[↓2023年]

2024年に観た映画の一覧です

星の見方(以前観たものには付いてません)
★★…生きててよかった。
★…なかなかやるじゃん。
○…観て損はないね。
無印…観なくてもよかったな。
▽…お金を返してください。
凡例
#通し番号「邦題」監督/製作年/製作国/鑑賞日/会場[星]

#23「パリでかくれんぼ」ジャック・リヴェット/1995/仏=スイス/Apr. 21/ヒューマントラストシネマ渋谷◯
三人の女の子がそれぞれの事情で悩みながらパリて生きていくミュージカル仕立てのドラマ。いかにものリヴェット映画で観ていてとても楽しい。ただし、3時間は長いな。まあ、三人いるので3つのストーリーが必要ではある。そして、どの子の話もおわらない。公開当時は、デプレシャンの『そして僕は恋をする』の前。マリアンヌ・ドニクールは本作の方がわずかに若い。かわいい。『彼女たちの舞台』にも出ているナタリー・リシャールとロランス・コートもとてもいい。脇も豪華で、エンゾ・エンゾがクラブ歌手で参加している。そして、アンナ・カリーナ。部屋に若い頃の写真や『はなればなれに』のときと思われる絵などあったりして泣かせる。監督自身も出演。間違えていなければ、公園のホットドッグ屋台でナタリー・リシャールに話しかける老人がそうだと思う。Renault 5やFiat Pandaが街中を元気に走っているのもグッド。どのあたりが『完全版』だったのかは皆目わからず。
#22「貴公子」パク・フンジョン/2023/韓国/Apr. 14/新宿ピカデリー◯
フィリピン人(女性)と韓国人(男性)の混血はKopinoと呼ぶらしい。なら日本人(男性)との混血は、というとやはりJapinoと呼び、どうやらKopinoよりもずっと多いらしい。そういう社会問題にスポットライトを直接当てているのではない。あるKopinoが韓国にいる会ったことのない父親に突然呼ばれて大ごとに巻き込まれるのであるが、それを殺し屋“貴公子”が阻む(助けるのとは少し違う)バイオレンス・アクション。Kopinoをカン・テジュ、貴公子をキム・ソンホ、極悪の敵(?)をキム・ガンウ(こいつだけ観たことある気がする)が演じている。マセラティとベントレーとベンツのカーチェイスは迫力あった。キム・ガンウの義妹(こいつも邪悪)役はコ・アラという女優だったのだが、気象予報士の晴山さんに似てた。先が読めないなかなかおもしろい話だったのだが、オチは読めた。が、最後のギャグは余計だったな。そりゃないだろ。シリーズ化でもする気かね。
#21「オッペンハイマー」クリストファー・ノーラン/2023/米/Apr. 7/新宿ピカデリー◯
“原爆の父”を主役に据え否が応でも話題にならざるを得ない作品をクリストファー・ノーランが撮った。当然ストレートな映画ではなかろう。観るしかない。広島や長崎が出てこないことは聞いていた。そういうクライマックスを避けるのはよくある演出で別に違和感はないし、そんなことをこの監督に望んではいない。と思って臨んだら、少しだけ描写があってモヤモヤした。アインシュタインとかローレンスとかボーアとかフレミングとか教科書ものの科学者がバンバン出てくる超・現実的な世界。核分裂の連鎖反応が空気にまで及ぶかもしれないという中でトリニティ実験を実行したのはオッペンハイマーが科学者だったからだろうか。ユダヤ人というからには神を信じていたのだろうに。周りに共産主義者が何人もいたというのは時代だね。UC Berkeleyのシーンでは懐かしのSather Towerが出てきたよ。核ですっかり変わってしまった世界に住むわれわれがつぎに迎えるのは間違いなく量子×AIだ。感情を持ったAIは核ボタンを押すときに苦悩するだろうか。
#20「パスト ライブス 再会」セリーヌ・ソン/2023/米=韓/Apr. 7/TOHOシネマズ新宿◯
恋人までの距離』シリーズのような『96』のような大人の純愛ストーリー。ときどきある、予告篇観て絶対観ようと思った作品。ソウルで育った幼馴染みの男女(ユ・テオとグレタ・リー)が、小学生で別れ(女が家族でカナダに移住)、12年後にFacebookで繋がったものの連絡を取らなくなり、さらに12年後に女の住むNYCで再会する。その間に女は結婚しているのに会いに行く男。節目節目で男が仲間とサムギョプサルを食べ焼酎を呑んだくるのが男の変わらなさを表していて切ない。望遠レンズを多用した撮影が映像の肌触りを柔らかくして効果的だった。時の流れに沿って使うツール(ガジェット)が変わっていくのはお約束。Skype、どこ行った? ところで、原題は“前世”なのにこの副題はダイレクトすぎない? “いにょん” (因縁)も多用してたね。韓国(儒教)でもそういう考え方は普通なんだろうか(無知丸出し)。
#19「続・夕陽のガンマン/地獄の決斗」セルジオ・レオーネ/1966/伊=西独=スペイン=米/Mar. 30/丸の内TOEI◯
Bangaloreで住んでいたアパート近くのVasudev Adiga'sという食堂(現存せず)に“The Good, the Bad and the Idli”というポスターがあって、クリント・イーストウッドの似顔絵が描いてあった。インド人も大好き、マカロニ・ウエスタンである。本作は観た記憶があるのだけど、どうやら映画館ではないらしく、記録がない。The Good=イーストウッド、The Bad=リー・ヴァン・クリーフ、The Ugly (≠The Idli)=イーライ・ウォラック (ダスティン・ホフマン似)は、実際にはどいつもワルである。まあ、ラストシーンからするとイーストウッドはちょっぴりいいやつかな。製作にUAが入ったからか舞台が単なる擬似西部から南北戦争へ変わり、その分ストーリーに奥行きがある。(狙われる金も大きい) 一説によると本作が前作よりも時間的には前だろうとのこと。ドル箱三部作でイーストウッドのトレードマークとなっているポンチョは確かに本作中に手に入れるシーンがある。なるほどねー。でも10万ドルも手に入れたら、その後小さい賞金を狙って命かけたりしないよな。
#18「ラーマーヤナ ラーマ王子伝説」酒向雄豪,佐々木皓一,ラーム・モハン/1992/日本ラーマーヤナフィルム/Mar. 24/シネマベティ◯
『ラーマーヤナ』は去年ようやく読んだばかり。復習も兼ねて鑑賞。日本製作なのに言語は英語で日本語字幕付。エンドロールを見ると国内の色々なプロダクションが協力したようだ。そして多数のインド人スタッフも。どうやらインド側に宗教的な問題があって共同製作という形態にはできなかったらしい(そんなとこはいまも昔も変わらないインド)。インド神話に出てくるエピソードの実写はむずかしいし円谷プロも絡んでいないので、アニメである(というわけで久しぶりのアニメ鑑賞@映画館)。いまならVFXでいけそう。で、『ラーマーヤナ』が135分に収まるはずもなくかなり端折られている。特にお子様向けではない部分。その分、猿のアイドル・ハヌマーンの活躍はバンバン描かれている。大きさを自由に変えるハヌマーンが出てくると、インド神話のスケール感と相まって脳がバグるよね。ヒマラヤから運んだ山を戻したとは知らなかった。そんなの書いてあったかな。
#17「夕陽のガンマン」セルジオ・レオーネ/1965/伊=西独=スペイン/Mar. 23/新宿ピカデリー◯
続けてこいつも鑑賞。こっちの方が好きかも。クリント・イーストウッドとリー・ヴァン・クリーフのふたりの賞金稼ぎが、獲物を求めて街から街へ。競合であるが出会ったエル・パソで協定を結び、お互いを騙しながらも助け合う。イーストウッドは本作でもただの(凄腕の)渡り鳥だが、リー・ヴァン・クリーフは実は賞金稼ぎとは異なる目的があったという設定。リー・ヴァン・クリーフの悪役っぽい顔が作品に緊張感を与えていると思う。日活アクション、あるいは東映任俠のごとく、同じ脇役陣が出てくるのが楽しいが、クラウス・キンスキーが前作に出ていないことは、誰にでも認識されるだろう。エル・パソのセットはいまでもスペインに残っていて観光地らしい。行かないけど。今回の上映は『ドル箱三部作』としての特集。残る『続』も観なくては。ところで本作のイーストウッドにはあだ名があって“Manco”というのだが字幕では“モンコ”となっていて、翻訳(?)の苦労が偲ばれた。
#16「荒野の用心棒」セルジオ・レオーネ/1964/伊=西独=スペイン/Mar. 23/新宿ピカデリー◯
いわゆるマカロニ・ウエスタンの代表作のひとつ。おそらく大昔にテレビで観ているが、まったく記憶にない。今回上映されるのは4K復元版。アメリカ国境そばのメキシコの村でクリント・イーストウッド演じる渡り鳥が村内で対峙するふたつのファミリー(ギャング)を両天秤にかけながら退治する。要はクロサワの『用心棒』のパクリで、当時は東宝が訴えて勝ったらしい。そんなエピソードは残念ではあるが、作品自体は元ネタに勝るとも劣らずおもしろい。エンニオ・モリコーネのよく知られた音楽もごきげんである。ロケはスペインらしいが、こんな荒涼とした土地があるんだね。アンダルシアはそんなとこなのか。イーストウッド以外の俳優はみなヨーロッパ人だろうか。明らかにアメリカ英語ではないのが、それっぽいといえばそうかも。もしかしたらスペイン語もメキシコっぽくはないのかもしれない。
#15「ならず者」石井輝男/1964/東映/Mar. 20/ラピュタ阿佐ヶ谷★★
ボロボロのプリントをスクリーンで観てからは何度もDVDで観直しているが、改めてスクリーンで観るとこいつは確かに『東京ギャング対香港ギャング』を凌ぐ魅力がぎゅうぎゅうに詰まった傑作だ。なんといっても高倉健と丹波哲郎の雙雄のスーツ姿、立ち振る舞いが無茶苦茶かっこいい。三原葉子、南田洋子、加賀まりこ、赤木春恵ら女優陣も高レベル。そして1960年代の香港と澳門の街の雰囲気が最高だ。ここを舞台に二人がジャズをBGMに、蛋巻の缶に仕込まれた麻薬をめぐり、会話し、走り、殴り合う。登場人物は全面的に妙な北京語を操る。ある意味感心するが、なぜ広東語じゃない。ビクトリア港に空母がいたね。ギャンブラー江原真二郎の存在は『欲望の翼』の梁朝偉を生み出した(たぶん嘘)。嘘と言えば、タンバ、澳門は島じゃないよ。製作から60年経っても映画の中に見える風景の片鱗を多く残す、香港、澳門。また行きたい。
#14「ファルハ」ダリン・J・サラム/2021/ヨルダン=スウェーデン=サウジアラビア/Mar. 17/ユーロライブ○
これは観とかなきゃ、と思いイスラーム映画祭に参戦。1948年のパレスチナを舞台とした、ナクバ、すなわちイスラエル建国のためユダヤ軍が進めた民族浄化のためのパレスチナ住民大虐殺の話。実話ベースである。そして、この75年前に起きたことが現在のガザに続いている。主人公の少女ファルハの視点(つまりはこれを体験した女性の語り)のため、ナクバの全体像は見えないし、それを直接糾弾しているわけでもない。平和な日々から一転して地獄となった村の自宅倉庫に身を潜め、すべてが終わったのちにいちじくを齧りながら変わり果てた村を後にする。こういう描き方は一部で批判されている『オッペンハイマー』に似ているのではないかな。想像だけど。終映後、早大の岡真理氏の熱く濃い映画解説&トークがあった。恥ずかしながら僕も、結構最近までユダヤ人とは人種と勘違いしてた。どうしてあの狂った国家を誰も止められないのか。
#13「砂漠を渡る太陽」佐伯清/1960/東映/Feb. 25/ラピュタ阿佐ヶ谷○
ノンちゃん(鶴田浩二)が東映に移籍しての第一作だそうで、舞台は満洲。北支との密貿易の拠点となっている村に住む志の高い日本人医師がノンちゃんの役。満人姑娘・佐久間良子となんとなくいい仲、というのは佐久間良子を出すという口実でしかなく、周囲の人物がとにかく濃くてデラックス。伊藤雄之助(意外にいい役)、山村聰(意外にいい役)、山形勲(期待通り)、山茶花究(期待通り)、久保菜穂子(印象薄)、岡田真澄(露助)、曽根晴美(早死に)。そして、ほぼカメオ出演の馬賊の頭目・高倉健。終戦直前、伝染病でロックダウンされる村で、関東軍特務と延安のスパイ合戦が繰り広げられる。コロナ禍のあとでは、この背景にリアリティがある。エンディングには迫り来るソ連軍の影。いや、面白かった。そしてそれ以上に、終戦後15年経った当時、歴史を正しく認識し反省する映画があの東映で撮られていたことに感動した。
#12「Jigarthanda DoubleX」Karthik Subbaraj/2023/インド/Feb. 24/シネ・リーブル池袋○
Jigarthanda』の続篇ではなく、Spiritual successorだそうだ。確かにこちらもRowdyの映画を撮る話だ。タミル語版『カメラを止めるな』だな。劇中の監督役はS. J. Suryah。サタジット・レイの弟子を名乗る怪しいやつ。いや、いつも怪しい役を演じているという印象だけど、本作ではヒーローだ。メガネ姿がユキヒロさん。で、劇中映画の主役、つまりRowdyはRaghava Lawrence。幼い頃にClint Eastwoodがやってきて西部劇を撮影し、記念に8mmカメラをもらったという。その影響で地元の映画館にはClint Eastwoodのカットアウトを建てるというファンぶり。この超凶暴な男が村を救うため象狩りの山賊と腐敗した警察に立ち向かうようになっていく。というのが映画のプロットでもある。実はRowdyを殺す計画のS. J. Suryah。インドで初めてのDark skinが主役のPan India映画を撮るとRowdyをおだてる。舞台は1975年。撮影中にRajinikanth登場の噂が…。面白いながら、どう終わらせるのかと興味津々で観ていたが、終り方は割と普通。で、エンディングには“XXX”の文字がドーン。なんだ、あんたもか。(英語字幕での鑑賞)
#11「ゴースト・トロピック」バス・ドゥボス/2019/ベルギー/Feb. 12/ル・シネマ渋谷宮下○
暗くなっていく無人の部屋に始まり、夜が明け明るくなりながらやはり無人の同じ部屋に終わる、やさしいアラブ系の中年女性が過ごす静かな一夜の物語。企業の清掃員として働く彼女が、疲れた帰りの地下鉄で乗り過ごし終着駅。すでに電車はなく、タクシーに乗るお金もなく、徒歩での帰宅を決意する。具合の悪い路上生活者を助けたり、昔家政婦として住み込んでいた邸宅を覗いたり、ガソリンスタンドでお茶を飲み冷えた体を癒したり、出会った人びととの触れあい。決して温かいものだけではない。深夜の街で男友達と過ごす実娘を思いがけず見つけたり。そんな彼女をカメラは黙々と追い続ける。彼女も動揺しながらも現実を淡々と受け入れる。『Here』もそうだがこちらも雨が印象的。いやあ、本作もいいね。中年女性の声が若く、最初は吹き替えかと思った。ショッピングモールの警備員役で『Here』の青年役Stefan Gotaが出演。監督の分身かな?
#10「Here」バス・ドゥボス/2023/ベルギー/Feb. 12/ル・シネマ渋谷宮下★
注目監督がベルギーから登場。『COLUMBUS』(これはコロナ禍中にOTTで観たんだっけ)のような感覚。小津に学んだのか、カウリスマキに学んだのか。スタンダード画面に固定ショット。植物、音、光に満たされる。(この点は前述のふたりとはまったく異なる。ここが新鮮) 舞台はブリュッセル。オーストリアあたりに帰国することになった物静かな青年が得意料理のスープをお世話になった人たちに配る。道中、いろいろな景色、人びとと触れあう。中国あたりからやってきて定住しているらしい苔研究者の女性に出会う。長距離ドライブに備えガレージに預けているくるまを受け取りに行く途中、青年はふたたび女性に出くわし、ふたりで苔観察して過ごす。すっかり片付いていたはずの部屋で、青年は新しいスープをつくる。女性とその叔母が交わす北京語での会話が自然。部分的にしか見えなかったけど、青年のくるまはシトロエンのようだった。違うかな?
#9「瞳をとじて」ヴィクトル・エリセ/2023/スペイン/Feb. 11/TOHOシネマズ・シャンテ○
いまや80歳越えのエリセの31年ぶりの長編新作が観られるとはそれだけで至福である。しかも『ミツバチのささやき』のアナ・トレントが出演。元映画監督(マノロ・ソロ)が自作の撮影中に失踪した友人でもある主演俳優(ホセ・コロナド)とTV番組出演をきっかけに再会する話、と書くと陳腐に聞こえるが、これがエリセ作であることを忘れてはいけない。映画中映画は、男(ホセ・コロナド)が男に依頼され上海から娘を探しフランスに連れてくるもの。記憶をなくし海辺の高齢者施設で働く元俳優に、元監督が町の閉館した映画館でこの映画を見せる。元俳優に記憶は戻るのかは観客の想像に委ねられている。アナ・トレントの役名がやはりアナで、“Soy Ana”と言わせる、しかも同じような構図で。観る方は感激すると同時にちょっと苦笑い。映画中映画で喋られる北京語がわかるのが楽しかった。元俳優の所持品にあった三段峡ホテルのマッチ。そんな広島の山奥のもの、どこで入手したんだろうね。
#8「白日青春 生きてこそ」劉國瑞/2022/香港=シンガポール/Jan. 27/新宿シネマカリテ○
香港を舞台とした、マレイシア華人監督による、善悪の彼岸映画。全盛期の香港電影で悪役といえば、の黄秋生主演。老いたタクシードライバー陳白日(黄秋生)とパキスタン難民(厳密には不法滞在者)の少年・莫青春(香港名; 本名Hassan)との複雑な背景を持つ交流。祖国では弁護士だったという父親の不運な人生は、少年に遺伝する。少年のやることは見事なまでに何の共感も呼ばないのだけど、この呪われた少年を助けるべく自分を犠牲にする黄秋生。少年の父親を死なせてしまった罪滅ぼしだけでなく、大陸から泳いで香港にやって来た過去の自分の境遇を少年に重ねているのか。想像の余地を大きく残して映画は終わる。逃げ込む地から逃げ出す地へ。香港の未来は見えない。検閲通っているから美化が入っている可能性はあるが、不法滞在者への待遇は日本よりもずっとまともそう。あー、サンミゲル呑みたい。
#7「ノスタルジア」アンドレイ・タルコフスキー/1983/伊=ソ連/Jan. 27/ル・シネマ渋谷宮下★
流行りの4Kレストア版。ロシア人音楽家の足跡を追ってイタリア・トスカーナの温泉地バーニョ・ヴィニョーニにやってきた病身のロシア人詩人(オレーグ・ヤンコフスキー)が、故郷への強烈なノスタルジーを感じながら、世界の終わりを信じる狂信者(エルランド・ヨセフソン)に出会う。水と火で語られるタルちゃんの映像詩に酔うべし。狂信者の演説、そして焼身シーンは強烈である。好きなミニチュアを使ったラストシーンは『惑星ソラリス』のそれに完全に対応している。勘違い女ドミツィアナ・ジョルダーノがうざったいのが本作の唯一残念なところ。Google Mapsで見ると、あの温泉池はほぼそのままいまもあるようだ。入湯もできるのかな? ところで、4KってDVDや地デジ放送に比較すると圧倒的に高画質で、スクリーン鑑賞に耐えられる。と思えるのは、いまだけかもしれないな。
#6「ザ・ガーディアン/守護者」チョン・ウソン/2022/韓国/Jan. 26/新宿バルト9○
きみに微笑む雨』に出てたチョン・ウソン主演かつ初監督作品。薄々期待はしていたが、午後半休でできた時間を使った意義は十分にあった。よくあるバイオレンスアクションもの。10年前の殺人で服役していたチョン・ウソンが出所し、黒社会と縁を切ろうとしたら、再会した妻が殺される。愛車BMWを駆り、愛娘を守るべく戦う。カーチェイスは迫力満点。敵は巨悪ではないものの、とことんワルで、対してセンチメンタルになることもない。そんなところはきわめてハリウッド的。それでも楽しめるのは韓国映画だから? 背景説明が乏しいし、奥さんをちゃんと弔ったのか心配になる。会いに行く元カタギの男もあとから出てくることもない。結局、最悪の“会長”は生きているし、もしかして、いきなり二部作構想でもしているのか? 妻役の이엘리야 (4文字は珍しくない?)はなかなかよかった。
#5「シシリーの黒い霧」フランチェスコ・ロージ/1962/伊/Jan. 20/国立映画アーカイブ○
シチリアの山賊、サルヴァトーレ・ジュリアーノの死を巡る闇の世界を垣間見る興味深い作品。なのだが、イタリア人の名前を憶えるのが大変で(ちょっとだけウトウトもして)、すべてを把握できなかった。現場でのジュリアーノの検死シーン(1950年)に始まり、1947年のメーデーでジュリアーノ一味が起こした虐殺事件についての捜査・裁判の様子を混じえながら、ジュリアーノが殺される経緯を観客に少しずつ示していく。(示唆的だが、それが事実かどうかはわからない) 暗躍する憲兵、警察、マフィア、そして仲間内。有罪となる片腕のピッシェッタの獄中死は、実際、マフィアの報復によるコーヒーへの毒盛りらしい。演技がわざとらしく見えて、芝居かと思った。シチリアっていまでもこんなとは思わないけど、ちょっぴりこんななのかな? ピアノを使った音楽がよかった。マイケル・チミノの『シシリアン』も観てみたい。(観てないよな?)
#4「緑の夜」韓帥/2023/中国/Jan. 20/ヒューマントラストシネマ有楽町
脱税問題で姿を消していた范冰冰の復帰作。舞台は韓国、仁川とソウルで『ベイビー・ブローカー』のイ・ジュヨンとの共演。というわけで、中国語と韓国語が混在している。キム・ヨンホが范冰冰の夫役で出演。渋くなったなと『イントロダクション』のときに書いてたけど、癌だったかららしい。さて、こうして役者は揃ったのだが、映画としては麻薬、密輸、DV、LGBTQなどネタを盛り込みすぎで、題名からもわかるノワール狙いは成功しているとはいえないと思う。導入部分とかも説明を省いているのはわかるけど、唐突&ざっくりし過ぎていて納得感がない。范冰冰は、華やかな場所から一旦落ちて這い上がってきた体で熱演してたのにね。ちなみに、范冰冰は浅野ゆう子、イ・ジュヨンは鈴木奈穂子アナに見えた。范冰冰の勤務先は仁川空港の保安検査場。旅客の扱いがインドのそれによく似てた感じ。
#3「Captain Miller」Arun Matheswaran/2024/インド/Jan. 14/SKIPシティ映像ホール★
4,000円は高い。高いがDhanushの新作なので泣く泣く観に行く。期待通りだった。でも、高いなぁ。ホールはスカスカ。インド人はまばら。そりゃそうだろう。庶民とギャングとゲリラ。王家と大英帝国。宝石が眠るシヴァ寺院を中心とした村で、自由への闘争がひとりの悪漢(もちろんDhanush)を先頭に炸裂するタミル西部劇である。今回は我慢を重ねた上で爆発するいつものDhanushではなく前半早々に立ち上がる分戦闘シーンが強力で、そのパワーは『ワイルドバンチ』並み。ただし、スローモーションは多用されない。Shiva Rajkumarの登場は大いに盛り上がるね(これがバンガロールで観ていたら…)。ギャングの一員の女性がかわいかったよ。Nivedhithaa Sathishだね。初めて観た気がしないが何か思い出せない。大英帝国側は徹底的に玉砕され映画は終わるのであるが、なんと三部作の一作目らしい。どういう話? さっさと二作目作ってね。タミル語作品英語字幕付でした。
#2「ヴィクラムとヴェーダ」Pushkar–Gayathri/2022/インド/Jan. 7/K's Cinema○
Saif Ali KhanとHrithik Roshanがメインキャラクターと聞いて気乗りしなかったのだが、R. MadhavanとVijay Sethupathiによるオリジナル(傑作)と同じ監督だし観とくか、ということで新宿まで出京。このふたりのほかShraddha Srinathの役をRadhika Apteが担当したBollywoodリメイクの舞台はLucknow。観光モードでチェイスシーンなどが撮られている。街角に映画スポンサー(mobilとか)の看板があったりするのはご愛嬌。一方、ストーリーはかなりオリジナルに忠実。注目(?)のMutton nalliとParottaの組み合わせは、NihariとKulchaに。なるほどー。でも、こっちもやはりオリジナルの方が好きだな。オリジナル版日本語字幕付鑑賞時のメモでは字幕にケチを付けてるけど、こっちの字幕についてもひとつ。“2 minutes”は“2分”ではなく“ちょっと”と訳していただきたい。今回、Hrithik Roshanの右手は六本指だということに初めて気がついた。
#1「俺だって極道さ」Vignesh Shivan/2015/インド/Jan. 5/キネカ大森○
2024年の映画生活はNayantharaでスタート。本当は新作の『Annapoorani』を観たいところだけど、日本には来ないので、Nayan作品ではベストのひとつ『Naanum Rowdy Dhaan』を。これは劇場で観ていないので、インディアンムービーウィーク(のVijay Sethupathi特集)での上映(しかも日本語字幕付)はありがたい。両親の仇を取ろうとする耳の聞こえない女性を演じる“Lady Superstar”は文句なく美しい。特に怒った顔と泣き顔は特筆もので、他の女優の追随を許さない。この頃はまだ眉毛が自然だなあ。自称Rowdyで婦警の息子であるVSPがNayanに一目惚れして敵討ちの手助けをしようとする話はたわいないが、ミュージカル・コメディとしてのデキもよい。ヒットした本作が元でNayanと結婚した監督は幸せ者だよ。こうなったら『Iru Mugan』もスクリーンで観たい。SPACE BOXさんお願いします。Nayanthara特集がベストだけど、Vikram特集でもいいよ。

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Updated: 4/23/2024

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