 1/ラピュタ阿佐ヶ谷○
追悼中島貞夫で、久しぶりに阿佐ヶ谷にやってきた。健全な中島印映画。この無茶苦茶な話が実話ベースとは。松方弘樹演じる殺人囚は、最初強盗殺人で20年の刑を受け広島刑務所に入所。賢いのか馬鹿なのか、脱獄や殺人を繰り返し、最後には刑期が40年越え。黒社会内の殺人だと死刑判決はないのかな。肥溜め経由で牢を出るとか、聞くだけでもアワワなのに、しっかりビジュアルがあるアワワ。梅宮辰夫、渡瀬恒彦あたりが同類の仲間。あとはおもに受刑者と警察だが錚々たるメンツが揃っている。ベテラン受刑者の若山富三郎は別格扱いだった。カンカン踊りってのは初めて見たな。一方、『網走番外地』などでもおなじみ(?)の刑務所の入浴シーンには、明らかに“見えて”いる一瞬があった。当時もお咎めなしだったのか。室田日出男がやってた牛の密殺というのは牛泥棒もコミだったのか不明。あの牛は本物だな。実際に殺してるな。恐ろしや東映実録モノ。
#33「Soorarai Pottru」Sudha Kongara/2020/インド/Jun. 17/K's cinema○
インド大映画祭の二本目は、タミル映画を中心にチェックした結果またSuriya主演作になった。こちらも実話ベース。インドの格差社会と実業界の陰湿さをバネにインド初のLCCを立ち上げる話をエンタメ化。元空軍パイロットのSuriyaが、お金が足りず飛行機に乗れず父親の死に目に遭えなかった経験から、インド人が誰でも乗れるLCCの起業を決意し、No.1航空会社のオーナーや航空局から妨害を受けながらも最後にはDeccan Airを飛ばす。Prakash BelawadiやらAchyuth Kumarやらの常連が悪役でいい味出してる(ドーサ完食しろよ、Prakashさん)。Suriyaの奥さん役はAparna Balamurali。どこかで見た顔だけど思い出せない。自らベーカリーを起業してSuriyaを対等にサポートする強気な女性を好演していた。苦境に陥ったSuriyaが反則的に会いにいく大統領はDr. Abdul Kalamのそっくりさんだった。劇中、Paresh Rawalだったか、葉巻をくわえるシーンがあった。お馴染みの本編前の“Smoking causes cancer”の警告映像はなかったのでびっくりしたが、火を着けなかったのでセーフということ? 
#32「Jai Bhim」T. J. Gnanavel/2021/インド/Jun. 17/K's cinema○
インド大映画祭という企画のシークレット上映。シークレットなのに事前に作品名が知られているのはなぜだー。実在の人権弁護士の話をベースにした、カースト制の根深さ×警察の腐敗×裁判というインド映画お得意テーマの掛け合わせもの。アンベトカル博士を尊敬する件の弁護士役はSuriya。警察から冤罪のターゲットとされる指定カースト・イルラ族の男が土地の有職者の金品を盗んだとして連行されひどい拷問を受けた末失踪、残された妻がSuriyaに助けを求める。Suriya vs. 検察+警察の論争、というか嘘を暴いていく裁判はなかなかスカッとするが、妻には悲しい真実が待つ。左頬のシミがチャームポイントのRajisha Vijayanがその妻をサポートしSuriyaの捜査を手伝う役で出演。腐った警察の中でただ一人 Prakash RajだけはSuriyaに味方し、警察と政治家に立ち向かっていく。かっこいいじゃないか。Prakash RajのバッジはIPSだった気がする。ところで字幕では“カースト”だけど、実際には“ジャーティー”と言ってたね。
#31「殺し屋ネルソン」ドン・シーゲル/1957/米/Jun. 11/シネマヴェーラ渋谷○
Don Siegelといえば『Dirty Harry』という平凡なイメージしかないのだが、本作はなんだかすごいらしいので観にいくことに。1933年のChicagoが舞台に、Baby face Nelsonと呼ばれるギャングが仮釈放されて暴れまくる、あの時代にありそうなぶっ飛んだ話。冒頭にFBIを讃えるメッセージが表示されるのだけど、本編はNelsonにフォーカス。背が低くて童顔(日本人がこれに同意するか?)のくせに凶暴で、銀行強盗は繰り返すし、ライバルは殺すしで、FBIの追跡を受け負傷、最期は妻のSuzyに止めを刺される。カーチェイスもあり、展開がとにかくスピーディー。破滅へと向かう男女は『俺たちに明日はない』のようでもあった。“Public Enemy”のランキングは現実にあったのだろうか? そのランクが上の方がギャング社会では偉いらしい。Suzy役のCarolyn Jonesがなかなかかわいかった。禁酒法下、NelsonがI.W.Harperを薬局で買ってた(処方箋がなかったので強奪したが)。
#30「苦い涙」フランソワ・オゾン/2022/仏/Jun. 5/ヒューマントラストシネマ有楽町○
死への逃避行』から実に40年後のイザベル・アジャーニを、半分怖いもの見たさで観に(まあ40年の間には『可愛いだけじゃダメかしら』とかもあるのだが)。いやいや、年齢なりではあるが実に美しかった。映画自体はファスビンダー作品のリメイクとのこと。これがとても面白かった。ケルンに住む映画監督が、友人である女優のイザベル・アジャーニ(役名は異なる)が連れてきた美青年に惚れ、自分のアパートに住まわせ、夜帰ってこなければ嫉妬で悲嘆に暮れるという話で、この映画監督役の太ったドゥニ・メノーシェの演技が抜群。なんつーか、心の中で笑いが止まらなかった。監督の母親役がハンナ・シグラってのも(またまた心の中で)どよめき。彼女はオリジナルにも出てて、本作で美青年にあたる役だったらしい。そこで、本作で美青年が美女だったらと考えると、ここまで面白くはならなかっただろうと思う。フランソワ・オゾン、流石だな。
#29「怪物」是枝裕和/2023/AOI Pro./Jun. 5/TOHOシネマズ日比谷○
タイトルから、諏訪湖に潜むと言われるネッシーみたいなやつを妄想する話かと思ったら違ってた。というジョークはさておき、“怪物”→“Monster parents”を連想できていなかった自分に喝。先日のカンヌ映画祭でクィル・パルムドールと脚本賞を獲った是枝監督の新作。ふたりの小学五年生男子のささやかな関係が周囲に局地的な渦を起こしていく様を、まず周囲からの逆視点で見せることにより映画的なおもしろさを出している。根源的に一番悪いのは中村獅童だな。一番の役者は田中裕子。なかなか不気味な校長先生を無表情に演じていて震えた。『知と愛の出発』の頃からはだいぶ変わってるだろうが、諏訪市の古い街並みが雰囲気よかった。当然選んで撮ってるんだろうけども。坂本龍一の音楽は自然で途中までその存在を忘れていたが、意識を向けるとそれは確かに坂本龍一だった。
#28「私のプリンス・エドワード」黃綺琳/2019/香港/May 28/新宿武蔵野館○
で、こっちの主人公もとっても可愛い鄧麗欣。え、もう40歳なの?そうは見えない。大陸人が香港居住権を得るためにやる偽装結婚に、若い頃お金が欲しくて応じた香港人女性役で、自分が結婚することになって調べるとまだ籍が残っていて慌てる話。この視点はおもしろい。で、予想通り、夫である大陸人の方がフィアンセの香港人よりかっこいい。フィアンセ自身がいろいろちょっかい出して雲行きがあやしくなっていく。さらにフィアンセの母親がいろいろちょっかい出すのがおかしいというか、やっぱりねというか。舞台は太子にある金都商城。入ったことない。同棲中のふたりが住む部屋(金都商城上階のアパート)にはジャームッシュのポスターが貼ってあったりして、監督の趣味が窺える。フィアンセの英名がEdward Yanだったが、せっかくならYangにしてほしかった。しかし香港と大陸の行き来は面倒そうだね。『線路はるばる』の主役の男(岑珈其)がこっちにも出てた。
#27「線路はるばる」黃浩然/2022/香港/May 28/新宿武蔵野館○
香港とかシンガポール行くと、街を歩く女性の多くがすっぴんで、うわーっと思うことがある。ところがこういう映画の中の女性はとっても可愛い。これがどういうわけか深追いするのはやめておこう。あまりパッとしないけど有能らしいプログラマーの男がつぎつぎと可愛い女性と付き合い彼女らの居住地を訪れるという、奇抜な、政治の匂いがまったくしない物語。男が開発中のおせっかいなナビ兼グルメガイドアプリが案内してくれる。女性の居住地がことごとく都心から遠く離れているのがミソで、監督の香港大好き感が伝わってきた。出てきた中では大澳にしか行ったことないかな。沙頭角が禁区というのは大陸との境だから? あぶない“ゾーン”とか? よくわからない。最後に結ばれるMela姐を演じていた余香凝って、蘇慧倫に似てるよね。大柄だけど。字幕はかなり乱暴な言葉遣いだった。実際にそんな感じで喋っていたのだろうか? そんなことがわかるようになりたいものだ。
#26「ジャンヌ・ディエルマン ブリュッセル1080、コメルス河畔通り23番地」シャンタル・アケルマン/1975/ベルギー=仏/May 20/アンスティチュ・フランセ東京 エスパス・イマージュ★
監督のFamily nameは“アッカーマン”と表記されてたのにいつなぜ“アケルマン”に変わったのか、という話はさておき、今回Sight and Soundがオールタイムベスト1に選んだというこの作品に俄然興味が湧き、世間もそう思ったんでしょう、アケルマン特集が組まれたので、観に行った。夫を6年前に亡くし学生の息子と二人暮らしの女性(『去年マリエンバートで』や『インディアソング』のDelphine Seyrig)の日常を淡々と追う4時間。序盤の繰返しモチーフは『ニーチェの馬』を思い出させる。女性一人のシーンが多く、自然と台詞がない。固定カメラしか使わず、長回し。しかも絵はほとんど動かない。同時収録の自然音。観る者は女性が何を考えているのかじっと考えるしかない。そして突然の断絶。保温ポットへのスタッフ(監督とカメラマン?)の映り込みなど気にしない大胆さといい、確かに並のフィルムではない。でも僕ぁ『東京物語』の方が好きだね。
#25「それでも私は生きていく」ミア・ハンセン=ラブ/2022/仏=独/May 13/シネスイッチ銀座○
Mia Hansen-Løveの新作。Léa Seydouxが主演。パートナーを亡くし娘をひとりで育てながら難病で視力と認知機能を失っていく父親も面倒をみる女性が、そんな状況下で亡夫の友人に再会し、新たな人生へ向かって格闘するさまを描く。先日観た長編第一作『すべてが許される』と雰囲気は 基本同じ、自然な感じがとてもいい。Léa Seydouxも『No Time to Die』とかとは違い、等身大の自分を演じているように見えた。あのジェーン・バーキン譲りの(ってことはないが)すきっ歯は何故か目立たないように撮影されていた。介護問題はどんな社会にもあることを改めて認識した上で、それを背景にこんな映画が撮れるのはさすが。舞台は現代のパリで、スクリーンを凝視していると、Twingoが1台確認できた。オランジュリー美術館に日本人いたね。KIN TAROなる日本料理屋も出てきたね。どうでもいいけど。
#24「Ponniyin Selvan: II」Mani Ratnam/2023/インド/May 2/PVR Director’s Cut (Bangalore)○
巨匠Mani Sirの作品がちょうど公開されたので、新しいデラックスなマルチプレックスに観に行く。とはいえ『PS-1』は未見なのでどこまで話に付いていけるのか不安だった。登場人物がわんさかいるっていうし。始まってみれば『PS-2』はこれで完結しており、何の問題もなかった(もちろん前作を観ている方がより楽しめたのだろうが)。このタミル映画にAishwarya Raiがボリウッドから出ているのが目玉のようだ。Aishwarya Lekshmiも出てたし、どうせならAishwarya Rajeshも出してAishuかしまし娘にして欲しかった。若いころ王子Vikramに捨てられた孤児Aishwarya Raiの彼に対する憎悪が話の柱。でも、題名からするとJayam Raviが主役なのかな? Karthiもかなり目立ってたけど。重要なロケーションとしてスリランカが出てくる。この話も『ラーマーヤナ』に関係があるのだろうか。もっとも、もっと重要なのはカーヴェリ川だけどね。英語字幕あって助かった。
#23「Shivaji Surathkal 2」Akash Srivatsa/2023/インド/May 1/Triveni Theatre (Bangalore)○
Majesticの単館はローカル度が高くトイレの難易度も高いという思い込みもあり、あまり行っていない。Triveniもそんなイメージで建物の外観やカットアウトを撮るだけだったが、ついに中に入ることになった。本作は題名が示すように『Shivaji Surathkal』の続篇。COVIDパンデミック直前に公開された作品だが、観ていない。しかし、犯罪スリラーもので前作と本作では違う事件が対象なので問題はない。ヴェテラン俳優Ramesh Aravind が、薬を飲まないと亡くした奥さんが見えるという精神のやばい探偵で、実は自分が犯人ではないかと(観客も)疑う中、事件を解決していく。サイコ的要素もあってなかなか面白かったよ。奥さんが『U Turn』でも幽霊だったRadhika Chetanというのが興味深い。劇場はシートが新調されていて、ローカルシアターにありがちな湿っぽさとか臭気がなく、動物もおらず快適だった。カンナダ映画は安定の英語字幕付。
#22「すべてが許される」ミア・ハンセン=ラブ/2006/仏=澳/Apr. 16/アンスティチュ・フランセ東京 エスパス・イマージュ○
天気不安定な日、久しぶりに飯田橋へ。ミア・ハンセン=ラブ特集をやっているのだが、観たことない監督なので慎重に長編第一作から。自伝的作品とのこと。娘のPamelaが監督自身だな。『女っ気なし』のコンスタンス・ルソーが演じている。なんというか個性的な顔だ。まなこが崔洋一みたいに常に動いてる。無職でドラッグに溺れるフランス人の父親とDVまで受け愛想をつかすオーストリア人の母親。浮気相手のドラッグ死で父親は警察沙汰を起こし、ついに離婚。母親に連れられ離れたものの、成長して父親に再会し、純粋に慕うさまを瑞々しく描いている。元妻は決して許さないが、娘に許されることで父親は心の安寧を得たのである。舞台はウィーンとパリ、そしてイル・ド・フランス。日常的な街の情景がよかった。監督はアサイヤスの元奥さんか。映画のつくり方を教わったのだろうか? 機会があれば別の作品もボチボチ観てみようかな。
#21「トリとロキタ」リュック・ダルデンヌ, ジャン=ピエール・ダルデンヌ/2022/ベルギー=仏/Apr. 9/ヒューマントラストシネマ有楽町○
硬派なダルデンヌ兄弟の新作は、アフリカからベルギーに密入国した姉弟が主人公。余計な説明は一切ない。感傷的なエンディングもなく、ピシャリと映画は終わる。切れ味抜群である。トリとロキタが血が繋がっていないことはすぐに示唆されるし、ロキタが祖国に家族を残していて欧州からサポートしようとしていることもわかるのだけど、トリがなぜ出国しベルギーで何をしようとしているのかは最後までわからず。健全にとは言わないがたくましく異国で生きていってもらいたい。移民局はロキタにビザを発給しようとしないが、それでも監禁されることもなく、自由に街に出て働いている。どこかの国とは違うね。とはいえ、まともな職に就くのはむずかしいようで、しまいには違法な大麻工場(?)に監禁され働かされる。こういうとこ、現実にあるんだろうと想像。Wiki見たらトリは11歳、ロキタは16歳だそうだ。うーん、人種が違うと年齢がまったく推定できないことを改めて実感した。
#20「知と愛の出発」齊藤武市/1958/日活/Apr. 9/神保町シアター○
むかしチャンネルNECOでやったやつを観たっきりの、いづみさまご出演作品#37。カラー復元版というが、復元してないじゃん。セーラー服姿のみならず、アルバイト先ホテルの制服姿、泳ぐ姿、極めつけは入浴姿が拝見できる崇高な作品を、妙なAI処理 (GAN?) で貶めてはいかん。モノクロで没問題。さて、お話は諏訪湖の辺りが舞台。お茶の水女子大をめざす秀才のいづみさまと東大法科をめざす秀才の川地民夫の純愛を、白木マリやら、中原早苗やら、小高雄二やらの不良常連が汚そうとする。川地民夫の親父の元軍人がいづみさまの父親(宇野重吉)の教師を“日教組”と呼ぶのが、なんというかリアル。いづみさまは輸血拒否ってエホバの証人信者かと心配になる。レイプ事件を実名・写真付きでスキャンダラスに報道するローカル新聞、二谷英明。ええかげんにせんかい。ラストシーンの妙高山頂のふたりを撮るためだけに飛行機飛ばしたのかね? 残念ながらよく見えなかったけど。
#19「Viduthalai」Vetrimaaran/2023/インド/Apr. 8/SKIPシティ映像ホール★
Sooriが主役?しょうもないコメディーかと思いきや監督がVetrimaaranではないか。これは何かある、ということでまたはるばる川口へ。いきなり、溝口や相米も真っ青の自在に動くカメラによる超絶長回しにぶっ飛ぶ。一部CGを使っているとは思うが、時間軸はぶれていないので撮影自体は一気にやっているはずだ。この派手なオープニングから一転、Soori演じる真面目な警官が配属された“幽霊狩り”作戦でテロリストとの対峙、組織内部や政治のドロドロ、地元の娘との恋と、何かが溜まっていく抑えた演出で魅せる。そして幽霊=テロリストの頭目(Vijay Sethupathi)の逮捕に至る銃撃戦でSooriがヒーロー的活躍。なのだが、何も解決しないまま本篇は終了。そしてPart 2の詳しい予告。はあ?一度にやってよ。『K.G.F』まがいの作品が連投される中、ストーリー自体は紋切り要素が多いもののこいつは新鮮な良作だ。Part 2、日本でちゃんとやってくださいよ。男女問わず容疑者を裸にする警察の拷問が怖かった。
#18「青春弑恋」何蔚庭,胡至欣/2021/台湾/Mar. 26/シネマート新宿○
事前知識なしで観始めたら、なんだか雰囲気が『恐怖份子』だ。Monicaが住んでた部屋の窓とか。あとで確認したら英題が『Terrorizers』で納得。この監督の楊徳昌へのオマージュなのだな。そういえば『獨立時代』の香りもしたよ。主役の林柏宏の役名が明亮なのは蔡明亮から取ったのだろうか。あぶないストーカー青年を好演。ひとつのストーリーが男二人、女二人、それぞれにフォーカスした章で順次語られる。その間、時間が二回りするというユニークなシナリオがよかった。女優陣も好演。玉芳役のMoon Leeって李賽鳳じゃなくて李沐か。Monica役の陳庭妮はセクシー、Kiki役の姚愛寗はなかなか可愛かったよ。日本語を喋る。日本のテレビにも出てたのか。舞台は台北と基隆かな。あの桃園-台北迅運に乗りたい。台湾に行きたいわん。
#17「Kabzaa」R. Chandru/2023/インド/Mar. 19/SKIPシティ映像ホール
Upendra, Sudeep, Dr. Shiva Rajkumarの共演って、悪い予感しかしなかったのだけどどうしても観たいらしいひとがいたので付き合った。ホールの入りは悪く、割高の鑑賞料金でも主催者は元が取れてないと思う。端的に言えば『K.G.F』の劣化コピーである。これまで何本も同作にインスパイアされた作品が出てきているが、これはそのレベルではない。カット遷移に暗転を挟むとか、アニメーションの導入、車列の真上からの鳥瞰、ルックスがRockyにそっくりの主人公、そっくりな歌とダンスなどなど、枚挙にいとまがない上、Uppyの演じる(もちろん)無敵のArkeshはRockyから信念を抜き取ったような、何がしたいのかまったくわからない不気味な存在。Sudeepはただの語り部か?そのあたりは、Part 2でShiva兄貴とともに明らかになるだろうが、観たくなるようなモチベーションは皆無だ。せっかく近年reputationが高まってきたカンナダ映画を自ら貶めてはいかん、いかんぞぉ。
#16「オマージュ」シン・スウォン/2021/韓国/Mar. 18/ヒューマントラストシネマ有楽町○
以前、東京国際映画祭のコンペに出てた作品。『パラサイト』の家政婦のおばちゃん(イ・ジョンウン)が主演というだけで異色作というと失礼だな。新作がヒットせず悩む映画監督が主役だなんてホン・サンスか、と思いきや、話はずっと高尚で、女性の地位についてのお話。日本と並んでいまだに男性優位社会の韓国において、国初の女性映画監督が最後に撮った作品『女判事』のプリントが発見されたものの、音声が一部欠落、いくつかのカットが失われていた。これを修復するしごとを依頼される主人公。映画に縁の人物を訪ねていきながら自分の生き方を見つけていくという、ホン・サンスには興味なさそうなプロットはなかなかよかった。閉館した映画館が侘しいのは世界共通。で、その作品が当時封切られたという映画館で、帽子の飾りとなって発見された別プリントの断片は16mmに見えた。なぜ35mmではないのか気になったが、主題には無関係そうだった。この作品 #BIFFES でもかかるよ。インドのひとたちにも観てほしいね。
#15「郊外の鳥たち」仇晟/2018/中国/Mar. 18/シアター・イメージフォーラム○
長くて短くて、離れた2つの塊、だったかな。考えても答が見つからない。都市開発とドローバックとしての地盤沈下が進む地方都市(杭州)を舞台として、時間、空間、人間が曖昧に重なり合うふたつのストーリーが展開する。その空気の心地よさが眠りをちょいと誘い前半の重要なパートを見逃しているのが無念。スタンダードサイズの画面と麻布のタイトルバックが、監督は小津ファンではないかと思わせた。ただし、ダイナミックに動くカメラによるハッとする映像は監督独自のものだ。片方の子供グループのストーリーがよかった。世間的には『スタンド・バイ・ミー』なんだろうが、なんとなく『友だちのうちはどこ?』を思い出した。女の子ふたりから迫られる男の子はそれとはまったく違うけれど。中国ではいまだに(というわけではないが)子供が紅いスカーフ(紅領巾)をしてるんだね。かっこいい。赤帽よりあれがよかった。大人グループの主人公は李安の息子だとか。似てるような似てないような。
#14「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」ダニエル・クワン,ダニエル・シャイナート/2022/米/Mar. 11/TOHOシネマズ渋谷
楊紫瓊の主演女優賞をはじめ、アカデミー賞に多部門でノミネートされている話題作。彼女のキレのよいカンフーも見られそうだし、いつもとは違う映画環境に赴いた。いやほんと、ハリウッド小屋(マルチプレックス)とミニシアターの雰囲気の差はまさにマルチバース。予告篇見てるだけで目が回る。そしてハリウッド自体異次元。話はいつでも、最後に地球は守られ、主人公ファミリーはハッピーになる。これで観衆はみんな満足? エロとかソーセージとかベーグルとか、あんなギャグがなぜ面白いのかさっぱりわからないし、バース移動の手段のバカバカしさったらないし、そのうえ楊紫瓊はあまりカンフー使わないし。ところで楊紫瓊の役名"Evelyn"は、僕にとってトラウマワードだ。あれがちゃんと発音できるひとは全世界で何パーセントいるだろうか。楊紫瓊が、英語は男と女で"he"、"she"と呼び方が違うけど中国語は同じだ、なんて言ってたけど、"他"と"她"の方が訳わかんないよね。
#13「コンパートメント No. 6」ユホ・クオスマネン/2021/フィンランド=ロシア=エストニア=独/Feb. 26/新宿シネマカリテ○
本日、寒い映画デー(あるいはロシア語映画デー)。寝台列車の同じコンパートメントに偶然乗り合わせた男女が、モスクワを出発しスカンジナビア半島北端(?)のムルマンスクに向かうロードムービー。カンヌでグランプリを獲得している話題作。タイトルバックが北欧っぽくておしゃれ。一方で本編は暗めで寒め。主人公のフィンランドからの女子留学生は日本人からするとおばさん。同席の呑んだくれはプーチンみたいなマッチョ男。寂しいふたりの道中の、決して楽しいとはいえないふれあいから徐々に縮まる距離感が淡々と描かれる良品であった。途中で立ち寄る男のおばあちゃんちとか、ムルマンスクの街とか、南のモスクワでのパーティーとの温度差もよかった。それにしても凍結道路を爆走するロシア車、おそるべし。そして、そもそも無関係の男女を考慮なく同じコンパートメントに押し込めるロシア鉄道、おそるべし。
#12「崖上のスパイ」張藝謀/2021/中国/Feb. 26/新宿ピカデリー○
偽満洲国は哈爾濱を舞台にしたスパイもので、日本人がひとりも登場しない抗日作品とでも呼ぼうか。(おそらくは)731部隊の悪行の生き証人を国外脱出させる“ウートラ作戦”のため、偽満洲国の特務とソ連で訓練を受けた共産党スパイが騙し合う。スパイはカップル2組の四人。小蘭役の劉浩存がむっちゃかわいい。秦海璐も超ひさしぶりで、美人のおばさんになってた。話の前半は『シベリア超特急』(あれ、観た記憶はあるのだが記録見つからず。閲覧されないからか、Google使えなくなった)。哈爾濱に到着してからは、特務内の二重スパイ探しも絡んで華やかなスパイ合戦が展開する。クラシックカーが走り回る雪の哈爾濱セット。ロシア語看板の付いた亞洲戯院。いい感じ。特務に坂東彌十郎と笹野高史がいたよ。笹野高史は罠に嵌められて共産党スパイと見なされ拷問、処刑でかわいそうだったね。全体としてはさすがの張藝謀、抗日メッセージも共産党礼賛も控えめでエンタメとして楽しめた。
#11「別れる決心」パク・チャヌク/2022/韓国/Feb. 18/TOHOシネマズ日比谷○
ラスト、コーション』の湯唯が韓国映画に出てて、しかもパク・チャヌク作品。これは何かある、というわけでTo Watchリスト入り。原発に勤務する妻をイポ(どこ?)に残し釜山に単身赴任している刑事パク・ヘイルがクソ山(どこ?)から落ちて死んだ入国審査官の捜査を担当、未亡人(死語?)湯唯は中国人だった。クライム・サスペンスの姿をしたディープなラブストーリーである。事件解決(自殺認定)後、パク・ヘイルはイポに転勤、そして再婚した湯唯もイポに現れ、やくざな新しい夫も変死、ふたたびパク・ヘイルが担当に。スクリーンを異様な空気で包み込む、自分の想いを口にしないパク・ヘイルと湯唯には、舞ちゃんと貴司くんとはだいぶ違う結末が待っていた。いや、おそらくパク・ヘイルにとっては死ぬまで続く苦悩の再スタートであろう。山、海、崩壊、不眠症、認知症、高所恐怖症、iPhone (とSiri)、目薬、スッポン、そして歌謡曲『霧』。さまざまな要素が散りばめられた濃密なシナリオに、TVドラマ的カットなど交えた凝った映像。パク・チャヌク、これがピークか、まだまだ上があるか?
#10「Vendhu Thanindhathu Kaadu」Gautham Vasudev Menon/2022/インド/Feb. 12/ヒューマントラストシネマ渋谷○
K.G.F』にインスパイアされた映画がまたひとつ。主演はSimbu、相手役はSiddhi Idnaniである。である、と書いたがこの女優、不覚にもMalayali美人のAnu Emmanuelだと思って見てた。彼女よりシャープな顔つきのSiddhi IdnaniはMarathiのようだ。出番はそんなに多くはないが重要で、どうやらPart 2で存在が大きくなりそうなので楽しみにしておこう。TN州からMumbaiに出てきてタミル人が集まるパロタ屋に住み込みで働き始めたSimbuが、このホテルの裏稼業に気づいた時には遅かった。あとは密かに持ち込んでいた拳銃と天性のワルぶりを武器にのし上がるのみ、というストーリー。Mumbaiが舞台のタミル映画はときどきあるが、いろいろ有名な場所が出てきて楽しい。裏社会の抗争を軸に、実際にはその上に実力者が多層に展開する構造は『K.G.F』でも見られたね。小指をなくしながらもRocky BhaiみたいになったSimbuが暴れそうなPart 2、いつになることやら。『Pushpa』のPart 2も待っているのに、話を一向に聞かないな。早くしないと『K.G.F』Part 3が来るぞ。
#9「未成年」井上梅次/1955/日活/Feb. 4/シネマヴェーラ渋谷○
てっきり35mmフィルム上映だと思って行ったら、プロジェクションでがっかり。それでも、このいづみさまの初期作品(いづみさま#9)は未見なのでワクワクだ。“新人”長門裕之とのコンビである。いすゞ川崎工場で職工として働く未成年の長門が、横浜のチンピラ佐野浅夫に絡まれたのがきっかけで、港湾荷役会社(もちろんやくざ)の手下に堕ちたのを、アタラント号に住むいづみさまが救おうとするお話。長門が未成年で“僕”なんて言ってるのと安部徹が“五郎ちゃん”と呼ばれているのが笑いのポイントである。まだ20歳だからして顔が丸いいづみさまの登場はかなり遅い。その分、登場時は劇場内の空気が変わった。母親の清川虹子だけはマイペースだが、残る井上梅次の脚本・演出は軽やか。中華料理屋で日本人店員間で注文の符牒(?)として喋る北京語がいい。のちの香港時代を遠く連想させた。最後に長門を刺すせむし男のあだ名が(ノートルダムの)“ダム”ってのも井上ならではか。今回の井上梅次特集では『裏町のお転婆娘』もかかるのだが日程が合わず観られないのが無念。
#8「新生ロシア1991」セルゲイ・ロズニツァ/2015/ベルギー=オランダ/Jan. 29/シアター・イメージフォーラム○
“CCCP”がちゃんと読めるのが自慢です。1991年8月19日からの3日間、モスクワで起こったクーデターのことを知ったレニングラードの様子を撮影した貴重なフィルムを編集したドキュメンタリー。情報が錯綜する中で広場に集まる群衆、バリケードを築きストライキに入る労働者たち。エリツィン派の市長が市民に訴える。クーデターは失敗し、市庁舎(?)には例の三色旗が掲揚される。そしてレニングラードはサンクトペテルブルクに。ゴルビーがアメリカに行ったのはいつだっけ? 市長が車に向かう際にエスコートしている人物がフィルムに写る。帝政ロシアにラスプーチン、新生ロシアにはプーチンありだ。いまや金正恩より危ない男だな。お願いだから、自分が死んだ後のことは知らん、とか思わないでほしい。ソ連の象徴、エレガンスとは無縁ながら迫力満点のスターリン建築(と勝手に思っている)。新宿のNTTのタワーってスターリン建築を思わせるよね。
#7「シャドウプレイ」婁燁/2018/中国/Jan. 22/K's cinema★
〈完全版〉らしいが、そもそも日本にいなかったので2019年のフィルメックスでの〈カット版〉上映を観ていない。なので比較できないのだけど、陳冠希(懐かしいね)が出てくるシーンがあるかないかのようだ。何が問題だったんだろう? ま、そんなことはさておき、クライムサスペンスを婁燁がつくるとこうなるという感じの良品。『ふたりの人魚』を思い出させるノワールな雰囲気。周迅どうしてるかな。と、そんなことはさておき、ふたりの男(秦昊、張颂文)とひとりの女(宋佳)がなすドロドロの三角形は、張颂文のおっさんなビジュアルが気になるが役人だからしかたないか。これに、張颂文の転落死事件を追う若い刑事(井柏然)と、張颂文・宋佳夫妻の娘(馬思純)が絡み、秦昊のパートナー(陳妍希)の失踪事件とか、25年間の時間軸を行き来しながら三角形の頂点と辺のすべてが明らかになっていく過程は見応えあり。カーアクションもあるよ。上映後のトークショウは予想外。
#6「エンドロールのつづき」Pan Nalin/2021/インド/Jan. 21/新宿ピカデリー○
グジャラート語映画を松竹が配給? 期待値を超えてよかった。インド版『ニュー・シネマパラダイス』として誰もが期待しそうな、フィルムが燃えたりパッチワークしたフィルムをつくったりはないが、『2001年宇宙の旅』や『ストーカー』など、ところどころに過去へのオマージュが見られる。異常なまでに映画の上映にこだわり、盗み出したフィルムを仲間とジュガールな方法でつくった映写機で投影するブラミン(なのにチャイワーラー)の息子Samay。仲間含め、クリケットに興味ないのかね。フィルム上映時代は突然終わり、田舎映画館GalaxyにもDCPが導入され、スクラップとなった映写機はスプーンに、フィルムはバングルに生まれ変わっていく。そんな感傷的なシーンをDCPで観てる自分に苦笑する。美人のお母さん(Richa Meena)がつくるお弁当(ブラミンなのでもちろんベジ)が調理シーン含めとてもおいしそうで監督のこだわりを感じた。ラストに大人になったSamayの声が名監督の名前を並べていく。監督の空想的自叙伝なんだろうな。
#5「Varisu」Vamshi Paidipally/2023/インド/Jan. 14/ヒューマントラストシネマ渋谷○
Pongal映画はVijay vs. Ajithらしい。AjithのはManju Warriorも出てて気になったが、選んだのはThalapathy。相手役はRashmika Mandannaである。大人気俳優でBangaloreでもだいたいかかることもあり、特にファンでもないのに結構観てるThalaphathy映画。だいたいいつも同じ演技、同じパターンで、鑑賞後まもなく観たことも内容も忘れてしまうことが多い。なのだが、本作はビジネス+ファミリーもので“テルグ映画かい”と思った。真の主役はAmma役のJayasudhaかもしれない。ストーリーは、ビジネス部分は早めに切り上げ、一旦崩壊した家族が終盤に集結し、Appaを見送って終わる、いささか散漫な展開。Rashmika Mandannaは単なる添え物あるいはダンサー。Thalapathyは相変わらず強すぎてつまらないのであった。 序盤のインド国内放浪(?)や最後のバラナシの合成っぽさが気になった。とまあ腐しすぎかもしれないけど、スクリーンを堂々と撮影したり、歓声をあげたり、上映中に堂々と歩いたり、インドの映画館にいるかのような雰囲気は十分楽しんだな。英語字幕付上映。
#4「カンフースタントマン」魏君子/2021/香港=中国/Jan. 8/新宿武蔵野館○
龍虎武師と呼ばれたスタントマンたちに焦点をあてたドキュメンタリー。嘉禾も邵氏もなくなってしまい、大陸に呑み込まれて滅亡した香港功夫電影の全盛期に想いを馳せるノスタルジックな一編である。かつて、どんな作品を観ても同じような顔ぶれの脇役、その他大勢を構成していた人たちが出てきて凄みが伝わってくる。くま・きんきんとか懐かしいね。7階から飛び降りるとか真剣を使っていたとか、現代では不可能だし、なんでもCGでできてしまうので、この職業は永遠に失われてしまうだろう。スタントマンのほか、監督や、作品の断片などが映し出されるたびに“おー”と心の中で唸ってしまった。主役級では洪金寶と甄子丹が出演してたけど、李小龍はもちろんだが、成龍や李連杰がいないのは寂しかった。(まあ成龍は政治的にアレだが) 一瞬だったけど『新龍門客棧』のポスターが出てきたよ。最近Facebookで林青霞の写真がたくさんお勧めされるんだよねー。
#3「柳川」張律/2021/中国/Jan. 8/新宿武蔵野館○
こちらも新年越しの張律特集。去年はこの監督作品を観るのははじめてだと思っていたが、実は韓=中合作の『キムチを売る女』を観ていた。本作は純粋な中国映画で韓国の匂いはしないながら、日本に過去の女性を訪ねたり民泊したり少女が赤い着物の人形を持っていたり、デジャヴを起こす構成。マルチ言語で通訳なしで会話する、というのはない。北京に住む兄弟が20年前の恋人を訪ねてやってくるのは福岡県柳川。この元恋人を演じるのは倪倪(頭にバンド巻いたニーニーじゃないよ)で柳川(リウ・チュアン)という役名である。街も女性もとても魅力的に撮られている。日本のヴェニスなのかぁ。おでん屋のおかみとして中野良子が出演。ここは方言使って欲しかった。そういえば弟が喋る訛りってどこのだろう。そういうことがわかるようになりたい。北京から柳川行くのって、現実にはどういうルートかな。福岡に直行便があるのかな。
#2「健康でさえあれば」ピエール・エテックス/1965/仏/Jan. 7/シアター・イメージフォーラム○
短編4作『不眠症』、『シネマトグラフ』、『健康でさえあれば』、そして『もう森なんか行かない』からなるオムニバス。コンセプトがよくわからない…。吸血鬼ものの『不眠症』のみカラー。『シネマトグラフ』での映画館の描写がとても興味深かった。上映中の場内で懐中電灯を照らして客を案内するのはいまでもインドにあるけど(最近は自分のスマホでやるのが主流だが)、ああやって頻繁に席を移動したりしたのかとか、誰もタバコを吸ってないとか、まあ多分に演出が入っているのだろうけど新鮮に感じた。『健康でさえあれば』のブラックさがなかなかよかった。渋滞の中、ストレスフルな誰もが微笑んでいるのは医者が処方するクスリの効果かな。短編『絶好調』を併映。これまで観た短編はどれもスタンダードだったが、こいつはもともと本作からのスピンオフなのでヴィスタであった。で、これも入っていてもまったく違和感ないように思った。
#1「ヨーヨー」ピエール・エテックス/1964/仏/Jan. 7/シアター・イメージフォーラム○
新年はエテックスでスタート。1925年からの40年、親子二代にわたる波瀾万丈のサーカス讃歌で、主人公はもちろんエテックス自身が二役である。サーカスというジャック・タチも好んだ題材は偶然なのか、その時代の流行なのか、それともやはりタチへの憧れだったのか。すでにカラーが全盛となっていた中で敢えてモノクローム作品だが、時の流れで映像がサイレント(というかサウンド版)からトーキーにスイッチする演出がにくい。カラー化のお金をこっちに注ぎ込んだのかも、と思わせるほど豪邸(とその変貌)のセットは見事だった。ギャグのキレは相変わらずに感じた(要は僕には合わないのだろう)が、大富豪とサーカス団員の恋とその息子Yoyoがおりなすドラマは観客を動かすダイナミズムを持っていた。その分、今回のエテックス特集の中では一番よかったな。楊德昌は本作品を観たことがあるだろうか?『YIYI』は『YOYO』から取ったのかもとなんとなく思った。

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Updated: 12/30/2023

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